諏訪市は、なぜ100%デジタルを選んだのか─重点支援地方交付金活用における、デジタルプレミアム商品券SUWAデジチケット導入の背景を聞く[インタビュー]

諏訪市は、なぜ100%デジタルを選んだのか─重点支援地方交付金活用における、デジタルプレミアム商品券SUWAデジチケット導入の背景を聞く[インタビュー]

自治体が物価高騰対策を打ち出すたびに、現場では同じ問いが繰り返される。現金で配るのか、商品券にするのか。それとも、デジタルにするのか。どの選択をしても、必ず説明が必要になり、必ず反対意見も生まれる。

長野県諏訪市が選んだのは、物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金(重点支援地方交付金)を活用した「デジタルプレミアム商品券」を、100%デジタルで実施するという方法だった。

紙は使わない。併用もしない。その判断は、効率化を狙ったものでも、流行に乗ったものでもない。

本記事では、諏訪市企画部企画政策課企画政策係 係長の堀川和俊氏に、このデジタルプレミアム商品券事業を実施するに至った背景や、庁内での議論、実装して見えた変化について話を聞いた。

現場で迷い、議論し、それでも踏み切った、その過程をたどる。

(聞き手:デジタル行政 編集部 野下智之・角田知香)

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市民に届く支援を、どう設計し直すか

諏訪市企画部企画政策課企画政策係 係長 堀川和俊氏

諏訪市では、重点支援地方交付金を活用し、給食費補助や商工業者支援などを実施してきた。しかし企画部としては、「市民が実感できる支援」を十分に打ち出せていないという感覚があったという。

「給食費補助などは重要ですが、どうしても間接的です。市民の方から見ると、市が何を目的に実施しているのか分かりにくい。そろそろ、市独自で“市民に直接届く支援”を実施する必要があるのではないか、という話をかねてからしていました」


直接支援策としては、現金給付や紙の商品券も検討された。だが現金給付は制度要件や事務手続きが複雑で、市独自に幅広く実施するには負担が大きいうえ、利用されずに貯蓄に回るケースもある。紙の商品券についても、販売・配布時の人員動員や行列対応といった課題が過去から指摘されていた。

「商工部門にいた頃、紙の商品券を扱っていましたが、販売日は本当に大騒ぎでした。正直、もう一度あれをやるのか、という気持ちはありました。商品券の加盟店となる地域の商業者からは、紙チケットの換金や精算に労力がかかっているとの声を聞くこともあり、課題を感じていました」

こうした背景から、市民にとってより分かりやすく、かつ運用負荷を抑えられる手法として、デジタル商品券が現実的な選択肢として浮上していった。

100%デジタルという判断と、庁内での葛藤

諏訪市の取り組みで特徴的なのは、紙との併用を行わず、最初から100%デジタルで運用した点である。ただし、この判断は決して容易なものではなかった。

「紙の商品券での運用では、市民の方には販売当日に行列に並んで購入いただいていました。仕事の都合や場所の問題で並ぶことができない方に対して不公平になっているのでは、という問題意識があり、デジタル化にすることでそういった問題を解消したいという思いがありました。100%デジタルに踏み切ったことに対して、もちろん反対意見もありましたが、思ったよりも少なかった印象です」


庁内でも慎重論はあったという。それでも踏み切るべきだと考えた背景には、企画部が担ってきたDX推進の文脈があった。行政手続きのオンライン化を進める一方で、アナログとデジタルが並走し、業務が二重化しているという感覚は、部内で共有されていた。

「アナログを残すこと自体は必要です。ただ、何でも並走させていると仕事が増える。このままだと、いつまでもアナログが残るという問題意識はありました」

この認識は上層部とも共有され、「どこかで一度、振り切った事例をつくる必要がある」という理解が、最終的な判断を後押しした。

振り切る一方で、取りこぼさないための設計

SUWAデジチケットは、専用アプリを必要とせず、スマートフォンのブラウザ上で利用できる仕組みを採用した。市のチケットポータルに登録し、抽選に申し込み、当選後は同チケットポータルからクレジットカードで決済を行うと、電子チケットが即時付与される。付与された瞬間から利用可能で、利用期間は12月から1月末までと、年末年始の家計負担が大きい時期に合わせて設定された。

発行口数は1万口。一次販売では約7,200口の申し込みがあり、残りは二次販売で数時間のうちに完売した。二次販売で一気に完売した背景には、SUWAデジチケットの認知拡大があった。商品券の利用開始にあわせて加盟店の店頭に「SUWAデジチケット」のポスターやポップを設置したことにより、大きな宣伝効果が生まれた。

(左)加盟店店頭のポスター (右)加盟店レジに設置されたSUWAデジチケット決済QRコード

券種は、大型・中小店舗共通券7,000円分と、中小店舗専用券6,000円分の計13,000円分の額面で構成され、一口あたり10,000円で購入可能なプレミアム率30%のデジタル商品券だ。従前実施していた紙チケットによる事業よりも大型店で利用できる割合を高め、使いやすさと家計支援という事業趣旨を優先した設計である。

