市区町村へのヒアリング調査に見る「書かない窓口」の活用効果[コラム]

市区町村へのヒアリング調査に見る「書かない窓口」の活用効果[コラム]

TKCは今春、当社の基幹系システムを利用されている6団体の協力を得て「書かない窓口」(当社製品名:TASKクラウドかんたん窓口システム)の活用効果についてヒアリング調査を実施した。

その結果、2月に全国でスタートした「引越し手続オンラインサービス(引越しワンストップサービス)」において、「書かない窓口」を組み合わせて転入手続きの完全デジタル化を図っている市区町村では、引越し手続オンラインサービスのみを利用するところに比べて、処理時間の削減効果が2倍以上となったことがわかった。

執筆:株式会社TKC
自治体DX推進本部 営業企画部 特別編集チーム

調査背景

総務省は、『地方公共団体における行政改革の取組』(2023年5月公表・URL)で「窓口業務改革」について触れ、「行政手続きは、対面の紙申請から非対面のオンライン申請にシフトするとともに、非対面のオンライン申請では対応が難しい住民を中心に対面でも「書かない」申請にすることが求められ、地方自治体の窓口業務改革の動きが多く見られるようになった」と述べている。

特に、書かない窓口の普及は顕著で、「窓口DXSaaS」構想なども追い風となって、 “行かない・待たない・書かない”サービスの導入は今後一段と加速することが想定される。当然、これらを支援するシステム・サービスも、利用者(住民や事業者、自治体職員)がさらに便利になるよう進化する必要がある。

このような観点から、TKCでは市区町村における窓口業務改革の推進に資することを目的として、当社基幹系システムの利用団体(約170団体)を対象に「引越し手続オンラインサービス」に関するユーザー調査を実施し、うち6団体の協力を得て詳細なヒアリング調査を重ねることで、転入手続きにかかる「書かない窓口」の活用効果および今後に向けた課題点を明らかにすることを試みた。

住民・職員の負担軽減が期待される「引越し手続オンラインサービス」

いま、「書かない窓口」が注目されている。背景には、届出・申請ごとに何度も氏名や住所などを記入しなければならないなど行政手続きにかかる「住民の負担軽減」に加えて、窓口業務の「職員の負担軽減」や業務に不慣れな職員でも住民個人やその世帯に必要な手続きを適切に案内できる「業務の適正化」への期待がある。

その活用効果が分かりやすい窓口サービスの一つが、転入・転居・転出など引っ越し関連の手続きだ。

現在、引っ越しをする際には、住民は転出元の市区町村に出向いて転出証明書を受け取り、転入先の市区町村に出向いて転入届とともに提出する――など、転出元・転入先の窓口に何度も出向かなければならない。一方、市区町村においても、転入にかかる住民登録や付随する一連の事務(国民健康保険、児童手当など)の処理に多くの時間を要している。

そうした現状を解消しようというのが、デジタル庁が進める「引越し手続オンラインサービス」だ。行政手続きだけでなく、ライフライン(電気・ガス・水道)などの民間事業者も含めた「引っ越しに伴う各種手続き」をオンライン上で一括して行えるようにすることを目指す。その第一弾として、2023年2月6日から全ての市区町村でマイナポータルを通じて「転出する市区町村(転出元)への転出届の提出」や「転入する市区町村(転入先)への転入予定連絡の提出」が可能となった。

サービスの仕組みを示すと図表1のようになる。

1.「申請者(引っ越しをする住民)」がマイナポータルから転出元に「転出届」を提出すると、転入先にも「転入予定連絡」情報が送信される。

2.「転出元」では、申請者から受け取った転出届の情報を住基システムに取り込み、異動処理の後に住基ネットワークを経由して「転入地」へ「転出証明書」情報を送信する。

これにより、マイナンバーカードを保有している申請者(住民)は、①原則、転出元の市区町村へ行かずに転出の手続きができる、②マイナポータルを通じて転入先で必要な手続きが確認でき、手続き漏れを防止できる――ようになった。

なお、転入先に提出する転入届は住民基本台帳に記載される情報であり、これを基礎として行政事務が行われることから、引越し手続オンラインサービスを利用した場合でもこれまでどおり対面による手続きが必要となる。

この点、転入先の市区町村では、申請者が窓口で転入手続きをするにあたって、電子データで受け取った「転出証明書」や「転入予定連絡」を用いて事前に必要な準備を行えるようになった。

このように住民の負担軽減とともに、市区町村では窓口・バックオフィス双方の業務効率化が期待される引越し手続オンラインサービスだが、調査の結果、転入先の市区町村において転出証明書などのデータを窓口業務でも活用するところはまだ少数派で、多くの市区町村が「アナログ/デジタル混在」で転入手続きの処理を行っている現状が浮き彫りとなった。

デジタル完結型ならば、処理時間は従来比の43.4%減に

ヒアリング調査には、TKCの基幹系システムの利用団体のうち、「TASKクラウドかんたん窓口システム」を活用して書かない窓口を導入している3団体、未導入の3団体、計6団体にそれぞれ協力をいただいた。

その結果明らかとなった転入手続きにかかる一般的な処理フローと、それぞれの工程にかかる平均的な処理時間を図表2に示す。

なお、ここに記載した「書かない窓口導入団体」とは基幹系システムとデータ連携して転入手続きにかかる一連の処理をデジタルで完結しているケースで、一方の「書かない窓口未導入団体」はアナログ/デジタル混在で処理しているケースだ。

