わずか半年でのデジタル化!―大川市×DMMによる「待たせない」住民サービスの実現―[インタビュー]

わずか半年でのデジタル化!―大川市×DMMによる「待たせない」住民サービスの実現―[インタビュー]

福岡県大川市は、2022年4月1日から「Grafferスマート申請」と「大川市LINE公式アカウント」の運用を開始した。前者は、市役所に出向くことなくオンライン申請で住民票などが郵送で届くサービス。後者はチャットボットを通じて市民への情報提供を行うものである。また、各種オンライン申請はLINEからもアクセス可能となっている。


「これまでデジタル化が遅れていた」と自ら語る大川市。そんな同市だが、昨年に合同会社DMM.comをパートナーに迎えたことで、急速にデジタル化への舵を切り始めている。


同市が本サービス導入に至った経緯や課題意識、今後の展望について、大川市役所 企画課 緒方 千治氏、西田 直光氏、貞富 光氏、合同会社DMM.com 地方創生事業部 片山 尊氏、小野 孝氏にお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 渡辺 龍)


プロジェクト開始からリリースまで半年のスピード導入

―今回協働でプロジェクトを進めることになった経緯をお聞かせください

西田氏:元々は、市長がDMM.comの村中CEOと話をする機会があり、そこで市が抱えている問題意識を話したことが一番のきっかけになります。その後DMMの片山さんともいろいろな話をするうちに、地域活性化起業人制度(※1)で一緒に進めていければいいのではないかということになり、DXアドバイザーとして大川市に来てもらうことになりました。

※1 三大都市圏に所在する企業等の社員が受入自治体に派遣され、地域活性化を図る取り組みに従事する制度


片山氏:DMMは創業者が石川県加賀市の出身で、会社も加賀市で起業しています。元々が地方出身の企業ということで地方に貢献したいという思いは会社としても強いです。また、当社は何かの事業に固執しないで常に新しいものを作り続けるというのが社員の共通認識になっており、地域課題の解決も1つの事業としてニーズがあるのではないかと捉えています。そういったことから大川市様にお邪魔させていただくことになりました。


―市が抱えていた問題意識とはどのようなものだったのでしょうか

緒方氏:デジタル化が遅れており、書類を1つ請求するにも手続きが煩雑でした。また、窓口に来られた方を待たせてしまうことも多く、手続きの煩雑さは職員の仕事にも影響するので、市民も職員もお互い良くなるためには何とかデジタル化を進めていかなくてはいけないと日頃から思っていました。


小野氏:もう1点、市民の方にどう情報を伝えるかということも大川市様の課題でした。全国の自治体で公式LINEの導入件数は増えてきていますが、大川市様はLINEアカウントを導入されていませんでした。そうした中で、LINEを通じた広報が幅広い世代に情報を届けられる手段だという結論に達しました。また、LINEを構築するのであれば、書類申請の手間の問題もあわせて解決していくのが望ましいということで、これらをあわせて開発、導入したという経緯になります。なので公式LINEは広報ツールと行政手続きのオンライン申請の2つの機能を持っています。2021年10月から起業人制度で取り組みを開始し、12月には意思決定、その後の開発期間を挟み最終的に4月1日にサービス提供に至りました。


―意思決定まで3ヶ月、リリースまで6ヶ月というと非常にスピード感があるという印象です

西田氏:DXを進める上ではスピード感を意識しないと取り残されてしまうという思いがあったので、DMMさんの良い提案はどんどん採用していきました。これはすぐやりましょうということで市長にも話をして進めていきました。


貞富氏:市長のほうでもLINEを使って何かしようという思いは以前から持っていました。Grafferについても企画部門だけでなく、現場の職員からもこういうサービスを使いたいという要望はありました。そういった点で庁内調整がスムーズにいったのではないかなと思います。また、Grafferを導入している市が近隣にあり、実際の画面を見せてもらうなど参考にさせていただけたので、始める際の工数は少なく済みました。


―役所内に新たなものを取り入れる際は、少なからず抵抗感もあったのではないでしょうか

緒方氏:確かに今までのやり方に縛られてしまう場面も時折あるのかなとは思います。ただ、DXに関しては、プロジェクト開始前から、市長・副市長を含めた係長級以上の全職員にDXの研修を実施して意識づけを行っていました。それにより庁内が同じベクトルを向いて取り組めたのかなと思います。


