ブース型のオンライン診療で地域に安心・安全を届ける。ブイキューブ社「テレキューブクリニック」とはどのようなサービスか。[インタビュー]

ブース型のオンライン診療で地域に安心・安全を届ける。ブイキューブ社「テレキューブクリニック」とはどのようなサービスか。[インタビュー]

小田 直樹氏(ブイキューブ営業本部副本部長)


ビジュアルコミュニケーションツールの企画・開発を手掛ける株式会社ブイキューブ(東京・港区)は、防音個室ブースとオンライン診療システムを一体化した新サービス「テレキューブクリニック」を2025年5月1日より提供開始した。

「テレキューブクリニック」は、オフィスや公共空間に設置された専用ブースから、かかりつけ医や薬局へ手軽にアクセスできる環境を構築する。2026年4月施行の改正医療法により、公民館などの非医療施設でも「オンライン診療受診施設」としての活用が可能になることを見据えた展開だ。

また、平時の健康管理だけでなく災害対策としての活用も進む。2025年11月27日に行われた神奈川県中井町の総合防災訓練では同サービスが採用され、ジェイフロンティア株式会社の「SOKUYAKU」と連携して、避難所におけるプライバシーを確保した医療支援の実証が行われた。同社営業本部副本部長の小田直樹氏に、本格展開の背景や防災訓練での成果、今後の展望を聞いた。

(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)

ウェブ会議の「場所不足」解消から医療へ 、遠隔診療インフラ進出

―「テレキューブクリニック」開発の経緯を教えてください。

「テレキューブ」自体の提供開始は2017年です。当時、働き方改革でWeb会議システムは普及し始めていましたが、カフェではセキュリティが心配、オフィスでは会議室が足りないなど、会議を行うための「場所」が追いついていませんでした。そこで、ソフトウェアだけでなく、ハードウェアとしての「場所」を作ろうという発想で開発しました。

今回、「テレキューブクリニック」として本格展開する最大の契機は、2026年4月施行の改正医療法です。この法改正によって公民館などの非医療施設でもオンライン診療が実施できるようになります。当社は10年以上前から遠隔医療分野に映像技術を提供しており、かつ「個室ブース」というハードウェアも持っていました。この規制緩和の受け皿となり、地方の医師不足や、多忙なビジネスパーソンの通院困難といった課題を解決できると考えたのが背景です。

公民館、郵便局、企業オフィス 個室ブースで受診場所を広げる

―どのような利用シーンを想定していますか。

一つは、へき地における医療アクセスの向上を目的とした利用です。近年の医療法改正により、公民館や郵便局、福祉施設などの「非医療施設」も、オンライン診療の受診場所として活用できるようになりました。

こうした場所に「テレキューブクリニック」を設置することで、住民の方は遠方の医療機関をスムーズに受診することが可能になります。医師不足に悩む地域においても、質の高い医療サービスを身近に提供できるモデルとして期待されています。

二つ目に、企業における従業員の健康管理への活用です。オフィスの一角にブースを設置し、そこからオンライン診療を受けていただくことで、花粉症や生活習慣病の定期通院のために半休を取得するといった「労働機会の損失」を防ぐことができます。また、防音性に優れた完全個室であるため、職場や自宅では話しにくいメンタルヘルスの相談や産業医面談の場としても最適です。

その他にも、災害時の緊急設置や、駅・商業施設での「すき間時間」を利用した受診など、幅広いシーンでの展開を想定しています。

高齢者は看護師同席、都市部では無人対応で運用

―導入する企業や施設の運用イメージと、コストについて教えてください。

自治体などで、デジタル機器の操作に不慣れな高齢者が利用されるケースでは、ブースに看護師などが付き添ってサポートを行う「D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)」の運用を想定しています。専門スタッフが介在することで、ICTへの抵抗感をなくし、誰もが安心して遠隔医療を受けられる体制を整えます。

都市部のオフィス等における利用では、「無人対応」を基本としています。利用者がブースに入れば、システムを通じてスムーズに医師とつながる仕組みです。移動時間や待ち時間を最小限に抑え、業務の合間でも受診できる環境を提供します。

