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「生成AIは検索エンジンではない」 長野県上田市の生成AI活用への道のり[インタビュー]

「生成AIは検索エンジンではない」 長野県上田市の生成AI活用への道のり[インタビュー]

上田市 総務部 情報システム課の村田大介さん

上田市では、2024年4月より生成AIの本格利用を開始。約1年半が経過し、現在では庁内約7割の課に導入され(2025年10月時点)、何らかの形で利用されているという。どうすればより良く使ってもらえるのか。日々模索しながらサポートを続ける総務部 情報システム課の村田大介さんに、活用のために大切なことは何か伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)

使えるツールと理解してもらう

上田市役所外観

村田さんが生成AIに向き合い始めたのは、2023年の4月末から。直属の上司だった当時の総務部長から打診されたのがきっかけだったという。「組織として腰を入れて取り組むというより『ちょっと調べてみてくれない?』という軽い感じでしたね」と振り返るが、結果的に導入に向けた好機になった。

まずは生成AIに関する情報収集からスタート。すぐに大きなうねりになっていると感じ、横須賀市などの先行自治体から民間の事例まで、急ピッチで集めたと話す。その上で、生成AIはデータを学習すること、インターネット接続が大前提であることなどから、市役所で使うのは難しいと報告した。

しかしその後も調査を続けたところ、LGWAN(エルジーワン=総合行政ネットワーク)で動く生成AIの出現を目にし、庁内に入れる方向で進めていく。

2023年7月末ごろからトライアルを始めたが、生成AIの回答の精度が思うように伸びなかった。「今になれば原因がプロンプト(生成AIへの指示文)だったと分かるのですが、当時は掴めませんでした」

期待する回答が得られなければ、“使えないもの”と判断されてしまう。やりようによっていかに使えるツールとなるか、納得してもらうまで苦労したという。

徐々に手応えを感じられるまで、半年以上が経過。2024年に入ると、本格的に使えそうだと認識してくれる職員も出てきた。2025年10月時点での利用数は、トライアル時期と比べると30倍以上に増えている。

生成AIは“物知りな新人職員”

2024年の研修の様子

使用例として一番効果が見られているのが、挨拶文をはじめとする文書のたたき台作成だ。「最初のワンステップを考えるのが大変なので、そこさえ作ってもらえれば後は人力で調整できます。そのほか壁打ちや相談相手として活用している職員もいます」

研修の中で、生成AIは“物知りな新人職員”のような位置付けと伝えている。役目を与えれば確実にこなしてくれるイメージだ。業務上の仮想ディベートを行ったり、疑問点を投げかけて解決策を提示させたり、頭の中を整理するためにも使えるのだという。

また、特徴的なのが公文書館のデータ整理だ。日々の業務ではないが、市の昔の書類の目録整理・校正など、一回使い始めると量は多い。相談を受けて対応した部署の一つでもある。

消防での使用履歴も興味深い。「本部の一部署から始まり、本部内の各部署へ横展開が見られました。おそらくエクセルのマクロや、データ整理のスクリプトを作成、また文書要約・脚注の作成などにAIを活用しているのでしょう」と村田さんは推測する。

職員の期待値を上げていく

2025年の研修の様子

研修は募集形式だが、すぐに希望者で埋まる人気だ。昨年は20名しか収容できない会場で実施したため、今年はその反省を生かし、講堂を借りて40名を集めた。プロンプトの工夫、画像や動画を作る際の留意点(著作権の問題含む)など、レベルに関係なく応募してくる職員の“知りたい”熱量は高い。

「職員の意識が少しずつ変わり経験者が増えてきた中に、学生時代すでに使ってきた新人職員が加わって、底上げされているのかなという感触です。とはいえ、使いこなしているのは20から30%くらいでしょうか。もっと研修の回数を増やさねばと思っています」

村田さんの懸念は、使えないというレッテルを貼っている職員がまだ少なくないこと。「検索ツールと混同しているのでしょう。Googleのような使い方とは違うと、まずは知ってもらう必要があります。研修ではプロンプトの打ち方だけではなく、生成AIが回答を作る仕組みから説明します」

一方で、導入した生成AIプラットフォーム「自治体AI zevo」には新しいモデルが早いサイクルで入ってくるため、ついていくにはプロンプトの作成技術向上も必須だと力を込める。

使いやすいプラットフォームを模索

上田市役所エントランス

これから先、人口減少社会を控え、市役所の職員数が増えることはないが、ニーズの多様化により一人がこなさねばならない仕事量は増えていく。そして今よりもさらに、個々にきめ細やかな対応が求められるようになる。その負担を解決する一つのツールが生成AIであると、村田さんは認識している。「たくさんあるツールの一つでしかないですが、ひょっとしたらさまざまなツールの中で最もつぶしが効くかもしれません」

今後の可能性について尋ねると、「データ解析に使えるのでは」との答えが返ってきた。自治体である以上、説明可能な根拠に基づいていなければならない。村田さんは、データの取り扱いや単純整理はAIに任せて、最後に人がジャッジするという流れに持ってきたいという。

職員からの声に心折れることもあるが、「文字数制限をなんとかして欲しい」「ChatGPT、Claude(クロード)、Google Gemini(ジェミニ)の使い分けができない」など、使っているからこそ出てくる要望が多いのが救いだ。

一方、情報の不確実性やハルシネーション(生成AIが事実にそぐわない情報を作り出してしまう現象)は、職員の不安要素。「繰り返しになりますが、生成AIはあくまで新人みたいなもの。新人のやったことは上司や先輩がちゃんと見なければならないと伝えています」

自治体AI zevoのプランは、状況を見ながら月単位でこまめに契約を更新し、職員に使ってもらいやすいプラットフォームになっているか心を配る。

また、生成AIの技術的進化に期待しつつ、進化スピードに取り残されないように「使う側のレベルアップもしていかねば」と強調する。一人ひとりの能力が上がれば上がるほど、何かしらの業務が楽になったという声が聞こえてくるからだ。

管理職の利用率も少しずつ上昇

noteの生成AI活用コラム

ユーザーアカウントは、情報システム課に利用希望を申し出た人に発行。2025年10月、初めて部長級の職員から申請があったと喜ぶ。「課長級以上の使用率は2割弱ほど。それでも少しずつ話をもらえるようになりました。管理職からのリアクションがもう一押しあれば、管理職向けの研修も実施したいと考えています」

ここまで来るまで、それなりに時間がかかった。しかし、村田さんが蒔いた種は確実に芽吹いている。note(オンラインメディアプラットフォーム)には生成AI活用コラムを定期的に投稿。運用管理側の視点からの試行錯誤が伝わってくる。noteへの反応上昇に呼応するように、職員の利用も2025年8月から10月くらいにかけて急激に上がった(消費トークン=生成AIが処理したテキスト量が1,000万を突破)。自身の知識や技術も研鑽しつつ、村田さんの奮闘は続く。