福島県磐梯町3年間の時限組織「デジタル変革戦略室」が推し進めるDXへの挑戦―[インタビュー]

福島県磐梯町3年間の時限組織「デジタル変革戦略室」が推し進めるDXへの挑戦―[インタビュー]

福島県磐梯町(ばんだいまち)は、都心から150分、磐梯山の麓に位置する人口3400人ほどの町で、多くの地方自治体が抱える少子高齢化や地域経済の停滞等の課題を抱えている。

これらの課題解決のため、そして地域のさらなる価値を創造し、誰もが自分らしく生きられる共生社会の共創を目指し、デジタル技術を活用した町民本位の新しい行政経営モデルの構築を図っている。

この取組みの一環として、「業務のあり方の見直し(BPR)」、「情報のデータ化」、「業務のICT化」等のデジタル変革を推進するための基盤整備を行う組織として、2020年7月にデジタル変革戦略室を立ち上げた。このデジタル変革戦略室の挑戦について、磐梯町デジタル変革戦略室の小野 広暁室長(写真 左)と長 泰志係長(写真 右)にお話を伺った。


(聞き手:デジタル行政 編集部 米谷 知子)

3年の期間限定で各課のDX推進に伴走するデジタル変革戦略室

―デジタル変革戦略室の立ち上げの経緯や目的について教えてください。

小野氏 現町長(佐藤 淳一氏)は「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」を公約に掲げています。少子高齢化や多様な行政需要に対応するためには、それまでの縦割り行政に横串を刺す必要がありました。その解決策を模索していた折、DXを手掛ける菅原直敏氏(一般社団法人Publitech代表理事など)と運命的な出会いがありました。この出会いをきっかけに、デジタル技術の活用により行政の仕組みを変え得ることを知り、デジタル変革へ舵を切りました。

磐梯町では2019年11月に全国で初めて自治体最高デジタル責任者(CDO)を設置し、菅原氏に着任いただきました。翌2020年4月から3か月間の準備期間を経て、同年7月にデジタル変革戦略室を正式に組織化しました。誰もが自分らしく生きられる共生社会の共創という使命の下、自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくりを実現することが目的となっています。

―デジタル変革戦略室の体制について教えてください

小野氏 デジタル変革戦略室を立ち上げた当初は、兼任の室長と係長の職員2名体制でしたが、2021年4月1日より、4名の職員と外部人材が配置され、組織の拡充がなされました。最高デジタル責任者(CDO)、CDO補佐官、地域活性化起業人、地域プロジェクトマネージャー、地域おこし協力隊等、様々な複業人材が共創的に関わっています。
最高デジタル責任者(CDO)は、DX戦略全体の監督、進行管理等を担っています。常駐はしていないため、テレビ会議システムや業務用チャットツールを活用して頻繁にやり取りしています。

DXを進める上でポイントとなるのが各課との連携です。デジタル変革戦略室は、3年間を一つの区切りとして運営されている時限的組織です。デジタル変革戦略室がデジタル化を行うのではなく、全ての庁内組織にまたがって施策の実施を調整する横断的な組織です。

最初の1年目は各課と二人三脚で、2年目は補助輪として、3年目は見守りを行います。4年目にはデジタル変革戦略室は存在しないので、各課で自走しなければなりません。現在1年目の準備期間が終わり、素地は出来上がりつつあります。あとは各課をサポートし、「自分たちの町民サービスをより良くしていこう」という目標をもって前向きに各課に取り組んでもらうことがデジタル変革戦略室の役割です。

各課の職員に、「デジタル化は業務の効率化を図るためにICT化を進めることではない」ということを理解してもらうため、菅原CDOを講師として全職員を対象に2度の研修を実施しました。研修で職員の基本的な考え方を統一化し、具体的に各課においてデジタルでどのようなことが実現できるのか検討し、できるところから一緒に改革を推し進めています。

