寄附者と地域をつなぐ
北本市のふるさと納税戦略【インタビュー】

首都圏からのアクセスのよさと豊かな自然が調和する埼玉県北本市。同市はふるさと納税に力を入れており、寄附金額は県内トップクラスの実績を誇る。その背景には、シティプロモーションと連携した独自の戦略と、地域との「つながり」を重視する姿勢があった。
本記事では、北本市のふるさと納税を推進する、政策推進部 市長公室 シティプロモーション・広報担当の山本主任、木村主事、佐藤主事(右から)にインタビュー。地域活性化のプラットフォームとしてのふるさと納税の可能性と、寄附者との関係性を深める取り組みについて伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 町田貢輝)
シティプロモーションと連携した
北本市のふるさと納税戦略
埼玉県央部に位置する人口約65,000人の北本市。東京駅や新宿駅方面へ乗り換えなしで行くことができる利便性抜群の立地と、武蔵野の雑木林をはじめとする豊かな自然、国指定史跡・デーノタメ遺跡(縄文時代中期から後期の環状集落を含む大規模集落跡)があるなど、自然と歴史と暮らしやすさが調和したまちとして、近年は社会増(転入者数>転出者数)が続いている。
そんな、住みやすいまち・北本市は、ふるさと納税にも力を入れており、令和2年度から令和5年度まで埼玉県内の納税実績で1位を獲得。寄附金額も令和6年度は13億円を超える見込みであるなど、大きな成果を挙げている。
「市内に江崎グリコ様の工場があり、そこで作られるお菓子の詰め合わせセットが、返礼品として人気を博しています。そのほか、地元のクッキー専門店・クル様の長期保存が可能な備蓄用無添加クッキーや、地元で80年近く続く武蔵製菓様のおかきセットも多くの方に注文いただいています。そして、返礼品注目度NO.1なのが、市内に縫製工場のある銀座英國屋様のオーダースーツ仕立て補助券です。こちらは寄附金額のパターンが1万円~1,000万円の14パターンに分かれているのですが、憧れのオーダースーツが返礼品で手に入るという珍しさもあり、多くの方から支持されています」と、紹介してくれたのは、シティプロモーション・広報担当の木村主事。
北本市は、シティプロモーション・広報担当が兼任する形でふるさと納税業務を行っている。ふるさと納税の寄附は基本的に市外の方からいただくことになるため、北本市の魅力を内外にPRするシティプロモーション・広報業務は、ふるさと納税にも通じる部分があるというわけだ。
「寄附をいただいて返礼品を送るだけの関係性ではなく、ふるさと納税制度を通して、北本市のよさを知っていただくことまでが私たちの業務だと考えています。そのため、返礼品協力事業者様に直接お話を聞くなど、顔が見える関係性は重視しています。そういった協力関係を築いてきた結果、最近は返礼品を用意してくださる江崎グリコ様の工場見学やイチゴなどの特産品を農園で食べ比べできる『寄附者向け感謝ツアー』も開催することができました。北本市に来ていただく人が増えることは、シティプロモーションを行う上でも重要なポイントと考えていますので、ふるさと納税を通じたツアーやイベントなど関係人口を増やす取り組みは、今後も考えていきます」(山本主任)
ふるさと納税業務に関しては、シティプロモーションを担当する4人が主体となって行っており、中間管理業者や返礼品協力事業者とのやり取りはもちろん、発送手配などの業務も4人で対応しているという。とりわけ、発送手配に関しては、1万件近い寄附者のメールにすべて目を通し、寄附時に入力された備考や希望など個々の都合になるべく沿う形で、返礼品協力事業者に発送手配を行っているというのだから驚きである。
「ふるさと納税関連業務は、中間管理業者と連携しつつ、できる限り私たちが目を通して対応します。中間管理業者にコールセンター業務もお任せしておりますが、『北本市』としてふるさと納税の推進、ポータルサイトの掲載をしているところですので、ただ『コールセンターにお電話してください』と流すのではなく、情報共有を図って業務にあたっています。私たちが直接対応することは、寄附者の皆様の安心にもつながると思いますので、今後も誠心誠意対応させていただきます」(木村主事)

ふるさと納税型クラウドファンディングの取り組み
北本市では、ふるさと納税の使い道として子育て支援や若者の移住・定住支援、まちづくりなど、合計8つの分野から選ぶことができるが、それとは別に、ふるさと納税の仕組みを活用しながらプロジェクトを実施する企業や団体に直接支援が行えるふるさと納税型クラウドファンディングにも力を入れている。
北本市の場合、地域活性化につながる市民提案型のプロジェクトに賛同し、寄附してくれる方をクラウドファンディングで募り、実現に必要な資金を調達する取り組みを令和元年度から行っている。ポータルサイト・ふるさとチョイスから寄附することができ、寄附した金額はふるさと納税として扱われるため、税控除の対象になる。
「クラウドファンディングを実施するプロジェクトに、地域課題の解決に寄与するか、地域活性化に効果が期待できるかなどの審査基準を設けることで、公共性・公益性を維持しながら、市がバックアップできる仕組みとなっています。また、北本市のクラウドファンディングに関しては、北本市民の方も寄附できるつくりとしています。『地元を応援したい』という身近な方が支援をしてくださるのは、我々としてもうれしいですね」(木村主事)
北本市では、令和元年度から令和6年度まで合計12事業(*1)のふるさと納税型クラウドファンディングを実施している。これらの事業を通して、高齢化・少子化の影響でシャッターが目立つようになった北本団地商店街に、ダンススタジオやヘア&ネイルサロンなどをオープンすることができた。
「新しいお店ができたことで場と人、人と人との新たなつながりが生まれ、まちが明るくなり、地域活性化につながった」と、効果を実感する声も多い。
こうした、ふるさと納税型クラウドファンディングを活用した地域活性化の取り組みは、先進事例として注目されており、そのノウハウ等を学ぶため、北本市に多くの自治体が視察に訪れているそうだ。

