ドコモショップから見えるデジタルデバイド問題の実態 -前編-[現地ルポ]

ドコモショップから見えるデジタルデバイド問題の実態 -前編-[現地ルポ]

我々は「解消できない問題」に向き合っているのか

2022年6月、編者はデジタル行政でも過去に何度か採り上げた医療MaaSの取材のため、静岡県浜松市春野地域に来ていた。同地域は「春野医療MaaSプロジェクト」の実証エリア。残念ながら多忙とのことで浜松市役所への直接の取材は断られてしまったが、せめて現場だけでも見たかった。

4月、JR西日本は利用客が少ない17路線のローカル線の2017年~2019年度の営業赤字が年間平均で約248億円だったと発表した。また、7月には国土交通省の有識者会議が、利用者が一定数を下回る路線について、関係機関が改善策を協議することを提言したことが話題になった。今、経済産業省や国土交通省が財政的な後押しでMaaSの実証実験を行っているのは、地方経済の衰退や地域コミュニティの喪失という極めて困難な課題を目前としながら、その解消手段として自動車の多機能化に一縷の望みをかけているからだ。

我々、自治体関連の仕事に携わる者は頻繁に「まちづくり」という言葉を耳にする。しかし、ここ春野地域は「まち」というよりは「集落」といったほうが近いのではないか。周辺を2 時間ほど散策しても、買い物施設はなく、自動販売機を3 台ほど見かけた程度。近隣のお年寄りに聞けば、週 1 回の農協による訪問販売以外は、バスを利用しなければ買い物をする手段がないという。立ち寄った古民家カフェのオーナーは住民の足について「だいたいの住民は車を持っている。ただ、80 歳、90 歳を超えたお年寄りは乗れないからね。」と話した。春野地域にはキャンプ場があるため、休日には家族連れやバイク好きの若者が観光に訪れる。観光という観点からは長閑で良い立地でも、社会生活という観点では過酷な一面も持つ。タクシードライバー曰く「若者はみな浜松市に引っ越してしまう」らしい。

静岡県浜松市春野地域の街並み(撮影:シード・プランニング)

こうした現状を見ると、ふっと頭によぎってしまうのである。「そもそも過疎化という社会問題は解消ができるのだろうか」と。仮に十分な買い物施設があったとして、医療施設があったとして、この地で生まれた子供たちは、大人になってこの地を選ぶだろうか。ひとたびインターネットを検索すれば、煌びやかな都会の風景が映しだされ、SNSでは引っ越した友人が高層ビルの何階かで大きなプロジェクトを任されている。画面からそうした情報が大量に流れる現代にあって、「人が集まるところにさらに多くの人が集まる」という誘因を誰が止めることができるだろうか。

超高齢化社会に起因するデジタルデバイド問題にも同じ疑問が生じる。デジタルデバイドとはデジタル技術を扱うことができる人とできない人との間に生じる格差のことを指す。総務省が公表する「デジタル活用支援推進事業の今後の展開に向けて」によれば、総務省は令和4年度、高齢者等に向けたデジタル活用支援を目的とした「デジタル活用支援推進事業」に25億円の予算要求をしている。もし、シニア世代が積極的に”デジタル”に取り組んでもなお、スマホやタブレット端末を十分に使いこなせない場合、こうした施策は意味を成さないことにならないだろうか。

デジタルデバイド問題に向き合う企業を訪ねて

9月にドコモショップ丸の内店を訪問した。NTTドコモをはじめとした通信キャリア各社はショップ内で「スマホ教室」を運営している。スマホ教室とは主にシニア世代を対象にした、キャリアショップ等でスマートフォンの使い方が学べる講座のこと。ドコモの場合、一部有料講座もあるが、多くは無料で何度でも受講ができる。まさに世代間のデジタルデバイド問題の中心地といっていい。

ドコモショップ丸の内店はJR有楽町駅から徒歩1分程度の場所にある。日本でも有数の繁華街だが、店内に入るとゆったりと奥行きを感じさせるレイアウトなのが印象的だった。展示されているのはスマホやタブレット端末のみではない。VRの体験エリアやデバイスレンタルサービス「kikito」の紹介など、展示会さながらに製品・サービスが並ぶ。

