高山市が進めるデジタル行政―おくやみ窓口で「動かない」「待たない」「書かない」を実現―【インタビュー前編】

高山市が進めるデジタル行政―おくやみ窓口で「動かない」「待たない」「書かない」を実現―【インタビュー前編】

岐阜県高山市は、死亡に伴う市民の行政手続きを1か所の窓口で効率的に行うことができる「おくやみ窓口」を導入した。おくやみ窓口の導入により、関係部署間の情報共有が活性化されるとともに、市民・職員の手続き時間が半減されるなどの効果が生まれた。同市の総務部行政経営課行政経営係の山田雅彦係長にお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)

なお、本インタビューは2部構成となっており、後編では高山市のデジタル化について取り上げる。

※ 後編はこちら(URL)。

1か所の窓口で複数の手続きに対応

―自己紹介をお願いいたします。

山田氏 今の部署で9つ目になりますが、情報政策・システム関係の業務には10年ほど携わっており、庁内におけるAIを活用した各種ツールやRPAやkintone、LoGoフォームの導入・活用などを行ってきました。

現在の係ではDX推進や行政改革も担当しながら、選挙の時期でしたら選挙業務を、災害が起きれば災害対応など、やりがいを持ちながら幅広い業務にあたっています。

―高山市では、死亡に伴う市民の行政手続きについて「おくやみ窓口」を設けて対応していますね。こちらはどのようなサービスになるのでしょうか。

山田氏 死亡に伴う行政手続きは、8つの課、56の手続きに及びます。おくやみ窓口はそれらの手続きを1か所の窓口で簡単に済ませられるものとなり、2021年の3月1日から正式にスタートしました。1日4枠までの事前予約制を取っており、市民にとって「動かない」「待たない」「書かない」窓口を目指し、運用しています。

受付の具体的な流れとしては、葬儀屋さんなどから死亡届が市役所に提出され、それを我々が受理をしたタイミングで、市役所から「おくやみ手続きハンドブック」をお渡ししています。そのハンドブックを、ご遺族の方に葬儀屋さんから手渡していただきますが、そのハンドブックにはおくやみ窓口の連絡先も掲載していますので、それを読まれたご遺族から、市役所へご連絡をいただいています。

受付は2営業日目以降からとなっていますが、予約受付後は速やかに担当の部署でkintoneに予約者の情報を入力していき、当日の予約時間までに、関係課はプレプリントし各種書類を用意しておきます。その後、当日ご予約者が窓口にいらっしゃいましたら、職員がリレー方式で次々と対応をしていくことになります。

「おくやみ手続きハンドブック(URL)」

データを蓄積し更なるサービス向上目指す

―おくやみ窓口の導入後、どのような効果がありましたか。また、市民からの反応はいかがでしょうか。

山田氏 おくやみ窓口の導入以前は、一連の手続きは1件あたり平均90分かかっていましたが、現在は平均46分で全ての手続きを完了出来ているので、約半分の所要時間となりました。また、おくやみ窓口をスタートさせてから行った利用者アンケートでは、「何から手を付けて良いのか全く分からなかったので、とても助かった」など、8割の利用者に満足をいただくことが出来ました。

そのほかには、kintoneを使うことにより、予約日時(来庁時間)や予約者情報などを、関係課で迅速に共有出来るようになったのは大きなメリットだと考えています。また、入力された情報はデータベースとして蓄積されていくので、蓄積したデータをもとに、市民サービス向上のための分析を行うことができます。よりよいサービス提供のために、深く分析を行い関係課に共有を図っていきたいと考えています。

―おくやみ窓口の導入にあたっては、庁内でどのようなプロセスを踏んでいったのでしょうか。

山田氏 市役所の業務改革を進めていくために様々なトライアルをkintoneで進めていたなか、おくやみ窓口が近隣の市でも話題になっており、「これなら高山市でも出来るのではないか」という話が部内で起こったことがきっかけとなります。

その後、まずは部内でkintoneアプリを作成したり、情報セキュリティ関係の検討も行いました。話が進んでからは、死亡に伴う手続きの全庁的な調査やワーキンググループの開催など関係各課とともに協力し、進めていきました。

このように、市民サービス向上のために一つの課ではなく複数の課で、同じ目標に向けて検討していくことが出来たのも、高山市にとっては非常に良い事例となりました。他の市役所も同様かと推察しますが、市役所業務においては、自身の課の業務の専門性を高めるあまりに、自身の課と他の課の仕事を明確に区分してしまいがちです。より良いサービスを市民に提供していくためにも、今後も関係課が互いに協力していく事例を増やし、それが当たり前となる空気感を作っていきたいと思っています。

―今後、おくやみ窓口で予定しているアップデートなどはございますか。

山田氏 現在はリレー方式で窓口対応を行っていますが、リレー方式だと前の課が対応している間、次の課の担当者は自分の番が来るまで待機している必要があります。

リレー方式の採用は、おくやみ窓口のために専門職員を新たに配置するのが予算上厳しかったという理由はありますが、持続可能な取組みとなるよう、利用していただく市民の方だけでなく、対応する職員の負担も考慮したいので、職員の増員など、工夫を凝らし、前向きに調整を図っていきたいですね。