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職員数が半減しても機能する自治体へ。福岡県北九州市の生成AI活用戦略と実装へのロードマップ[インタビュー]

職員数が半減しても機能する自治体へ。福岡県北九州市の生成AI活用戦略と実装へのロードマップ[インタビュー]

北九州市 政策局 DX・AI戦略室 DX推進係長の髙塚靖彦さん

人口減少と行政需要の複雑化が進む中、自治体は限られた人員で質の高い行政サービスを維持するための新たな手段を求められている。北九州市では、生成AIを中核とした業務改革を推進し、政策立案の高度化や業務効率化、市民サービスの向上に取り組んできた。特筆すべきは「DX・AI戦略室の設置」だ。ChatGPT Enterprise(法人向けのChatGPTで、最上位プランとされる)の導入をはじめ、北九州市が実践する先進的な生成AI活用の全体像を、北九州市 政策局 DX・AI戦略室 DX推進係長の髙塚靖彦さんに聞く。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)

市長の一声でDX・AI戦略室を設置

トップマネジメント層やDX変革リーダーはChatGPT Enterprise、全職員はQT-GenAIの利用が可能(北九州市資料より)

2040年問題に象徴される人口減少・少子高齢化により、自治体職員数が減っていくことは確実視されている。北九州市も例外ではない。職員数が従来より半減したとしても自治体機能を維持・向上していくには、近年進歩が著しいAI、とりわけ生成AIの活用が不可欠であるという認識から、2025年4月に「DX・AI戦略室」を新設。「政令指定市として初めて名称に『AI』を含む組織であり、全国でも課レベル以上で『AI』を冠するのは、把握している範囲で4自治体しかありません」と髙塚さんは言う。

DX・AI戦略室のミッションは、AI戦略の司令塔として最新技術と行政ニーズをつなぎ、新たな行政価値を創出することだ。

さらに同年7月の定例会見で市長が「AI活用推進都市」宣言を行い、全職員がAIを使いこなす「AI活用ナンバーワン都市」を目指す姿勢を示した。方向性として打ち出されたのは、

①政策形成と働き方の刷新に向けたAIの徹底活用

AIリテラシー・ガバナンスの向上やデータ整備など、AIの活用を支える仕組みづくり

③民間との連携によるAI活用の機運醸成およびノウハウの伝播・普及

の3点である。

KPI(重要業績評価指標)としては、2027年度までにAIによる社会課題など10件の解決、年間10万時間の業務削減、職員の生成AI利用率90%などが設定されている。

また同年8月にはOpenAIとの連携を開始し、ChatGPT Enterpriseの全庁的活用を発表。市長・副市長・局長級のトップ層、戦略立案担当者、DX変革リーダーなどを中心に利用を始めた。まずはトップダウンで利用を進め、政策立案を高度化・迅速化し、組織全体のAI活用の機運を引き上げることが狙いである。

具体的には、

・Deep Researchを活用した国内外の政策動向調査や分析、高度な推論モデルによる戦略策定支援やデータ分析

・高度AI人材を150人以上育成

・AIエージェントなどの機能を積極的に活用

といった取り組みを掲げている。

業務特化型のAIが活躍

北九州市における生成AI活用の流れ(北九州市資料より)

現状、ChatGPT Enterpriseを使えるのはトップマネジメント層などの一部の職員に限られているが、全職員向けには「QT-GenAI」という生成AI環境を刷新し、広く使える環境を整えている。

北九州市の生成AI活用の流れを見ると、2022年11月のChatGPT登場以降、数か月でワーキンググループ立ち上げ、ガイドライン策定、無料版(Microsoft Copilot)導入、AI市長秘書官・AI会計室・AI提案箱などのPoC(Proof of Concept=実証実験)を着実に進め、2024年度の全庁展開(PoC)・庁内RAG(検索拡張生成)環境整備を経て、2025年度よりQT-GenAIの全庁展開に至った。

AI市長秘書官およびAI会計室も汎用RAG環境に移行し、順調にアップデートしている。

「AI市長秘書官は、本当に市長がしゃべりそうなことを言うAI。過去の挨拶文、定例記者会見の内容などにより市長のペルソナを作成し、プロンプトに組み込むことで実現しました」

