生成AIを日本で初めて全庁導入した横須賀市!前例のない取り組みを実現できたその理由とは?[インタビュー]

生成AIを日本で初めて全庁導入した横須賀市!前例のない取り組みを実現できたその理由とは?[インタビュー]

神奈川県横須賀市は、自治体のDX化の一環として、2023年4月に生成AI(ChatGPT)を日本で初めて全庁的に導入しました。前例のない取り組みであり、まさに「勇往邁進」といえる一歩を踏み出したのです。導入から2年が経過した現在、導入当初から現在に至るまでの課題や取り組み、そして今だからこそお話しいただけることについて、横須賀市経営企画部 デジタル・ガバメント推進室の村田遼馬氏に伺いました。

(聞き手:デジタル行政 編集部 浅野 雅史)

日本初の生成AI全庁導入を実現したフロンティアスピリット

生成AIの全庁導入を決断した背景やきっかけを教えてください

2023年3月に市長からの指示で始まりましたが、デジタル・ガバメント推進室の周囲や一部の職員の間では、2022年末頃にChatGPTが登場した時点で、業務での活用ができないかという問い合わせや検討が行われていました。そのため、トップとボトムの両方からスタートを切ることができました。

導入にあたっては、いきなり新しいツールを導入するとハードルが高くなると考え、多くの職員が日常的に活用しているチャットツールからアクセスできるようにしました。これにより、新しい技術に触れながらユースケースを増やし、使い方を模索していくという試みでした。


 ―前例がない取り組みに対して、どうやって最初の一歩を踏み出しましたか?

デジタル・ガバメント推進室は基本的に初めてのことを推進する部署で、新しいことを始める為にセキュリティの課題や、必要な運用上のルールなどの洗い出しを得意とするチームです。メンバーはそれぞれ得意とする分野が異なっていて、前例がないことへの抵抗感が無く、「どうやったら実行できるか」、「どうやってロジックを組んで、自信を持って取り組めるか」が最も重要であると考えていますので、前例の有り無しは気になりませんでした。

庁内での反発もあるかもしれないですが、気にせず突っ走り、前向きに取り組む人の為に動くことが最も重要だと考えました。

 ―導入にあたり課題や懸念はどう乗り越えましたか?

懸念点は「導入時」と「アップデート時」の2種類あると考えています。

導入時の懸念は、入力した情報が他の目的で使用される可能性や、外部に出て行ってしまわないかと懸念が出ましたが、ほかのWebサービスやブラウザ検索でも同じだと考えました。API利用であればAI学習に使用されないことを確認して、課題をクリアしました。他には倫理的な課題で、AIに判断させて事故が起きてもAIの責任にはできないので、必ず人の判断が必要になることをしっかり周知しました。

 ―現在の具体的な利用事例はありますか?

アップデート時の懸念としては、日々めまぐるしく向上する性能に対して、気を付けなくてはならない要素も変化して、注意すべき点が変わってきます。その変化に合わせたフォローアップがとても重要になってきます。

横須賀市には米軍基地があることもあり、国際交流の部門があります。その部署では文章翻訳案の作成で使用していることが目立って多く、現場の職員からも無くてはならないとの声が挙がっています。

逆に、庁内全体で使用されているわけではありません。利用ログから分析を行っていて、全職員4000人弱の内、週に1回以上使用している職員が17%程度でした。これは部署によってはセキュリティなどの関係から使用できないことも影響しています。

(出典:横須賀市)

年齢別にみると驚くことにフラットな結果が出ていて、勤続15年以上の職員の使用率も高いことが分かりました。

(経験年数別の利用率 出典:横須賀市)

使用者人数の変化を見てみると、導入当初に大きく盛り上がりを見せましたが、その後は一部のコアユーザーを除いて定着しませんでした。ところが1年経過したくらいからじわじわと増加傾向に転じていて、現在は1年前と比べて倍以上の利用者数になっています。

10月、11月に増加率が高いのは、予算立ての説明資料の作成に使用してみないかと庁内報を出した効果が出ていて、それ以降に定着が進んでいます。

(ChatGPT導入から2025年5月までの利用者数推移 出典:横須賀市)

 ―試験導入から本格運用まではどのようなステップがありましたか?

