トップと現場双方の理解で実現、ヤフーが支援するデータドリブンなデジタル行政

トップと現場双方の理解で実現、ヤフーが支援するデータドリブンなデジタル行政

ヤフーは2020年、自治体向けにデータソリューションサービスを開始した。既に47都道府県や政令指定都市を皮切りに、多くの自治体で、データを活用した多種多様なデジタル行政の支援を行っている。

サービスの概要と、象徴的な事例などについて、ヤフー株式会社 データソリューション事業本部 パブリックエンゲージメント部 部長 大屋 誠氏にお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)

コロナ禍で本格化した自治体のデータ活用

―官公庁向けのサービスについてお聞かせください

ヤフーのデータソリューション事業においては、自治体様向けに大きく二つのサービスを提供しています。

一つ目はDS.INSIGHTというデータ分析ツールです。これは一般企業向けにも提供をしていますが、自治体様向けには「DS.INSIGHT for Gov」 として、特別価格でのご提供をしています。

「DS.INSIGHT for Gov」の正式な提供開始は2020年7月です。

2020年4月にはコロナ禍で緊急事態宣言が出て以降、自治体様からの人流の変化を確認したいとのお声を受けてして、まずは47都道府県と政令指定都市を対象に、期間限定で無償での提供を開始しました。その後、自治体様からの声を反映しながら改良を行い、正式な提供に至りました。

また、データの活用のご支援のために、個別相談やご利用方法についてのセミナーに参加いただける、活用支援プランをオプションとしてご用意させていただいています。

二つ目は「DS.ANALYSIS」 という、個別案件ごとの分析やコンサルティングを行うサービスです。こちらは企業や官公庁、自治体様に、当社アナリストの分析やデータの活用に向けた相談など、ニーズや課題に応じて個別対応をさせていただいているサービスです。

例えば、新型コロナウイルス対策において、ヤフーのデータを活用して各自治体内の人の移動状況を把握することや、交通行政において例えば渋滞問題や道路の幅員を広げるために従来行ってきた交通量調査を代替するものとして、私たちのデータをお使いいただき、分析をお手伝いするようなケースが挙げられます。

また、観光目的では、観光施策を考えるうえでのユーザーの観光地の選定から実際に現地を訪問するまでの行動分析を行ないます。

ヤフーデータソリューションにおける、様々な行政施策

―数ある活用事例の中から特に成功されているものついてお聞かせください

ヤフーでは検索データ、人流データ、ショッピングデータなどを保有していますが、前者二つのデータをメインに活用して自治体様の支援をいたしております。ここでは数あるうちのいくつかをご紹介します。

ヤフーデータソリューションサービスにおける、自治体瀬策の支援事例

観光施策の立案と実践:富山県西部観光社(DMO)

富山県のDMO機関である、富山県西部観光社様では、検索データを活用し、観光施策の差別化を図る取り組みを行いました。

富山県西部は、金沢や飛騨高山など、競争力の高い観光地が近隣にある中で、どうやっていかなければいけないかと考え、最終的には産業観光を振興するという結論に達しました。この決定に至るプロセスにおいて、私たちのデータをご使用いただきました。

産業観光とは、例えば新潟県三条市が有名ですが、産物の工場を見学に行かれたりするタイプの観光です。富山県西部の観光コンテンツを並べてみて、検索数がそれぞれどうであるのかを分析しました。そうすると、東京都のユーザーは、「能作」という高岡市で有名な産物の検索数が他県と比べて多いということが明らかになりました。

また、「能作」というキーワードを検索した人は、「ロイヤルコペンハーゲン」や「バカラ」などの洋食器にも興味をお持ちであることが、検索行動の傾向から明らかになりました。

そこで、都内の大手百貨店と提携をして、「ロイヤルコペンハーゲン」や「バカラ」を購入される方をターゲットに「能作」のイベントを東京で開催、そこにいらっしゃった来訪者に高岡への魅力を紹介しました。すぐに直接現地へお越しいただくというのはなかなかハードルが高いので、まずは関係人口を作るというところから戦略的に取り組んでおられるという事例です。

有力祭典の集客戦略立案における意思決定:青森県八戸市

青森県八戸市で行われる、毎年140万人が来訪する三社大祭というお祭りがあります。その活性化の戦略立案のお手伝いをしました。

まず同じ青森県内で開催されているねぶた祭をベンチマークとすることになりました。ねぶた祭りに来る人がどこからきているのかを調べたところ、来訪者の半分が青森県外からであることが分かりました。3社大祭は県外からが4分の1以下です。また、データを深く分析していくと、経済に良い影響を与えるためには、遠いところから来訪してもらうことが良いということが明らかになりました。

これらの結果をもとに、三社大祭のコンテンツの内容など、運営に関する様々な意思決定において、首都圏からいかに来訪者を増やすかということを、加味していこうということになりました。

