2026年9月「公金収納のデジタル化」スタート、社会DX実現へ全団体の早期取り組みに期待[インタビュー]
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2026年9月から、全ての自治体が利用する地方税ポータルシステム「eLTAX」と「地方税統一QRコード」(eL-QR)による全国統一の仕組みを活用した「公金収納のデジタル化」がスタートする。
これにより公金納付者の支払手段の多様化に加えて、自治体にとっても収納管理事務の効率化が期待される。また、納税者・自治体双方へのメリットを鑑みて、国は自治体に対し「取り扱い件数の多い公金」と「市区町村の域を越えて納付者が全国に広く所在する公金」については〈全国的に共通の取り扱い〉としてeL-QRを活用した電子納付を可能とするよう強く要請している。
しかし、対象となる公金は国民健康保険料や道路占有料など多岐にわたり、関連する部署や業務システムが広範囲な上に、システム標準化への対応も並行して進めなければならない。どの公金を対象に、いつからサービスを開始するか、自治体にとっては悩ましい話だ。
そこで、今春に332団体を対象に取り組み状況の実態調査を行った株式会社TKCの武長浩史氏(同社 地方公共団体事業部 自治体DX推進本部 営業企画部 営業企画次長)に、公金収納のデジタル化の背景や自治体の動向について話を聞いた。
eL-QRの導入で、2023年度の地方税電子納付件数が前年比約7倍に
―eLTAXを活用した電子納付は、これまでどのように普及してきたのでしょうか。
「eLTAX(地方税ポータルシステム)」は、2005年に運用を開始して以来、地方税における申告・申請等のデジタル化ということで活用範囲を広げ続けてきました。2019年からは法人向けの税目から納付のデジタル化もスタートし、2023年4月には固定資産税や自動車税など対象税目を拡大しました。
この税目拡大と合わせて導入されたのが、「地方税統一QRコード(eL-QR)」を用いた電子納付の仕組みです。これにより、eL-QRが付いた納付書であれば、金融機関の口座引き落としやインターネットバンキングでの納付に加え、スマートフォン決済アプリによるキャッシュレス納付が可能となり、支払手段の選択肢が広がりました。
その結果、地方税納付に係るeLTAXの利用件数・金額は、2022年度の1,215万件/4.48兆円から、2023年度には8,193万件/11.95兆円と激的に増加しました。
こうした成果を踏まえて、「規制改革実施計画」(2023 年6月16 日閣議決定)および「令和6年度政府税制改正大綱」(2023年12月22日閣議決定)で、地方税以外の地方公金についても電子納付を開始する方針が示されました。これを受けて、「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画第2.3版」(2024年2月5日総務省公表)から、重点取組事項に「公金収納におけるeL-QRの活用」が追加されました。

総務省「キャッシュレス納付に係る取組について」(2025年2月)より抜粋
取り扱い件数が多い公金など、全自治体に積極的な導入検討を要請
―対象となる公金にはどのようなものがあるのでしょうか。
「地方公共団体への公金納付のデジタル化に向けた取組の実施方針について」(2023年10月6日地方公共団体への公金納付のデジタル化の検討に係る関係府省庁連絡会議決定)で、特に全国的に共通の取り扱いとして自治体に対して重点的に要請を行う、とされた公金は以下の2つです。
1.いずれの団体も相当量の取扱件数がある公金
(国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療保険料)
2.その性質上、当該地方公共団体の区域外にも納付者が広く所在する公金
(道路占用料、行政財産目的外使用許可使用料、港湾法上の占用料等、河川法上の流水占用料等など)
全国の自治体では、保険料や水道料金など公金収納のために推計で年間4億件近い納付書が作成されており、その多くが紙・対面での支払いとなっています。eL-QRを活用した電子納付を実現することで、収納管理事務の効率化に加えて、納付者(住民・民間事業者)にとっても利便性向上が期待できます。
上記公金に加えて、国は「普通会計に属する全ての公金(歳入歳出外現金のうち、普通会計と同一の口座において受け入れられる公金を含む)並びに公営事業会計に属する公金のうち水道料金および下水道使用料」についても電子納付を可能とするよう積極的に検討することを求めています。

―2026年9月からは、全国の自治体で公金の電子納付が可能となるのでしょうか。
公金収納のデジタル化は法律で定められた義務ではありません。しかし、〈A市から届いた納付書にはeL-QRが印字されていて電子納付ができるが、B市の納付書にはeL-QRが印字されておらず電子納付ができない〉という状況は、納付者にとって非常に不便です。全団体が足並みを揃えて取り組むことで、自治体にも納付者にも大きなメリットが期待できることから、できる限り早期にサービスをスタートすることが肝要です。
なお、重点的に要請するとされた上記2つの公金については、2026年9月からの運用開始を目指して導入検討を行うことが求められていますが、年度途中からの運用変更は混乱も想定されるため、自治体によっては2027年4月から本格的な対応を予定するというところもあるようです。

