北見市及川 慎太郎氏、都城市佐藤 泰格氏が語る、窓口業務改革の本質[インタビュー]【後編】

北見市及川 慎太郎氏、都城市佐藤 泰格氏が語る、窓口業務改革の本質[インタビュー]【後編】

写真右:北見市 総務部職員課 人材育成担当課長 及川 慎太郎氏

同左:都城市 総合政策部 デジタル統括課 副課長 佐藤 泰格氏

自治体DXを推進している全国の自治体職員の間では、ある領域で突出した能力を持つ人、あるいは伝説的な実績をあげている人のことを、尊敬の念を込めて“変態”と呼ぶ慣習があると聞く。

そして、窓口業務改革の領域において、関係者の誰もが口を揃えて“変態”と呼ぶのが、北見市役所の及川慎太郎氏(北見市 総務部職員課 人材育成担当課長)だ。

前編に続き、及川氏と都城市 総合政策部 デジタル統括課 副課長 佐藤 泰格氏による対談をお届けする。

前編はこちら

取材日:2025年4月18日

(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)

AsIsよりもToBeが重要

佐藤氏:窓口業務改革において、まずは「現状(AsIs)を分析してフロー化した資料を作る」手法を取ろうとする自治体が多いように感じます。これについて、及川さんはどう思われますか?

及川氏:業務フローを描くスキルは重要ですし、現状分析はもちろん大事ですが、詳細な資料を作り始めると、あっという間に年度が過ぎるので、ゴールを決めて逆算した方が早いと思います。特に、窓口業務に関しては、ありたい姿(ToBe)や課題解決には、ある程度「型」のようなものがあると思います。なので、ToBeの姿や業務フローから逆算して、たどり着くための取り組み事項を決めたほうが早い。

佐藤氏:私も同感です。現行のフロー図を作るのに現場が疲弊するというデメリットがありますし、窓口業務というのは法律によって決められている枠内で実施するものが多く、フローがある程度定められているものも多いと感じます。ですが窓口業務改革の分野では、イチから洗いだしをしているケースがしばしば見受けられますね。

及川氏:フローとは「流れ」のことなので、書類やデータの流れに注目する。個々の手続きの事務処理に関しては、総務省が昔に示していた3線式の業務フローのひな形がありますし、ライフイベントに伴って発生する様々な手続きに関しては、窓口と所管課との役割分担や引継ぎのやり方のパターンに当てはめるとフローに表現できると思います。あとは、手続きの種類や所要時間、件数等から量を把握する。

佐藤氏:窓口業務のようなトラディッショナルな業務でAsIsを描くというのは、結果として多くの自治体が同じようなことをやることになります。最小の労力で最大の効果を上げるうえで、現場に業務フロー図を書かせるということの優先度は低いと思ってます。自治体の良いところは、お互いにノウハウを教えることですが、これをものすごく積極的にやってくれているのが北見市です。北見市という「ToBe」のお手本のような形があるなかで、イチから洗いだしていくというのは、無駄が多いのではと思います。

佐藤氏:デジタル庁の施策で、窓口BPRアドバイザー派遣制度というものがあり、私もアドバイザーで支援に行った自治体からたまに「業務フロー図を描いてほしい」といったことを求められることがあります。このアドバイザーというのは、コンサルティングではありません。あくまでも派遣先自治体の庁内機運を高め、自走のきっかけを作るところまでのお手伝いが目的です。

及川氏:システムの前に仕事のやり方を変えるのが大事、プロジェクトも自走が大事と認識してもらうと。

佐藤氏:一方で、自治体の中には、BPRに一生懸命取り組んでいるものの、システムとの兼ね合いでうまくいっていないケースというのも見受けられます。アドバイザーとしては、BPRこそ重要だよと発信しているのですが、やはりシステムのほうも重要であることは間違いなく・・・及川さんはシステムに必要な要素はどのようなものだとお考えですか。

及川氏:業務の手順に合っているかどうかです。自分たちが解決したい課題を正しく把握し、業務手順として実現できるかだと思います。システムは手段、ツールなので、まず、自分たちが実現したいことを整理できてないと課題解決につながらない。どんな機能を求めるかの定義は重要で、実際にそれで仕事が回るのかどうか、運用や速度、手順などを深くイメージしてみると良いと思います。画面の項目や順番にもすべて意味があります。

佐藤氏:そこを徹底的に実践したのが北見市ですよね。システム化における機能的なポイントはデータ活用だと考えますが、北見市においてはいかがですか?

