業務にシステムをではなく、システムに業務を合わせる―行政DXに求められるシステム要件の逆転思考

業務にシステムをではなく、システムに業務を合わせる―行政DXに求められるシステム要件の逆転思考

自治体・公的機関向けにシステム開発サービスを展開する株式会社シナジー。同社は全国で初めてLGWANに接続するリモートワークシステムを開発し、沖縄県庁への導入も果たした。長年行政に対してシステムを導入してきた同社の直近の取り組みや、行政がシステム導入において求められる考え方などについて、代表取締役の下地勝也氏に話を聞いた。

※LGWAN=総合行政ネットワーク(Local Government Wide Area Network)の略で、地方公共団体の組織内ネットワークを相互につなぐ回線。高度なセキュリティを維持しており、これまでは外部からのアクセスができなかったが、株式会社シナジーは全国で初めて運営団体である地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の認可を得た。

(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)

行政の共通課題を解消するソリューション「ActiveCity」

―シナジーの事業の概要をお聞かせください

下地氏 取引先は全国の県庁や地方自治体で、財務会計、文書管理、グループウェアなど、いわゆる内部情報システムの開発・運用を行っています。また、沖縄県にデータセンターを設け、LGWANのホスティング・ハウジング・ASPのサービスも提供しています。

―自治体などの公的機関におけるシステムの利活用で共通する課題はありますか?

下地氏 自治体や公的機関では、システム間連携が考慮されないまま、財務会計システムではA社、人事給与システムではB社など、機能ごとに別々のベンダーのシステムが導入された経緯があるところが多く、システム間の連携が難しくなりがちです。このため、例えば年度末には人事異動となると、各システムにSEが張り付いて一斉に作業することになります。自治体の人事異動情報は年度末ギリギリにでたりするので、年次更新作業も日程的に厳しく長時間労働につながりやすくなります。

当社はそういった課題に対するソリューションとして、ActiveCityという統合基盤のサービスを提供しています。ActiveCityは全ての業務システムをシームレスに連携できる統合基盤で、アプリケーションもデータセンターに置けるため、集約して年次更新作業が可能です。

ActiveCity イメージ図

全国初のLGWANに接続可能なリモートワークサービス

―全国で初めて沖縄県庁にLGWANに接続可能なリモートワークサービスを提供されました。県庁にリモートワークサービスを提供するきっかけを教えてください。

下地氏 もともと内部情報システムを沖縄県庁にサービス提供をしていました。また、県庁がデータセンターを活用したビジネスモデルを推進していきたいということで、当社のデータセンターも公設民営型で運営しています。そのお付き合いのなかでご提案を受けました。

―導入で苦労した点はありますか?

下地氏 行政のみなさまにとって、リモートワークの仕組みを導入することはそれほど大変ではないものの、むしろ導入後にどう運用していくかという仕組みづくりにおいて、苦労されることがあると思います。県庁の場合、恐らくは直接住民の方々が訪ねて来ることは少ないですが、その一方で市町村の職員の方々が直接訪問することも多いため、連鎖的に県庁職員の方々も現場に来ることになる。それをリモートに切り替えるのは時間もかかるし、大きな意思決定が必要になります。政府でも行政のデジタル化を訴えていますが、そうしたトップダウンでの号令が重要になることでしょう。

―沖縄県庁からの、貴社システムに関する評判はいかがですか?

下地氏 LGWANの回線は太くないので導入前は遅延を心配する声もありました。しかし、導入後は若干のラグがあるものの作業には支障は出ず、慣れれば問題ないとの声をいただいています。

これは沖縄県庁ではありませんが、他の自治体によっては同じような機能をもつリモートワークサービスに年間何億と支払っているケースもあります。当社はそれと比較すると何十分の一というコストですので、コストパフォーマンスには自信があります。

―当システムにおける改善点や残された課題はありますか?

下地氏 リモートワークサービスの導入だけでは、抜本的な働き方の変化は起こりづらいです。やはり現場で人が対応しないといけないということを解消する必要がある。当社はその課題への対応として、オンライン上で問い合わせ対応ができる仕組みを構築しています。例えば初期的な相談や問い合わせはLINEで住民の方々と職員間でやりとりをして、不足する部分はテレビ会議システムで対応する、という形式です。これは21年2月にリリース予定です。

機動力で実現する「誰にでもわかる」

―貴社の行政向けシステムのUIにおいて工夫をされてることがあれば、お聞かせください

下地氏 自治体や公的機関は民間以上に職員の方の年齢もITリテラシーも様々です。「誰にでもわかる」仕様であることが重要であると考えており、その思想をUIに活かしています。

例えば日本製テレビのリモコンについているボタンの数はとても多いですね。それに比べてAmazonのfiretvstickについているボタンの数は5、6個です。それでも十分に操作できる。ああいった仕様をイメージしていただくとわかりやすいと思います。

システムを業務にではなく、業務をシステムに合わせる

―自治体の職員の方々に向けて「システム開発はこうすればうまくいく」というアドバイスはありますか?

下地氏 システムを業務に合わせて構築するのではなく、業務をシステムに合わせるという考え方で既存の業務プロセスを変更していくほうが運用は安定すると思います。RFPをいただくと、細かい操作性の部分が要件になっているケースがあります。しかしより重要なのは機能の本質。ここをしっかり捉えられるとよいシステムになると思います。ベンダーはシステムを構築することにどうしても目がいってしまう。業務面までしっかりケアをしてくれるベンダーさんを選ばれることが肝要です。

―最後に、行政をデジタル化することの社会的な意義をどうお考えでしょうか?

行政がデジタル化することによって日本全体のITリテラシーは上がります。また仕組みを簡素化すればコストも下がるし利用率も上がる。そういったことを通して我々も微力ながら社会に貢献していきたいと思います。