自治体の内部事務“デジタル完結”の一手、ペポルインボイス
TKCでは、2025年2月から約1カ月間、兵庫県多可町と共同で、市区町村における「ペポルインボイス」(*)の活用に関する実証実験を実施しました。
これは受領したペポルインボイスを財務会計システムに取り込み、伝票への自動転記・起票、電子決裁から支払いにいたる事務処理の“デジタル完結”の効果と、市区町村が導入するにあたり想定される実務上の課題とその対応策を検証したものです。
その結果、内部事務の効率化などの面でペポルインボイスの活用は有効であると確認できました。
*TKCでは、ペポルネットワークで送受信するデジタルインボイスのことを「ペポルインボイス」と定義しています
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急速に利用広がる「ペポル」とは?
「ペポル」とは、請求書などの電子文書をネットワーク上でやり取りするための国際的な標準仕様で、日本ではデジタル庁が日本版の標準仕様(JP PINT)を公開しています。ペポルインボイスとは、この日本版標準仕様に基づいたデジタルインボイスのことです。
なお、ペポルインボイスと「電子インボイス」や「デジタルインボイス」との違いは以下のとおりです。

ペポルインボイスを活用することで、請求書の送り手は印刷・封入・投函に係る作業負担や郵送コストを削減でき、受け手側では人の手を介することなく財務会計システム等にデータを容易に連携できるとともに保管・管理の手間も省けるなどバックオフィス業務の効率化が可能で、いま民間企業を中心に利用が広まっています。
地方公共団体では、未だ“紙”の請求書によるアナログな処理が中心となっています。しかし、「令和6年度の地方財政の見通し・予算編成上の留意事項等について」(2024年1月22日/総務省事務連絡)において、地方公共団体に対してペポルインボイスの積極的な導入が要請されました。これに加えて、昨今の〈バックオフィス業務のデジタル化〉の動きともあいまって、今後、市区町村でもペポルインボイスの活用機運が急速に高まっていくことが想定されます。
1.ペポルの仕組み
ペポルインボイスは、送り手と受け手がそれぞれのペポルアクセスポイントを利用して電子メールのように送受信する仕組みで、双方が利用するシステムやアクセスポイントが異なっていても、ペポルネットワークに参加する全てのユーザーとやりとりすることができます。

2.市区町村がペポルインボイスを導入するメリット
ペポルインボイスを活用することで、送り手(事業者)側では請求書発行にかかるコストと手間を削減でき、一方、受け手(市区町村)側も“紙”の請求書を受領・保管・管理する必要がなくなり、市区町村とその取引先事業者の双方で“デジタル完結”による業務の効率化や生産性向上につながります。
市区町村がペポルインボイスを導入する主なメリットは以下のとおりです。
(1)バックオフィス業務の効率化
ペポルインボイスには、適格請求書発行事業者の登録番号や取引先の名称、品名、単価、数量、取引金額など必要な情報が構造化されたデジタルデータ(XML形式)としてセットされています。PDFなどのイメージデータと異なり、記載事項をコンピュータが直接読み込むため、市区町村では、人の手を介することなく財務会計システム等にデータを容易に連携できます。
(2)保存漏れのリスクの削減
ペポルインボイスは市区町村宛に届く仕組みのため、担当者に電子メールで届く電子インボイス等とは異なり集中管理も可能で、データの保存漏れの心配がありません。
(3)保存するデータ容量は最小限
ペポルインボイスのデータは、構造化されたデジタルデータ(XML形式)のため、PDFなどのイメージデータの電子インボイスに比べてデータサイズが格段に小さく、請求書の受け手/送り手ともにデータ保管が楽に行えます。
ペポルインボイス活用の検証結果
今春、兵庫県多可町(町長:吉田一四/2025年6月1日現在人口1.83万人)と共同で、自治体におけるペポルインボイスの活用に関する実証実験を行いました。
その狙いは、実務面での“デジタル完結”の有効性や課題などを検証し、その結果を広く公開することで市区町村へのペポルインボイスの普及促進を図るものです。
実証実験では、主に以下の3点について検証を行いました。
①ペポルネットワーク(検証環境)を経由したペポルインボイスの受信の検証
②請求書データ(ペポルインボイス)の財務会計システムへの取り込み、および伝票への自動転記の検証
③運用面の課題点の洗い出し、解決策の検討 など