及川氏:そうですね。まずはその窓口手続きに関して自治体がもともと保有している業務のデータを使うことです。聞き取りや手入力を減らすことにつながります。

佐藤氏:役所は住民の方々の情報をデータとして持っているにもかかわらず、なぜまた窓口で住民の方の情報を聞かなければならないのかということは、本当に根源的な問いであると思います。都城市も北見のシステムを使っていますが、内部データの活用がしっかりとしていて、住民の方や職員が本当に楽になりました。

及川氏:2点目は、手作業を置き換えるという観点です。当時、職員の事務処理手順を聞いたら、途中で様々なものを参照して確認する作業が多いのに気づきました。ならば、それらをデータ化し、使うタイミングに合わせて表示させることで効率化できます。

3点目は、受付した内容のデータ化ですね。キレイにデータ化することで、履歴をデータで管理したり、受付後の事務処理をRPAソフトウェアで自動化できます。

これらは一例ですが、中の人(※実際の業務に従事する職員)が、手間を少なくし、速く、ストレスなくできるように、業務が回るように、手順や流れのほうを変えるのです。

佐藤氏:内部データを原則に考えるということは、自治体の縦割りを排した一つの理想の形だと思います。アナログの紙の申請書でも、市が持っている情報を書かせたりしていて無駄だなと感じることがありますので、アナログ改革にも通ずる概念だと思いますね。

窓口業務改革の難易度は、人口規模比例ではない

佐藤氏:大きな自治体から、「北見市のやり方は人口規模が一定以下じゃないとできないのでは」と言われないでしょうか。実際にそのような記事を私は目にしたことがあり、残念な気持ちになりました。引っ越しシーズンに深夜まで対応している自治体を見かけると、住民と職員、両者のために窓口改革を進めるべきと思ってしまいました。

及川氏:取り組む目的は「1件あたりの所要時間や手間を減らす」ことにありますので、むしろ人口が多いほうが効果も大きくなると思います。

佐藤氏:窓口業務改革は中小規模の自治体だからできると勘違いされやすいので、そうではないと伝えていく必要がありますね。実際に大規模自治体でのチャレンジも進んでいますし、成果も数字として出ていますね。

及川氏:大きな自治体の場合、関係する部署が多いので、事務の見直しは大変ですが効果は大きいと思います。分業や並列処理が組める規模も大きく、効果は大きくなるでしょう。

佐藤氏:業務改革は、人口規模が大きいと効果も大きい。しかし、もともとの役割分担や分業のあり方が壁になっていることも多く、いきなりシステムを入れてもうまくいかない。やはりBPRが重要であると。一方で、小規模自治体は来庁する住民自体が少ないので、費用対効果を考えるとアナログ的な業務改革でも十分に効果が出ると考えています。

及川氏:北見市の窓口部門の職員が共通してお伝えしているのは、「仕事のやり方を変えましょう」ということです。鹿児島市の大きな効果の陰には、やはりキーパーソンがいて、市民課のバックヤードの事務処理の手順や確認事項まで見直ししたそうです。浜松市も鹿児島市も、「見直ししたこと、やめたこと」を他自治体に共有しているのがすごいと思いますし、細かな改善や工夫に関しても本当にたくさん積み上げているのがわかりました。

佐藤氏:ところで、自治体向けのシステムは、導入先の自治体の要望でカスタマイズされることが多いですが、北見のシステムの場合には、「これがToBeである」ということで、基本、いじらないのが特徴であると感じています。それだけ今まで職員目線で積み上げてきた自信があるのだなと思います。

及川氏:「基本の型に当てはめて、みんなで速くなりましょう」という考え方ですね。業務を変えるほうが重要。北見市の窓口部門では、システムのユーザー自治体の勉強会の場も作っていて、業務をどのように運用していくかを自治体の輪で研究しています。

佐藤氏:珍しい取り組みですよね。改善意欲がある自治体がタッグを組んで検討を重ねており、もともとの良いものがよりブラッシュアップされていっていますね。確かにほかの自治体に対する対話や支援といったところも、北見市は意識をされているという気がしますね。これはどのようなお考えや意図があるのでしょうか?

及川氏:そうですね、ちゃんと職員の作業を減らすように取り組んでほしいという想いがあります。私たちも他のことを色々な自治体から教えていただいています。今後職員が少なくなっていく中では、みんなで知恵を絞らなければならないですが、それぞれゼロから考えていたら間に合わないです。何かあった時に色々と他の自治体に聞けるようにしておく、場合によっては一緒に取り組めるようにしておくことが大事。いわば、自治体同士の新しい協同のカタチを作っておくという考え方でしょうか。一昔前には自治体の共同処理が流行ったことがありますが、ここ数年はノウハウの共有という緩いつながりで、お互いにWin-Winになるという、いわゆる共創の関係性が、自治体間の意識として芽生えてきたような気がしています。

佐藤氏:これを後押ししているのが、デジタル庁が構築した「デジタル改革共創プラットフォーム」(※共創PF。Slackアプリ上で情報交換をするための仕組み)だと思うのですが、共創PFについてはどう思われますか?

