業務効率化で行政サービスの充実を目指す-公務員専用ChatGPT「マサルくん」とは[インタビュー]

業務効率化で行政サービスの充実を目指す-公務員専用ChatGPT「マサルくん」とは[インタビュー]

※(写真・左)東武トップツアーズ取締役・執行役員 濱崎真一さま、(写真・右)元文部科学大臣政務官、AIエンジニア・東武トップツアーズCDO 村井宗明さま

2022年11月に登場したChatGPT。
その登場は全世界で社会現象となり、様々な分野や業種への利活用が期待されている。
行政分野においても例外ではなく、導入による業務効率化が注目され、徐々に事例も登場している。
そんな中、一般社団法人デジタル田園都市国家構想応援団は「公務員専用ChatGPTマサルくん」をリリース、全国の自治体職員を中心に大きな広がりを見せている。
今回は「マサルくん」の開発者で元文部科学大臣政務官、AIエンジニア・東武トップツアーズCDOを務める村井宗明氏、同じく東武トップツアーズ取締役・執行役員を務める濱崎真一氏にお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 加納奈穂)

一般社団法人 デジタル田園都市国家構想応援団に関してご紹介をお願い致します。

濱崎氏:2021年11月、岸田内閣の所信表明演説の中で「デジタル田園都市国家構想」という話が出て、内閣官房の地方創生の部局で担当していたものがデジタル田園都市国家構想事務局に変更されることになりましたが、地方自治体から見た時に「デジタル田園都市国家構想とは何なのか」という状態続いておりました。
その状況下で、デジタル田園都市国家構想の実現にあたり、「国と地方自治体だけで大きなイノベーションは起きにくい」「自治体と民間企業との連携が必要」との理由から「デジタル田園都市国家構想で地方創生をしていく応援団組織」ということで「デジタル田園都市国家構想応援団」を設立することとなりました。
「デジタル田園都市国家構想応援団」は代表取締役会長兼社長CEOを藤原洋さん、代表取締役を岡田大士郎さんが務められています。「マサルくん」の開発者である村井宗明さんには2021年にジョインいただきました。
村井さんは富山県選出の衆議院議員を3期務められた後、エンジニアとしてLINEに勤務されており、行政×エンジニアという貴重な経歴をお持ちです。
現在「デジタル田園都市国家構想応援団」は法人会員85、理事企業20ほどの団体で、法人会員さまに年会費をお支払い頂き運営している組織でございます。

「行政DX用ChatGPT「マサルくん」」とはどのようなサービスなのでしょうか。サービス開発の背景も含めお聞かせください。

村井:自治体の文章作成の手間を楽にする目的で開発しました。
行政の職員は日々膨大な文書作成に追われているため、「キーワードや条件を入力すると公務員向けの文書を勝手に書いてくれるChatGPTを作ろう」と考えたのがきっかけです。

「行政DX用ChatGPT「マサルくん」」は行政のデータ4109ページを追加学習させたChatGPTで、学習させたデータに答えがない場合のみ通常のChatGPTと同様、ネット上から情報を取得しており、一般向けの汎用タイプGPT3.5、研究者用のGPT 4の2種類を出しています。
一般の方が使うと「公務員のようなことばかり答えるChatGPT」という印象になりますが、行政向けの情報に特化しているため、その領域での回答精度が高いChatGPTとなっております。

私自身もそうだったのですが、初めてChatGPTを取り入れた際に「使えない」と感じた方は多かったのではないでしょうか。
その理由は「ChatGPTを初期状態で使っているから」なのです。
ネットワーク上には膨大なデータがあるため、初期状態では自分に合ったものが出てこないのです。
ChatGPTの公式マニュアルは英語なので読まない方が多いのですが、読み解いていくと、自分たちに合うデータを付け足す「エンベディング(embedding)」を行って使うツールだということがわかります。
初期状態では「世界中で流行っているけど日本では使えない」となりますが、それは使い方が違うからで、追加学習をさせて自分にあうようにすると「すごく使えるツールだった」ということなのです。

開発にあたり、様々なものを追加学習させたChatGPTを作ってみたのですが、反響が大きかったのが行政用データを学習させた「マサルくん」でした。
毎日情報が変わり頻繁にエンベディングが発生するイベントや観光情報と違い、行政用データは変動が少なく、また公務員の文書は一定の型があるため、運用・情報精度両面において優れております。

「マサルくん」には、テキストを入力する画面に動画のマニュアルや使用文例(市長のあいさつ文、督促書類、答弁書、企画書、提案書など)をつけ、すぐにわかりやすく使えるようにしました。

本サービスの自治体・民間での利用状況をお聞かせください。(それぞれ団体数・企業数)

2023年5月12日の「マサルくん」リリースは、デジタル田園都市国家構想応援団に加盟している115の自治体へメールで通知することから始まりましたが、8月上旬までに32,000回以上の利用がありました。同じような方法で観光に関するChatGPTをリリースした際は同期間で700回程度の利用でしたので、大変大きな反響を頂けたと思っております。

また、「マサルくん」リリースから約1か月後の2023年6月6日、自治体職員向けの説明会を実施したのですが、説明会のメール連絡をしたのが115自治体だったにも関わらず、実際には自治体の情報政策課やデジタル・DX課を中心とした160人を超える方が参加され、その後、マサルくんの活用を希望した31自治体が同団体に入会登録をしました。そのため、現在は146自治体で導入・活用をしていただいています。

本サービスを利用した自治体・民間担当者から寄せられた成功事例やフィードバックについてお聞かせください。

村井氏:福祉や中小企業など特定領域に対しての情報不足を指摘頂き、追加でエンベディングを行なうなど、常に「マサルくん」をアップデートし続けております。

また、ChatGPTがリリース後、初のAI導入に関する東京都の公募において、東武トップツアーズが受託したことにより、行政DXや自治体へのChatGPT導入に関するお問い合わせを多数いただくようになりました。

本サービスの今後の展開についてお聞かせください。

村井氏:今後は「マサルくん」に各自治体の情報を追加して学習させた、特定の自治体専用バージョンのChatGPTが増えていくと思っております。
それぞれの自治体オリジナルのChatGPTにゆるキャラ名をつけたり、カスタマイズがごく普通になるのではないでしょうか。
行政はこれから本当にどんどん変わります。

その際「初期状態ではなくエンベディングを行って使うこと」「有償版APIでセキュアな環境にすること」この2点が重要です。

ChatGPTの活用により公務員の業務が効率化され、今までと同じコストでより充実した住民サービスが提供される「真の行政改革」が進むと考えています。

ただ、ChatGPTは創造性のある業種には向いておらず、人に「勝る」のではなく「真似る」のが得意で、過去の優良事例を真似ることができても、それを超えるものを創造することがはできません。

ChatGPTを使って効率化を進めるにあたって、「優良事例を作る人」がより必要になってくるのではないでしょうか。