市民自身の提案による政策実現ーふるさと納税を活用した坂井市の地域活性化の取組[インタビュー]

市民自身の提案による政策実現ーふるさと納税を活用した坂井市の地域活性化の取組[インタビュー]

福井県坂井市は、国の名勝・天然記念物として指定されている東尋坊や柴田勝豊が築いた丸岡城を有し、県内で最も多くの観光客が訪れる観光地として知られる。そんな坂井市はふるさと納税にも積極的に取り組んでおり、令和6年度は寄附金額、寄附件数ともに過去最高を更新した。ふるさと納税の寄附金は全て市民から提案された事業へ活用する「寄附市民参画制度」という独自の制度も運用している。本記事では、総合政策部 企画政策課 ふるさと納税推進室の春貴 悠吏主事に、坂井市のふるさと納税の取組についてお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 町田貢輝)

(記事執筆:同 與那嶺 俊)

寄附者との関係づくりを大事にする、坂井市のふるさと納税推進事情

坂井市のふるさと納税業務は、企画政策課内に設置されたふるさと納税推進室が担っている。ふるさと納税推進室は6名体制ながら、対応業務は多岐にわたる。

「主な業務は、寄附者の入金確認やカタログ発送、寄附者からのお問い合わせに対応するコールセンター業務、ワンストップ特例申請に関するご案内や書類対応などです。各種ポータルサイトのシステム利用料や返礼品費用などの支払管理も重要な業務です」と春貴主事は語る。

ふるさと納税推進室では、ふるさと納税の関連手続き以外にも重要な業務を担っている。それが、坂井市を応援してくれる人を増やすための様々な交流イベントの企画・運営だ。たとえば、ふるさと納税で坂井市に寄附をしたことがある人々を対象にした交流イベントとして、現地ツアーを開催している。現地ツアーは平成30年から毎年開催していて、地元住民とともに福井県無形民俗文化財「三国祭」の山車曳きに参加できるほか、食文化体験や工芸品製作も体験できるなど、坂井市内を楽しめる内容となっている。参加者からは「地元の人々と話したり、ともにお祭りに参加することができ、魅力的な旅になった」、「街の魅力が詰め込まれた内容で、全く知らなかった坂井市を好きになることができたツアーだった」などの声が届いているそうだ。このような取組を通じて、坂井市を第二のふるさとと感じてもらえるような関係性づくりに注力しているという。

取組の効果は数字にも表れている。坂井市への寄附額は、令和4年度に約15億円、令和5年度に約16億円、そして令和6年度には約17億円と堅調に推移している。寄附件数も同様で、令和4年度には9万3000件、令和5年度には10万5000件、そして令和6年度には12万6000件と着実に伸びている。

工芸品の製作や福井県無形民俗文化財の「三国祭」への参加が楽しめる寄附者交流ツアー

銘菓由来のスイーツが好評、返礼品を選定するポイントとは?

現在、坂井市のふるさと納税の返礼品登録事業者数は約170、返礼品は約1200点登録されている。数多くの返礼品の中で特に注目を集めているのが、羽二重餅をイメージして作られた「くりーむたっぷり羽二重もっちりシュー」だ。

「羽二重餅は絹織物の羽二重に似ていることから名前がついた福井県を代表する銘菓で、ツルツルした舌触りが特徴の和菓子です。『くりーむたっぷり羽二重もっちりシュー』はカスタードクリームを羽二重餅のようなもっちりとしたシュー生地で包んだ新食感のスイーツで、現在、約三か月待ちと大変好評を頂いている返礼品です。」

他にも、甘えび、コシヒカリ、焼き鯖寿司などが人気の返礼品だ。東尋坊をイメージした真っ黒なシュークリーム「崖淵(がけっぷち)シュークリーム」も人気を集めている。

「自然豊かな坂井市の返礼品はお菓子、お米、魚介、果物、お肉と幅広いカテゴリーにわたっています。地域資源を活かした品々で構成されている点が特徴で、それが多くの寄附者の皆さまにご満足いただいている理由だと思っています。」

返礼品の選定は「坂井市の魅力や技術が込められているか」を最も重要視している。また、商品のストーリーや品質へのこだわり、坂井市のブランドイメージと合っているか、他自治体の返礼品と比較して競争力はあるかといった観点からも検討している。返礼品の供給体制も選定ポイントの一つだ。良質な返礼品を継続的に供給できる事業者と連携することで、寄附者の期待を裏切らないように努めているという。ただし、寄附額が増えれば増えるほど事業者の負担も増えてしまう。事業者に無理のない形で返礼品を提供し続けてもらうために意思疎通はこまめに行っている。

「令和6年度は約17億円の寄附を頂けたことで、大量の返礼品が市内事業者から発送され、事業者の売上が拡大しました。ふるさと納税を通じて、事業者の皆さまは新たな販路を開拓していて、生産量の増加や雇用創出にもつながっています。」

