【シリーズ 医療MaaS】 MRT、MONET Technologies「オンデマンド医療MaaS」実証事業ー後編ー[インタビュー]

【シリーズ 医療MaaS】 MRT、MONET Technologies「オンデマンド医療MaaS」実証事業ー後編ー[インタビュー]

前編では「オンデマンド医療MaaS」実証実験についてMRT株式会社へ話を聞いた。本実証において重要な役割を果たす車両。これを提供するのがMONET Technologies株式会社だ。ソフトバンクやトヨタ自動車などが共同出資する同社は、モビリティの価値創造を通して地域課題の解決、地域活性化を図っていくという理念のもと、2019年2月に事業を開始した。同社は本メディアでも過去に紹介した伊那市「モバイルクリニック事業」や、浜松市で行われた「春野医療MaaSプロジェクト」にも参画した実績がある。事業推進部の加藤卓己氏(左)、川原正樹氏(右)へ話を聞いた。

(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)

参画の背景にある、医療MaaSプロジェクトをリードした経験

――「オンデマンド医療MaaS」実証実験にはどのような経緯で参画することになったのでしょうか?

川原氏:弊社とMRT様はいずれも三重広域連携スーパーシティ推進協議会に参画していました。MRT様は同協議会の医療ヘルスケア分科会で幹事を務めており、弊社の伊那市、浜松市での取組みをご存じでしたので、お声かけをいただいたという経緯がありました。

――実証実験ではMRTへ車両と配車システムの提供をされたと伺いました。それぞれどのような特徴を持つ製品でしょうか?

川原氏:MRT様へは「マルチタスク車両」をご提供しました。後席の取り外しや移動、テーブルの設置などを、工具を使わずに自由に行うことができる架装車両です。電源や照明、テーブルなどを装備し、さまざまな用途で活用することが可能です。室内レイアウトは容易に変更できるため、曜日や時間帯に合わせて1台の車両を使い分けることができます。

また、乗車予約や運行ルート管理、履歴管理などの機能を搭載している配車システムを提供し、今回の実証実験では主に運行ルート管理の機能を活用しました。当日に運行する患者様のご自宅を登録することで、自動で最適なルートを提案し、到着時間や発車時間を適切に管理することができます。

同社が今回の実証実験でMRTへ提供した車両。車内のテーブルやイスの位置を容易に変更できる。

――伊那市で行われている医療MaaSの取り組みと比較して違いはありましたか?

川原氏:伊那市も過疎化や高齢化の課題を抱える地域でしたが、一定程度の人口があり、内科診療所も30程度ありました。今回の実証地区である三重県6町は伊那市以上に深い山間地域にあたり、医療資源もより少ない状況でした。現地に訪問し、医師や患者の皆様のお話をお聞きし、医療アクセスについて多くの課題を抱えていることを肌で感じました。

プロジェクト体制にも違いがありました。伊那市ではMONET Technologiesが先頭に立ちプロジェクトを進めましたが、今回の実証実験ではMRT様が主幹の役割を担いました。MRT様は医療サービス事業者であり、小川社長も医師免許をお持ちです。小川社長が先頭に立つことで地元診療所の医師とも円滑にコミュニケーションが図れ、強い推進力にもつながったと感じています。

「住みたいまちに住み続ける」 MONET Technologiesが目指す社会

前編で紹介したMRTは医療プラットフォーム事業を展開する企業だった。現時点では中心的な事業は従来のサービスであり、医療MaaSは今後の注力領域という位置づけだろう。しかしMONET Technologiesはモビリティ事業に特化した企業だ。2021年6月にはシミックホールディングス株式会社と共同で医療MaaSに特化した事業開発プログラム「MONET LABO『医療』」の運営を開始するなど、医療は特に力を入れる領域の一つだ。医療MaaS領域のリーティングカンパニーはどのように現状を捉え、どのような展望を持っているのだろうか。

――どのような利用者や地域が医療MaaSに向いているのでしょうか?

加藤氏:現時点では、ご高齢で定期通院が必要な疾患を抱えている方、通院や訪問診療に苦労を抱えている方にご利用いただきたいと考えています。そうした医療課題は中山間地域において、より深刻です。一方で、長期的には特定の利用者や地域に限らず、広範に普及するとみています。東京などの都市部でも一部地域に専門医が不足するなど、医療資源は偏在しています。地域ごとのニーズをしっかり捉えていくことで、普及は加速するでしょう。

――普及に向けて、課題はありますか?

加藤氏:医療MaaS自体の受容性をいかに高めるかという点が重要です。現在、多くの企業、自治体様からご相談をいただいていますが、サービス立ち上げまでに至らないケースもあります。事業や実証実験の当事者のみならず、より広範に医療MaaSの存在を認知していただくことが普及のネックと言えるでしょう。MONET Technologiesとして深く携わった取り組みは伊那市、浜松市、三重県の3つとなりました。成功事例を増やすことで、医療に携わる皆様へ医療MaaSの価値や意義を知っていただけるよう努めたいと思います。

実務的には車両内での看護師業務の軽減が必要です。車両内からオンライン診療を実施するためには、看護師の方々が限られた空間で診療やシステムのサポートを行う必要があり、従来の看護業務以上に負荷がかかる可能性があります。将来的には医療プラットフォームとバイタル機器を連携して運用するなど、デジタル化を進めることで負荷軽減ができるでしょう。

――モビリティを活用することで医療はどのように変わっていくのでしょうか?
加藤氏:私の祖母は元々北海道に住んでおり、15年前から群馬県の長男の下で生活しています。高齢のため会話も拙くなってきていますが、それでも「北海道に帰りたい」と事あるごとに言います。そうした実体験を経て、住みたいまちに住み続けられることの大切さを感じました。

MONET Technologiesが実現したいのは世代や地域に限らず、すべての人々が病気になる前に医療にアクセスできる社会。早期発見、早期治療が実現する社会です。これからも理想を追求し、一層努めてまいります。