池田宜永 都城市長に聞く、日本最先端のデジタル都市の創り方[インタビュー]

池田宜永 都城市長に聞く、日本最先端のデジタル都市の創り方[インタビュー]

ふるさと納税やマイナンバーカードの普及などで、全国の自治体をリードしてきた、宮崎県都城市。これらの施策に限らず、デジタルを活用した先進的な取り組み事例は枚挙にいとまがない。

デジタル人材を育成・活用し、次々と新しい施策を導入して結果を出し続けている同市の組織づくりや、デジタルに対する考え方などについて、お話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 野下 智之)

首長が、CDOであることの意義

―都城市は全国でも有数のDX先進都市として注目されていますが、池田市長自らがCDOとしてデジタル化を推進することの意義について、どのようにお考えでしょうか?

私がCDOに就任したことによる意義の一つ目は、物ごとを決めていくスピードアップです。
私自身はデジタルに決して詳しいというわけではありません。ですが、旗を振ることはできます。これからの時代、デジタル化は絶対必要であり、避けて通ることはできないという想いがあります。
市として、組織としてデジタル化を進めるのであり、デジタル化の恩恵を市民の方にどのようにして届けるべきであるのか?という想いで取り組んでおります。そのためには、私がCDOとなり旗を振るということがまず大切です。
私が責任者としてやると決めれば、政策決定のスピード感は変わってきます。

二つ目は、私が先頭に立つことで組織の意識改革、職員の意識改革が進むことです。
デジタル化においては、職員の皆さんが様々な新しいことに取り組むなか、きっと失敗も少なくはないはずです。一方で役所という場所は、市民の方の厳しい目もあり、失敗をなかなか認めてもらえない世界でもあります。
ですが、そういったなかでも、職員の皆さんには、チャレンジと失敗を恐れずに、デジタル化をどんどんやりなさいと、伝えています。そういったところから、意識改革をしていますが、それこそ私はCDOとしてまず取り組むべきところであると思っています。

―市長がデジタル化に舵を切られたのはいつ頃からでしょうか?

デジタル化に取り組みだしたのは、平成28年(2016年)より普及促進を進めたマイナンバーカードがきっかけです。
私は今後の社会において、マイナンバーカードが絶対に必要であろうと考えておりました。ですので、早くより、マイナンバーカードの交付率を増やすことを目標として、普及促進に取り組んでまいりました。その後、令和元年ぐらいからデジタル化のギアを上げていった記憶があります。令和3年(2021年)9月にデジタル庁が設立され、国が交付率を上げるために本格的に動き出した時点では、都城市はすでに50%を超えて、令和5年5月時点では交付率が95%に達しました。

マイナンバーカードを持つメリットを、市独自で作り出す

―マイナンバーカードを持ってはいるものの、普段なかなか使う機会がありません。都城市では、マイナンバーカードを色々な場面で使えるということを知りました。市民の方に使ってもらおうという意気込みが感じられ、他の自治体とはその点が全く異なると感じています。

先ほどもお伝えしたとおり、都城市では随分と前から独自にマイナンバーカードの交付を促進していましたが、当時は市民の方に「何かメリットあるの?」と、職員たちは必ずといっていいほど言われていました。
そこで私たちは、「これからの時代は、マイナンバーカードがないと不便だし、全国の皆さんが取り始めたら、交付までに時間もかかるようになります。どうせ必要なら、先に取りましょう。」とお伝えし続けてきました。

マイナンバーカードの交付率を上げるのであれば、民間との連携が1番効果的です。行政が住民にマイナンバーカードの説明をするうえでは、あたかも私たちがクレジットカードを使うかのように、マイナンバーカードを使っていただくのが理想です。そこで、都城市では独自でやれることをやることにしました。

まずはマイナンバーカードを使ってコンビニエンスストアで住民票・印鑑証明書等の取得をした際の手数料を半額にしました。住民票等のコンビニエンスストアでの取得率は、当初10%程度でしたが、これにより現在は60%を上回っています。
その他にも、電子母子手帳サービスや避難所入所、オンライン申請等、様々な場面でマイナンバーカードを活用しています。

デジタル人材の根底にある、都城フィロソフィ

―都城市におけるデジタル化を推進するにあたっての組織作り、人材育成、民間人材の活用における重要なポイントについて市長のお考えをお聞かせください

組織作りについては、先ほどの話にありました通り、私がCDOに就任しているということも、ポイントの一つです。
また、デジタル化を推進する総合政策部という企画部門の傘下にあるデジタル統括課を、私との距離が一番近い場所に置いています。すぐに指示ができ、即応能力の高い職員が多いため、スピード感をもって実行することが出来るのです。

