• TOP
  • 記事
  • 【シリーズ医療MaaS】戸田...

【シリーズ医療MaaS】戸田市と医療法人慈公会公平病院、連携協定締結

【シリーズ医療MaaS】戸田市と医療法人慈公会公平病院、連携協定締結

埼玉県戸田市と医療法人慈公会公平病院は、誰も取り残されない医療・福祉・地域連携を目指し包括連携協定を締結した。公平病院が運用する医療MaaS(ヘルスケアモビリティ)を活用し、地域の医療機関が社会的処方を実施できる仕組みづくりを進めていく。

2022年7月13日、戸田市役所で当該連携協定の調印式が行われた。当日はあいにくの雨であったが、市関係者、公平病院関係者、報道機関らで会場は多くの人で溢れていた。調印を行ったのは戸田市市長である菅原文仁氏と公平病院の院長である公平誠氏。連携機関のトップ同士がデスクを挟み正式に調印を行った。

調印を行う公平病院院長 公平誠氏(左)、同病院事務局長 狩野宗紀氏(右)

健康のカギは「SDH」と「社会的処方」

その後行われた会見では菅原市長より当該取組みを実施する背景について説明があった。市長が訴えたのは戸田市の健康寿命の現状、そしてそれを改善する必要性だ。戸田市は65歳健康寿命が埼玉県平均と比較して、男性では約1年も短い。また、前期高齢者一人当たり医療費は県内で最も高い。同市は当課題解消への有効な手段として「SDHを踏まえた社会的処方」に着目したという。SDHとは経済的困窮や社会的孤立など、健康に直接的な影響を与える社会的背景のことを指す。また、社会的処方は、医師がSDHを踏まえて福祉や地域と連携して、介護予防活動などの非医療的な社会資源につなげることを意味する。

実証実験では医療MaaSを活用した社会的処方を実践する。医療MaaSとは医療用の専用車にオンライン診療システムやバイタル測定機器などを搭載して活用する取組み等を指す。公平病院ではすでにフィリップス・ジャパンと開発した「ヘルスケアモビリティ」を保有している。同車両を活用し、オンライン診療を通じてSDHの状態をスクリーニングする。状態に応じて病院のソーシャルワーカーや地域包括支援センターのケアマネジャーと連携。サークル活動やサロン活動、食事サービスなど、非医療的な地域資源の利用へとつなげていく。

会見後は菅原市長がモデルとなり、簡単なデモを行った。

革新的な医療MaaS

デジタル行政では過去に多くの医療MaaSの事例を採り上げてきた。しかし、戸田市での取組みでは特徴的な点が2つある。ひとつは地域性だ。公平病院が行う取組みはDtoPwithN型というオンライン診療の一形態で、看護師が患者の側でサポートをしながら、遠隔で医師が診断するというもの。当形式を始めて実践した取組みは長野県伊那市「モバイルクリニック事業」だ。長野県伊那市の場合は、地域の高齢化や過疎化が深刻であり、当課題に対する解消策としてこの方法が用いられた。しかし、戸田市は伊那市と比較すれば人口は多く、高齢化率も高くない。こうした地域で医療MaaSが有効にワークするかの検証に前例は極めて少ない。

もう一つの特徴は実施主体が病院である点だ。医療MaaSは公益性の高いモデルであることから、市町村が実施主体であることが多い。既述した伊那市「モバイルクリニック事業」、青森市「あおもりヘルステックセンター」、つくば市「つくば医療MaaSプロジェクト」などは県や市が主導する。病院が単体で医療MaaSを運用する場合には、病院経営の視点が抜けては持続可能性が担保できない。現行制度では医療MaaSは車両で看護師が訪問する手間がかかるにも関わらず、オンライン診療としての項目しか算定することができない。長期的に運営可能なモデルなのかの検証も必要になるだろう。

欠かせない自治体のリーダーシップ

医療MaaSの取組みにおいて自治体のリーダーシップは欠かせない。個別の医療機関や民間企業が独自に展開しようと思っても、自ずと当該地域の医療政策や交通施策と関連するため、利害関係の調整が不可欠になるからだ。編者は長野県伊那市「モバイルクリニック事業」に関与したフィリップス・ジャパンやMONET Technologiesに取材を行ったが、口を揃えて「伊那市企画政策課の方々が強いリーダーシップをとった」と語った。

今回の調印式及び記者会見を通して、現場を知る公平病院が当実証にどう取り組むかはよく分かった。一方で、戸田市としての関与は不明瞭な点が多かった印象だ。これらの関係が整理されることで、よりよい形で実証が進んでいくことを期待したい。