五島市が取り組むデジタル×自治体行政【前編】-ドローンによる業務効率化、海洋ゴミの数値化に挑戦

五島市が取り組むデジタル×自治体行政【前編】-ドローンによる業務効率化、海洋ゴミの数値化に挑戦

長崎県の五島市では2018年度から「ドローン i-Landプロジェクト」、2020年度から「五島スマートアイランド構想」をそれぞれスタートさせ、様々な行政サービスにおいて、デジタルを活用した自治体業務の効率化や省力化に継続して取り組んでいる。同市の様々な領域でデジタルを活用した行政サービスを提供する担当者にお集まりいただき、その取り組みについてお話を伺った。

なお、本インタビューは2部構成で、前編ではドローンによる業務効率化と海洋ゴミについて取り上げる。
※ 後編はこちら

(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)

離島の課題をデジタル化で解決

―自己紹介をお願いいたします。

平野氏 地域協働課で移住定住事業の担当をしております。五島市では自らも移住者である移住支援員による、経験に基づいた的確かつ親身なアドバイスが好評で、移住定住者が年々と増えている状況です。現在はオンライン移住相談会をはじめに、デジタルも活用した各種移住定住事業も行っています。

本田氏 私の配属されている生活環境課では海岸漂着ゴミの回収・処分作業を行っております。五島市は360度が海に囲まれている島なので、海岸漂着ゴミについても膨大な量となり、日々現場で作業に取り組んでいます。

川上氏 私は国保健康政策課で医療をはじめ、市立の診療所等の担当をしています。デジタルを活用し、現在はiPadやロボットも活用した遠隔医療事業にも取り組んでいます。

濱本氏 私は2018年度より商工雇用政策課のドローン専任担当職員として業務を行っております。海岸漂着ゴミの数値化や遠隔医療事業の物流のほか、様々な事業におけるドローンの推進を行っております。

(左上)地域振興部 地域協働課 移住定住促進班係長 平野 梓氏
(右上)産業振興部 商工雇用政策課 雇用・起業促進班 濱本 翔氏
(左下)市民生活部 生活環境課 環境班 本田 昌洋氏
(右下)福祉保健部 国保健康政策課長 川上 敏宏氏

―五島市がITやデジタルを活用した施策を次々と打ち出していますが、どのような背景があるのでしょうか。

平野氏 五島市は人口減少や少子高齢化による人手不足、離島間における移動手段の確保、といった離島特有の課題を抱えております。その課題を解決するために、従来は地域の豊富な資源なども活用し、所管の部署が個々で課題に取り組み一定の成果を上げてきました。

ですがその一方で、人口減少・少子高齢化の歯止めがかかったとは言えない状況です。そこに昨今のコロナショックにより、観光産業を含めた地域経済に非常に大きな影響がありましたが、それらに加えて、医療・衛生環境のリスクも増えて市民の生活の質自体も下がる恐れが出てきています。

このような状況下で、五島市は、国土交通省が推進する「スマートアイランド(離島地域が抱える課題解決のため、ICTやドローンなどの新技術の実装を図るもの)」に取り組むこととし、5~10年後の「望ましい五島市の将来」のため、スマートアイランド構想の策定に動き始めたというのが背景です。

現在は、国土交通省の「令和2年度 スマートアイランド推進実証調査業務」として、関係団体等とコンソーシアムを組成し、①医療体制の強化②労働力不足の解消③生活の質の向上に関する実証事業を行うなど、地域課題の解消に向けた取組を行っています。

労働力不足の解消、生産性の向上にドローンが寄与

―ドローンの事業活用はどのような理由でスタートしたのでしょうか。

濱本氏 こちらは2018年度に内閣府地方創生推進交付金事業の採択を受けてスタートした「ドローン i-Landプロジェクト」が一つの大きなきっかけです。

ドローンの活用は人口減少に伴う労働力不足の解消及び生産性の向上が大きなテーマです。また、そのほかにも若い人たちが憧れるような雇用を創出していこうというテーマも含んでおります。そのようなテーマの中、現在は本島(中心街など)と離島間における物流への活用だけでなく、農地の作付け確認等にもドローンの活用が進んでいます。

農地の作付け確認というのは、五島市の職員が稲や麦といった作物が申請されている通りに作付けされているかを確認するという業務です。これらは従来であれば職員が1箇所ずつ各農地を回っていく必要があり、非常に時間のかかる作業でした。しかし、現在はドローンを畑の上に飛ばすことにより、撮影およびAIによる解析を行うことで時間もかけず、パソコン上でのチェックが可能となりました。この他にも、海洋ゴミの数値化事業にも取り組んでいます。

五島島の農地

―ドローンを事業活用することにおいて、自治体や市民から理解を得るための壁のようなものはありましたか。

濱本氏 ありがたいことに大きな障害は特にはなかったです。自治体内でも積極的にドローンを活用していこうという機運があり、私自身も選任職員として各部署から多くの協力を得ることが出来ました。また、市民の方々の調整という点では初対面でいきなりドローンの話を持ち込むのではなく、何度か事前に足を運んで、関係性の構築を優先的に行うことを意識し、そのあとにドローン事業のご説明をするように心がけていました。

海洋ゴミの量を数値化、市の内外から関心を集める

―海洋ゴミの調査にはどのような背景があったのでしょうか。

濱本氏 海洋ゴミの調査自体は、海岸に漂着しているゴミを定期的にドローンで撮影し、そのゴミ量および漂着状況を数値化し、画像・動画と合わせてウェブサイト上で公開するというものです。

五島市は海が非常に綺麗である一方、海岸に目をやると漂着物も多いという認識です。そのような状況で当時の生活環境課の担当者にも聞き取りを行い、状況を把握した結果、ドローンと海洋ゴミの回収の効率化を合わせられないかと検討し、事業計画に落としていった経緯がございます。

本田氏 生活環境課の事業は、回収・処分がメインです。年間1億円の費用をかけて事業を行っていますが、それでも全ての海洋ゴミの回収・処分は難しいのが現状です。更に予算を増やしたところで根本的な解決には至らないという認識をしており、ゴミを全て無くすには、別の方法でのアプローチをすることが必要です。

―現在、ホームページ上で海洋ゴミの調査結果を公表しておりますが、どのような反響がありますか。

濱本氏 五島市の教育における総合学習の成果が大きいのですが、中高生から五島市の海洋ゴミという社会課題に対しての認識や関心が高まっているのは強く感じております。そういう意味で今五島市には非常に良い流れが来ており、ホームページ上での情報にも興味を持ってもらいやすくなっています。また、情報公開により、市外の方に関心を持ってもらいたいという意図がありましたが、島内外の方から「海ごみ回収イベントをしたい」「海ごみで何かできないか一緒に考えませんか」というようなお声をいただくことが出てきました。

ホームページ上でゴミの量を公開(https://droneisland.jp/