坂井市の返礼品はくりーむたっぷり羽二重もっちりシュー、甘エビ、コシヒカリ、焼き鯖寿司、若狭牛など、バラエティに富んだラインナップだ。

コールセンター業務は庁内対応、寄附者との信頼関係の構築

一方で、寄附者対応はふるさと納税推進室内でも労力をかけている部分だ。

「坂井市の返礼品登録数は約1200点です。これらの返礼品の情報を常に最新の状態にするために、かなり頻繁にポータルサイトは更新しています。また、ポータルサイトごとのセールやイベントに合わせた更新も行っています。業務の繁忙期はやはり年末です。年末は駆け込み需要がありますから、それに合わせて受領書の発行、ワンストップ特例申請書類の対応が発生します。年末はふるさと納税推進室の6人全員がフル稼働しています。ポータルサイトのキャンペーン時期も慌ただしくしていますね。」

坂井市では、業務の効率化のために寄附者の状況を一元管理するサービスを導入している。返礼品の発送状況やワンストップ特例申請の進捗までシステム管理していることで、寄附者からの問い合わせにもスムーズに対応できている。

そして、どんなに大変でも何件もの電話やメールに毎日対応し、問い合わせ内容の共有や、ポータルサイトの情報がよりわかりやすく伝わるように修正するなど改善に努めている。多くの時間とかなりの負担がかかるが、より良い返礼品の提供や寄附者に丁寧な対応ができているという。

「ポータルサイトのレビューは非常に細かく確認しています。良いレビューも悪いレビューも返信をさせて頂くことで坂井市への信頼を構築するようにしています。また、寄附者の配送要望などのコールセンター業務もふるさと納税推進室内で対応しています。この業務には3名の職員が対応しており、日々多くの時間と労力をかけて丁寧に対応しています。中間事業者へ委託する自治体もあると思いますが、私たちがこの業務を担うことで坂井市として丁寧に回答できるかなと思ってずっと取り組んでいます。」

寄附者には寄附金の使い道を紹介する冊子も送付している

坂井市独自の「寄附市民参画制度」とは?

坂井市はふるさと納税の寄附金の使い道として独自の制度を運用している。市民自身がふるさと納税の寄附金の使い道を提案できる「寄附市民参画制度」だ。平成20年に条例として定められた制度で、市民自身が実施したいと考える事業、あるいは行政に実施してほしい事業を市民が提案し、事業実現のために寄附を募るという制度である。

事業案は坂井市役所や市のホームページを通じて通年募集されている。市民から提案された事業案は、年3回開催される「寄附市民参画基金検討委員会」にて提案内容の整合性や実現可能性、公益性などが多角的に評価され、採択可否が検討される。採択されると目標額が設定され、寄附金募集がスタートする、寄附額が目標額に達すれば事業が成立し、実行される、という仕組みだ。

この制度によってこれまで多数の事業が実現している。たとえば、「保育士さん集まれ!保育士就職支援金事業」では保育士への就職支援金交付を行い、「地域がワンチームでつくるサンセット音楽フェス」事業では市民が楽しめる野外音楽フェスティバルを開催した。「結婚応援日本一プロジェクト」事業では、若者向けの出会いイベントや新婚世帯への経済的支援、出産・子育ての支援を実施し、新婚の利用者から「新生活を始める上で経済的な支援を受けられてとても助かった」という声が届いたそうだ。

「寄附金が具体的な事業や地域の課題解決に使われていることを実感できるため、市民の皆さまの坂井市への貢献意識や愛着がより一層深まっているように感じます。この制度のおかげで市民の皆さまのふるさと納税への関心が各段に高まりました。ふるさと納税が単なる税制度の枠を超え、市民と行政が一体となって、地域を作り上げていくツールとして機能していることは市にとって何よりの財産です。」

寄附市民参画制度による寄附金で行われた「結婚応援日本一プロジェクト」事業

ふるさと納税で持続可能な町づくりを目指す

坂井市はふるさと納税事業に3つの目的を定めている。1つ目は「寄附市民参画制度」を通じて市民からのアイデアを具体的な事業として形にすることで、市民自身が行政に参画し地域の愛着を深めてもらうこと。2つ目は、事業者にECのノウハウ蓄積や新商品開発のきっかけとしてふるさと納税を活用してもらい、事業者のビジネス力を向上してもらうこと。そして3つ目は寄附を通じて坂井市の魅力を発信し、ファンとして寄附してくれる人や坂井市を応援してくれる人を増やすことだ。

「坂井市の場合、ふるさと納税は寄附市民参画制度を通じて市民の夢を叶える財源として考えています。また、事業者の成長を期待する大切な施策としても認識されていると思います。1年間の寄附額の数字だけではなくて、寄附を通じて坂井市の魅力を広めることや頂いた寄附をどう活用するかというところは、関係部署が中心となって検討を進めています。市長や幹部職員もふるさと納税の動向にはかなり関心を寄せています。」

坂井市はふるさと納税を通じて、市民と事業者、そして寄附者とともに持続可能な町づくりを目指していく。