及川氏:自由な意見交換の場だなぁと思います。地方公共団体や政府機関の職員が参加できる仕組みとして、活発に意見が交わされている。色々な自治体職員がお悩みを投げては、それに対して解決策が投下されて、それをまたみんなで拾い上げている。そういうところにアンテナを張っている自治体とそうでない自治体とでは、段々と差が開いていくと思います。自ら情報を発信しつつ、情報を獲りに行く、ギブアンドテイクの思想は、自治体が人手不足の中で何とかしていく有効な手法なのだろうと思います。

佐藤氏:及川さんも、他の自治体から寄せられた質問に対して、休日にたくさん返信を返しますよね。皆からはサイボーグと思われている節がありますよね。

及川氏:これは私が回答しなきゃと思った時に返してます・・・。

佐藤氏:共創PFでは、及川さんの回答は怖いと評判ですよ!

及川さんは、色々と寄せられてくる質問に対して理論的に答えてくれるのです。それがともすれば、何か怖さのように映ってしまうのかなと思います。私は、及川さんがこんなに忙しいのに丁寧に答えていて、面倒見が良く、優しいなと思い、ニヤニヤ見ているのですが。(笑)

及川氏:私は考え方とか業務の組み換え方について解説しているだけですが・・・。窓口をきっかけとして、こんなに自治体職員がつながるとは思いませんでしたね。必要なことは、自分たちで身に付けて自走していく必要がありますね。

佐藤氏:全国各地で、利用体験調査という手法がよく使われています。転入、転出、死亡手続きなどを一般市民になりきって検証するというものですね。

及川氏:カスタマージャーニーの手法ですね。体験者になって追いかけていくという、そのまんまの調査手法ですが、北見市でも2023年に久しぶりに実施したところ、たくさんの新たな課題が浮き彫りになりました。利用者目線が身につき、窓口のみならずバックヤードの職員も、仕事のやり方の見直しになります。職員研修として実施している自治体もあると聞いています。

佐藤氏:この手法は職員が気付きを得るために色々なところで使えます。私は地元の経済界向けのセミナーの時に話をしたのですが、ある団体やホテルからやってみたいと問い合わせがありました。利用体験調査の感覚を身に付けてしまうと、窓口対応以外でも、例えば住民向けのポスターを見ると、省いてしまっている言葉があると気付いたり、情報量が多すぎてかえって伝わらなくなってしまっていることに気付いたりします。

及川氏:まさに利用者目線ですね。

「書かない窓口」はゴールではない

北見市 総務部職員課 人材育成担当課長 及川 慎太郎氏

及川氏:最近は「書かない窓口」がバズワードになっていますが、「書かない」という言葉のイメージからか、申請書を書かない仕組みを入れることが目的化されているケースがあると思います。

佐藤氏:私が支援する自治体でも、悲しいかな、使われていない書かない窓口のシステムがあったりします。申請書をプリントするだけのマシーンを設置しても変革は進まないし、「職員が住民から聞き取り、申請書の作成の支援をします」という手法も、ケースによりますが、寄り添っているように見えて、非効率な場合があるんですよね。「書かない窓口」というので一括りにされがちですが、単に書かなければよいということではなく、すでに役所が持っているデータは手間をかけてインプットする必要がないようにする、住民と職員双方がラクになることが望ましいですね。

及川氏:「書かない」は、手段であり「全体の一部分」に過ぎないので、申請書作成を目的にしてしまうと作業が増えます。「書かない」も含めて、窓口業務全体をつながりで見て効率化となるように、職員の作業が減るように業務を組み替えてほしいと思います。データを上手に使うこと、二度手間を減らすこと、バックヤードまで一気通貫で処理できることが必須ですね。

やりだしたら止まらない、沼る業務改善

佐藤氏:及川さんの仕事への情熱というのが変態的にやばいのですよね。身を粉にして働いておられますよね。一方で、変態的に仕事をしている人が他にもいるのだと思えるのは、私にとっても励みになります。

及川氏:実現したいことはたくさんありますが、すべて自分でやるのは無理なので、若い世代やほかの自治体の人たちと一緒に取り組むことでカタチに出来るのは、自治体職員の仕事の面白いところですね。

佐藤氏:業務改革は、やってもやっても、まだやるべきことが見つかる不思議なものですね。私はこれを、実現した際の達成感も含めて「沼る」といっているのですが。

及川氏:北見市の窓口の現場でも、細かい見直しがたくさん続けられています。ひとつ効率化するとまた次のポイントが見えてきて、いちど変えると効果が固定され、積み重ねていくほど効果が積みあがっていきます。1件あたりの処理が着実に短くなっていきます。