マイナンバーカード100%の普及の先にある、行政サービスの向上

―具体的には各課と連携してどのような取り組みを行っていますか。

小野氏 町民課とは、マイナンバーカードの普及促進を図っています。マイナンバーカードは、ワンストップで行政サービスを提供するためには欠かせません。町のデジタル変革を進め、より良い町民サービスを提供するためにも、磐梯町ではマイナンバーカードの普及率100%を目指しています。現在、普及率はようやく50%を超えたところです。今後はマイナンバーカードを活用した行政サービスの向上にも取り組んでいく予定です。
商工観光課とは、2021年7月15日より、磐梯町内にて、地域デジタル通貨「令和3年度 磐梯町デジタルプレミアム商品券」の発行を開始しました。地域デジタル通貨の導入により、地域内での通貨流通を図ることにより、地域経済を活性化させていく予定です。
教育課とは、公共社会教育施設のデジタル予約申請の実現を図っています。まずはホームページ上で予約状況の確認ができる体制を実現したところです。
その他には、議会のDXの推進として、議会でのペーパーレス化やオンライン委員会の試行等への協力も行っています。
このように、現在はデジタルに置き換えられるサービスや業務を洗い出し、ロールモデルとして仕組み構築し、試行している段階です。

―デジタル化の効果を実感した取り組みはありますか。

小野氏 どの自治体にも、災害時に屋外スピーカーから緊急情報を放送する防災行政情報システムがあります。このシステムに、スマートフォンアプリを活用しました。役場の放送室に足を運ばなくても遠隔操作で放送ができ、同時にSNSやホームページ上にも発信できる仕組みを構築しました。
放送した内容が瞬時にSNSに連携され伝わることから、これまでとは全く異なる迅速な情報提供が可能になったという点では非常に高い効果が得られています。

デジタル化の推進、鍵はBPR!?

―今後の取り組み課題について教えてください。

小野氏 現在は、住民の利益に繋がるサービスとして何ができるのか模索しているところです。マイナンバーカードがあればオンラインで個人認証が可能になるため、自宅であらゆる申請ができるかもしれません。しかし、町独自で何億円も掛けてシステム開発するのは現実的ではありません。各自治体で個別に運用されている健康保険事業などの基幹情報システムも、将来的には統一されたシステムになるのか、あるいは自治体間で共有できるようになるのか、見通しが不透明な状況です。そういった状況下で、自治体がどこまでの裁量を持って取り組んでいくべきか、専門家の意見も参考にしながら検討しているところです。

国と二重制度にならないよう国の動きには注視しています。一方で、様子見ばかりしていると物事が進まないので、小さな投資で一定の住民サービスの提供に繋がることがあれば、率先して進めていきたいと考えています。
システム構築においては、専門的な知識を持った外部人材の方々に参画いただき、自前でシステム構築を行っていきたいと考えています。令和3年度中に実施したいことの1つに、サーバーのクラウド化があります。これについても外部の方々の協力を得ながら独自に構築していく予定です。

―デジタル化の推進においてどのようなことを重視していますか。

小野氏 デジタル化の推進において、重視していることはBPR(Business Process Re-engineering)です。地域デジタル通貨や会議のペーパーレス化といったことは各論に過ぎません。BPRによって職員の業務が効率的になり、浮いた時間でより多くのことができるようになる。そのことが結果として住民サービスの質が向上して生活が便利になることが理想です。

現在、各課の業務改善の可能性についてアンケートを行い、その結果についてヒアリングを行うことになっています。業務のどこをデジタル化していくか、場合によってはデジタル化しないという選択肢も含めて精査し、大々的にBPRに取り組んでいく予定です。業務改善は、各課の職員に自分事として取り組んでいただくことが重要ですので「デジタル変革戦略室から言われたから実施している」と思われないよう、各課と連携して一緒にDX化を進めていこうとしています。その点、磐梯町の職員数は100人程度。10人もいない課が多いのでコミュニケーションは取りやすく、規模の大きな自治体に比べれば、進めやすいのではないかと思います。

デジタル変革戦略室が各課にデジタルの種を植え、花が咲くところまで導き、将来的には「デジタル化は当たり前」といった組織を作っていきたいと考えています。各課の職員が自ら取り組み、自走していけるような組織づくりがデジタル変革戦略室の役割であり目指すところです。