今回の検証結果は、以下のとおりです。
1.ペポルインボイス活用の有効性
多可町では、2023年からTKCの財務会計システムと電子請求書サービスとを連携しており、受け取った請求書データを財務会計システムに取り込み、伝票への自動転記・起票、電子決裁から支払いにいたる事務処理の“デジタル完結”に取り組んでいます。
今回の検証で、ペポルインボイスでも一連の事務処理をシームレスに行えることを確認できました。
また、ペポルは標準化された仕組みのため、相手が利用している電子請求書サービスを意識することなく請求書データをやり取りできるようになります。このことから、ペポルインボイス(請求書データ)を受領し、それを財務会計システム等に連携することで、事務負担軽減の大きな効果が期待できます。
2.実務上の課題
実務面では自治体特有の課題があり、今回の検証ではその対応策についても検討しました。対応策を検討した課題は以下の3点です。
(1) 請求書の宛名を「首長(市長・区長・町長・村長)」とする必要がある
(2) 請求書発行事業者の代表者の役職名、氏名を記載する必要がある
(3) 届いた請求書を担当部署に振り分ける必要がある
(1)と(2)は、各団体が規定する規則等で「請求書に必要な要件」として定められています。
また、(3)については、民間・行政を問わず請求書は〈取引が発生した担当部署宛て〉に送付されるのが一般的ですが、ペポルインボイスの宛先は個々の団体に割り当てられた「ペポルID」(法人番号/適格請求書事業者の登録番号といった公的な番号を使用)となるため、別途、担当部署への振り分け方法を考える必要があります。
検討の結果、これらの課題はJP PINTに規定された項目を適切に活用することで対応が可能との結論に至りました。ただ、いずれの対応策も請求書の送り手(事業者)側での設定事項となるため、市区町村がペポルインボイスを受領するには事前に事業者へ提示し、対応してもらう必要があります。
【主な課題と想定される対応策】

今後に向けて
さて、TKCは、財務会計システムなどを提供するシステムベンダーで構成される「デジタルインボイス推進協議会」(EIPA)の代表幹事法人として、ペポルインボイスの普及促進に取り組んでいます。2022年8月には、デジタル庁とペポルの管理団体であるOpen Peppolからペポルサービスプロバイダーに認定され、現在、当社が提供するペポルのアクセスポイントを利用して7,500社(2025年5月末現在)を超える事業者がペポルネットワークに参加しています。
デジタル庁は、地方公共団体への普及促進を狙い、希望する団体にはガバメントクラウドの利用料の請求をペポルインボイスで送ることにも対応しています。このことから、市区町村においても導入に向けて前向きな検討が求められているといえます。
多可町では、今回の検証を受けて「率先してペポルインボイスにも対応することで間口が広がり、ペポルインボイスも含めた電子請求を利用する事業者の割合が増えることを期待している」と述べています。
なお、TKCは今回の検証で明らかとなった実務上の課題とその対応策について、規模が異なる複数団体や関係省庁・機関などとも意見交換を行い、市区町村がペポルインボイスを導入する際のスタンダードな対応となるよう働きかけていく考えです。
国は、政府機関・地方公共団体、民間事業者のバックオフィス業務のデジタル化を進めるために“デジタルシームレス”の実現を掲げ、積極的にペポルインボイスの普及・定着を進めています。TKCとしても、市区町村や民間事業者向けにペポルインボイス対応サービスを提供するほか、さまざまな機会を通じて普及・啓発、理解促進をはかることでペポルインボイスの“受け皿”拡大に努め、経済社会全体でのデジタルシームレスの実現に貢献してまいります。
(執筆:株式会社TKC)
【参考】
国税庁「事業者のデジタル化促進」
https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/jigyousyadx.htm
デジタル庁「JP PINT」
https://www.digital.go.jp/policies/electronic_invoice
デジタルインボイス推進協議会
https://www.eipa.jp/