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「素直に喋るから『伝わる』」むつ市長のYouTube戦略 【宮下宗一郎市長インタビュー】

「素直に喋るから『伝わる』」むつ市長のYouTube戦略 【宮下宗一郎市長インタビュー】

(執筆:デジタル行政 編集部 長野 光)

10月に行われた衆院選では、立憲民主党が議席を減らし、維新の力強い躍進が話題になった。長い選挙特番を終始テレビで追いかける人は減り、多くの人は落選した政治家や辛辣なコメンテーターの発言などを、YouTubeにあがったニュース番組の切り抜きで確認した。

こういう時代にあっては、政治家も自治体も旧来のマスメディアのフィルターを通すより、SNSで自力発信を行ったほうが主張がよりストレートに伝わる。しかし、SNSは誹謗中傷や炎上が渦巻く秩序なきバトルフィールド、極端な発言でヒトの注意を引き付ける怪しげな猛者たちも次々現れる。

従来の形式的な広報活動では相手にされないこんな時代にあって、自治体はいかに独自のデジタル発信を試みるのか。独自性の強いYouTubeでの発信が話題を集める、青森県むつ市の宮下宗一郎市長に話をきいた。

「むつ」だから「62」

──宮下宗一郎市長は2020年1月17日から、YouTubeチャンネル「むつ市長の62(ろくじゅうに)ちゃんねる」を始められました。宮下宗一郎むつ市長が自ら『むつ市の今』をお伝えしています!、とチャンネルの概要欄に記載されていますが、あらためて「むつ市長の62ちゃんねる」がどういったチャンネルなのか教えてください。

宮下宗一郎氏(以下、宮下氏に統一):むつ市そのものの紹介、むつ市の施策の紹介、政策の紹介等、本当は伝えたいことがたくさんあるんですが、テレビや新聞で伝えきれなかったことを補足するために、自分自身のメディア化を目指してチャンネルを作りました。去年GoToトラベルに私がもの申したときには、「62ちゃんねる」の動画をキー局がニュース番組で流したり、62ちゃんねるで流した映像を各テレビ局が番組の中で紹介したりしていますので、マスメディアでも取り上げられています。

宮下宗一郎 むつ市長

──なぜ「62ちゃんねる」なのでしょうか?

宮下氏:むつ(62)です。

哲学や思想がない発言は炎上する

──SNSにおける発言が炎上し、有名人や政治家に批判が集まることは珍しくありません。かといって無難なメッセージばかり配信しても注目を集めることは難しいように思います。この辺、どのような意識でコンテンツ制作をされていますか?

宮下氏:哲学とか思想のない人たちが炎上するのであって、自然体でやっても炎上することはないと思っています。特に意識していることはないです。

──哲学や思想が無い人がやると炎上する、どういうことでしょうか?

宮下氏:自分自身の経験もなく、人の気持ちも考えずに思いつきで言ったことが反発を喰う、というのが炎上のシステムですから、自分のしっかりとした物事に対する考え方と、人の気持ちが分かるようなコメントであれば炎上しないと思います。

──しかし、ものすごく注目されている政治家、たとえば、小池百合子さんとか、一挙一動何か言われるじゃないですか。

宮下氏:本物になってくると何をやっても炎上するというのはあります。小池さんにしても、吉村さんにしても、総理にしても、何をしても誰かに批判されると思うんですけれど、早く私もそうなりたいですね。

──動画制作においてやらないようにしていることや、言わないように気をつけていることなどありますか?