一昔前まで、キャリアショップは「ケータイショップ」と呼ばれ、文字通り携帯端末を購入する場所だった。しかし、端末も消費者ニーズも多様化し、キャリアショップが求められるサービスは変わった。NTTドコモは21年に発表した中期経営計画のなかで「ドコモショップは、お客さまのDX活⽤⽀援など、ICTサポート拠点として新たな価値提供へとシフト」と、その役割の変化について触れている。

スマホ教室が行われるエリアは店の奥に設置されていた。ひとつのモニターを中心に机と椅子が半楕円形にそれを囲うようにセットされている。取材当日にスマホ教室を受講していたのは1名。取材の許可をいただくついでに話を聞くと、すでに高齢であるが自身で会社を経営しているとのこと。普段からスマホを利用しているが「まだすべての機能がわかっているわけではない」と、さらに便利に利用したいという動機から受けたそうだ。

講義をする竹内氏。(撮影:シード・プランニング)

「小さい『っ』はどうやって打つの?」

フリック入力で小さい「っ」を打つ場合、「つ」を打ってから小文字に変換する必要がある。この点がわかりづらかったようだ。さて、若者が普段使用しているUIと仕様が異なる端末を手に取ったとき、どのような行動に出るだろう。おそらく、とりあえずどこかのキーをタッチして、『つ』が小さくなるのはどれか、試してみるだろう。もし間違えていればdeleteすればよいし、何等かの原因で元に戻せなくとも「再起動すればよいだろう」などと考える。
思えば昭和の家電製品の一部には「やってしまっては取り返しのつかないこと」があった。買ったばかりの製品でも箱を開けたときにタブが折れてしまったり、画面が割れてしまったり。今のお年寄りがトライ&エラーに抵抗があるのも不思議ではない。

こうした感覚について80歳代で独自にシニア向けスマホアプリ「hinadan」を開発し、2017年のイベントでAppleCEOのティム・クック氏から「世界最高齢のアプリ開発者」と紹介を受けた若宮正子氏は自身の著書で以下のように語っている。

1970年代、ぼつぼつあちこちの会社などで見かけるようになった「コンピューター様」は、「関係者以外立ち入り禁止」という札がかかったオフイスの一室を占領していました。入室を許されても「スリッパに履き替えろ」と言われたり、コンピュータールームには重役室より先に冷房が入っていたり……。とにかく重役さんよりも偉い、近寄りがたい存在でした。ですから、初めて手にしたスマホを「おっかなびっくり」扱うのは、当然なのです。(若宮正子「老いてこそデジタルを」より引用)

スマホは「直感的に操作がわかる」という前提で操作説明書を用意していない。しかし、直感は経験が育むものだ。デジタルの経験が多くないお年寄りにとって優しくない面がある。

講義終了後に竹内氏に話を聞いた。シニア世代がゼロからスマホの操作を覚えるのに、どの程度の期間を要するのかという質問に同氏は「個人差はあるが、概ね3か月程度では。」と答えた。スマホ教室は無料で何度でも受講することができるため、同じ講義を何回か受ける受講者も少なくない。そうした反復を繰り返して、3か月でようやく十分に習得ができるという。また、半数程度の人は幾度もの受講を通して十分に操作方法を理解したと言える水準までスマホ操作を習得するようだ。

同氏はまた、「シニア世代にスマホ操作を教えるのは、どのような点が難しいか」と問う質問に対し、「大人数に教える場合には、最も遅い人にペースを合わせる必要がある。そのため講義全体が長時間になってしまう場合がある。」と答えた。せっかく来てくれた受講生を、習得が遅いからといって、ひとりを置き去りにはできない。講師として至極当然である。一方で、こうした考え方に既視感はないだろうか。

「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」

新型コロナウイルス感染症の影響で急速に社会要請が強まったデジタル化。21年9月、こうした機運の後押しでデジタル庁が発足した。一方で止まることがない高齢化との葛藤の狭間で、妥協点を探るかのように政府が打ち出したキャッチコピーがこれだ。東京のど真ん中、丸の内でシニアと向き合う一人の講師が抱える葛藤。これはマトリョーシカの内と外、日本社会の縮図とは言えまいか。

【注】
店内の内装や展示に関する写真、描写は取材当時(22年9月)のものです。現在では変更されている可能性がございますのでご注意ください。

取材:デジタル行政 編集部 横山 優二