加賀市が先駆的に取り組むデジタル行政とは?!―IoT×人材育成×実証事業で目指すスマートシティ加賀―

加賀市が先駆的に取り組むデジタル行政とは?!―IoT×人材育成×実証事業で目指すスマートシティ加賀―

石川県加賀市は消滅可能性都市に選ばれたことを機に、IoT人材の育成や先進テクノロジーの導入、IoTにおける企業との実証事業などに取り組み始めた。同市の様々な領域でIoTを活用した事業に取り組む担当者の方々にお集まりいただき、お話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)

スマートシティ課 リーダー 園田 一氏
スマートシティ課 主査 松谷 俊宏氏
スマートシティ課 主査 中村 聡氏
加賀市教育委員会事務局 生涯学習課 主事 三嶋 章寿氏
農林水産課 課長補佐 東 由季氏
農林水産課 主事 清田 将太氏
(役職等は取材時点のもの)

人材育成と企業の実証実験の両輪で実行

―自己紹介をお願いいたします。

園田氏 加賀市のスマートシティ構想の企画を担当しております。また合わせて、市役所全体における企画調整も担当しております。

松谷氏 IoT関連の事業を主に担当しており、人材育成や実証事業を担当しています。

中村氏 加賀市が主催する「ロボレーブ」というロボットプラミング大会の運営業務などを行っております。

三嶋氏 生涯学習など、主に学校外の教育分野を主として担当しております。そのなかでも、加賀市が運営するコンピュータクラブハウス加賀の施設担当です。子どもの生涯学習推進を行っています。

東氏 IoTを使った農業の実証事業など、農業政策全般を担当しております。

清田氏 東と同じく農業政策係として、IoTを使ったぶどうの「ルビーロマン」の実証事業を担当しています。

 

―加賀市の特徴や、全国に先駆けてスマートシティに取り組まれている背景についてお聞かせください

園田氏 加賀市の人口は65,295人(2021年1月1日現在)。「山代」「山中」「片山津」といった全国有数の温泉地を有し、観光地としての特徴もありながら、製造業を基幹産業とし、伝統工芸、農業や漁業も盛んな地域です。

「何故、加賀市はスマートシティに取り組むことにしたのか」という背景については、加賀市が2014年に「消滅可能性都市」の1つに選ばれるなど、人口の減少や観光入込客の減少に厳しい現状が挙げられます。

※「消滅可能性都市」・・・2014年に日本創生会議が指摘した、2010年から2040年にかけて、20~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市町村。

そのなか、2016年度に「地方創生推進交付金」の採択を受け「スマート加賀IoT推進事業」をスタートさせ、IoT人材の育成や先進テクノロジーの導入により人材育成を行う取り組みを始めました。

また、加賀市としては人口減少を一番の課題として捉えていますが、単にIoT人材を育てるだけで市内での就職が難しいとなれば、その人材は外部に流出していくだけとなってしまいます。そこで、企業との間でイノベーション推進に関する連携協定を積極的に結ぶなど、加賀市内でのIoTの実証事業を推進しており、連携企業が市内で事業を立ち上げることで、地元で就職が出来る仕組みづくりにも取り組んでいます。

デジタル/プログラミング学習を積極的に推進

―加賀市では「コンピュータクラブハウス」を2019年に全国で初めて開設しましたが、これはどのような施設なのでしょうか。

三嶋氏 未来を担う子どもたちの育成を目的として、3Dプリンター、レーザー加工機、ドローン、VR機器など、最新のデジタル機材を用意しており、子どもたちにはこれらの機材を通じて、IoTやインターネットに対する心のハードルを下げるとともに、成功体験を積んでもらいたいと思います。

また、コンピュータクラブハウスに訪れる子どもたちの知識やモチベーションも様々で、何でも興味を持って自ら取り組む子どももいれば、自分が何をしたいか分からないけども来てみたという子どももいます。コンピュータクラブハウス加賀は、NPO法人みんなのコードに運営を委託しており、子どもたちのメンターとして教育というよりは支援という形で手助けをいただいておりますので、気軽に最新のテクノロジーに触れて学べる場として機能しているかと思います。