デジタル化は、はまりやすい分野と、そうでない分野があります。また、デジタル化に対する温度差も部署ごとに生じます。これをデジタル統括課の職員たちが監督しながら進めており、各部の状況について私にきた報告を受けて、部長会議で一斉に指示を出すということが出来るのです。

また、人材育成に関しては、「都城フィロソフィ」(https://www.city.miyakonojo.miyazaki.jp/soshiki/108/1039.html)を策定しました。これはある意味やっていることはデジタルとは真逆のアナログな取り組みです。

稲盛和夫さんが提唱されている京セラフィロソフィを、京セラ社公認のもと、行政機関としては唯一取り入れています。「都城フィロソフィ」とは、人として、そして市の職員として、どうあるべきであるかということを、継続して学んでおり、都城市における人材育成のベースとしております。そしてこのことが、デジタル化に取り組むときにも活きてくるのではないかと期待をしています。

また、都城フィロソフィ推進課という課を作り、企画した研修を通して、「都城フィロソフィ」をしっかりと職員に意識付けするということをやり続きています。なかなかこういった人材育成をやっている役所あまりないかもしれませんね。ですが、私はデジタルに限らず、市政をやる上でのベースは人であると思っており、その教育に関しては、あえて手をかけてずっとやり続けていきます。

デジタルの世界については、やはり民間の方のお力を借りながら進めており、アドバイザーとして来ていただいている方もいらっしゃいます。また、ふるさと納税をきっかけに連携を始めたシフトプラス社(https://www.shiftplus.co.jp/)とは、今ではデジタル分野でもご一緒していただいています。シフトプラス社は、もともと大阪にあった本社を都城に移していただきました。

都城市が官民一体でデジタル化に取り組むことができているのは、これまでのDXへの取り組みをもとにした話のしやすさも含めて、評価をしていただいているのではないでしょうか。DXを進めるうえでの民間活用は特に大事であると思っています。民間の皆様には、最大限お力添えいただければと思っております。

市民の声を聞きながら進めるデジタル化

―デジタル化を進めるうえで、住民の声をどのように受け止めて、反映をされていますか?

デジタル化は目的ではなくて手段であるということを、私はずっと職員に伝えています。
我々の目的は、デジタル化の恩恵を市民の皆様にどうお届けするかということです。そのなかで、市民の方々の意見を聞くためにパブコメ(パブリック・コメント制度)の活用をしたり、オンラインヒアリングをしたりするなどにより、どのようなところでデジタルを活用したらよいのかということについて、市民の方々の意見を聞いて対応する努力はしています。

ただ、デジタル化による恩恵というものは 年齢層によっても受け止め方が違います。高齢の方々はデジタル化に戸惑っているという意見が出ることもあります。
例えば、公共施設にスマートロックを導入したときに、今までは施設管理者に鍵を借りて扉を開けていた高齢者の方からは、慣れないとのご意見をいただきました。そういうところについては、アナログである旧来の手法も併用しながら少しずつデジタルを浸透させようと思っています。

ただ、私は社会のデジタル化への移行は、絶対に変わることはないと思っています。新しいことをする時、デジタル化に限らず、何をするにしても課題は出てきます。出てきた課題を市民の皆様のご意見も聞きながら解決するようにします。そして、デジタル化導入後に上がってくる市民の皆様からの課題の声にも、しっかりと耳を傾けて進めて行こうと思っています。市民の皆様も行政も、1歩ずつ前に進みながら慣れていく必要があります。広く住民の方々の声を聞きながら、デジタル化を進めていきたいと思っています。

ふるさと納税からつなげる、関係人口・人口増加への道筋

―都城市では、例年ふるさと納税額が全国トップクラスであり、関係人口を増やしていくための強い基盤をすでにお持ちです。今後関係人口をどのようにして拡大しようと考えていますか?また、その手段としてデジタルをどう活用していこうと考えていますか?