地産地消の「薪づくり」プロジェクトでクラウドファンディングを実施した
(*1)北本市のふるさと納税型クラウドファンディングは、令和元年度は2事業、令和2年度は2事業、令和3年度は4事業、令和4年度は1事業、令和5年度は2事業、令和6年度は1事業を実施している。
広報活動とポータルサイトの活用
地域を熟知した中間管理業者との連携
北本市は、ふるさと納税の魅力を効果的に発信するため、ポータルサイトの活用と多角的な広報活動を展開している。ふるさと納税専用のLINE公式アカウントを運用し、月に2回の情報配信を行っている。また、10サイト前後のポータルサイトにページを開設し、返礼品の新規追加や既存ページのSEO対策を随時行うことで、常に最新の情報を提供している。さらに、一部のポータルサイトでは、新規返礼品や季節もの、行事に合わせた返礼品の紹介などの特集記事を積極的に展開し、寄附者の興味関心を惹くためのプロモーション活動にも取り組んでいる。
「ふるさと納税の申込が増える年末年始に向けて、特集記事を制作しポータルサイトに掲載することで目に留まる工夫をしています。また、新聞の折り込み広告やウェブ広告(Googleバナー広告など)を活用し、広範囲な層へのアプローチを試みています」(木村主事)
最近は、動画広告にも力を入れており、YouTubeやTVerなどのプラットフォームで動画広告を展開。流入分析がしづらいため、効果測定が難しいという課題はあるものの、認知度向上に一役買っているそうだ。

ふるさと納税業務を円滑に進めるためには、事業者との連携も必要不可欠だ。
北本市は、市内に本社を置く合同会社LOCUS BRiDGE(以下「LOCUS BRiDGE」)と緊密に連携し、ふるさと納税業務を行っている。
「LOCUS BRiDGEは、北本市のふるさと納税中間管理業者として、事業者への訪問、新規返礼品の発掘、コールセンター業務など幅広い業務を担っています。北本市の魅力を最大限に引き出す方法を熟知した重要なパートナーとして、業務にあたっています」(木村主事)
LOCUS BRiDGE(中間管理業者)の力を最大限生かすために、北本市はふるさと納税管理システム「ふるさと納税do」を活用しながら、必要な情報をリアルタイムで共有し、迅速な意思決定と効率的な業務遂行を実現している。
中間管理業者を重要なパートナーと考え、市役所と事業者が一丸となって業務を推進する体制を整えたことも、北本市がふるさと納税の寄附額で何度も県内1位を獲得できた要因の一つなのは間違いない。
この考え方や体制作りは、多くの自治体の参考になるのではないだろうか。
ふるさと納税を通して地域と寄附者の「つながり」を育てる
北本市は、ふるさと納税を単なる寄附金集めの手段としてではなく、地域活性化のプラットフォームとして捉え、その可能性を最大限に引き出すために、寄附者向け感謝ツアーの開催等、さまざまな取り組みを行っている。
その背景にあるのは、地域活性化や地域貢献といったふるさと納税制度の本来の意義だ。
佐藤主事はふるさと納税制度が「返礼品を手に入れるだけのものになってほしくない」と語り、ふるさと納税が自治体を応援するための制度であるという原点に立ち返る必要性を強調する。
「単純な返礼品の送付だけでなく、市内を巡るツアーの企画など、寄附者の方々に北本市の魅力をより深く知ってもらうための取り組みを継続して行っています。また、寄附金が保育所の開設や団地の活性化など、実際に北本市でどのような形で活用されているのかを積極的に情報発信することで、寄附者の方々に制度の意義を再認識してもらいつつ、北本市とのつながりも実感していただきたいです」(佐藤主事)
「ふるさと納税は、寄附者と地域のご縁を育てるもの。寄附者が北本市のファンとなり、継続的に応援してもらえる魅力的なまちにすることも私たちの重要な業務です。また、ふるさと納税によって実現した事業や成果を北本市民に積極的に発信することは、地域への愛着や誇りの醸成につながっていくと考えています。ふるさと納税を通じて人と人、物と人、場所と人とのつながりが広がり、寄附者と市民がもっと北本市を好きになってくれるとうれしいですね」(木村主事)
北本市のふるさと納税戦略は、返礼品の魅力づくりだけでなく、寄附者との双方向の交流や地域活性化をPRすることで、新たな価値を創り出している。この取り組みは、ふるさと納税を通じた地域活性化のモデルとして、これからの地方創生の指針となるだろう。
北本市の取り組みから、今後も目が離せない。

