デジタル行政について

「官民」から「官官民」へ―国と地方自治体をつなぐパイプがデジタル化を加速させる[インタビュー]

<strong>「官民」から「官官民」へ―国と地方自治体をつなぐパイプがデジタル化を加速させる[インタビュー]</strong>

組織論に「官僚制(bureaucracy)」という言葉がある。規模の大きい組織を統制するためのシステムで、安定性を重視した組織形態とされる。マックス・ウェーバーがこの概念を提唱したのが19世紀であることから、一時代前から行政への見方は現代と大きく変わっていないことがわかる。

官僚制のデメリットとして「組織の硬直化」が挙げられる。縦に長いヒエラルキーやクモの糸のように張り巡らされた規則が変化を阻害する要因となるのである。多くの場合、こうした硬直化は外部要因がなければ変化しない。会社においてはM&Aや急激な経営状況の悪化など、環境変化をテコに組織改革が行われる。

この硬直化を「自ら」打破することはできるのだろうか。

NPO法人「デジタルガバメントラボ」は、自治体におけるデジタルガバメントを推進するという目的を掲げ、

2020年1月に設立された。メンバーは現役の自治体職員が中心。行政のデジタル化に課題意識を持った職員が自主的に集い、研究会や書籍、ラジオの形式で情報発信を行う。

新型コロナウィルス蔓延の影響で、行政のガバメントに耳目が集まる昨今。組織を変えようとする職員から現代の行政はどのように映っているのか。同法人の代表理事である千葉大右氏に話を聞いた。

(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)

設立の契機はマイナンバー制度 ―課題意識を持った理事たち

―これまでのご経歴と現在の活動状況を教えてください。

1994年に船橋市役所に入所し、市民税課や戸籍住民課を経て、現在は情報システム課に在籍しています。また、2018年からは総務省の「地域情報化アドバイザー」へ着任し、2020年には「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」へ構成員として参加しています。

その後、2020年にNPO法人「デジタルガバメントラボ」を設立しました。主な活動として、自治体システムの標準化をテーマに講演やパネルディスカッションを行う「自治体システム標準化対応研究会」のオンライン開催、自治体の職員の方を招いてフランクに話をするポッドキャスト放送「気ままに自治体ホットキャスト」の運営などを行っています。また最近では“自治体システム導入の「そういうことだったのか」会議”と題した書籍を発刊しました。

―NPO法人設立の経緯についてお聞かせください

もともと近場の自治体職員同士で交流があり、定期的に勉強会を開催していましたが、他都道府県からより広く参加を募り、活動の幅を広げたいという想いに至りました。その方法として仲間内でNPO法人設立の話が盛り上がったため、半年程度活動内容などを検討したのち、法人を設立しました。実際に設立してみると、自治体職員とNPO法人の理事としての立場を使い分けながら、より広く情報発信ができるようになりました。

現在の他の理事らと知り合ったきっかけは、マイナンバー制度の導入です。マイナンバー制度は平成27年の10月から施行されましたが、業務を行う上での情報交換を目的に複数の自治体で交流会が開かれており、そこで今の理事らとのつながりができました。そのようなきっかけで集まったメンバーですので、皆デジタル化に対しての課題意識が強く、多くの方々に自分たちが持つ知見や想いを共有したい気持ちがあります。

自治体のデジタル化の現状と課題

―現在の自治体のデジタル化の現状はどのようにみていますか?

自治体では昔から「電算化」という言葉を使って、内部処理の効率化が図られてきました。そのため、すでにバックオフィス業務に関しては一定程度の効率化がされています。一方で、市民との接点にあたる書類の申請や窓口業務に関しては民間サービスと比較して圧倒的に遅れているとみてよいでしょう。自治体が業務を刷新するスピードは決して速くありません。5年前と今を比較して仕事の仕方はあまり変わっていないという印象です。

―デジタル化を阻害する要因はどのような点にあるのでしょうか?

