デジタルで「持ち運べる役所」を具現化―LINEスマートシティ推進パートナープログラムとは[インタビュー]

デジタルで「持ち運べる役所」を具現化―LINEスマートシティ推進パートナープログラムとは[インタビュー]

コミュニケーションや決済サービスなど、日本のデジタルサービスインフラとしての発達の途を突き進むLINE。

今後日本の行政サービスのデジタル化を担う重要なプレイヤーであることは疑いの余地がない同社は、自治体に対してどのような枠組みで、サービス提供を行っているのか。

同社が今年立ち上げたLINEスマートシティ推進パートナープログラムの概要や事例、LINEによる行政のデジタル化支援に向けた想いや考え方、などについて、同社公共政策室 スマートシティ推進TF 責任者の花岡 明久氏、同チームメンバーの高野 洋介氏にお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)

LINEの活用で実現する「持ち運べる役所」

-自己紹介をお願いします

花岡氏(写真 右):私はもともと前職が政党職員でLINEを担当していました。内閣官房で専門調査員という仕事をしており、政党と政府、官庁とメディアとの橋渡し役をしておりました。LINEスマートシティ推進パートナープログラムのチームを預かっております。

高野氏(写真 左)):私は、建設業業界の造園会社に所属し、そこで新規事業で法律に携わったことをきっかけに、その後議員を目指して選挙活動をしたことがあります。この時にLINEをはじめとしたSNSを活用した選挙活動を行っていました。現在はセールスエンジニアの立場で行政のみなさまと向き合っています。

-LINEスマートシティ推進パートナープログラムの背景と概要についてお聞かせください

花岡氏:LINEはこれまで、「持ち運べる役所」というコンセプトのもと、住民と行政の距離を縮めてより利便性の高い行政サービスの提供が実現されるように自治体の支援を行ってまいりました。

今年春以降の新型コロナウイルス拡大や、行政のデジタル化の流れを受けて、人と人との距離を保ち、接触をできるだけ避けるというニーズが高まっています。その中で行政においては、住民が足を運ばないで行政サービスを提供することが出来る環境をどう構築するかということが課題になっています。そこで、行政サービスのデジタル化がスマートシティの実現に向けてさらに重要になってまいります。そこでLINEがその推進をお手伝いさせていただこうということで、LINEスマートシティ推進パートナープログラムが出来ました。それを踏まえ、今年6月にスマートシティ推進タスクフォースが組織化されました。

LINEスマートシティ推進パートナープログラムは、希望いただいている自治体に無償で参加いただけます。現在347の自治体が参加いただいております。(2020年11月末時点)

自治体がスマートシティーを推進するにあたっての情報収集や、コミュニティーづくりをしたり、新規事業の創出をしたりすることを支援しています。

参加しているのは、政令指定都市を中心に、比較的規模の大きな自治体様が多いのが特徴ですが、もちろん規模に問わず多くの市町村様にご参加いただいております。

LINEがサポートする、3つのこと

-自治体は、パートナープログラムに参加するとどのようなメリットが得られるのでしょうか。

花岡氏:「情報収集」、「情報交換」、「公募型モデルの創出」という三つの機会を得ていただけます。

情報収集においては、LINE for Governmentというサイトを通してや、noteやYouTube、LINEなどを使って、行政サービスのデジタル化に有益な情報を提供させていただいております。

毎週金曜日に「LINEとつながるFriday」という取り組みを実施しています。LINEの社員7-8名が金曜日の一定の時間にオンライン上で待機をしていて、自治体の方からDXに関することについて、何でも良いので気軽にご相談いただける場を設けております。

高野氏:内容は幅広く、庁内全てのデジタル化についてどのような手続きをするべきかというようなご相談から、LINEのログインの方法についてまでとのご相談までいただいております。

お問い合わせをいただく担当の方は、比較的年代が若い方が多いという印象です。

花岡氏:当社にお問い合わせをしていただいたり、窓口になっていただく方も様々ですが、皆さん共通しているのはデジタル化によって行政サービスをよりよくしたいという想いを持っておられるということです。とても積極的に取り組まれている方が多いです。

