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病気になっても住めるまちへ―宿毛市・大井田病院「SUKUMOオンライン医療実証事業」 [インタビュー後編]

病気になっても住めるまちへ―宿毛市・大井田病院「SUKUMOオンライン医療実証事業」 [インタビュー後編]

前編では「SUKUMOオンライン医療実証事業」について宿毛市長である中平氏に話を聞いた。本実証事業において、検証の現場となっているのは宿毛市南西部にある大井田病院だ。後編では、現場で事業をけん引する大井田病院院長の田中公章氏に話を聞く。

(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)

多職種連携により、医師が「日常」を観察する体制へ

―地域医療の課題について現場からのご意見を聞かせてください。

高齢化と医療へのアクセシビリティへの課題は日頃から感じています。糖尿病や高血圧症など定期通院を要する疾患にも関わらず、通院が継続されないケースは少なくありません。薬の処方もできていないことを意味するため、患者さんの身体にとって悪影響となってしまいます。

こうした現状を解消しようと、市ではコミュニティバスを運営し、我々大井田病院も訪問診療を行っています。しかし、医師不足の影響もあり、十分な医療を届けるために苦労が多いのが現状です。

―具体的に患者さんはどのようにオンライン医療を利用するのでしょうか?

患者さんご自身がスマホやタブレット端末を通じてWeb通話を行う「オンライン再診外来」と、コミュニティナースがタブレット端末を持ち、患者さん宅に訪問し、介助しながらオンライン診療を行う「オンライン訪問診療」の2つの診療メニューを検証しています。

大井田病院では介護施設をグループ経営しており、以前からケアマネージャーやコミュニティナースの方々と連携をとりながら、患者さんを診ていました。そこにオンライン診療のサービスを付加することで、遠隔から医師が診療できるようにしたのが「オンライン訪問診療」です。

「オンライン訪問診療」を再現した場面。通話の手配を介護関係者がサポートする。

コミュニティナースとは、「病院や福祉施設、訪問看護に従事する看護師と異なり、地域の中で住民とパートナーシップを形成しながら、その専門性や知識を活かして活動する医療人材のこと」(「コミュニティナースPJ」HPより)を指す。大井田病院では院内に「地域連携相談室」という相談窓口を設け、コミュニティナースが各家庭へ定期訪問を行う。
オンライン診療の普及率は15%程度とされている。そのなかでケアマネージャーや看護師と緊密に連携をしながら活用しているケースは全国的にも極めて稀だ。

―患者さんからはどのような声が届いていますか?

本実証事業では患者さんに受診後のアンケートをいただいています。患者さんからは「待ち時間がなくてよい」「(新型コロナウイルス感染症の)感染リスクが少ない」「ずっと続けてほしい」など大変好評をいただいています。特に「オンライン訪問診療」は患者さんにとって非常にメリットが多い診療形態だと感じています。

―医療従事者の方々にはどのような影響があるのでしょうか?

「オンライン訪問診療」においては、医師に求められる能力が変化していくでしょう。外来診療や通常のオンライン診療と違い、コミュニティナースの方々を通して患者さんの住環境や食生活などの情報も得られるようになる。介護の目線からも患者さんを観察する必要が生まれ、必然的に多職種連携の能力が求められるようになるのです。例えば医師がコミュニティナースからの意見を無視して自分たちの考えのみで診察してしまうようでは、より良い医療を提供できなくなります。

一方で、医師にとって時間が効率的に利用できる側面もあります。従来必要だった移動時間がなくなり、その時間で別の患者さんを診察することもできるようになります。

課題を乗り越え、宿毛市で住み続けられるための医療

患者からの評価は高く、医師の生産性向上にもつながる。これだけを聞くとオンラインの活用は医療機関にとってメリットが多いように感じる。しかし、既述したとおりオンライン診療の普及率は15%程度とされ、新聞等では「海外と比較して普及が遅い」との指摘もある。そこにはどのような課題があるのだろうか。

―オンライン医療普及の阻害要因はありますか?

取材に応じていただいた田中公章氏

オンライン診療サービスを利用するためには、スマホとクレジットカードが必須です。高齢化が進む地域においては、それがボトルネックになっています。当病院にて行ったアンケート(注:収集途中)では、75歳以上受診者のスマホ保有率は約20%、クレジットカード保有率は約13%です。オンライン医療のために新たに購入していただくわけにもいかず苦慮しています。

また、医療機関において収益となる診療報酬点数は、オンライン診療は対面診療と比較して点数が低いのが現状です。仮に診療報酬点数が同等程度だったとしても、事前予約を前提としたオンライン診療と、次々と診察ができる対面診療では、対面診療の方が多く患者さんを診ることができるのも事実です。病院経営が継続できなければ、医療サービスの提供はできません。制度上の課題があることも否定できないでしょう。

―大井田病院をどのような病院にしていきたいとお考えでしょうか?

我々はこれまで、質の高い医療を提供する、安全な医療を提供するということを追求してまいりました。近年は新型コロナウイルス感染症の影響で、医療を取り巻く環境は刻々と変化しています。このコロナを乗り越え、宿毛市の市民が病気になっても、怪我をしても、障害をお持ちでも、本市に住み続けられるような医療を提供していくことを大切にしていきたいと考えています。

そのために重要になってくるのが多職種連携の力です。これまでもケアマネージャーの方々、コミュニティナースの方々との連携を図ってまいりました。今後はデジタル活用を通じて、より一層つながりを強固にしていくことをテーマにしたいと思います。