35の行動計画を強力に推し進めてきた静岡県小山町の現在地[インタビュー]
小山町 企画政策課 課長補佐の米山仁さん
小山町では2022年3月に「小山町デジタル・トランスフォーメーション(DX)ガイドライン」を策定。「町民視点のサービスデザイン」「デジタルによる持続可能なまちづくり」「デジタル・デフォルトなスマート行政」の実現に向けて全35の行動計画を掲げ、動き始めた。翌2023年3月には、このガイドラインに基づく町のDX推進に必要な人材像や人材育成を体系的に定めた「小山町デジタル・トランスフォーメーション(DX)人材育成基本方針」を発表。取り組みをさらに加速させている。小山町 企画政策課 課長補佐の米山仁さんは、どれほどの手応えを感じているのか。
(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)
コロナ禍で痛感したデジタルによる広報手段

「小山町デジタル・トランスフォーメーション(DX)ガイドライン」には、コロナ禍が大きく影響したと言っていい。全ての事業をストップせざるを得ない中、何か企画して動かしていかねばとの思いで作成に至ったと、米山さんは話す。国から指針が提示され、現在の協力企業であるトランスコスモス株式会社(以下トランスコスモス)から声がかかったタイミングでもあった。企画部門で以前から続けていた県との人材交流で、知見のある県職員が配属されていたことも後押しになったという。「町の状況をヒアリングし、課題を丁寧に吸い上げてくれました。おかげでコンサルに頼ることなく作り上げることができました」(米山さん)
コロナ禍で露呈した課題の一つが、広報手段だ。それまでは、同報無線(屋外放送および各家庭に受信機設置)と広報誌による通達がメイン。またホームページはあるものの、掲載してもなかなか伝わらないという状況で、ワクチン接種などタイムリーな案内には限界があったと米山さんは振り返る。ガラパゴス携帯を使い続けている高齢者も多く、デジタルデバイドを解消していかねばとの機運も高まっていた。
35におよぶ行動計画すべてに着手
「小山町デジタル・トランスフォーメーション(DX)ガイドライン」は、2026年度までの期間を設けている。進捗度合いに差はあるものの、2025年8月時点で35項目すべてが進んでいるという。「とにかくできるところからスタートし、最初の2年間で強力に推し進めました。種をまいて、少しずつでも事業化していきたいと思ったのです」(米山さん)
集中的に研修やワークショップを実施したことで、職員の間にやっていかねばという共通認識がしっかりと根付いた。

特に進捗が顕著なのは以下の項目だ。
- 町民サービスのスマート化
「完璧とまでは言えないものの、なんとか及第点までは取り組めている」と米山さん。行政手続等のオンライン化推進は、昨年2024年度に構築。公金キャッシュレス決済の推進は2023年度までにほぼ完了した。窓口サービスのスマート化については、今年2025年度に書かない窓口を導入。

- 情報発信の個別最適化
LINEの登録者数は町民以外も含まれるものの順調に伸びており、2025年8月時点で約6000人に上る。広報活動における重要な手段の一つになってきているという。リーチに課題があったホームページはリニューアルを決定、旧サイトからの移行作業を始めたところだ。
- デジタルデバイドの解消
小山町にはスマートフォン販売店がないため、町が定期的にスマートフォン教室を開催している。「高齢者の方々の意識にも変化があったように感じています。最近ではみなさん抵抗感なく使用され、お孫さんやご友人とLINEでやり取りしたいと参加される方が多いですね」(米山さん)
- 学校教育のスマート化
GIGAスクール構想(文部科学省が2019年に発表)の1年前から、1人1端末を実現。昨年2024年度に更新を行なった。その際浮き彫りになった課題が、先生や生徒が家に持ち帰って作業するには対策が不十分であること、先生には学習用と事務用2台が必要であるということなどだ。これらを解消するとともに、情報端末からシステムの全体の維持管理を外部委託した。「端末の管理、セキュリティ対策、不具合への対応、ソフトの活用など、多くの面で手厚い支援ができるようになりました。子どもたちに気持ちよく使ってもらえるだけでなく、先生方の負担も、町職員の負担も大きく軽減しました」(米山さん)
- こども園のスマート化
CoDMON(コドモン/保育・教育施設向けICTシステム)を町内全3園に導入。
リーダーの参加が事業化のターニングポイントに