スマートフォン上での中小店舗専用券6,000円分 大型中小店舗共通券7,000円分 表示例

一方で、完全デジタルに振り切るからこそ、リアルなサポートは不可欠と判断した。市内各所で計4回、購入および利用時のスマートフォン操作を支援する場を設け、約50人の市民が参加した。結果として、SUWAデジチケットの登録者は約2割が65歳以上であった。

「デジタルと聞いた瞬間に諦める方もいますが、実際に試してみると使える方も多い。思っていたより、ご利用いただける高齢者層は厚いと感じました」

満足度の高い市民サービスを提供する上でも自治体のDX推進は必須

実装面でもう一つ重要だったのが、「どの仕組みを使うか」という判断である。
諏訪市が採用したのは、ギフティが提供する自治体・地域向け電子チケット基盤「e街プラットフォーム」だった。

堀川氏は、この選択について、機能の多さや新しさよりも、行政施策として無理なく運用できるかどうかを最優先に考えたと語る。

「デジタルで商品券を運用する方法はいくつか考えられました。ただ、行政として使う以上、途中で止まらないか、運用が複雑にならないか、市民に説明できるか、という点は非常に重要でした」


判断材料の一つになったのが、同じ「e街プラットフォーム」を活用した別施策が、市内ですでに稼働していたことである。諏訪市では、観光施策の一環として、ギフティが提供する「旅先納税」(※観光客が現地で寄附を行い、返礼として電子チケットを受け取る仕組み)を導入しており、その返礼品の電子チケット基盤としても「e街プラットフォーム」が使われていた。

「別部署の取り組みでしたが、市内の店舗が実際に登録されていて、運用上も特に問題なく回っているのを見ていました。ゼロから新しい仕組みを立ち上げるより、重複する加盟店も複数あったため、実績のある基盤を横展開できるという感覚はありました」


実際に活用した「e街プラットフォーム」のソリューションは、諏訪市のチケットポータルの基盤である「e街チケットポータル」および、デジタル商品券を発行・運用する基盤である「e街ギフトシステム」の2つのシステム。新しいシステムを一から構築するのではなく、すでに稼働実績のある「e街プラットフォーム」を活用し、その上で制度設計に集中した。この判断は、短期間での立ち上げと確実な執行が求められる重点支援地方交付金の活用において、現実的かつ合理的な選択だったと言える。

SUWAデジチケットの運用開始後、諏訪市には全国の自治体から問い合わせが相次いだ。
「どうやってデジタルで実現したのか」「高齢者から苦情はなかったのか」。
制度の細部というよりも、「本当に100%デジタルで回るのか」という点への関心が強かったという。そうした問いに対し、堀川氏はこう答えている。

「もちろん一部ご指摘も受けました。でも、それでも実施してよかったと思っています」

アナログを残す方が楽で、優しい判断に見える場面はある。しかしそれを続けている限り、自治体運営の前提は変わりにくい。

100%デジタルに振り切ること自体が目的ではない。振り切った上で、どう支えるかをセットで考えることが重要だと、堀川氏は語る。

実装して見えた変化と、他自治体への示唆

SUWAデジチケットの運用を通じて、諏訪市の職員側にも変化が生まれた。
販売や配布に職員を張り付ける必要がなくなり、施策全体を俯瞰して把握できるようになったことで、業務の進め方そのものが変わったという。

「販売開始当日、私は別の会議に出ていました。管理画面を見ると、もう市民の手元で商品券が使われ始めていた。自分は会議室にいて何もしていないのに運用できている、という感覚は、紙の商品券ではあり得ませんでした」


こうした運用を可能にした背景には、制度設計と実装を切り分けて考えた判断があった。
諏訪市がギフティの「e街プラットフォーム」を採用したのは、制度設計に集中できる環境を整えることが、結果として施策の成否を左右すると考えたためである。

新しい施策に挑戦する際、すべてを一から整えようとすれば、検討や調整に時間を取られ、肝心の制度設計が後回しになることも少なくない。


諏訪市は、プレミアム商品券の申込から購入・発行・管理・利用状況の把握までを一元的に担える「e街プラットフォーム」を活用することで、限られた時間の中でも判断と設計に注力する余地を確保した。

この取り組みは、交付金の活用を示した事例であると同時に、デジタルを前提とした施策を、実際の自治体運営の中で無理なく実装できることを示した点に特徴がある。

重点支援地方交付金という、迅速性、配分の妥当性、説明責任という複数の要件を同時に満たすことが求められる制度の中で、諏訪市が示した判断とプロセスは、今後同様の課題に向き合う自治体にとって、一つの解となり得る参考事例であろう。

各種リンク

▼「諏訪市デジタルプレミアム商品券~SUWAデジチケット~」のご案内

https://www.city.suwa.lg.jp/soshiki/5/76634.html

▼プレスリリース 「重点支援地方交付金」対象事業 長野県諏訪市が実施する「デジタルプレミアム商品券発行事業」に「e街プラットフォーム®」が採択

https://x.gd/RO45v

▼株式会社ギフティe街プラットフォームについて

https://x.gd/3oAss