閉庁時でのオンライン申請で時間に縛られない環境を実現

―実際に本サービスではどのようなことができるのでしょうか

西田氏:まずはオンライン申請として、窓口に来ていただかなくても各種書類が入手できます。今のところは「住民票の写し」「戸籍謄本・抄本」「戸籍の附票」「除籍謄本・抄本」「独身証明書」「印鑑登録証明書」「所得証明書・課税証明書・非課税証明書住民票」の7つが対象です。LINEに関しては、「新型コロナ」や「防災」といった各種情報を提供しています。市のサイトのトップページから目的の情報を見つけ出すことは難しいこともありますが、LINEだと欲しい情報に簡単に辿り着けるので非常に使い勝手はいいと思います。


―サービス導入からの反響はいかがでしょうか

西田氏:オンラインでの申請数は想定より上回っています。当初は月に10件程度を想定していましたが、結果としてこれまでに累計で60件近い利用があります。郵送申請の場合だと、本人確認書類の不備が時折発生していたのですが、オンライン申請の場合はマイナンバーカードで本人確認をするので不備がありません。上がってきた申請に沿ってそのまま出力をすればいいので、職員の作業も非常に楽になりました。今後、申請数がさらに増えれば、市民にとっても職員にとっても楽になっていくという実感があります。また、オンライン申請は、実際に利用された方が評価できるという仕組みもあり、その評価も5点満点中4.5点と、非常に便利だったという声が上がってきています。


小野氏:5月31日までのデータなのですが、閉庁時間中に申請をされた方が半分以上いるというのも特筆すべき点です。これまで開庁時間に縛られていた体制から閉庁時間でも時間を気にせず申請して、各種書類が取れる環境が実現できたことは非常に大きなメリットだと感じています。


―DMMさんとお仕事を進めていて、感じたことはありますか

貞富氏:これまでは仕事を委託するという発注・受注の関係が多かったので、今回のような伴走するスタイルというのは珍しいのかなと思います。


西田氏:民間企業の方が役所の中に入ってくるというのは、大きな刺激になっています。我々だけで「これから変わっていこう」と号令をかけてもなかなか伝わりづらいものですが、外からの視点で提案を受けると、深く考えるきっかけになります。そういう意味では委託事業でなく伴走スタイルは非常に良かったと思います。大川市と同じ目線で仕事を進めてもらっている点が、職員に一番響いているという気はしますね。職員間でも「今度DMMさんはいつ来るの?」「来たときにあれを聞こう」といった会話も見受けられます。実際にいろいろとアドバイスもいただけているので本当に助かっています。


X(トランスフォーメーション)を浸透させ、市民の利便性を向上させる

―今後はどのようなサービス展開を予定しているのでしょうか

小野氏:3ヶ年計画を立てているのですが、現在取り組んでいる「行政の変革」はファーストステップにあたります。次に、セカンドステップとして「暮らしと仕事の変革」、さらにサードステップで「街全体の変革」という流れになります。その中で1つ1つの業務効率改善など小さなことを積み重ね、最終的に行政から街全体へデジタル推進を広げていくというのが全体の概要です。


片山氏:直近の計画を1つお伝えすると、公式LINEのアップグレードを予定しています。アンケートの回答や被災時の状況報告などを市民の方から発信いただくことで、自治体と市民の双方向でのコミュニケーションが取れる環境を目指しています。

(資料提供:合同会社DMM.com)


―自治体のデジタル化を進める上で、重要になってくることはなんでしょうか

片山氏:年配の方との距離をどう考えていくかは、これからの5年10年の課題になってくると思います。現在LINEでの広報活動をスタートさせましたが、しばらくは従来の紙媒体と並行しての運用が必須になってくると思います。デジタル化に向けてのスピード感は意識しつつも、その波に上手く乗れない方の存在も考慮しながらDX化を進めていく必要があるということは常に感じています。


緒方氏:DXを進めるにあたってはもっとタイムリーに物事を伝えていくということが必要だと思います。その中で、市民と役所双方がお互いに情報をやりとりできるようにしたいと考えています。市役所の働き方改革も重要です。昨今、人的リソースが減っているのに対して仕事量は格段に増えてきています。それをDXで変えていきながら、市が提供するサービスの質を保っていく時期に入っていると思います。また、DXという言葉でいうと「D(デジタル)」よりも「X(トランスフォーメーション)」の方が重要だと思っています。このXの部分を全職員に浸透させ、少しでも変わろうという考えを持ってもらうために、今年度は一般職員を含めた全ての職員にDXの研修を行う予定です。そこで意識づけをして、最終的に市民の皆様の利便性向上に寄与できるような業務運営を進めていきたいと考えています。