順調に見えるが、難しい面ももちろんあった。指名研修には出席しても、手上げ方式で募集すると人が集まらない。実際に事業化したり、新しいアプリを入れたりする際に生じる、担当部署への負荷や、思っていたものと異なるという違和感なども少なくなかった。
リーダーの旗振りもポイントだったと、米山さんは話す。
しかし、2023年に就任した町長がマニフェストでDX推進をはっきり掲げたことで、急速に事業化が進んだ。「やはりリーダーにも参加してもらわないと、いくら人材育成をして種をまいても、花が咲いて実になるところまでいかないでしょう」(米山さん)
町長の就任後には、CDO(チーフデジタルオフィサー)を非常勤特別職(参与)で任用。企画立案に関わってもらっているほか、DXの考え方やトレンドを管理職へレクチャーしてもらうこともあるという。
ガイドラインや人材育成基本方針が果たした役割

ファイルサーバーをいち早く導入するなど、年代問わずデジタルへの苦手意識が比較的少なかった小山町。管理職の理解や、ふるさと納税による財源の余裕もあり、もともと基盤は整っていたという。「それでも、コロナ禍で国の姿勢が大きく変換したことや、デジタルは必須であるということを改めて伝える機会として、ガイドラインや人材育成基本方針を明確に打ち出して取り組んでいったのは、非常に有意義だったと感じています」と米山さん。
町の規模は小さく、職員は200名ほど。また、各人が同じ部署に長くいるわけではない。「ITパスポートを取得するようなスペシャリストを作るというより、デジタルに長けた人たちを中心にしながら、これからも全員に必要性を考えてもらいたいと思っています」と続ける。
とはいえ、技術的に若い世代の吸収率は高く、LoGo(ロゴ)フォームはかなりの活用率だという。
現場と事業者間の翻訳者を目指す

今後は、巷にあふれるさまざまなシステムやサービスを適切に選別し、誰が、どう運用していくかを見極めていく必要がある。これまでも色々とトライアンドエラーを繰り返してきたという米山さんだが、「大胆にやる必要はありますが、小規模な自治体は慎重にならないと、無駄なお金を使ってしまうと身を持って学びました。できる限りファーストユーザーにはなるまいと肝に銘じています」と悔恨する。
また、現在進行中の標準化もそうだが、法改正の場合には改修が必要になる。情報システムの担当者は、2025年度より1名から2名体制にしたものの、それだけでは足りない。「システムエンジニアまで行かなくても、IT用語やシステムの仕組み、情報セキュリティについて分かる人を育てていかなければなりません。をまた、職員が『良くなった』という改善感を得られないとデジタル利用は進みません。導入した後の支援、必要に応じた改善は不可欠です」(米山さん)
行政の体制や仕事を理解しているかどうかも、大きなウエイトを占める。「システムやICT企業の方が言っていることをうまく翻訳して現場に伝えられるかどうかが大事な気がしますね。また、外部人材も活用しないと、職員の育成だけではデジタルの進歩にはとても追いつきません。行政という、非常に閉鎖的かつ特殊な世界のことを知りつつ、伴走していただける人が求められると思います」(米山さん)
米山さんは総合計画も担っており、生産年齢人口の減少を危惧する。「5年後、10年後に、同じ職員数を確保できなくなるのは明白。そんな中、ますます重要になっていく高齢者対応などに人を割くためには、できるところからデジタルへ移行していくしかありません」(米山さん)
5年以内のデジタルスタンダードを目標に、まずは2026年度のガイドラインや人材育成基本方針設定期間終了まで、力を尽くす意向だ。