一部からではなく、最初から全庁導入に踏み出しました。全員に配布したら、良い反応と効果が出ると予想ができていたので、4月下旬に試験導入しましたが6月には本格稼働させました。

一般的な試験導入は「役に立つか」と「費用対効果」を検証するために行いますが、横須賀市ではツールを内製しているので、文字数の従量課金のみで運用開始ができてコストが大幅に抑えられました。全庁使用でも当時は数万円程度だったので費用対効果がハードルにならず、ミニマムなコストで始められたことが大きいです。

 ―職員のリテラシー向上や教育、反発や戸惑いはありましたか?

「使いたい人が使えばよい」というスタンスで導入したので、反発などはありませんでした。もしも使うことを強要していたら反発もあったかもしれないです。仮に「高い金額で導入したからには使え」とトップダウンのような形で言われると定着しなかったかもしれません。じわじわ使っていって、「便利だな」と思ったら本格的に使ってもらうスタンスが良かったのかもしれません。

 リテラシーの向上については重要な点だと捉えています。定期的な庁内報で使い方の良し悪しを伝えています。

 リテラシーについては、「AIだから守らなくてはならないこと」と、「インターネットだから守らなくてはならないこと」の二段階あると考えています。例えば、「自治体職員は個人情報をインターネットで入力しない」ルールを順守しているので、これらのルールと同様ですと説明しています。一方で、AIだから守らなくてはならないこととしては「判断を任せない」という点を伝えています。職員からの問い合わせの際や、使い方の相談の際には最終判断をAIに任せないようリマインドを徹底しています。

 ―導入して初めて見えた“想定外のメリット”や“苦労した点”はありますか?

想定外のメリットは、こういったツールに明るく、前向きな職員が庁内に結構いることが分かったことです。DXを推進していくうえで前向きな職員がいることはとても大きなメリットだと思います。自分たちの味方だと感じられるアーリーアダプターと一緒に進められることがDX推進には重要だと思います。

苦労した点は、AI技術の進歩スピードが速くて、変化を追うのが大変な点ぐらいです。

 ―生成AIの利活用を発展させていくうえで、他自治体とどのような情報連携をしていますか?

2023年8月から「自治体AI活用マガジン」という情報交換と情報発信のWebサイトを運営していて、24の自治体が参加しており、すでに120本以上の記事が掲載されています。当初の参加自治体は横須賀市から声をかけて参加してもらいましたが、その後もじわじわと増えてきています。これ以外にも自治体間のチャットツールにて情報交換も行っています。

 ―今後の目標、理想などがあれば教えてください

2024年に市長の記者会見を英語化して、アバターが話すという取り組みを開始しました。英語話者が住民に多いので、記者会見の内容をそういった方々に伝えられるように始めたものです。この取り組みのように、住民が受け取りたいメディア形式や言語で情報を受け取れるようにすることは重要です。将来的にはより幅を広げて、取り組みを充実させていきたいと考えています。

また、自治体職員では一人親方のような業務も多いので、ナレッジ引継ぎの為のAIなども検討したいです。引継ぎが負担の大きい作業の為、なんとか負担軽減をして、本来の業務に時間を使ってほしいと思います。知識と経験の蓄積が大きな財産となります。

 ―AI導入を検討されている自治体の方へアドバイスがあればお願いします。

今トップダウンでAI導入を強行することはお勧めしません。AIなどの進歩はめまぐるしくて、半年後には全く別物になっていますので、あわてて導入しても損してしまうかもしれないです。高いコストを払って無理に導入するよりは、少し待っていればもっと便利でコストを抑えたAIがきっと出てきます。下調べに時間を使い、良いAIが出た時にすぐに動けるように準備を進めた方が良いと思います。特に「AI導入」自体が目的にならないよう、注意した方がいいと思います。

 また、AIにはインプットが必要不可欠で、いまいちなインプットからはいまいちなアウトプットしか出てきません。これから導入するなら、あわててツールを導入するよりも、その時に向けて暗黙知の形式知化やデータ整理・収集など、きれいなデータを準備することが大事になってきます。

 トランスフォーメーション、業務改善を目的としたAIの受け入れ態勢をしっかり整えることが今一番重要だと思います。

 ―最後に、横須賀市のDX化における強みとは何ですか?

手段と目的を分けて取り組み、前向きにスピード感を持って、前例のないことを気にしないことです。