ふるさと納税日本一のキーパーソンに聞く-都城市のふるさと納税戦略【インタビュー】

ふるさと納税日本一のキーパーソンに聞く-都城市のふるさと納税戦略【インタビュー】

宮崎県都城市は、「日本一の肉と焼酎のふるさと」というキャッチコピーのもと、ふるさと納税寄附受入額で過去5回日本一を達成している。寄附金額で常にトップクラスを誇る背景には、行政職員の地道な努力と地元事業者の熱意があった。本記事では、都城市のふるさと納税を推進するキーパーソンである、ふるさと納税課 課長の野見山修一氏と、総合政策部 デジタル統括課 副課長の佐藤泰格氏にインタビュー。ふるさと納税関連業務のデジタル化推進と、寄附金額日本一を支えたブランディング戦略について伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)

961万円から193億円へ
「肉と焼酎の都城」のブランド戦略

野見山氏は池田市長の号令もあり、返礼品を肉と焼酎に限定してリニューアル。都城市は畜産業が盛んで、令和5年度の畜産業産出額は845億円で日本一。焼酎に関しても霧島酒造、柳田酒造、大浦酒造、都城酒造という大きな焼酎蔵が市内にある。とりわけ「黒霧島」で有名な霧島酒造は焼酎メーカー売上高ランキングで12年連続日本一(2023年当時)だ。

「ふるさと納税の改革を行った2014年は、宮崎牛が全国和牛能力共進会で最高賞である内閣総理大臣賞を2回連続で受賞(2007年、2012年)するなど、品質の高さが認知され始めた時期でした。また、『黒霧島』も焼酎売上ランキングで2012年から日本一になり全国的な人気を博していました。
2014年当時はまだ、返礼品3割ルール(ふるさと納税における返礼品の調達価格を寄附額の3割以下に抑えることを定めたルール)もなく、池田市長からは『1万円の寄附をいただいたなら、1万円の返礼品をお返しすればいい』と言われていました(笑)。目的は寄附を集めることではなく、都城の知名度アップなので。さすがにすべて返礼品として返すわけにもいかないので、結果として、2割は手元に残すという形なりましたが、日本一の肉と焼酎に返礼品を限定する戦略は、『肉と焼酎と言えば都城』というブランドイメージの確立につながり、その後の寄附額増加に大きく貢献しました」

都城市 ふるさと納税課 課長 野見山修一氏

寄附額の急増で業務負担が増加
危機をチャンスに変えたDX推進

「肉と焼酎と言えば都城」のブランディング戦略の成功により、2014年の都城市のふるさと納税受入額は2013年の961万円から5億円と大幅に増加した。その後も42億円(2015年)、73億円(2016年)と金額はとんとん拍子で伸びていく。そして、それに比例する形で職員たちは、ふるさと納税関連業務の対応に追われる状況となる。業務が増えたことにより、「ふるさと産業推進局」が立ち上げられたが、その過程で人手が全く足りていなかったという。

ふるさと納税リニューアル後の初代副担当で、現在は総合政策部 デジタル統括課 副課長の佐藤泰格氏は「『時間外手当を出すから手伝ってほしい』と言って、年末やお正月に寄附してくださった方の情報を打ち込む作業を、職員みんなで協力しながらやっていましたね」と、当時の状況を語る。

「コールセンターや寄附証明書の発送などもすべて手作業で行っていました。その結果、臨時職員の数が100名近くになってしまい、職員の管理も大変になったことからコア業務以外の部分を当時、寄附管理システムを提供してもらっていたシフトプラス株式会社にお願いすることになりました」(野見山氏)

都城市とシフトプラス株式会社のふるさと納税DX化については、ぜひ本サイトの「DX先進都市都城市が生み出した、ふるさと納税DX化の取り組みを聞く [インタビュー]」も併せてご拝読していただければと思うが、共同開発した公的個人認証アプリ「IAM(アイアム)」を運用することで、業務負担も徐々に減っていったそうだ。

「システム的にも最適化されたものを作っていくというのが、デジタル化のヒントになると思います。都城の場合、『ふるさと納税業務はデジタル化を行わなければ立ち行かない』状況にまで追い込まれたからこそ、デジタル化が急速に進み、システム化もスピード感を持って実現することができたと考えています。今後、人手不足が深刻化していく中で、従来の方法では立ち行かなくなる事態が予想されます。その時、デジタル化は単なる選択肢ではなく、必要不可欠なものであると考えることができるか? これは、デジタル化の重要な示唆ではないでしょうか」(佐藤氏)

都城市は、ふるさと納税業務の逼迫という危機的状況を、DX推進のチャンスへと転換させた。システム最適化を重視したデジタル化によって、業務効率化だけでなく、職員の負担軽減にも成功している。
「危機感を持つことこそが、迅速かつ効果的なデジタル化を推進する原動力となる」という都城市の事例は、デジタル化を先送りすることなく、積極的に取り組むことの重要性を改めて認識させてくれる。