二つ目の「情報交換」についてですが、現在スマートシティーの実現に向けた、分科会も開いており、ここでは自治体同士の情報共有も行われています。

行政手続、情報発信、キャッシュレス決済、防災のほか、LINEで行われる行政サービスを分科会で紹介するということも行っており、ここでの講師は自治体の職員の方に担当していただいています。自治体の方ならではの目線でLINEサービスの導入方法や活用方法を紹介いただいております。

三つ目の「公募型モデルの創出」ですが、これはLINEを活用した新たな行政サービスの企画をパートナーの自治体様に公募で提案をし、手を挙げていただいた自治体様に全国で先行的に導入をしていただき、新しい事例を一緒に作らせていただくという取り組みです。

サービスの導入に当たっては、当社がサポートをし、基本的には1年間無償でご提供をします。

LINEで実現する、数々のデジタル行政サービス

-「公募型モデル」で実現に至ったものとして、具体的にどのような活用事例があるのでしょうか?

花岡氏:例えば、マイナンバー申請窓口の順番待ちでLINEミニアプリを活用することで、窓口の混雑を回避するというサービスがあります。こちらは10月から12月にかけて奈良市、熊本市、都城市の3都市で先行して提供を開始しており、業務の効率化やコロナ対策で好評をいただいており、他の自治体様からも引き合いが来ています。

これは一例ですがこのような事例を創出して、これを横展開していくことを予定しております。

高野氏:「持ち運べる役所」を目指すLINEを活用したサービスとして、その他には渋谷区で既に導入されている、LINEからの住民票の発行についての取り組みがあります。

また、粗大ごみの収集予約サービスが挙げられます。通常はコンビニなどに行って金券を購入し、電話やネットなどで予約する必要がありますが、これをLINE上で一括で行うという取り組みです。LINEで予約をして、LINE Payで決済をし、その後ガムテープを貼ってそこに番号を記入しておくだけで、粗大ごみを出すことが出来ます。住民の方もスムーズにごみを捨てることが出来ますし、自治体職員の方も電話を受けずに済み、電話件数が20%減ったという結果が得られました。

これにより、これまで電話に費やしていた職員の方の時間を他の行政サービスに充てることが出来るようになります。このほかに福岡市では道路の破損に関する住民からの情報提供をLINEで受け付けるという取り組みもしています。情報提供をする側の市民の方も、普段使っているLINEで写真とともに簡単に情報提供をしていただくことが出来るようになりました。また、福岡市から情報提供者に対して対応済であることの報告も、LINEを通して行っています。福岡市による迅速な対応が可視化され、SNSなどでその対応が評価されるなど、住民と行政との関係性に、良い循環を生み出すことが出来ています。

LINE担当者が感じている「デジタル行政」に向き合う自治体職員像

-パートナープログラムに参加するにはどのような手続きが必要なのでしょうか?

花岡氏:自治体様として、お申し込みをいただき会員になっていただく形になります。また、LINEのDX担当者としての窓口となる方をご登録いただくことになります。

窓口の方は、自治体によりまちまちです。広報、防災、教育など様々な担当課の方にご参加いただいております。登録いただける方は、1自治体当たり原則として3名まででお願いしております。どのような部局からのお申し込みも歓迎していますが、複数の部局からの依頼をいただく場合には、出来るだけ各自治体様内で情報共有を図っていただくため、横串で一本化していただき、LINE DXの担当窓口を作っていただくようなこともお願いしております。このような取り組みは、都道府県レベルでは比較的進んでおります。 また市町村レベルでは現在そのような動きがまさに今始まっています。

-LINEを行政サービスにおいて有効に活用するには、自治体職員の方にはどのようなことが求められますか?

花岡氏:私たちが対峙している自治体職員の方は、かなり前向きな方が多いです。そのうえで、自治体の担当者の方に求めることというよりも、私たちがどのように、パートナープログラムの座組を通して担当者の方のお手伝いをすることが出来るかということは、私たち次第なのかなということを感じています。自治体の職員の方に何かを求めるというようなことは、私はないと思っています。

高野氏:導入に当たっては、内部の調整に時間がかかるということが多いので、新しいことに取り組まれる環境づくりは必要ですが、この点についても私たちのほうから働きかけてやっていくものです。新しいことに一緒に取り組んでいかせていただければと考えております。