AccurioDX で顧客課題を解決―コニカミノルタの印刷物を通じたマーケティングDXとは [インタビュー]
コニカミノルタ株式会社はオフィス向けプリンターや商業向けデジタル印刷機などを提供する印刷機メーカー。同社では2022年7月に新ブランド「AccurioDX」を発表し、デジタル印刷を活用したマーケティングDXについての取り組みを続けている。本取り組みについて、AccurioDX 価値共創チーム「DoroXsai」のメンバーに、取り組み背景や事例について話を聞いた。
(写真左から)
楠 貴大 CXデザイナー
山口 真広 ブランドデザイナー
宮木 俊明 Founder
藤原 崇史 BizDevリーダー
塚原 俊之 エバンジェリスト
(聞き手:デジタル行政 柏 海)
ブランドオーナーのマーケティング効果の最大化を図る
―自己紹介をお願いします。
宮木氏:人材開発・新規事業開発・組織開発、3分野の専門家として2021年の9月からコニカミノルタにジョインしました。現在はデジタル印刷が社会にどの様な価値を提供できるか、そのために印刷業界をどのようにDXしていくのか、というテーマにて活動をしております。
塚原氏:前職は大手印刷会社の研究開発部門でセキュリティ商材開発を担当したのち、デジタルメディア事業部門にてユーザーデータを活用したデジタル広告ビジネスを立ち上げる等、一貫して新規事業に携わってきました。2019年にコニカミノルタにジョインしてからはデジタル印刷をマーケターに役立てて頂くための、アライアンス構築やビジネス開発に取り組んでいます。
楠氏:コニカミノルタに入社し、10年近く印刷機の開発部門に携わってきました。そのなかで「新規事業を作るための人材を作る」という社内研修への参加をきっかけに、デジタル印刷機の「活用・価値創出」をテーマに立ち上げて以来、事業部に異動して、お客様に入り込み、お客様の状況ごとにデジタル印刷が価値となる状態の創出に取り組んでいます。
藤原氏:私も長年、コニカミノルタで複合機やプロダクションプリントを代表とした技術開発に携わってきました。その後、社内でBtoC向けの新規開発も経験し、その知見を活かしながら現職ではデジタル印刷の利活用から生産までのサプライチェーン最適化をメインに担当しています。
山口氏:社内でオフィス向けのプリンター開発を経験した後、5年ほど新規事業・イノベーションの探求を続けてきました。今回は新ブランド「AccurioDX」を立ち上げることになりましたが、私はその中でも、メディア掲載など、ブランドデザインや発信の責任者をしています。
―コニカミノルタの事業内容は。
藤原氏:グローバル企業として、①「デジタルワークプレイス事業」②「プロフェッショナルプリント事業」③「ヘルスケア事業」④「インダストリー事業」の大きく4つを展開していますが、我々が所属しているプロフェッショナルプリント事業部では、印刷会社向けの商業用印刷機の製造・販売をしてきました。
そのなかで、我々のチームでは、デジタル印刷機でしかできないような新たな価値を創り上げるとともに、ブランドオーナーやマーケターにとっては最大のマーケティング効果を得られるような施策を生み出し、デジタル印刷機の市場を拡大させることをミッションとして活動をしているところです。
―デジタル印刷機とはどのような機械を指すのでしょうか。
楠氏:デジタル印刷機はデジタルデータを元にして印刷物を刷る機械となります。対になる概念として「アナログ印刷機」があります。皆さんにも身近な、オフィスに置かれている複合機・プリンターもデジタル印刷機の一つですが、我々の領域は商用印刷会社向けのデジタル印刷機となります。
デジタル印刷機ではデジタルデータを基にした可変印刷が可能となりますので、印刷された宛名や写真の内容が違う印刷物を少量ずつ印刷することに優れています。一方、アナログ印刷機は判子のようにあらかじめ版を用意するので、同じ種類かつ大量の印刷物、新聞やチラシなどを刷る際に使用されています。業界外の方にはあまり知られていないかもしれませんが、印刷会社で印刷される印刷物の大半は、デジタル印刷ではなく、アナログ印刷で制作されてきました。しかし、年を追うごとにデジタル印刷の割合が高まってきております。
印刷で消費者とのコミュニケーション体験を改善
―この度は新規プロジェクト「AccurioDX」を立ち上げました。立ち上げの経緯や狙いは。
宮木氏:印刷が社会にどのような価値を提供し続けられるか、というテーマは社内でも個別で様々な活動が動いていましたが、この度はコニカミノルタとして改めて、それらを俯瞰的に統合し、明確にプロジェクトを立ち上げたのがきっかけの一つでした。
