100年間ひとが増え続けるまち・富谷市で行われた子育て支援特化型AIチャットボットの実証実験[インタビュー]

100年間ひとが増え続けるまち・富谷市で行われた子育て支援特化型AIチャットボットの実証実験[インタビュー]

全国の自治体で導入が進んでいるAIチャットボット。聞きたいことを画面で選択、またはチャットボットフォームに打ち込めば、行政スタッフに代わってAIが回答してくれるシステムだ。

宮城県富谷市は、このシステムを子育てに特化した「子育て支援AIチャットボット」という形で導入し、実証実験(期間:2月16日~3月15日)を行った。地方では珍しい人口増加が続くまちで行われた本取り組みの詳細を、富谷市産業観光課 主査 髙橋嘉人さん(2024年3月時点)に伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 町田 貢輝)

子育てに関する市民の疑問に24時間回答してくれる「子育て支援AIチャットボット」

――自己紹介をお願いいたします。

富谷市産業観光課で、起業創業支援関係の業務を行っている髙橋嘉人です。産業観光課は、産業と観光という幅広い分野を扱っている課でして、今回の「子育て支援AIチャットボット」の実証実験も産業観光課で取り扱わせていただきました。

――「子育て支援AIチャットボット」の実証実験を行った経緯を教えてください。

富谷市では、おためしイノベーションTOMIYA2023(*1)という実証実験プロジェクトを行っています。今回の「子育て支援AIチャットボット」はその一環で、株式会社ビースポーク様と共同で行いました。AIチャットボットを導入するにあたり、どの分野で実証実験を行うか検討した結果、富谷市の特徴である子育て世帯が多いこと、AIチャットボットのような新しいシステムも、若い世代なら使ってもらえるのではないかと思い、子育て支援に特化した形で、実証実験を行いました。

(*1)地域課題や行政課題に対して、民間のサービス・テクノロジーの活用による最適な解決策・サービスを実証実験として行う取り組み。

――利用者は多かったのでしょうか。

非常に多かったですね。先日、中間報告会を行ったのですが、「子育て支援AIチャットボット」には、1カ月間で600件以上のアクセスがあったと報告を受けました。株式会社ビースポーク様は、他の自治体でも同様の事業を行っているのですが、同人口規模で子育てチャットボットを利用している自治体と比較すると、富谷市では倍以上の方にご利用いただいた結果となりました。

――質問項目を30項目に絞った理由を教えてください。

項目を絞った方が、市民の皆様にわかりやすい情報発信ができると考えたからです。ビースポーク様に他の自治体で質問頻度が高かった項目を抽出していただき、その質問項目と、市への問い合わせが多かった内容を照らし合わせて、30項目に絞りました。AIチャットボットは、明確な回答をあらかじめ入力しておかないと、利用者が混乱する回答をしてしまいます。結果的にではありますが、質問項目を絞り、しっかりとした回答を準備する作業を行ったことで、業務の整理にもつながりました。問い合わせの多い内容も把握できたので、業務改善に活かしていこうと考えています。

入庁11年目、富谷市産業観光課は3年目の髙橋嘉人さん

実証実験でわかったデジタル化への課題

――実証実験で課題は見つかりましたか。

先にも申し上げた通り、今回の「子育て支援AIチャットボット」は多くの市民の皆様に利用していただきました。「子育て支援AIチャットボット」では、『こういった場合は、○○窓口に相談してください』と、回答するようにしていたため、適切な窓口への誘導が可能になり、対応窓口への相談件数が1.5倍になったとの報告を受けました。ただ、相談件数が増加した一方、相談の予約方法が電話のみのため、職員の業務量がそれほど変わらなかったのは、改善するべき課題であると考えています。今回の実証事業では30項目に質問内容を絞り、短い実証期間で実施したこともありましたので、今後本格導入を目指していく上で、トータルでデジタル化を進めていく必要性を認識いたしました。

「子育て支援AIチャットボット」の画面。項目をタップしていけば、どこの窓口に相談すればいいのかを教えてくれる。
 

――今回の実証実験は3月15日まででしたが、結果の公表時期、再導入は検討されていますでしょうか。

結果の公表時期は未定です。まずはビースポーク様に検証していただき、その結果を確認しながら、市でも検証作業を進めます。600件以上のアクセスがあったことは、皆様に求められているサービスだったと個人的には感じております。その辺り、市民の皆様の声、職員の声も集めながら、総合的に判断し、再導入を検討していこうと思います。

より多くの方に住み続けたいまちと言われるために

――富谷市は東北版住み続けたいランキングで3年連続1位(*2)を獲得し、今後も人口の増加が予想されています。年々業務量も増えているのではないでしょうか。

おっしゃる通り、人口増加に伴い行政の業務量は年々増えています。ただ、職員の数には限りがありますので、その部分は「子育て支援AIチャットボット」のように、デジタル化をしていかなければなりません。今回の実証実験を通して、AIチャットボットは転居や税金など、子育て以外の分野でも有効活用できる道筋が見えてきました。担当職員からの反響もよかったので、その辺りのことも踏まえながら、実証実験の検証をしていくつもりです。

(*2)大東建託株式会社が発表しているランキング。富谷市は2021年から3年連続で1位を獲得(東北版)

写真は富谷市役所。富谷市は大東建託が発表している同ランキングの街に誇りがある(自治体)ランキング、街の住みここち(自治体)ランキングでも1位を獲得している。

――担当職員の皆さんからも好評だったのですね。

はい、課題も見つかりましたが、担当職員たちからはおおむね好評でした。担当職員たちからは、日本語だけでなく、英語や中国語といった多言語化対応を希望する声も多く出ました。富谷市周辺には、トヨタ自動車東日本や東京エレクトロン宮城といった工場があり、近隣の大衡村には、台湾の半導体メーカー・PSMC(*3)が工場を建設することも決まりました。台湾から100人以上の方々が富谷市を含めた近隣地域に来られるというお話も伺っています。外国人労働者の増加に、行政も対応していかなければなりません。その解決策のひとつとして、多言語対応のAIチャットボットの活用を考えていきたいと思います。

(*3)力晶積成電子製造股份有限公司。大衡村工場の運用開始は2026年初頭を予定している。

――富谷市のデジタル化の状況について教えてください。

富谷市は、公共施設のオンライン申請が最近可能になったなど、徐々にデジタル化の動きが出てきました。しかし、行政としてもう少しスピードアップしていかなければなりません。行政のデジタル化は、利用者への周知はもちろんのこと、職員間の理解を得るのにも時間を要する現状がありますので、今回のような実証実験を積極的に行い、職員の意識改革を行い、デジタル化を加速させていきたいと考えています。

――利用者、職員の双方が納得した形で、デジタル化を進めていくことが大切ですね。

行政システムは、誰もが使えるというのが大前提です。しかし、デジタル化は避けて通れません。なので、まずは若い世代に行政のデジタルサービスを体験してもらい、その検証ができたことは、意義深いと考えています。今回の実証実験を基に、老若男女問わず安心して使える行政システムを、市として考えていきたいと思います。より多くの人に住み続けたいまちと思ってもらえるように、市民に寄り添ったデジタル化を推進していきます。

富谷市まちづくり産業交流プラザTOMI+。起業家の一面も持つ現富谷市長・若生裕俊(わこうひろとし)が塾長を務める起業・まちづくり塾「富谷塾」の拠点でもある。
富谷市ビジネス交流ベース。愛称は荷宿(にやど)。ビジネス用のワークスペースを備えた施設。 現在シェアオフィス利用者を募集中。