転入手続き処理の運用フローを見ると、書かない窓口導入団体では、①住基システムに届いた転出証明書の情報を書かない窓口に連携、②申請者が窓口を訪れた際にはタブレット等で内容の確認・修正を行う、③申請者に電子サインをしてもらう、④窓口で修正した内容は、住基システムに反映される――という流れになっている。

一方、書かない窓口未導入団体の場合は、①受け取った転出証明書の情報から転入届を印刷する、②申請者が窓口を訪れた際に紙の転入届で内容の確認・修正を行う、③申請者に署名を手書きしてもらう、④住基システムに手で入力する――という流れとなる。これについては調査に協力いただいた3団体に限らず、引越し手続オンラインサービスのみを利用する団体では同様の運用フローとしているところが少なくない。中には、処理の混乱を回避するため「引越し手続オンラインサービスで申請した住民も、これまでどおり転入届の用紙に手書きしてもらう」というところもあった。

転入手続きにかかる処理時間を見ると、いずれの場合も引越し手続オンラインサービスによって時間削減につながっていることが分かる。

具体的な処理時間としては、これまで転入手続きにかかっていた6団体の平均処理時間(30.6分)に対して、未導入団体の場合は25.1分(18.0%削減)で、一方の導入団体では17.3分(43.4%削減)とより高い削減効果が見られた。

これを工程ごとに細かく見ると、特に両者の差が大きいのが転入届の「内容修正・確認」で、未導入団体では1件当たり6.3分かかっているのに対して導入団体は1.8分と3倍以上の開きとなっている。

また、「対象者の検索」でも2倍以上の差となった。要因として、書かない窓口を利用する場合、マイナンバーカード等から氏名や住所などが自動転記され、申請した対象者を自動検索する仕組みのため検索の手間がかからないことが挙げられる。

なお、住民基本台帳の更新では両者に違いは見られなかった。これは、今回ヒアリング調査に協力いただいた団体はいずれも転出証明書情報の精度が比較的高く、システムの更新作業がほとんど発生しなかったためと考えられる。

サービスが始まったばかりということもあり、今回、調査対象とした団体では引越し手続オンラインサービスの申請件数は多いところでも月間500件程度だった。だが、マイナンバーカードの普及によりサービスの利用者は来年以降増えることが想定され、書かない窓口の活用効果はさらに高まるものと考えられる。

アナログ/デジタル混在型で聞こえてきた住民の不満

今回のヒアリング調査では、職員に自由記述回答を求めるアンケートも実施した。

そこで挙げられた主な意見を図表3にまとめた。

これを見ると、書かない窓口導入団体では転入届などを「書かない」ことが住民にとって“満足できる体験”となっている様子が伺える。一方で、書かない窓口未導入団体では、やはりアナログ/デジタル混在型の処理に起因する住民の不満(オンライン申請したのに手書きをする、事前に連絡した情報が手続きに反映されていない、など)が目立つ。

不満足と評価した住民はサービスに期待しなくなり、その結果、他の行政手続きのオンライン申請利用にも悪影響を及ぼしかねないことから、これら“住民の不満”の解消へ早急な対策が必要といえる。

なお、住民は「書かない窓口」の利用効果をどう感じているのか、参考までに兵庫県伊丹市が今年2~3月に書かない窓口を利用した市民に向けて実施したアンケート結果(130名以上が回答)を紹介する。

市によれば、全体の88%が手続きにかかる「負担が軽減した」と回答したそうだ。

また、「(手続きにかかる)時間が短縮した」という回答は89%となり、全ての世代が書かない窓口の効果を感じていることが明らかとなった。さらに、よくなった点として最も回答が多かったのが「手書きが不要になった」ことで、「タブレットの利用」や「手続き案内が便利」なども半数以上の方が評価したという。

このことから、書かない窓口に対する住民の評価や期待は高いことが分かる。

だが、書かないことに満足している住民もいずれその感動は薄れていくことから、書かない窓口を導入して終わりではなく、利用者(住民や事業者)の視点で継続的な改善が必要であろう。

総括と今後の展望

さて、今回のヒアリング調査を総括すると、引越し手続オンラインサービスで転入手続きにかかる一定の業務改善は進んだが、期待された効果という点ではまだ限定的といえるだろう。

特に、引っ越しの際には、転入届と合わせて国民健康保険や児童手当などの手続きを行う住民が多い。

この点、引越し手続オンラインサービスでは、申請時の入力内容に応じて必要な関連手続きがマイナポータル上に表示され、転入予定連絡とともにその情報が転入先に送られる仕組みとなっている。だが、転入先の市区町村がこの情報を使うかどうかは任意で、調査結果からは「転出予定表の確認にかかる運用ルールが定着していない」などの理由により、これまでどおり住民に申請書を記入してもらう団体が多いことも明らかとなった。

なお、今回の調査では引越し手続オンラインサービスを対象としたが、書かない窓口の活用範囲は福祉やおくやみに関する手続きなど多方面にわたり、これらの窓口サービスでも業務効率化やサービス品質の向上を実現する有効な手段となりえるものだ。

ただ、その実現方法は地域特性や団体の考え方によってさまざまで、「これでなければならない」という決まった形があるわけではない。書かない窓口はあくまでも手段であり、大切なのは利用者の視点から業務改革を進めていくことだ。

そうした先進的な取り組み事例を、TKCのホームページ(URL)で広くご紹介している。事例記事は順次拡大しているので、ぜひ参考にしていただきたい。