広島市のデジタル化への取り組みを聞く―”受動的”から”能動的な”行政体制目指す―[インタビュー後編]

広島市のデジタル化への取り組みを聞く―”受動的”から”能動的な”行政体制目指す―[インタビュー後編]

広島県広島市の行政デジタル化のお話を聞く全2回のインタビュー。
シリーズ後編では自治体内での取り組みや今後の展望について取り上げる。

(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)

※ 前編はこちら

自治体職員向けに「ソリューションフェア」を開催

―局内にはテクノロジーに対して苦手意識のある職員もいるかと推察いたしますが、対策等は取られているでしょうか。

岩﨑氏 被災者支援ナビについて申し上げますと、支援制度の概要等を記載したExcelシートをグラファー社側のシステムに取り込むことで画面を作成しているため、テクノロジーが苦手、という職員でも構築可能となっております。また、当課では各制度所管課が作成したExcelシートを取りまとめておりますが、不明な点があった時はグラファー社からの支援を受けることが可能です。

永井氏 当課では福祉情報システムを内部で管理していますが、ヘルプデスクの設置や、異動等の理由でシステムを初めて使用する職員に対して構築業者による操作研修を実施するなどの対策を取っております。

また、当課では今後、福祉情報システムの更新を控えており、これまでに更新に向けた検討を行う過程で多くの企業から様々な提案を受けております。その内容は福祉部門に限らず、多くの分野で活用できる内容であるため、令和元年10月に自治体職員を対象とした「働き方改革・窓口改善等ソリューションフェア」を開催し、ICTの最新技術や実際の活用事例について体感できる機会を設けました。

市でDX推進計画を策定予定

―担当課内および貴自治体内で進めているデジタル化のお取組について、現在の課題や今後のご予定をお聞かせください。

岩﨑氏 広島市においても、急速な少子高齢化への対応に迫られており、持続可能なまちづくりを進めていくためには、デジタル技術を活用した市民サービスの向上や業務の効率化、デジタル技術により得られたデータを活用した地域課題の解決などに取り組むべきだと考えております。そのためには、既存の制度や組織の在り方等を変革していくデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進していかなければならないといった課題があります。

このため広島市では、組織の縦割りを超えて課題を共有し、全庁が足並みをそろえて機動的かつ横断的にDXを推進できるよう、「広島市DX推進会議」を設置するとともに、DXの推進に当たり、デジタル化に関する全庁統一した基本的な考え方や取組の方向性をまとめるため、今年度中に「広島市デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画(仮称)」を策定する予定です。

―窓口対応や行政手続のオンライン化について、今後、どの程度までオンライン化させていく目標や展望がございますか。

岩﨑氏 国の基幹系システムの標準化などの動向も注視しながら、全ての手続のデジタル化に向けた検討を進めていくこととしています。

広島市における窓口オンライン化の例としましては、広島市行政経営改革推進プランに掲げる「区役所窓口における市民サービスの向上と業務の効率化」の一環として、保健・福祉分野における窓口での申請手続と窓口での相談予約のデジタル化に取り組むこととし、令和2年度にその効果や運用上の課題を把握するための実証実験を行いました。

本実証実験の実施方法と内容ですが、窓口での申請手続については、子どもが生まれた際に市民の方が窓口で行う児童手当・特例給付認定請求書などの各種申請手続について、スマートフォンで申請を行っていただきました。また、窓口の相談予約については、ひとり親家庭に関する支援制度の相談を、事前にスマートフォンから予約できるようにしました。

実証実験の結果、市民の方の窓口滞在時間の短縮や職員の事務負担の軽減などの一定の効果が確認出来ました。一方で、デジタル化の対象範囲など改善が必要な課題も分かりました。

国が旗振り役となり各自治体のデジタル化が加速

―国が令和2年12月に策定した「自治体DX推進計画」では、「デジタル社会の実現を目指す上で自治体によるDXの推進は極めて重要」と位置付けられており、デジタル技術やデータを活用した住民の利便性向上、業務の効率化が求められています。このような国のデジタル政策は今後の業務に影響を与えますか。

岩﨑氏 広島市においても、行政手続のオンライン化を進めるとともに、データ分析に基づく多様な行政サービスの提供など、”受動的な行政体制”から”能動的な行政体制”に変革し、市民サービスの向上を図るとともに、AI・RPA等のデジタル技術による業務の効率化や、庁内の様々なデータを横連携して活用することにより慣例や経験に頼らない行政運営を推進していきたいと考えています。

行政のデジタル化は市民の利便性や職員の業務の効率化に尽きますが、これまでも各自治体にて様々な取組が進められてきました。ただ、その取組度合いには差があり、先進的な自治体もあれば、そうでない自治体もありました。今回、デジタル庁が出来て、国から「行政のデジタル化を進めます」と旗振りが始まったことを景気として、全国的にデジタル化が進んでいくのではないかと期待しております。

―国がデジタル化を進めていくなか、自治体職員にはどのようなことが求められていくのでしょうか。

岩﨑氏 テクノロジーは苦手、という自治体職員の方もいるとは思いますが、日頃から担当している業務の課題を正確に把握しておくこと、そして世の中にどのようなICT技術があり、それらがどういった課題を解決しているのか、という情報に対して常日頃からアンテナを張っておくことが大切だと思います。

永井氏 デジタル化においては、情報へのアンテナや知識も大事ですが、自分のやっている業務にどれだけ問題意識を持っていられるかが大事です。日々の業務をこなしていく中で「市民の方の困りごとは何か」「我々の業務もこうすれば改善できるんじゃないか」など、課題解決に向けて考えていく意識が求められるのではないでしょうか。