新バスターミナル・大型商業施設の建設による周辺地域への影響評価:熊本市

次に熊本でバス事業を手掛ける九州産交グループ様と熊本市、熊本大学などとのお取り組みについてです。熊本市内の中心部にある熊本城のそばにバスターミナルがあります。熊本は市街地の交通渋滞が深刻なことで知られていますが、バスターミナルを、大型商業施設を兼ねたものにリニューアルをする計画が立ち上がりました。これに対して、自動車利用の増加で渋滞が悪化する可能性や、周辺の商店街のお客さんを奪ってしまうことなの懸念が上がりました。

そこで、電車とバスを無料にするという料金施策を実施すれば、郊外の住民は公共交通機関を利用してくれて、渋滞が解消されるのではないか。さらに来訪者が街中を歩き回って、商店街にも波及効果があるのではないかという仮説を立てた上で、実験的に公共交通を1日無料にして検証をしました。効果を検証するにあたり、当社のデータを活用いただき、無料交通機関を利用してバスターミナルに来た人が、色々なエリアを回ったかどうか、あるいは国土交通省さんのデータも活用し、交通渋滞が緩和されたかどうかを分析しました。

結果的に、渋滞が緩和したにもかかわらず、街にはピークで通常の二倍以上の人が来られました。また、普段と比べても商店街にも多くの人が来ていました。また、熊本市が同時に算出した経済波及効果は5億円規模となり、公共交通機関を無料化するために要した費用2500万円に対して20倍のレバレッジがかかったということも明らかになりました。

バス路線ルートの最適化支援:福岡県

次に西日本鉄道様におけるバス路線最適化の事例です。近年、バス業界では運転手不足に悩まされ続けており、バスダイヤやルートの最適化が進められています。

西日本鉄道様も例外ではありません。同社がバス路線の最適化を図るにあたり、当社のデータを活用いただきました。西日本鉄道様が持つお客さんのバスへの乗降情報と、当社が持つ、どこにお住まいの方がどこに行っているか。人の移動の傾向と、バスの輸送人員の傾向とのギャップを知ることで、西日本鉄道様は、ルート減らすのでなく、より乗車が見込まれるようルートを一部変更する対応をされました。

駅前再整備事業の効果測定:神戸市

神戸市様では長年三宮駅周辺の再整備事業を行ってきました。再整備事業というのは長期間に亘るため変化が分かりづらいものです。神戸市様は、再整備により街の賑わいを増やしたいと考えておられます。そこで、街の賑わいのKPIを作りましょうというプロジェクトが行われました。

神戸市様は、街の賑わいを以下のように定義しました。

-来てくれる人の数が増えること

-ある人が何度も来てくれること

-来てくれた人に長い時間滞在してもらうこと

そして、対象地域を区切って、人の回流を毎月レポートで見られるダッシュボードを作り、長期的に見ていくことが出来る環境をご用意しました。

―最近引き合いが多い部局については、何か特徴がありますか?

大きく部門という意味では二つあります。

一つは、企画調整や情報政策の部門の方です。DS.INSIGHTについては、どこかの部局だけで使うというよりは、役所全体で活用を想定されるケースが多いので、そのようなケースが多いです。

もう一つは、各部局の事業担当の方からです。2020年に関しては、コロナ対策関連で、人流を知りたいというようなケースが多かったです。

それ以外では広報、交通政策・観光、防災、商工などの部局とのお取組みが多いです。

トップと現場双方の理解で実現、ヤフーが支援する多様なデジタル行政

―貴社からご覧になられて、国や自治体で行政サービスや、庁内業務におけるデジタル化が早い領域と遅れている領域について、お気づきの点はありますか?

現場とトップの双方が熱心な自治体は、とても進みが早いです。デジタル化で結果を出すには、住民や課題に向き合われている現場の方が武器にしている状況が重要です。ノウハウや実績が少ない時は新しい取り組みは手を出しにくいものですが、トップも現場も両方が取り組んでいかなければいけないというコンセンサスがあるところは、動きが早いです。

―データソリューションを有効に活用するために、重要なポイントがあればお聞かせください。

変化が激しい今だからこそ、データ活用は重要だと考えます。

変化のスピードに対応するには、専門職の方だけがデータを扱う時代から、パソコンや表計算ソフトのように、誰でもデータを活用する仕組みに変わっていく必要があります。

いち早くデータ活用を社内で進めてきたヤフーのノウハウを実装したDS.INSIGHTは、簡易ですが、ヤフーのビッグデータを活用できるツールになっています。

併せて、これまでの市販のデータサービスの多くは、1ユーザあたり年間で百万円以上していましたが、同じ金額で100名が利用可能で、庁内全体でデータを活用できます。

データ活用を普及していくにあたっては、庁内での認知・理解を広める必要があります。部署は違えど、抱える課題は似ていることが多く、庁内で理解をしてくれる仲間づくりを進められると、導入がスムーズにいくのではないかと思います。

弊社では、導入後の相談会なども実施しており、自治体の皆様と二人三脚でDXの推進を進めていければと考えています。