コスト面では、導入ハードルを極力下げるため、ハードウェア(ブース)を「サブスクリプション(月額課金)」で提供するモデルを採用しました。筐体を購入するとなると大きな投資判断が必要ですが、月額数万円からのレンタル形式にすることで、「まずは半年間だけ実証実験を行う」といったスモールスタートが可能になります。

防災時に「大切な医療」を継続させる空間を提供する

―神奈川県中井町の総合防災訓練にも協力されたと聞きました。

直接のきっかけは、オンライン診療・服薬指導サービス「SOKUYAKU」を提供するジェイフロンティア株式会社からの打診でした。中井町様が大規模地震発生時の初動体制確立に向けた訓練を計画される中で、「現地の医師自身が被災して診療不能になる」という深刻なケースを想定されていました。

そうした状況下で医療供給ルートを確保するには、遠隔地から医師が支援に入るオンライン診療が不可欠です。しかし、避難所となる体育館などはオープンな空間であり、プライバシーの確保が課題となります。そこで、我々の「テレキューブ」を活用した個室診療ブースの設置をご提案し、採用に至りました。当日は、ジェイフロンティア様がアプリと薬剤配送、中井町様が場所と運営、我々がハードウェアを提供するという3者の連携体制で実施しました。


防災訓練に使用された「テレキューブクリニック」(提供:株式会社ブイキューブ)


―中井町の住民の方々からどのような声がありましたか。

町長をはじめ、実際に体験された約100名の住民の方々からも非常に好評でした。新たな発見だったのは、高齢者の方々にとっての親和性の高さです。

高齢者の方にとって、スマートフォンの小さな画面で操作しながら医師と話すのは、操作面でも心理面でもハードルが高いものです。しかし、テレキューブならブースに入れば大きな画面に先生が映っており、対面に近い感覚で話すことができます。「これなら安心だ」「これで十分だ」というポジティブな反応を多くいただき、デジタルに不慣れな層にこそ、専用ブースという形態が向いているという確信を得られました。


―災害時におけるオンライン診療、特に個室ブースの有用性はどういった点にありますか。

大きく2つあります。1つは「医療供給の継続性」です。大規模災害時には、現地の医師自身も被災し、診療ができなくなるリスクがあります。そうした際、オンライン診療ならば、被害を受けていない遠隔地の医師が支援に入ることができ、医療の空白を防げます。

もう1つは、避難所における「プライバシーの確保」です。体育館などの避難所はオープンな空間であり、メンタルヘルスの不調やデリケートな疾患について相談しにくい環境です。防音の完全個室ブースがあれば、周囲を気にせず医師に相談でき、被災者の精神的な安心感に直結します。


同社は「災害対策用テレキューブ」も提供している。本体内に非常用電源を格納し、収納機能付きソファ内に生理用品、簡易トイレ、追加の飲料水などを保管できる。

普及の壁は“文化”と“診療報酬” 将来はヘルスケアポッドに進化

―医療用のブースの普及を阻害する要因はありますか。

大きく2つあると考えています。1つ目は「文化形成」です。まだ多くの人には「医療は対面が当たり前」という意識が根強くあります。「オンライン診療を使ってみたい」という文化そのものの醸成がまだ進んでおらず、最初の一歩を踏み出す心理的なハードルが高いのが現状です。

2つ目は「診療報酬」の問題です。現状、初診の場合、オンライン診療の報酬は対面診療よりもやや低く設定されています。医療機関にとって経済的なメリットが薄いため、積極的に導入しようというインセンティブが働きにくい実態があります。今後、診療報酬の改定などで対面と同等、あるいはそれ以上の評価がなされれば、普及は一気に加速すると見ています。


―将来展望を教えてください。

現在オンライン診療は体調が悪くなった時の「治療(Cure)」を中心に利用されていますが、今後は「予防・未病(Care)」の領域へシフトしていくと考えます。そうした社会動向の変化を踏まえ、今後は「テレキューブクリニック」に入ればバイタルデータが測定でき、健康状態を定点観測できるような、より身近な存在に進化させたいと考えています。

そのために単なるボックスから脱却し、聴診器や各種センサー、AI診断支援などを搭載した「高度なヘルスケアポッド」を目指します。これにより、対面診療に近い、あるいはデータ活用によってそれ以上の質の高い診療が受けられる空間を実現します。