ホームページをはじめ、LINE、インスタグラム、プレスリリース配信サービスのPR TIMESなど、もはやデジタルは当たり前のように活用しながら、都城市を知っていただき、関係人口の拡大につながるPR活動を行っています。オンラインショップもありますし、ふるさと納税も当然デジタルを通して取り組んでいます。

ふるさと納税に関しては、当初はこれそのものを全国の方に都城市を知っていただくための、PRツールにしようと思い、取組を始めました。寄附をたくさん集めるために始めたのではありません。

では、ふるさと納税を通してどのように都城市を知ってもらうか考えたとき、都城市には、日本人にとって一番キャッチーな日本一がありました。肉の産出額が日本一です。農林水産省が令和5年3月に公表した、「令和3年市町村別農業産出額(推計)」によると、都城市の畜産部門の産出額は764.3 億円で、品目別でも豚が281.7 億円、肉用牛が215.4億円でいずれも全国1位、鶏が220.2 億円で全国2位となっています。また、日本一の焼酎メーカー霧島酒造もあります。

このマッチングはいいなと思い、肉と焼酎を前面に出して売り込んでいきたいと思い、ふるさと納税の返礼品は当初、肉と焼酎だけに特化したのです。これが結果として当たり、多くの人に都城市のことを知っていただくきっかけになりました。

平成26年(2014年)からはじめて、結果として全国一位に過去4回なりました。その都度いろいろな方に知っていただき、寄付を集めることが目的ではなかったのに、結果日本一寄付をいただくことが、一番のPR活動になりました。

―ふるさと納税日本一は都城市の代名詞ですよね

そうですね。日本2位は誰も知らなくても、1位はみんな知っているという世界がありますね。そして、それはやはり関係人口にも当然繋がってきており、私としては、このふるさと納税をしていただく方が、その返礼品目的だとしても、都城市のサイト等々にアクセスをしていただくことは、大きな関係人口に繋がると思っています。今では年間延べ100万件に達しているご寄附の件数=関係人口があり、そしてこの関係人口との関係をさらに深化させる取り組みをしています。

ふるさと納税で都城市を知っていただいた次の段階で、旅行会社とタイアップをしてミートツーリズムという企画を実施しています。
これは、ふるさと納税で都城市を知ってもらった方々に、色々な支援や補助をして都城市に来ていただき、お肉と焼酎を楽しんでいただくという事業です。
始めた当初は数十人でしたが、今では年間4万人の方にお越しいただいております。
そして、来てもらった次は、買っていただきたいということで、令和5年(2023年)4月に都城NiQLL(https://coconiqll.co.jp/)という道の駅をオープンさせました。ここは、ふるさと納税を通して全国に知っていただいた肉や焼酎を購入していただくための場所という位置づけです。

この3つが、私が考えるふるさと納税を起点とした関係人口増加のための仕組みです。

そしてその先では、ふるさと納税の財源も使って移住という取り組みにも広げています。ふるさと納税をしてくださる年間延べ100万件の納税をいただいた方には、返礼品をお返しする際に、お送りする段ボールに移住関連の案内チラシを必ず同梱しています。
そのほうが都城市を知らない人に移住関連のチラシを100万部配るよりも、興味をお持ちいただける確率はかなり上がるはずです。そういった着実な取り組みも、移住者の増加につながっていると思います。

行政と民間、デジタル化の現状と課題

―行政のデジタル化は民間に比べると遅れていると思われますか?

これは私の感覚ですが、地方においては逆のケースもあるのではないかと思っております。
都会では、民間の方が先進んでおり、これを行政が追いかけているという面もあるのですが、中小企業が多い地方においては、民間もなかなかデジタル化を進めたくても進められません。
都城市に限ってみると、市役所の方が、デジタル化が先に進んでいるといわれることもあります。デジタル化について、地方の企業は役所の進捗具合を見ながら進めている雰囲気もあります。必ずしも民間が行政よりもデジタル化が進んでいるわけではないと思います。

―デジタル化を進めていくにあたり、周辺の自治体と共同で進めていることはありますか?

有難いことに、当市の取り組みを知って、全国各地から自治体の方が視察などでいらっしゃってくれていますが、定期的な取り組みとしては、現在総務省が中心となり進められている定住自立圏構想があり、これは当市を含めた3市1町共同で進めています。
デジタル関連の取り組みにおいても連携を図っており、毎年、共同で研修も実施しています。

―デジタル化を進めていくうえで、国や民間企業、学術機関に対してそれぞれ期待されることがございましたら教えてください。

今後デジタル化を進めていく上での課題は、日本全体でデジタル人材の不足です。これは、私がデジタル庁創設時のメンバーとして参加していた会議でもずっと言い続けてきたことです。国や民間企業、学術機関に限らず、ぜひデジタル人材の育成に力を入れていただきたいと思っております。