都城市 総合政策部 デジタル統括課 副課長 佐藤泰格氏

官民一体でPR
都城市のリピーター獲得とファン作り戦略

都城市では、ふるさと納税業務のデジタル化だけでなく、ふるさと納税のデータを活用した関係人口の増加にも力を入れている。

「現在、ふるさと納税を行っている人口割合は2割弱というデータがあります。都城では、今まで寄附してくださった方のデータ分析はもちろんのこと、ふるさと納税をできるのに行っていない人達がどのような属性(外国人である、単身世帯が多いなど)なのかも分析しています。データに基づいてふるさと納税の戦略を立てることに関しては、おそらく自治体の中でも相当先んじていると自負しています。」(佐藤氏)

「都城のことを知ってもらうためのシティプロモーションとして、広告も有効に活用しています。広告は、認知を高める広告、寄附につながる広告を使い分けるなど、導線も意識しながら展開しています」(野見山氏)

データ分析という面では、都城市と楽天が共同で行った取り組みは非常に先進的だ。楽天会員ならばご存じの通り、楽天は、楽天市場、楽天トラベル、楽天ふるさと納税といった各種サービスを共通の楽天IDで管理している。そのため、都城市に楽天ふるさと納税を使って寄附してくださった方が、楽天市場で都城市の特産品を買ったことがあるや、楽天トラベルで都城市に旅行に来てくれたことがあるのかまで分析することができる。現在、この分析方法は、他の自治体にも広がっているそうだ。

「ふるさと納税は、令和7年10月1日からポイント等の付与を行うことが禁止になります。3割ルールと合わさることで、各自治体との競争はさらに激化すると考えています。そういった中で、また来年も寄附してくださるリピーターを作る取り組みは非常に大切だと考えています。ふるさと納税をきっかけに都城に旅行に来てくれる、特産品を買ってくれるような、都城のファンになってくださる人が増える施策は今後も行っていきます」(野見山氏)

ファンを作る取り組みを行っているのは、都城市職員だけではない。地元の事業者も積極的に活動している。

「ありがたいことに、ふるさと納税で返礼品を準備していただいている158の事業者さんたちが、ふるさと納税の売り上げの2%を出し合って都城のふるさと納税をPRする『都城市ふるさと納税振興協議会』を作ってくださり積極的に活動しています。この協議会が独自に都城市のふるさと納税に関する広告を出してくださったり、東京等でイベントがある場合は、この協議会がイベントで振る舞う食品の手配や事業者の旅費だったりを出してくださるため、市としては非常に助かっています」(野見山氏)

「都城市ふるさと納税振興協議会」は、返礼品のレシピを作って紹介する取組や、返礼品のクオリティを挙げるための勉強会の実施なども行っているという。とりわけ、協議会がファン作りの一環として行っているふるさと納税川柳は、半年で1万4000句の応募があるなど、川柳を楽しみに何度も寄附してくれるファンも付いているという。

これらの活動が評価され、「都城市ふるさと納税振興協議会」は、「令和6年度ふるさとづくり大賞」総務大臣表彰(団体表彰)を受賞した。

官民連携による都城市のPRこそが、ふるさと納税寄附額で過去5回の日本一を達成した最大の要因と言えるだろう。

都城市に学ぶ
ふるさと納税成功の秘訣

最後に、野見山氏と佐藤氏にふるさと納税寄附受入額を伸ばすためのアドバイスを伺った。

野見山氏はまず、「首長がしっかりと陣頭指揮を執り、率先して取り組む姿勢を示すことが大切」と話す。

この意見には佐藤氏も賛同し、デジタル統括課の立場から次のように語った。

「デジタルの推進と全く同じで、トップの姿勢が重要です。デジタル化が進むかどうかは、やはりチャレンジを恐れない気持ちがあるかどうかにかかっています。公務員の世界では、減点方式のような考え方が根強くありました。都城は、トップが率先して「やれ」と言い、しっかりと責任を取る姿勢を示してくれたので、我々も安心してチャレンジすることができました。ですから、デジタルもふるさと納税も、全てはトップの意識にかかっていると言っても過言ではありません」

続いて野見山氏は、事業者を巻き込んだ施策の必要性を強調した。

「ふるさと納税では、いかに事業者を巻き込めるかが重要です。通常、行政と事業者の関係は、許認可の申請と許可という形が一般的かもしれません。しかし、ふるさと納税は少し異なり、共に都市部に商品を販売し、外貨を獲得するという連携した動きになります。そのため、事業者との信頼関係や情報交換が不可欠であり、緊密な連携があるからこそ、どのような返礼品を全国にお届けできるかという議論も深まると考えています。特に地方では、商品を作ることは得意でも、販売が苦手な傾向があります。例えば、食料生産地では、6次産業化という言葉が一時期盛んに使われましたが、現在もその流れは続いています。地方の事業者は、良い物を作っても、卸業者に卸して終わってしまうことが多いです。それを、いかに商品化し、商品そのものの魅力を効果的に伝えるかという点では、都市部の事業者にはなかなか及びません。ふるさと納税という仕組みを通じて、直接商品を全国に届けられるようになったことは、寄附という形ではありますが、非常に良い変化だと実感しています。事業者との連携を密にすることが、今後のふるさと納税の成功に不可欠だと考えています」