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「予算ゼロから始める生成AI」で組織文化をアップデート。神奈川県茅ヶ崎市のリアルな手応え[インタビュー]

「予算ゼロから始める生成AI」で組織文化をアップデート。神奈川県茅ヶ崎市のリアルな手応え[インタビュー]

茅ヶ崎市役所 企画政策部デジタル推進課の足立悠さん(左)、青木菜々美さん(右)

予算はつかず、専門知識を持つ職員もいない。茅ヶ崎市の生成AI導入向けた取り組みは、最初から順風満帆だったわけではない。「本当に業務で使えるのか」という疑問が庁内には根強くあった。それでも一歩ずつ活用を広げ、職員の意識を変えながら、組織に新たな風を吹かせつつある。茅ヶ崎市役所 企画政策部デジタル推進課の足立悠さん、青木菜々美さんに、その道筋を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)

外部発信が内部を動かす

茅ヶ崎市で生成AI導入の検討が始まったのは2023年度のこと。しかし当時は生成AIの可能性をうまく伝えることができず、予算化には至らなかった。

足立さんは当時を振り返り、「生成AIを使えば職員の負担を確実に減らせるという確信はありましたが、実際にどれほど効果が出るかを数字で示すのが難しかったですね」と語る。翌年度も事業化にはいたらなかった。そんな状況を打開したのが、株式会社アナザーワークスが展開する「複業クラウド(人材・求人検索のマッチングプラットフォーム)」を通して出会ったSDT株式会社 森篤史氏の存在だ。

「庁内に生成AIに関する専門知識を持つ人がいなかったので、第三者の視点で“何ができるか”を整理してもらう意義は非常に大きかった」と足立さん。森氏は生成AI 導入支援パートナーとして茅ヶ崎市の“伴走者”になり、プロボノで導入から活用に至るさまざまなアドバイスを行った(2025年度以降は業務委託で活動を継続)。

note第1回目のサムネイル

森氏が強く助言したのが「外部への発信」だ。取り組みが可視化されることで、庁内外の理解を得やすくなる。そこで茅ヶ崎市は生成AI活用の様子をnote(オンラインメディアプラットフォーム)で発信。発信のテーマとして「予算ゼロから始める生成AI」を掲げた。

さらに横須賀市が運営するnoteの自治体生成AIまとめページにも参加。こうした発信によって職員にもデジタル推進課の方向性が認知され、「他の自治体も動いている」という実感を持ち始めたという。

職員の“心理的な壁”と向き合う

生成AI活用を進めるうえで、最も大きかった課題の一つが“心理的ハードル”だ。
「AIに任せるのはズルなのでは?」
「間違った情報が出てきたらどうするのか?」

「使うことで逆に手間は増えないのか?」
こうした不安が庁内には根強く存在していた。

青木さんは「生成AIに慣れていない人が初めて触れると、どうしても“怖さ”が勝ってしまいます。そのため、まずは“使ってみてもいいんだ”と思える空気づくりが必要でした」と話す。

生成AI勉強会の様子

そこで有効だったのが、森氏やデジタル推進課職員による勉強会や個別相談会だ。勉強会は希望者を集って開催、毎回40名ほどが参加しており、関心度の高さが感じられるという。また、部下だけが使っているという状況にならないよう、管理職向けの研修も実施。「管理職が理解してくれると“現場で使ってもいい”という安心感につながります」(青木さん)

利用者が非利用者を上回る

庁内の生成AI活用状況アンケートより「業務の中で一度でも生成AIツールを利用したことはありますか?」

取り組みの成果が数値として現れたのが、2025年10月に実施した庁内アンケートだ。「利用した」と答えた職員が「利用していない」を初めて上回り、青木さんは「ここが大きな転機でした」と打ち明ける。

活用用途としては文書校正、メール文の添削、アイデアの壁打ちなどが中心。「特に0から1を生み出す企画の部分で、かなり使われている様子が見られるのはうれしいですね。これから職員数減は避けられませんので、時間を有効に使うという点でも意味があると思っています」(足立さん)

考える時間を減らすのではなく、一人で孤独に悩む時間を減らす。どんどん壁打ちをして案を出し、すぐに議論に入れるようにするのが理想だ。

また、アクティブユーザーに限ってだが「生成AIとともに仕事をする」という行動が定着しつつあり、足立さんも「この変化は本当に大きい」と手応えを語る。例えば、検索エンジンで情報を探すよりも、生成AIに要点をまとめてもらう方が圧倒的に速い。忙しい職員にとっては“作業の入口”を整えてくれる存在になっている。

利用者が増えるにつれ、問い合わせも増加。デジタル推進課にとっては嬉しい悲鳴だ。

プロンプトはシンプルさを意識

茅ヶ崎市生成AIガイドブックより

茅ヶ崎市が力を入れたもう一つの取り組みが、庁内向けの生成AIガイドブックだ。
こだわったのは「生成AIを誰にでも使いやすいものにすること」。

「高度なプロンプト技術を身につけるというより、職員が“話しかけるように書ける”ものにしたかった」と青木さん。シンプルな事例を多く紹介しているので、ぜひ見て欲しいと続ける(市の公式ホームページから閲覧可能)。

日常的に生成AIを触ったことがない、まだ抵抗感があるといった人に寄り添った視点は、現場から自然に広がる仕組みづくりの核心でもある。「生成AIで何かすごいことをやらなくては」とハードルを上げることなく、初心者でも迷わず使える気軽さを提示している。

生成AIを頼もしい同僚に

茅ヶ崎市のシンボル サザンC

前述したように、足立さん曰く「生成AIは職員の考える力を奪う存在ではなく、悩んでいる時間を短縮し、“議論や判断”といった本質的な業務に集中させてくれる」ものだ。生成AI導入の目的は、あくまで行政の質を高め、市民に還元すること。生成AI導入を単なる技術活用に留めず、組織文化の活性化につなげようとする茅ヶ崎市の歩みは、その実現に向けた着実な一歩といえるだろう。

優良事例を共有すべく、勉強会実施後には事後報告会を行う。講師を務める森氏やデジタル推進課職員だけでなく、福祉・企画・財政部門などさまざまな場所で使えることを伝えるため、参加者から発表者を選定し、発表してもらっている。

勉強会や報告会に参加した職員がそれぞれの課に持ち帰り、大使として広めてくれれば、劇的ではなくても、緩やかに確実に浸透していくと信じている。

今後は有料版も視野に入れつつ、「職員全体の何割が使用という目標ではなく、週1回から2回へ、2回から毎日へと、日々使われるパーセンテージを増やしていきたい」と青木さん。人のマインドを真摯に丁寧に変えていく姿勢は一貫している。