子育て関連のDXが保護者、自治体、医療機関を救う―『子育てDX』によって実現する世界[インタビュー]

子育て関連のDXが保護者、自治体、医療機関を救う―『子育てDX』によって実現する世界[インタビュー]


母子手帳アプリ『母子モ』を提供する母子モ株式会社。現在では590以上の自治体が『母子モ』を活用しており(2023年11月時点)、年間約100自治体のペースで導入が進んでいる。


そんな同社では2020年6月、自治体の子育て事業のDX化を支援するサービスとして『子育てDX®』をスタートさせている。本サービスの真価について、母子モ株式会社 取締役 帆足 和広氏にお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 渡辺龍)


保護者、自治体、医療機関での煩雑な作業を一挙に解決

―『子育てDX』の「小児予防接種サービス」について概要をお教えください

自治体の子育て関連事業デジタル化サービス『子育てDX』の「小児予防接種サービス」では保護者は今まで通り『母子モ』のアプリを使っていただき、自治体や医療機関は『子育てDX』のツールを使っていただきます。従来の『母子モ』では自治体と保護者の二者だけが繋がっていましたが、そこに、実際に接種を行う医療機関も加わり、三者が繋がるクラウドサービスになっています。また、『母子モ』が保護者やお子様の年齢や性別などの属性情報を元に情報配信などのサービスを提供しているのに対し、「小児予防接種サービス」は保護者、お子様の個人を特定できる形でサービスを行っているという部分も大きな特徴になります。この2つの違いを軸にクラウドサービスで繋ぐことで、保護者、自治体、医療機関の手続きの手間を削減することが可能となっています。


―これまで保護者、自治体、医療機関では三者三様の課題があったのでしょうか

小児予防接種のサービスを例にすると、現在、予防接種は10種類30本以上受ける必要があるのですが、保護者にとっては1つ1つの接種間隔のチェック、スケジューリングが非常に煩雑になっています。また、1日に最大6本まで同時接種が可能なものの、そのたびに予診票の紙を記入する必要があり、6本接種する場合には6枚同じような内容を書かなくてはなりません。

医療機関についても保護者同様スケジュール管理は重要で、予診票を確認し、ワクチンごとの接種期間、前回からの接種間隔による接種判定を誤ると医療上の事故になってしまいます。そのためダブルチェック、トリプルチェックが必要となります。さらにそれを台帳に残した上で請求という形で自治体に送付するなど、事務作業に多く時間を取られています。

そして自治体では国のデジタル化の方針を受け、これまで紙で運用してきた様々な情報をデータ化する必要に迫られています。『母子モ』を通じて小児予防接種に関わる手続きをデジタル化することで三者それぞれの作業や業務負担を簡便にできるのが『子育てDX』「小児予防接種サービス」の大きな特徴になっています。


―それらの課題は『子育てDX』でどのように解決されるのでしょうか

例えば保護者が「この日に3本のワクチンを接種する」とスケジューリングすると、予診票入力画面に進みます。その画面では3つのワクチンの予診票が全て集約され、同じ項目は1つにまとまった形で表示されます。もちろん氏名、住所などは1回1回入力する必要はありません。この作業を終えると一旦クラウドにデータが保存されます。

次に、実際に予防接種をする際には、医療機関に置いてあるQRコードを『母子モ』で読み込むことで、事前入力した内容が医療機関側で閲覧できます。医療機関ではデータを基に接種間隔のチェックが自動で行われ、間隔にエラーがある場合はアラート表示もされます。問診項目に関しても、確認が必要な箇所はハイライト表示されるなど、非常にチェックがしやすい形でご提供しています。また、接種実績の入力に関しても最小項目でできるようにしておりますので負担も少ないです。ここで入力した内容はリアルタイムでデータ化され、保護者はアプリ上で、自治体はシステム上ですぐに確認でき、紙の送付や転記などの手間も省けます。さらに月末月初での請求書情報もそのままデジタルで集計したものを送ることができるので、医療機関や自治体でのデータ入力の手間もなくなります。

資料提供:母子モ株式会社



市原市、北九州市など各地で進む導入

―実際に導入している自治体や利用している医療機関などからはどのような反響がありますか

千葉県市原市様には、2021年11月からすでに2年ほど使っていただいております。市内の小児予防接種の半数ほどをカバーしており、導入いただいている医療機関では、保護者の約8割が紙の予診票ではなくデジタル予診票を選んでくださっています。