 

―子供たちの育成としては、「ロボレーブ」にも取り組まれています。

中村氏 ロボレーブとはアメリカが発祥のロボットプログラミング大会です。加賀市ではロボレーブの国際大会を毎年開催しております。元々は小さな大会としてスタートしたのですが、現在はNASAやJAXAからも協力を得て、非常に面白い大会になっています。

2020年度も20数か国が集まるような世界大会を予定しておりましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で開催が出来なくなったため、私を含めたスタッフが各学校を訪問して記録会(予選会)を開催し、プログラミング学習の成果発表の場を設けることにいたしました。

記録会では「アメージング」と呼ばれる、木の板で出来たコースを完走するロボットを設計・組み立て・プログラミングし、その正確さや速さのスコアを競うものを行ないました。その結果に基づき、好成績を納めた子どもたちを集めた市内大会(決勝大会)も2月21日に開催しました。 2021年度に世界大会は延期となりましたが、今年度の開催に向けて準備を進めております

(※残念ながら2021年度大会も2022年度へ延期となり、国内大会の開催を計画しています)

IoTで農作物の商品化率向上

―農業×IoTの取り組みでは具体的にどのようなことに取り組まれているのでしょうか。

東氏 環境データを測定するセンサーを設置することでハウス内の温度や湿度などを計測し、スマートフォン等でリアルタイムに確認するような取り組みになります。気象によって病害の発生しやすい条件があって、今まではその変化にリアルタイムで気付かず農作物が病気になることもありました。今回の取り組みでは、病害の発生しやすい条件となった場合には、リアルタイムでスマートフォンにアラートが鳴るような仕組みにすることで、病害を未然に防ぎ、農作物の商品化率の向上につなげることができました。

あとは初競りに向けたIoTによる栽培の管理ということも行っております。初競りでは商品の単価が高くなる傾向にあります。例えばルビーロマンは通常で買うと一房5万円のものが初競りでは130万円になることもあるので、農作物の成長のピークを初競りに合わせていくことで、農家の人にとって大きな収益を得ることが出来ます。加賀市以外でもルビーロマンを作っている事業者は複数あるのですが、昨年の初競りはIoTを使った加賀市の農家が上位をほぼ占めるという形となりました。

   

―それだけの結果が出てくると、他の農家さんからの反響も大きくなってくるのではないでしょうか。

清田氏 昨年の12月に、若手の農家さんに集まっていただき、IoTを活用した農業の成果発表会を行ったところ、皆さん非常に関心を持ってくださいました。今はルビーロマンや梨といった果樹などを中心に実証事業を行っていますが、本市は水田が農地面積の9割近くを占めており、お米や市の地域振興作物であるブロッコリーやかぼちゃなどの露地野菜で実証するなど様々なアプローチがあります。農家の皆さんがより興味を持っていただければ色々な知恵が出てくると思いますが、IoTを活用した農業を更に広げる方法を模索していくことが今後の課題かもしれません。

企業と協力し加賀市の業務課題を解決

-IoT×実証事業という観点ですと、他にどのような取り組みがございますか。

松谷氏 「製造業におけるIoT 導入実証事業」として、IoTを導入するための支援をしております。具体的には、製造業の方々から①生産性向上モデル(IoTを導入した生産性の向上)②新製品・サービス創出モデル(IoTを使った新しいサービスの開発)、というテーマで募集をかけて審査をしたうえで、それらの導入に対しての金銭的な支援を行っています。

また、2020年度においては加賀市の課題解決という観点で導入実証事業を行いました。加賀市では農地法に基づき耕作放棄地の有無の現地確認を行っているのですが、従来では目視で市内の農地を回るのは非常に煩雑でした。本実証実験では、衛生データから耕作放棄地である可能性が高い場所を事前にスクリーニングすることで効率的に農地を回ることを可能にするもので、既に他の市町村での導入実績もあるものでしたが、それが加賀市でも利用可能かという視点で取り組みました。