宮下氏:ありません。編集でカットできますから。ちょっとあの発言は配慮が足りなかったな、と後から思い、カットすることはときどきあります。ただ、作っている間は、一定のテンションやノリでやらないといけません。ちゃんと本を読んで、人の話をよく聞いて、いろんな所を旅して、人間力を高めることが大切で、その延長線上に、様々な発信や発言があり、そのひとつのツールがYouTubeなだけですから、YouTubeだからやっちゃいけないことがあるわけではないと考えています。

市役所のYouTubeチャンネルのあり方

──現在チャンネル登録者が9000人ほどで、ひとつずつの動画が数千回再生されており、1万を超える再生回数の動画もたくさんあります。市長のYouTubeチャンネルとして、とても注目されていると思うのですが、なぜこれほど注目を集められるのだと思いますか?

宮下氏:コロナの危機が大きかったと思います。危機の時というのは、みんながリーダーに頼りたくなる。では、頼りになることの源泉はなにかというと、情報だと思います。情報を集約しているのは私たちですから、その情報をみんなが知りたい、獲得したいという思いが、チャンネル登録者数を伸ばし、再生回数を伸ばしているということだと思います。感染者出ました、どういう状況です、これからどういう風に拡大します、という記者会見を何度もしましたが、記者会見するたびに数百は登録者数は伸びます。再生回数もコロナの会見だけは、ほぼ毎回1万を超えてます。そういう意味では本当に地域の人たちみんな見ています。6万人ちかい人口がいますが、スクリーンの前で何人かで観ていたら、かなりの人が観ていると思います。

──視聴者から様々なメッセージがくると思いますが、どういったメッセージが多いですか?

宮下氏:まず「見たよ」というのと「楽しかったよ」というのが一番多いです。直接会う人たちには、そういう風に言ってもらうことが多いです。誤解に伴う誹謗中傷のメッセージもありますし、コロナの関係でいうと反ワクチンや、コロナはただの風邪だといった意見もいただきます。ただ、そういうものは日常的にあります。いつも悪口は言われていますし、メールや電話でもよくいただいていますので。

民主主義ですからコメントは書き込めます

──コメントは書き込めるようにしているんですか?

宮下氏:もちろん、自由に書き込んでもらっています。

──誹謗中傷をはじめ、問題のある発言はブロックすることもできますよね?

宮下氏:そういうことはしていません。民主主義ですから。批判もあるし、賞賛もある、その中で、本当に大事なところを見極めていく、というのが大切なことだと思います。SNSの良いところは評価がすごくよく分かることですよ。こっちが面白いと思って作っても、1000くらいしか再生回数がいかないこともある。逆に、気楽に作っても、8000とか9000とか1万超える場合もある。コメントにしても、30超えるコメントがくる場合もあれば、いい話したつもりなのにぜんぜんコメントこない、むしろ怒られた、ということもある。まさに自分自身を映す鏡です。

──どういったコンテンツがよく見られる、という感想はありますか?

宮下氏:みんなが欲しい情報が含まれている動画です。コロナの会見で、感染者の状況だとか、市内の状況だとか、そういうものは観られます。あとは、面白くつくった動画はすごく反応してもらえます。日本一短い高速道路をみんなでしりとりしながら走行した動画、あれは制作がすごい簡単でした。それから、デュエットホンといって、受話器がふたつ付いている電話で、私と秘書が家内に電話して、私の時は怒るけれど、秘書のときは声を変えるとか、そういった動画もだいぶ観られました。あとは、新しい事業を紹介する動画です。

それと、意外と記者会見はみんな観てくれるんです。普通、記者会見って数百くらいしか再生回数がないものですが、我々のところはもう3000くらいのベースになってます。1万はまだいきませんが、5000とか6000あたりまでは再生回数が伸びます。全部ライブなので、記者に何を聞かれてもその場で答える。ケンカみたいになることもありますけれど、それは編集なしで全部流しています。

──何名くらいで動画は作っておられるんですか?

宮下氏:ほぼ1人(本人以外)、ただ、サポートするスタッフが3名ほどいます。

1年半で200本以上の動画を配信

──動画を拝見すると、編集もたくさん入っていて、音楽やキャプションも上手に入っていますが、この辺はどのように製作スタッフの方は学ばれたのでしょうか?