医療機関では導入の際、デジタル化への懸念もあったのですが、実際に使っていただいた結果として、「接種間隔のチェックが3分から数秒に短縮された」、「記入漏れのチェックや請求が最終日にまとめてできるようになった」、「各種チェック作業でこれまでヒューマンエラーが心配だったが安心できるようになった」などのお声をいただいております。


―連携先の医療機関を探す業務は自治体側、母子モ側どちらで推進しているのでしょうか

この部分は双方で進めています。自治体の事情によっては、一挙に導入医療機関を増やせない場合や、逆に全て連携したいといった要望もあります。その辺りは自治体、医療機関双方の負担が少ない形で導入までを調整しています。先ほどの市原市様では小児予防接種に対応している医療機関が50ほどある中で、現在約15施設に導入されています。(2023年10月時点)自治体の中の10~20%ほどの医療機関に導入いただければ、全体の予防接種の70~80%をカバーできる地域もあるので、接種量の多い医療機関から優先的に連携することで、大きくカバー率を上げることができます。


―最近は国の動きも活発ですが、そういったものは『子育てDX』の後押しとなっているのでしょうか

最近一気に導入が増えたケースとして、「伴走型相談支援」という国の施策に付随したものがあります。これは2023年1月から国が進めている支援で、妊娠届出時、妊娠8ヶ月目、出産後4ヶ月以内の3回、妊婦さんと面談をするというものになります。

妊娠届出時を例にとりますと先行的に福岡県北九州市様で進めていただいております。産婦人科で妊娠が判明したときに、まず『母子モ』の登録を産婦人科からご案内していただいています。そこで『母子モ』から事前に妊娠届出とアンケートの提出、面談の予約を行うと、自治体に情報が届きます。その後、紙の母子健康手帳交付時に健康センターなどに行っていただくのですが、自治体には既に情報が届いているので、妊婦さんの状況に応じて栄養士やソーシャルワーカーとの相談を設定するなど、事前に自治体側で準備をした上で十分な面談ができます。北九州市様では2022年度、年間6,000人ほど出生がある中で93.8%の方が『母子モ』を通じて妊娠届を提出しており、非常に高い利用率となっています。


データ活用の拡大により、一生涯でのサービス提供を視野に

―コロナ禍を経て、自治体側で子育てアプリに関する意識や取り組みの変化は感じますか

大きく変化していると感じています。2年前はコロナの影響で面談ができないため、デジタルツールの活用に迫られたという状況でした。現在では対面の面談が可能になっていますが、この2年間で業務をデジタル化する利便性に気が付き、住民サービスの質が上がるのであれば積極的に取り入れていきたいと考える自治体が増えてきました。おかげで当社の『子育てDX』サービスの導入も100自治体を超えてきたのではないかと見ています。(2023年10月時点)


―今後の新たなサービスの構想はありますか

『母子モ』の提供を開始してから8年ほど経っているので、今では利用者様のお子様も大きくなってきています。今後はお子様のデータを、例えば学校まで引き継ぐといった形で一生涯引き継げるヘルスケアデータなどに活用するために、どういった形で連携するのが良いかは構想の1つにあります。

さらに、情報を活用して支援の質を上げていくことも念頭に置いています。紙での予防接種実績は、医療機関、医師会などを経由して最終的に自治体へ届くのですが、紙を手作業でデータ化するとデータの把握までに3ヶ月から半年ほど要します。小児予防接種は0歳から1歳のときに打つ必要があるものが多いのですが、データが自治体に届くのが半年かかってしまうと、次の接種までに確認ができず状況把握が全く間に合っていない状態になります。小児予防接種サービスでは、予診内容と接種結果のデータを医療機関から自治体へ迅速に共有することができるため、自治体は予防接種後の保護者や子どもの状況確認をタイムリーに行え、リスクを早期に発見して支援に繋げていくなど、データの活用が大きな力を発揮する領域ではないかと思います。


―データ活用によって、今後さらに未来が広がってくるという印象です

我々が『子育てDX』というサービスを推進することで、今後さらにデータが大量に集まってくる環境を作れると考えています。将来的には、利用者の同意を得た上で、例えば研究の一環にデータを活用していただいたり、他の事業者さんがサービスを提供する際にも使っていただくなど、当社の事業だけではなく、お子様や業界全体を包括的にサポートすることが可能な世界が作れるのではないかと思っています。その辺りは我々としても最大限の支援をしていきたい部分です。