まずは印刷会社や、その印刷会社に仕事を出すブランドオーナーやマーケターが何をしたいと考えているか、本当に実現したいことは何か、という探索を開始して見えて来たのは、(先ほど申し上げたような)「印刷利用者は印刷を知らない」ということと「印刷会社が真に求めているのは印刷機ではなく注文である」ということです。
従来、我々の様な印刷機メーカーは、印刷機やそれを使いやすくするソリューション提供して印刷会社の生産性や品質の向上に役立てて頂くことが仕事でした。しかし、シュリンクしつつある業界にあって、印刷会社にデジタル印刷でしかできないタイプの発注が来る状況を今から作り上げなければ、やがて我々のビジネスも立ちいかなくなってしまうと直感しました。要は、デジタル印刷機を導入しても仕事が無ければ意味はありませんし、印刷会社も収益があがらなければ印刷機を導入することも出来なくなってしまいます。
それを打破するために、デジタル印刷機の特徴が最大限生かされた事例を印刷機メーカーも一緒になり、利用者起点で事例を作り上げてそれを定常化し、デジタル印刷でしかできないタイプの印刷利用を「利用者が当たり前のように活用する」状況を作り上げる必要があります。それを実現するための新たなサービスやビジネスを様々なパートナーと共創するのがAccurioDXの狙いです。
―具体的にAccurioDXではどのような課題が解決されるのでしょうか。
塚原氏:大きくは、企業と消費者とのコミュニケーション体験の改善です。
消費者がWebメディアやSNS、アプリなどのデジタル媒体から、情報収集することが当たり前になっているなか、デジタル施策でのターゲティングやOne to Oneコミュニケーションの重要性が増していると思います。しかし、その一方で、iPhoneやandroidのアプリストアでは上位にアドブロック関係のアプリが並ぶなど、デジタル広告への拒否反応も生まれてきました。
過去にはアナログ施策として、DMやチラシを配ってきた歴史もあるなか、私が色々なマーケターと話をして感じたのは、マーケティング施策の次の一手が思い浮かばず悩んでいる方が非常に多いということでした。マス的な紙媒体の使い方や効果に限界がある。一方で、デジタル広告でのターゲティングもCookie規制などの影響でも年々難しくなっているという声を聞いています。
このようなある種「やり切った感」や「閉塞感」を突破するための新たな一手として、我々はブランドオーナー様やソリューションプロバイダー様などと“共創”という形で、紙によるDXを実現し、企業と消費者との新しいコミュニケーションの価値づくりをおこなっています。
―紙のDX化も、いわゆるデジタル広告のようなOne to Oneになるのでしょうか。
宮木氏:紙によるDXには様々なアプローチがあり、例えば可変印刷を生かして、DMの内容を個人個人によって変えるなど、紙でOne to Oneをおこなうのも一つの強力な事例となります。
場合によっては、内容は同一のまま、まずはQRコードを付けて反応を見るところからスタートしたり、通販会社のCRMやWMSとつなげて、注文・印刷・発送までのスピード感を上げて「商品に同梱する印刷物のパーソナライズ」なども紙によるDXの事例となります。
コミュニケーション変革に取り組む場合、最も大切なことは、コミュニケーションの起点は誰なのか?ということです。当然、それは、印刷機メーカーでも印刷会社でもなく、ブランドオーナーです。ブランドオーナーの想いを起点として考えることがない限り、どんな構想を描いても机上の空論となってしまうと考えています。
ブランドオーナーと対話をしていると、製品サービスへの思いや、その背景・商品の特徴や生産にまつわるこだわりや苦労など、多様なコンテンツを抱えていますが、それを消費者ごとに異なるニーズや好みに合わせて届けることは殆どできていません。ここに生じているコミュニケーション課題を解決するためのプラットフォームがAccurioDXです。
AccurioDXでは現在、印刷会社や物流会社、顧客管理システムのソリューションプロバイダーなど、様々なレイヤーで100社ほどの企業に参加をいただいております。皆様との共創から力を得て、我々も印刷機を売るメーカーから、コミュニケーション変革を支えるプラとフォーマーへと徐々にトランスフォームしつつあると感じています。
山口氏:コンサルティングサービスを始めたのかとか、広告代理店のような事をしているのかなどと思われてしまうこともあるのですが、我々はこの活動から直接利益を得ることはなく、むしろ共創のために、人もお金も時間もかけながら、泥臭く活動を展開しております。
