大災害を経験した福島県いわき市。内田広之市長に聞く「防災×DX」による強靭なまちづくり〔インタビュー〕

大災害を経験した福島県いわき市。内田広之市長に聞く「防災×DX」による強靭なまちづくり〔インタビュー〕

東北の東端・南端に位置する福島県いわき市は、21世紀に入ってから3度の大規模災害を経験した。東日本大震災、令和元年東日本台風、2023年の台風13号に伴う線状降水帯災害だ。いわき市は市政運営の考え方を示す「いわき版骨太の方針2025→2026」の中で、幸福度の高いまちづくりのため「国際防災都市」を目指すと宣言。防災におけるDXの導入も積極的に進めているという。デジタル技術が防災の現場をどのように変革しているのか、内田広之市長にお話を伺った。

(聞き手:さわきゆり)

「いわき版骨太の方針」が示す、安心して暮らせる国際防災都市

―「いわき版骨太の方針2025→2026」において、いわき市はまちづくりの軸に防災を置いています。他の課題もあるかと思いますが、防災を中心に据えた理由をお聞かせください。

理由は2つあります。ひとつは市民が「いわき市にいれば安心して暮らせる」と思えるまちをつくるため。もうひとつは、防災を柱にした危機管理体制の強化が、市が抱えるさまざまな課題の解決に結びつくためです。

災害やパンデミックなどの非常事態は、市の重要課題である医療と背中合わせです。市と医師会が連携して、非常時に対応できる危機管理を整えることで、おのずから平時の医療体制も向上します。また、防災に向けた環境整備は、インフラの強化やDXと切り離せません。

私たちが将来的に考えているのは、防災や減災に強みを持つ企業などの誘致です。企業誘致は産業の発展、雇用の確保、若い世代の育成といった相乗効果をもたらします。防災グッズや非常食のメーカーはもちろん、宇宙ビジネスとして開発した機器を防災に転用する事業所も視野に入れています。

―単なる防災都市ではなく「国際防災都市」を目指しているのはなぜですか?

こちらも理由は2つです。ひとつは、いわき市の歴史や文化が国際的な活動に向いていること。もうひとつは、JR東日本が進めている「羽田空港アクセス線の整備計画」です。

いわき市では、炭鉱で栄えた歴史や晴天の多い気候によって、人の出入りが多く開放的な風土が育まれてきました。この明るく開かれた気風は、国際都市の活気あふれる雰囲気に通じるものがあります。だからこそ、私はこうした背景を活かし、国際的な活動をより一層広げていきたいと思っています。

JR東日本の「羽田空港アクセス線の整備計画」とは、羽田空港から東京以北へ直結する新ルートの構築です。この路線へ、いわき市内を運行する常磐線特急が直接乗り入れるよう要望しています。私たちが掲げる「国際防災都市」という目標は、羽田空港といわき市がダイレクトにつながり、国内外から多くの方を迎え入れる未来を想定しています。

若い世代の方々は、防災や国際化を見据えたまちづくりに高い関心を持ち、共感してくださいます。実際に高校生から「将来は震災復興の仕事をしたい」「防災に関われる職に就きたい」といった具体的な目標を伺う機会もありますよ。国際防災都市の構築は、地域の課題を連結し、未来を目指すための道のりでもあると考えています。

LoGoチャットで激変したいわき市の水害対応

―2023年に起きた台風13号に伴う線状降水帯災害(以下:線状降水帯災害)では、内田市長が自ら長靴を履き、水害の現場対応にあたっていました。災害対策本部や関連部署の職員と、どのように連絡を取り合っていたのでしょうか。

自治体専用ビジネスチャット「LoGoチャット」を活用しました。いわき市では災害が起きると、市長と副市長、インフラに関わる部署の部長が災害対策本部を立ち上げます。線状降水帯災害の発災時、私たちはLoGoチャットに災害対策本部のグループを作り、その中で連絡を取り合うことにしました。

私が災害現場に出ていても、グループチャットで即座に連絡を取れるため、リアルタイムな情報共有が可能でした。チャットで送られてきた画像を見て、瞬時に指示や判断をしたケースもあります。デジタル技術がもたらす機動力とその成果には目を見張るばかりです。

私が市長に就任する前の災害ですが、令和元年東日本台風の際にも、いわき市は甚大な水害に見舞われました。当時は会議室に集まらなければ情報共有と相談ができなかったため、どうしても指示や判断が遅れがちだったと聞いています。本来なら災害対応にあたるべき職員が、会議資料の作成に追われるという問題もあったそうです。しかし、LoGoチャットがそのような課題を抜本的に解決してくれました。

―LoGoチャットによる災害対応を振り返って、印象に残っている出来事はありますか?