行政のDXは“デジタルに縁の遠い人”ほど恩恵アリ

-行政のIoT化を進めてきたことを振り返っていただいたときの感想をお聞かせください

園田氏 加賀市では数年前から様々な取り組みを続けてまいりました。正直なところ、成果が見えづらかった部分もありましたが、今では先ほどお話させていただいたルビーロマンの事例のような成果が見える段階になってきており、取り組みの手ごたえを感じています。今後も住民の方々にそれらの成果を示しながら、「デジタルトランスフォーメーション(DX)で皆さんの生活が便利になっていきますよ。」ということを伝えていきたいと思います。

例えば、加賀市ではMaaS(ICT を活用してマイカー以外すべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとして捉えてつなぐ概念)の取り組みもしていますが、スマートシティやDXというのは、本来であれば先端技術に縁の遠い人こそ一番恩恵を受けるものだと個人的には感じています。ただ、最初はなかなか敬遠をされがちになってしまう面もありますので、心理的なハードルを下げつつ、気が付けば恩恵を受けているようなサービスを作っていければと思います。

三嶋氏 コンピュータクラブハウス加賀も最初はプログラミング教育の拠点として展開を進めていましたが、現在は子どもたちの新たな居場所という面も強くなってきました。今後は学校では普段出来ないようなキャリア教育にも力を入れていくことを検討しております。

一方で、キャリア教育をすることが加賀市の課題解決に必ずしも直接繋がるわけではないと認識をしています。教育した人材が市外に出ていくことになれば、教育という面では評価をいただくかもしれませんが、加賀市としては人材流出という結果になります。そういった部分も含め、キャリア教育では、自分たちで起業をすることや地元企業への貢献にどのようにつなげていくかが重要で、コンピュータクラブハウス加賀を通して加賀市の活性化につなげていきたいと思います。

デジタル行政担当者に求められるのはチャレンジ精神や事業への理解

-IoTを活用した行政施策を進めていくうえで、推進の担当者にはどのようなことが求められていくのでしょうか。

園田氏 先端技術の導入というのは失敗をする確率が高いという一面があると思います。そういった意味で、情報を積極的に取り入れ、失敗を恐れずに挑戦し、実証していくことで新たな道が開けてくるので、チャレンジ精神は大事にしていきたいです。

三嶋氏 自治体全ての職員共通として求められることかもしれませんが、ある一つの課題があったときに担当者だけの課題として捉えるのではなく、市および市民全体の課題として共感をすることが大事にではないでしょうか。また、課題を解決する方法として時代が何を求めているか、流行っているかなど、そういった感度も今後は必要とされてくるのではないかと感じています。

中村氏 三嶋の話にもつながりますが市役所のなかだけで課題を考えて解決するのではなく、市民の方たちにも「こういう未来が待っています」など、具体的なビジョンを示していくことが大事なのではないでしょうか。我々も取り組みを進めていくなかで、市民の方から難しい・分かりづらいという声をいただくこともあるので、具体化することは大事かと思っております。

松谷氏 IoTを使う、という点では自分から積極的に最新機器に触れてみるのが良いかと思います。例えば、まだガラケーを使っているようでしたら、スマートフォンに変えていただくなど。小さな点からでも良いので、まずは一歩踏み出していただきたいですね。

清田氏 ルビーロマンを担当して感じたこととなりますが、新規の実証事業となると、誰も取り組んだことが無いようなものは、農家の方々からも不安に思われるケースが往々にしてあります。そのような場合「どのような効果が出るか」だけでなく「所得としてどれだけ見込めるのか」などのシビアな質問にも市の職員として答えていかなければなりません。実証する前には市の職員自身がしっかりと熟知をして、それを説明できるようになっていかなければならないかと思います

東氏 私自身、行政でIoTを担当している立場でありながらそれをどこまで熟知出来ているかと言えばまだまだ至らない点は多いかと感じています。他のメンバーからも様々なお話がありましたが、自分が広める立場であるならば次々と新しいことを取り入れていき、取り残されないように日々勉強をすることが求められてくるのではないかと思います。