印刷には、自動化や省力化という主に製造面での見える課題もありますがそれは製造現場に閉じた課題です。一方、一歩外に出てみると、印刷機をどのように役立ててられるのか?という課題へと質が変わるのと同時に、その解決方法は、業界にいる我々だけでは明確には見えてきません。そこをAccurioDXによる様々な業界のパートナーと共創により明確化し、解決策を作り上げていくのが、我々の役目となります。
印刷会社だけでなく、物流会社のビジネスも改善
―AccurioDXでのお取組事例についてご共有ください。
塚原氏: 冷凍おかずの定期便サービス「三ツ星ファーム」を運営されている株式会社イングリウッドと、三ツ星ファームの商品発送など物流業務を担っている株式会社アイズとの取り組みをご紹介させていただきます。
イングリウッドでは、冷凍おかずを宅配便で発送する際、荷物の中にチラシを入れるいわゆる「同梱物」で消費者とコミュニケーションをしてきました。デジタル広告なども担当されていたマーケターの方から聞くと、このチラシは箱を開けた際に必ず目に入るので、重要なタッチポイントであることは知っていながらも、リテンション(既存顧客維持)のために、どのようにチラシを発展させたら良いかは悩んでいるような状況でした。
そこで我々は、チラシごとに宛名を変えると共に、チラシに掲載する商品もお客さんの購買傾向によって変更し、割引での購入が可能なサイトに誘導するQRコードも付けることを提案しました。
チラシの表には顧客一人ひとりが実際に購入した商品を掲載し、それに応じてオススメする商品も一つずつ変えました。また、QRコードも一つずつ専用のコードを用意し、誰が(どのQRコードが)アクセスしたかも分かるようにすることで、顧客ID単位で効果計測ができるようにしました。
ただ、本取り組みを実現するためには、物流倉庫でのチラシ封入時に間違いがあってはなりませんし、現場のオペレーションへの負担も極力減らさなければならないことは容易に想像がついたため、課題も山積していました。
藤原氏:本課題を解決するために、我々も実際に物流倉庫の現場に足を運びましたが、結果としては、商品をバーコードで検品する過程で、パンフレットも合わせて検品するオペレーションを組んでもらうことをアイズに提案し、実現することができました。
物流会社であるアイズから積極的にマーケティング施策のアプローチを提案することは少なかったようですが、今回の取り組みを通じて一歩踏み出していただいたことで、「パーソナライズチラシの同梱という新サービスの可能性が見えた」とも伺っています。
これは印刷ビジネスだけではなく、物流ビジネスにとってもトランスフォーメーションが出来た事例となりますが、このように1社だけが利益を得るのではなく、関係者全員に取って良い結果を出せた、という点に、AccurioDXの真の役割があると考えています。
自治体×コニカミノルタで域学連携も推進
―自治体とコニカミノルタではどのような取り組みをしていますか?
楠氏:グループとしては、自治体DXサービス専門子会のコニカミノルタパブリテック株式会社がありますが、こちらも我々と同様に泥臭くDX化を進めています。
自治体DXと言いますと「業務に使えるツールを作ったので使ってくださいね」という会社も多いと思います。しかし、我々は市役所に飛び込んだうえで、まずは見える化をし、そのうえでデジタル化をしつつ、自治体同士をつないでプラットフォーム化もするという流れを組んでおります。
山口氏:AccurioDXでも、自治体との取り組みが進んでいます。
まだ公表には至っておりませんが、イメージとしては、自治体とつながると共に、自治体とつながっている地域や企業から地域内外へ発信されるコンテンツを、画一的な内容からOne to Oneコミュニケーションへと変革する支援をしております。
コミュニケーション変革を行う場合に大事なのは起点、というお話もありましたが、メッセージを増幅させていくためのパートナーづくりも重要となってきます。そこを意識しながら、現在は地元の大学との域学連携も進むなど、活動の幅も更に広がってきました。
※域学連携…大学生と大学教員が地域の現場に入り、地域の住民やNPO等とともに、地域の課題解決又は地域づくりに継続的に取り組み、地域の活性化及び地域の人材育成に資する活動。
今後はAccurioDXでも更に、デジタル印刷を活用しながら、自治体の皆様のお困りごとを支援出来ればと思います。