役所は利益を追求する組織ではありません。定められた計画と予算に沿って、着実に業務を遂行する傾向が強く、そこから一歩踏み出して改善していくことにインセンティブが働きづらいという構造的な体質が、業務変革を進めるうえでのボトルネックになることはあるでしょう。

また、自治体のネットワーク環境は改善の余地があるとみています。自治体のネットワークは一般の方が利用するインターネットに加えて、「マイナンバー利用事務系」「LGWAN接続系」と三層構造になっています。セキュリティの観点からメリットもありますが、相互に分離されており、データの連携がとりづらいなど、効率の面では良くありません。また、LGWAN接続が主流のため、利用できるサービスが限定されるのもデメリットになります。現在、人事、財務会計の領域において、クラウド環境で稼働する魅力的な業務管理システムが世に出ていますが、それらの多くは自治体環境では利用できないのです。

義務?推奨?許容?任意?

行政のデジタル化のために省庁と自治体の緊密な連携は欠かせないだろう。しかし、両組織の間で日常的にどのような連携がとられているか市民からは見えづらい。日経新聞は2月18日付記事で、「通知」という行政文書の問題点を指摘している。通知は省庁が自治体へ業務を要請する際や、何らかのガイドラインを示す際に送られる文書であるが、法的な拘束力はなく各省庁の判断で送れてしまう。記事によればコロナ関連で送られた通知が900件以上にもなり自治体側が混乱したという。こうした報道ひとつをとっても、政府・省庁と自治体の連結部分に課題があることがわかる。デジタルガバメントラボはこのような課題に向き合うという。

―令和2年12月、総務省が発出した「自治体DX推進計画」のなかで、システムの標準化が重要施策に位置付けられています。

21年5月12日に「デジタル改革関連6法」が成立しましたが、そのなかで標準システムの導入が義務付けられているという点に、着目しています。これまでも「自治体クラウド」など、自治体間でシステムを標準化させる取組みはありましたが、その実施判断が各自治体での「任意」とされていたことで普及につながりにくくなっていた面があります。「義務」という位置づけになれば、より改革は進むでしょう。

―「義務」となったほうが、現場としては動きやすいものでしょうか?

これまで省庁から自治体への要請は、大まかな枠組みだけが用意され、運用に関しては「各地方の事情に合わせて工夫してください」という形が大半でした。こうしたやり方は自治体間の競争を煽る形になり、かえって質を悪くさせ市民の不満につながりかねません。

コロナ対応など日本全体で必ず行わなければならないことに関しては、省庁と自治体がしっかりとコミュニケーションをとったうえで、国が法律という下地を作り、一定の拘束力をもって推進するほうがよいでしょう。そのほうが自治体としては、余計なことを考えずに事務の執行に注力できます。行政のデジタル化も日本全体の課題になるため、国の舵取りに期待しています。

デジタルガバメントラボが果たす役割 つながる「官」と「官」

―施策を推進する際に、省庁と自治体がどのような連携をとっているかは一般には見えづらい印象です。

デジタル化に限らず、省庁から自治体への連絡事項は「通知」という形で行われます。これは一方通行のコミュニケーションに近いもので、事前に意見照会の機会はありますが、スケジュールが逼迫していたり、意見を出しても反映されないことが多くありました。その他にも市町村から都道府県へ、そして国へという形で、地方から国へ意見を吸い上げる仕組みはありますが、そうしたルートでの意見集約は詳細の部分まで現場の考えが伝わっていないことが多いのが現状です。

21年4月から政府・省庁職員と自治体職員との直接対話型のプラットフォーム「デジタル改革共創プラットフォーム」がオープンしました。担当者レベルで意見交換できる枠組みとして貴重な場になると感じています。

―デジタルガバメントラボはどのような役割を果たすのでしょうか?

行政組織の間の情報格差をなくしていく取り組みを進めていきたいです。特に地方の方々は、システムベンダーなどが訪問することも少なく、情報が入りづらい環境です。それを我々が研修会やその他コンテンツを通して情報交換することで役に立てるとよいと考えています。その際に重要なのは民間の方々との協力です。役所だけで考えてしまうと、どうしても発想に限界があります。

こうした取り組みは「官民共創」と言われますが、私は日頃から「官官民共創」と言っています。この官官は省庁と自治体で、それに民間が加わることで、日本全体がプレーヤーになっていきます。デジタルガバメントラボはこの官と官をつなぐ役割も担いたいと考えています。省庁の方々は責任が重く積極的な情報発信が難しい立場の方が多いでしょう。しかし、そこの情報を上手に拾って自治体で共有できれば大きなメリットがあるので、そのパイプ役になることでデジタル化に貢献していきたいです。