佐藤氏:色々なところで成果が出てきますね。都城市でも、業務改善の積み重ねにより職員の時間外業務時間が減るというところにも効果が出ています。都城市では、窓口対応時間の短縮を始めました。旧来は8時30分から17時15分でしたが、これまでの業務改革の実績等を背景に、職員が業務改善を行い、住民サービス向上のための時間を作ることを目的として、実現することができました。これも窓口業務改革の一つの成果です。これが実現できたのも北見市のおかげです。

(リンク:https://www.city.miyakonojo.miyazaki.jp/soshiki/78/75017.html

佐藤氏:公務員も人材の確保が難しくなっていますので、持続可能な職番環境を作るのも、我々中堅職員の重要なミッションだと思っています。

及川氏:「業務改革は楽しい」というフレーズは最近いろいろなところで出てきますね。最近では山口市や諫早市もチームで情熱を持って結果を出していると聞いています。

佐藤氏:うまくいく自治体とそうでない自治体とを比べたとき、外を見て情報を得ようとしているかどうか、そしてその情報を活用しようとしているかどうかということは大きいと思います。情報を得られる環境に身を置いて、それをしっかりと自分のものにして取り組んでいる自治体はうまくいっていますね。プライドを捨てて、外の世界に聞いても良いんだという気持ちで取り組むことが重要ですね。

及川氏:取り組みを進めていくと、いろいろなところで壁が出てきます。新しい業務として構築し直すときの壁、運用が始まった直後にも、一旦は必ずうまくいかないタイミングが訪れます。そこから「どうするか?」を考えるのが本当の始まりです。そしてそこから這い上がってくるのが、2年目ですね。そこから職員がジブンゴトとして考えて、自走していく自治体は強いですね。

佐藤氏:私が支援先で良く遭遇することなのですが、担当者のモチベーションが高まってきたタイミングで、人事異動があると、急に熱が下がってしまうことがありますね。あとは、業務改革の場合、やはりコアパーソン、キーパーソンが必要です。他の業務課とやり取りや調整があるので、事務処理だけ淡々とこなすことが好きというよりも、人とコミュニケーションを取ってうまく交渉できるような職員が適していますね。例えば、市民課で始めた場合には、保険課や福祉課なども巻き込んでいく必要があります。どのように横串を通せる体制を作るかというのも、窓口業務改革をするうえでは大切ですね。少なくとも、DX推進部門と窓口部門の二つの部門は、絶対に一緒の方向を向いている必要があります。そして、窓口関連部署はもちろんのこと、組織や庁舎のレイアウトなども影響してきますね。

及川氏:ちなみに、「うちの自治体は庁舎が古いからできなくて・・・」とか「新庁舎じゃないと無理」は誤解です。古い庁舎の自治体でも業務の組み換えや小規模なレイアウト変更でできることはたくさんあります。北見市では、運用は旧庁舎の時代にスタートさせていた。熟成した段階で現在の新庁舎に移転したので、スムーズに業務が移行できました。

北見市は、豊富な資源を活かしふるさと納税に注力

都城市 総合政策部 デジタル統括課 副課長 佐藤 泰格氏

佐藤氏:北見市は、今年度ふるさと納税を政策の一つのテーマにしているとお聞きしています。北見市にはたくさんの資源があると都城から見ても思うのですが、北見市のふるさと納税について、どのように見ておられますか?

及川氏:貴重な財源であり、市として注力しています。北見のことを知っていただき、北見市の事業や施策にいいね!と思っていただくことからも、ふるさと納税につながればと思います。

佐藤氏:ふるさと納税を伸ばしていくには、やはり知名度は大事だと思っています。北見市というと窓口改革が全国の自治体職員の中でものすごく強いので、そういったところはふるさと納税にも確実に役立っているのではと思います。冬の厳寒焼肉まつりにも、数十人単位で全国の自治体から職員が集まっていますよね。今、北見市のふるさと納税の返礼品のおすすめはどのようなものがあるのでしょうか。

及川氏:ホタテ、ハッカ、タマネギが有名です。タマネギは生産量日本一で、北見市が全国の2割を生産しています。ホタテも日本有数の水揚げ量を誇っています。それらを使った様々な加工品も有名ですよ。

佐藤氏:タマネギは北見市のイメージがありますね、ちょっと今日、北見市にふるさと納税をしておきます。しかし、ハッカは初めて知りました。ハッカの入浴剤というものもあるのですね、面白いですね、それにします!疲れがとれそうです。

及川氏:どうもありがとうございます。ハッカは虫よけとしても有効らしいです。

佐藤氏:北見市とは、ふるさと納税の分野でもぜひ都城市とご一緒させていただきたいですね。