総務省「eL-QRを活用した公金収納の開始に向けた留意事項等について1.0版」(2025年2月)より抜粋
―自治体が取り組む上での留意点は何でしょうか。
公金収納のデジタル化は、他の法制度改正とは異なり、一つの事業でも関連する部署や業務システムが広範囲となります。例えば、国民健康保険料や介護保険料などは基幹系システム、道路占用料などは財務会計システム、水道料金は水道システム――などと結びついており、それぞれの分野でシステム改修や事務フローの見直しが必要です。また、自治体ごとにシステムや決済手段の状況、収納消込の処理手順などが異なるため、どう対応していくかは個々の判断にゆだねられています。
そこで今年2月、総務省は工程ごとの留意点をまとめた「eL-QRを活用した公金収納の開始に向けた留意事項等について1.0版」を公表しました。その中で、まず取りまとめ担当課(最終的に出納情報の統合を行う会計担当課を主に想定)を設けることを推奨しています。そのうえで、取りまとめ担当課を中心に、公金事務を行う原課やシステム提供事業者と情報共有・相談しながら、対象とする公金の選定やシステム改修・事務フローの見直し内容の検討を行うようアドバイスしています。
なお、サービス開始前には、eLTAXと自治体の業務システムの間で問題なく運用ができることを確認する「団体連動試験」を行う必要があります。例えば、2026年9月にサービスを開始する場合、団体連動試験は4月から順次実施されるため、多くの団体が標準仕様準拠システムに移行して初の当初課税の時期と重なることとなり注意が必要です。
公金事務を行う原課の状況をきちんと把握し、無理のない作業計画となるよう、あらかじめシステム提供事業者と十分に調整しておくことをお薦めします。

実態調査では、ほぼ半数が開始時期を「決定済み」
―先ごろ「公金収納のデジタル化対応に向けた検討状況に関する実態調査」を実施されましたが、自治体の現状をどう捉えていますか。
TKCでは、1月下旬から2月半ばにかけて、当社の基幹系システムと公会計システムを利用するお客さまを対象にアンケート調査を実施しました。調査結果の全体を総括すると、まだシステム改修範囲やこれにかかる費用など未確定事項が多い中でも、公金収納デジタル化への関心や期待は着実に高まっている様子が伺えました。
【調査概要】 ・調査対象 TKCの基幹系システム・公会計システムを利用する332団体(2025年1月1日現在) ・有効回答数 113団体・122名(団体数では調査対象の34%) ・調査方法 TKCシステムを利用する団体を対象としたWebアンケート ・実施時期 2025年1月24日(金)~2025年2月14日(金) |
調査結果を見ると、取りまとめ担当部署の決定状況(n=113)については、「決定している」が54団体(48%)、「設置予定」が33団体(29%)、「未定」が23団体(20%)、「設置しない」が3団体(3%)となり、約8割が体制整備を進めていることが明らかとなりました。また、取りまとめ担当部署が「決定している」と回答した54団体のうち全体の約6割にあたる32団体が「会計部門」を挙げています。

公金の電子納付の開始時期(n=113)については、「2026年9月」が52団体(46%)、「2027年4月」が7団体(6%)、「未定」が54団体(48%)となりました。なお、未定と回答した団体も、多くはシステムの改修範囲などシステム提供事業者との調整段階にあることが要因と想定され、今後、順次確定していくと捉えています。

対象とする公金は、やはり取り扱い件数が多い「介護保険料」と「後期高齢者医療保険料」が同率トップとなりました。これに続き、団体の区域外にも納付者が広く所在する「行政財産の目的外使用料」や「道路占用料」、「幼稚園・保育園等の利用料」が挙げられました。なお、「国民健康保険料」については、すでに「国民健康保険税」として電子納付に対応している団体もあることから全体順位では下位となりましたが、取り扱い件数の多さから優先的に対応が進むとみています。
「デジタル完結」で納付者も自治体も楽になる
―今後の展望について教えてください。
公金収納のデジタル化は、納付者だけでなく自治体や金融機関にも大きなメリットがあることから、今後、急速に拡大していくでしょう。より多くの自治体がスムーズに対応できるよう、システム提供事業者としてシステムの改修はもちろん、積極的な情報提供などを通じて自治体の不安解消・意識醸成に尽力していきたいと考えています。
20年前に運用を開始したeLTAXは、いまや社会的に重要なインフラの一つとなりました。一連の地方税務手続きの「デジタル完結」を目指して、2027年4月からは地方税関係通知(納税通知書等)のデジタル化も予定されています。これによって自治体・納税者は、一段と大きなメリットを享受できるようになるでしょう。
社会全体のDXに目を向ければ、いま「事業者のデジタル化促進」支援として、国税庁を中心に取引から会計、申告・納付までをデジタルでシームレスに処理できるようにする取り組みも進んでいます。こうした動きは例外なく自治体も含めた社会全体に影響します。TKCは、会計と税務を強みとして、これからも住民・事業者の利便性向上や自治体の業務効率化をご支援していきたいと考えています。

参考
●「eL-QRを活用した公金収納の開始に向けた留意事項等について1.0版」(総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000992043.pdf
●「公金納付のデジタル化への対応に向けた検討状況に関するアンケート調査」(株式会社TKC)
https://www.tkc.jp/lg/