栃木県真岡市、生成AI導入3カ月の成果と課題から見えてくる展望とは[インタビュー]
真岡市総務部デジタル戦略課デジタル政策係の中村貴哉さん
真岡市では2025年9月に生成AIを本格導入し、文書作成から議事録要約、翻訳まで幅広く活用を進めている。導入はわずか3か月ながら、すでに月300から600時間規模の業務削減効果も見え始めた。一方で、庁内展開や生成AI特性の理解不足など、課題も浮き彫りになっている。導入の背景から現場の反応、今後の展望まで、真岡市総務部デジタル戦略課デジタル政策係の中村貴哉さんに伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)
危機感が決断を後押し

生成AIが登場し、一般に浸透し始めた2022年から2023年頃、真岡市ではその精度やリスクを鑑み、導入には慎重な姿勢を取っていた。「国の対策も追いついていなかったと思います」と中村さんは振り返る。しかし2023年、デジタル戦略課の職員が神奈川県横須賀市の勉強会に参加したことが大きな転機となる。
その職員は技術に対してアンテナが高く、意欲的に情報収集を行っていたが、勉強会で最新の生成AIの進化を目の当たりにし、「導入しないと自治体として遅れを取る」という強い危機感を持ったという。これを受けて翌年度から検討が開始され、まずは予算を使わない形で試用に踏み切った。
2025年6月から3か月間の無料トライアルを実施したところ、アンケート結果が好評だったことから、補正予算の確保を経て同年9月に本格導入が実現した。現在(2025年12月時点)では約500名の職員のうち160名が利用登録している。
文書作成や議事録要約で即効性を発揮
正式導入から3か月、利用者の多くがまず価値を実感したのは職員の大きな負担になっていた文書作成だ。とはいえ、自治体にはこの業務が欠かせない。生成AIに過去文書を読み込ませて条件を変えれば、修正版を短時間で作成することができる。また、議事録の要約も時間削減効果が高く、従来は手作業で時間をかけて編集していた作業が、すぐに完了するようになった。
特筆すべきは、若手よりもむしろ管理職が積極的に活用している点だ。対外的な文章作成時のチェックなどに生成AIを用いるケースが増えたと、中村さんは実感している。「これまではそれぞれご自身の経験に基づいて文章をチェックされていたと思うのですが、どのような観点に基づいてチェックされていたのかをヒアリングし、プロンプトに落とし込んで提供しています」
こうしたデジタル戦略課の支援から横展開され、組織としての利用が進み始めている。
加えて、真岡市には工業団地が多いことからブラジルをはじめ外国籍住民が多いという地域特性がある。最近はベトナム人も増えており、対応できる通訳がいない場合、翻訳にも活用が進み、現場の負担軽減に役立っている。
生成AI特性の理解不足と周知の難しさ
一方で、導入したからといって全職員がすぐに活用できるわけではない。
最大の課題は「生成AIは利用者の使い方で精度が変わる」という特性の理解不足だ。
トライアルの存在を知らなかった職員もおり、生成AIに不慣れな職員からは「どう入力したら良いか分からない」という声もあがっている。「デジタル庁内掲示板を使った周知は行っているものの、全員に情報が届き、理解されるまでには至っていないと思います」 さらに、条例や内部規定といった市の独自データはまだシステムに取り込んでおらず、アップデートを検討していく予定だ。

2025年4月にはアマゾン ウェブ サービス(AWS)と協力し、研修を行なった。現時点で定期開催はしていないが、ガイドラインや使い方の事例をこまめに発信しながら、徐々に広げていく取り組みが続けられている。中村さんは、「禁止事項を伝えるよりも、良い方向へ使ってもらえるような提示を心がけています」と話す。
問い合わせ対応の自動化と政策立案への応用へ
中村さんが今後、最も期待しているのは、庁内情報の一元化と、生成AIを介した問い合わせ対応の自動化だ。
「現在は、人事系なら総務課、システム系ならデジタル戦略課へと、情報が縦割りで分散しています。生成AIが庁内情報を統合的に扱えるようになれば『誰に聞けばいいのか』が解消され、問い合わせ負担が劇的に減る未来が見えてくると考えています」
さらに、統計など市が保有するデータを生成AIに取り込むことで、政策立案への応用も可能になる、と続ける。また、住民向けチャットボットの強化も視野に入れており、住民サービス向上と職員の業務削減の両方を実現する基盤構築を目指している。
導入からわずか3カ月ながら、真岡市の生成AI活用は確かな成果と課題の両方を示している。文書作成の効率化や議事録要約、翻訳など、即効性のある分野ではすでに手応えがある一方、全庁的な浸透や独自データ活用の実現にはまだ一定の時間を要する。しかし、中村さんが語る生成AIを前提にした業務設計への展望は、これからの自治体運営のスタンダードを示しているように思える。