特に被害がひどかった地域で、家の前に座り込んでいる高齢の女性を見かけたことです。声をかけたら「家じゅう泥だらけで、どこから手をつけていいか、誰に相談していいか分からない」と途方に暮れていて。すぐにLoGoチャットで災害対策本部に相談したところ、地元の大学に話がつながり、屈強な柔道部員たちが応援に来てくれました。その日のうちに、畳の片づけから庭の泥かきまですべて終わらせたそうです。

災害対策本部で印象的だったのは、令和元年東日本台風を経験した部長たちの知識と経験を、グループチャットで共有できたことでした。私がチャットに書き込みをして、担当部署の部長が即答できないときは、知見を持つ他の部長がすぐに助け舟を出してくれます。「そこは県の管轄だから調整が必要です」「それはこの予算から流用できます」といった具体的なアドバイスのおかげで、さまざまな対応が遅滞なく進みました。

現在は市役所内の災害対策本部会議室に、大きなスクリーンを複数台設置して、市内各地の映像を見られるようにしています。いわき市は面積が広く、地形も沿岸から山間部までさまざまなので、会議室で状況を把握できるのは非常に効率的です。ドローン技術の導入により、人が立ち入れない場所の撮影も可能になりました。

AI水位予測からSNS発信まで。情報を最適化する防災DX

―現在、いわき市は市民サービスや行政などあらゆる面で、積極的なDXの導入を進めていると伺いました。防災において新しく取り入れている技術をお聞かせください。

代表的なものでは「河川水位等予測システム」があります。これは市内の河川に設置している64箇所の水位計の観測データにより、今後の水位をAI予測するシステムです。大雨や台風など、河川氾濫の兆候が見られる場合は、このシステムを使って迅速な災害体制の構築や適切な避難の判断をします。

これまでは職員や水防団員などが増水した川へ行って、水位観測をしていたのですが、これは非常に危険を伴う任務でした。これからは河川水位等予測システムの導入により、安全かつ的確に、雨量の把握と6時間先までの水位予測ができるようになります。また、市が設置している雨量計については、福島県の防災アプリと防災ポータルサイトにおいて、2026年の3月より雨量データが一般公開されます。

防災はマンパワーのイメージが強いので、DXやAIとは相容れないイメージがあるかもしれません。でも、実際にいわき市では「防災×DX」の流れが着々と進んでいます。それが日常に溶け込んでいけば、市民の防災意識もより一層高まるはずです。

―他に、防災や災害対応に有効なデジタル技術やコミュニケーションツールを教えてください。

やはりSNSですね。いわき市の災害対策本部でも、テレビや新聞と同時にSNSへ情報を流しますし、私個人でもいろいろな発信をします。特に、X(旧Twitter)の情報拡散力と効果は絶大です。

線状降水帯災害では、私が現場から「〇〇地区で何人のボランティアが必要です」と具体的な発信をしていました。それを見た大勢の方が、市内外から集まってくださって。千葉の方に「市長のXを見て、すぐに来ました」と声を掛けられたときは、本当に嬉しかったですね。

現在はテレビのL字テロップに、市の職員が入力した災害の状況や避難所情報をそのまま流せるようになりました。しかし、視聴するタイミングが合わないと見逃されがちです。その点、SNSならハッシュタグで検索できますし「被災した方に温泉を無料開放」といった細かい情報も出せます。これはSNSならではの大きなメリットといえるでしょう。

国際防災都市の実現に向けて

―今後、河川水位等予測システムのデータ公開を含め、市民がデジタルツールに触れる機会も多くなるかと思います。市民への周知は、どのように進めていくのでしょうか。

現代は情報収集の手段が多様なので、あらゆる媒体を通して粘り強く取り組む考えです。たとえば地方紙に広告を出したり、県内のテレビ局で報道していただいたり。もちろんXやInstagram、Facebook、公式LINEでも積極的に発信します。

いわき市では防災に限らず、あらゆる業務でデジタル化が進んでいます。申請手続きは約90%がオンラインでできますし、会議資料もペーパーレスです。嬉しいことに、職員のDXや改革に対する意識も高まってきました。「これをデジタル化してもっと良くしよう」「この仕組みを周知するには?」と、職員が積極的にアイデアを出しあっています。本当に素晴らしい進歩ですね。

先日、北海道・三陸沖後発地震注意情報が発表された際は、職員の提案により市民アンケートを実施しました。アンケートについては、当該発表を受けた市民の皆様の意識や行動等を把握する調査となっております。この取組みは東北の自治体でも先んじて実施しており、メディアからも注目されました。報道を通じた有効な周知につながるので、今後も工夫を重ねていこうと考えています。

―最後に、内田市長が構想する、いわき市の理想的な防災DX像をお聞かせください。

まず、いわき市が進めている防災DXの仕組みが、市民の間に広く知れ渡ることです。そして、一人ひとりがその仕組みを理解し、使いこなして、いざというときはお互いに助け合える。それが私の理想像です。

すべてをデジタル化できないとしても、アナログな手段と掛け合わせて活用できるなら問題ありません。たとえば、デジタル情報を受け取れない方がいたら、周りの誰かが電話や対面で伝える。それもれっきとしたDXの仕組みです。

繰り返しになりますが、市役所内では職員のDX意識がかなり向上しています。それは個人だけでなく、組織としても大きな成長の証です。まさしく「国際防災都市いわき」の実現に向けた、力強い歩みなのだと信じています。