宮下氏:彼はなんていうか非常に研究熱心で、でも始めた頃は知識ゼロでした。最初はカメラしかなかったですが、今はもうYouTubeの収入で、だいぶ機材もたくさん買い揃えました。スタビライザー、GoPro、それから、モフモフしたマイク(ブームマイク)とか、そういうものが今はたくさんあります。一眼レフで撮影したり、と技術も上がっています。

──「市長VS課長 ホタテ水着をめぐって大激論!」の動画など面白かったのですが、どのような動画を作るかは、企画会議を経て決めているのでしょうか?それとも、どなたかディレクターのような方がお決めになっているのでしょうか?

宮下氏:テキトーです。たとえば、マイナンバーに保険証を紐づける、という動画をさっきまで撮ってたんですが、自分でやってみたらすごい簡単にできたんで、市民の皆様に紹介しなきゃ、という思いでやりました。後半が面白いので是非観てください。担当課長の本当はやりたくないけれど、国にやらされている、といったニュアンスの発言があったり。

──動画を配信する頻度や、動画の長さに関して、このくらいにしよう、という目安はありますか?

宮下氏:基本的には週2、3本です。1本の週もありますし、月に1回は定例会見と、緊急的な会見などは基本的には動画にします。1年半くらいで200本超えるペースで配信してきました。毎回けっこう最後は本気で工夫します。いろんな良いことしてても、伝えるだけではダメなんです。HP見てくださいとか、広報誌出しました、だと一方方向なんです。やっぱり伝わるっていうことにこだわることの、ひとつのチャレンジがYouTubeだと思います。どれだけ伝わったかは再生回数で分かる。コメント欄を見れば、どんな伝わり方をしたのかも分かる。だから本当に大事なことは配信します。マイナンバーに関する動画も何回も作りました。ご当地B級グルメに「海自カレー」があるんですけれど、それを筋肉のすごいカレーボーイズがPRするという動画も作りました。こういう動画を出すとたくさん見られます。

市長はビジネスプロモーター

──市長が広告の部分で非常に大きな役割を担うというか、地元のご当地ビジネスを盛り上げるビジネスプロモーターのような役割が、今後求められていくということですか?

宮下氏:そんなふうに分析的に言われると鼻が高いです(笑)。ビジネスプロモーターと言われれば、まさにその通りです。

──「このビジネス盛り上げたいんで、一緒に宣伝しましょうよ」と市長の方から声をかけられるんですか?

宮下氏:そういう場合もあるし、声がかかる場合もある。市内の人はけっこう「62ちゃんねる」見ていますから。

──市内ばかりではないと思うんですが、どういった方々が宮下市長のチャンネルを見ているとご想像されますか?

宮下氏:関係人口でしょうね。むつ市に関係のあったゆかりのある人たち、故郷がむつ市の人たち、むつ市でビジネスをしたい人など、いろんな人たちが観ていると思います。下北の人たちも確実に見ています。下北の西側に佐井村という村があるんですが、タブレットが1家庭に1個あるんです。みんな62ちゃんねる登録していますから。おじいちゃんおばあちゃんに大人気です。

田中角栄がYouTubeをやったら

──今のお話をうかがっていると、ますます政治家に魅力やパフォーマンス力が求められていくように思うのですが。

宮下氏:もともとそうなんですよ。切り口がYouTubeになっただけです。たとえば、田中角栄がYouTubeやったらメッチャ面白いと思いますよ。

──思いますね。田中角栄もそうですけれど、ズケズケ生々しく喋れるか、っていうのも大事ですよね。

宮下氏:どうしたら伝わるんだろうか、ってことを一生懸命考えていくと、素直な気持ち、これを表明することが一番伝わるんですよ。「嘘はない」ということです。形を整えるのはちょっと嘘が入っている。いつものあなたじゃないじゃない。それはみんな見抜くのだと思います。