AI会計室は、複雑かつ工程が膨大な会計事務に関する問い合わせに、職員の代わりに回答するAI。最新モデル導入により正答率が9割近くまで向上し、AI活用の実務上の有効性が高まっている。

生成AIとの接点を増やす

2025年度の利用進捗(北九州市資料より)

順調に推移してきたように見えるが、2024年度の利用率は芳しくなかった。「とにかく生成AIの存在を認識してもらい、どんどん使ってもらおうと、2025年度には年間30回・延べ2,000人規模の研修を実施しました」

生成AIエバンジェリストとして民間で活躍する横山和史氏が総務省の地域活性化起業人制度を活用し、月半分ほどの割合で市役所に常駐して教育に力を入れているほか、市長・幹部職員向けAI勉強会に日本ディープラーニング協会理事の岡田陽介氏、北九州市のDX人材育成プロジェクトにおける最高ランク「DX戦略人材」向けの研修には生成AIインフルエンサーKEITO氏と、それぞれ外部有識者を招いた研修も実施。その結果、ほぼ全課で生成AI利用が進み、特に企画立案や文章作成業務の多い部門で活用が広がっている。

また、「QT-GenAI」リリースのタイミングで職員向けAIポータルサイトを公開し、生成AI通信を掲載。毎月1回発行の継続も、利用拡大に寄与している。

さまざまな取り組みが功を奏しているが、ベースとして「市長がAI活用推進都市の宣言をしたことで、自分も使わねばという雰囲気が高まったことは間違いない」と髙塚さんは話す。そして、市長・幹部にフォーカスした研修により「トップが可能性に気づいて利用に発破をかけてくれたのは、非常にありがたかった」と続ける。

市民向けの取り組み

一方、市民向けの生成AI活用については、ハルシネーション(生成AIが事実にそぐわない情報を作り出してしまう現象)の懸念からいきなり本格導入はせず、小規模での電話案内などの実証から始めている。

市民ニーズの多様化に伴い、市役所に寄せられる相談にはよりきめ細かな対応や支援が求められている。相談記録の作成にも時間と労力を要するが、職員は多忙。「この部分をAIの力でなんとか解決できないかと考えています」

相談に関連する確認事項をAIに質問すると、膨大な法令や資料から必要な情報を選択・提示してくれるため、迅速で的確な回答ができる。また、リアルタイムの文字起こし、自動での要約も可能だ。空き家相談を例に挙げると、通常、相談記録作成に1件30分を要するものが、AI利用後は1件5分に短縮できた。実証期間中の1か月間では、21件の相談があり、月に9時間ほどの削減を実現した。

また、市民課では月に3,400件ほどの電話を受けるが、そのうち約半数がマイナンバーカードに関する問い合わせだという。AIエージェントによる自動応答を取り入れ、AIが回答できない場合のみ職員に転送する形をトライアルしている。

アンケート結果からは、AIエージェントの回答でも分かりやすかったとのポジティブな反応が多いという。「ただ、レスポンスが遅いという不満も若干数ありますので、最新の生成AIのモデルを検討しつつ、来年には解決したいと思っています」

将来的には、24時間対応の生成AI窓口サービスなど、高度な市民サービスを本格実装する構想だ。

限りなく完成形を目指して

生成AI活用に際して、髙塚さんが主に伝えている注意事項は2つ。

・生成AIはクローズドな環境ではないので個人情報は入れない。

・ハルシネーションの可能性を忘れず、必ずファクトチェックをする。

AIは驚くほどの速さで進歩を遂げていく。情報収集を怠らず、現場に落とし込むためのノウハウを蓄積していきたい、と髙塚さん。「適切に使えば職員の負担は本当に軽減されます。定型的な業務はAIに委ね、職員が人にしかできないことに注力すれば、市民サービスの質がさらに向上すると信じています」

確かな手応えをもとに、今後も積極的な実証を通して、より良いものを目指したいと締め括った。