システムベンダーが見る、ガバメントクラウドの風景-第2回 株式会社両備システムズ-[インタビュー]

システムベンダーが見る、ガバメントクラウドの風景-第2回 株式会社両備システムズ-[インタビュー]

現在、デジタル庁を旗振り役として、自治体情報システムの標準化とガバメントクラウドの構築・移行作業が実行に移され始めている。

従来、地方自治体が利用する様々な情報システムは、各自治体で個別に採用されて、独自にカスタマイズされてきた。また、同一自治体でも分野や事業ごとに異なるシステム対応をしている。この状況は、転入転出といった自治体をまたぐやり取りをデジタル化する際の障壁となるだけでなく、同一自治体内での情報共有においても課題となってきた。また、システムを活用した自治体サービスの好事例を全国に普及させ難いといった、国としての課題も現れている。

こういった状況に対処するため、デジタル手続法の制定を皮切りに、地方自治体が用いる基幹業務システムの標準仕様を国として統一し、それに沿ったシステムだけを地方自治体が採用していく取組みが、自治体情報システムの標準化である。あわせて、国としてのクラウド利用環境である「ガバメントクラウド(Gov-Cloud)」の整備が進められており、標準化したシステムを、このガバメントクラウド上で活用していくことが目指されている。

これらの改革は2025年度(令和7年度)までの完了を目指すスケジュールが国から示されており、時間的猶予は少ない。実現すれば地方自治体業務の大変革となる一大事業だが、システム提供者であるベンダーは事態をどのように捉えているのか。株式会社両備システムズにおいて、公共ソリューションカンパニーのカンパニー長を務める星埜圭吾氏に話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 倉根 悠紀)

地域活性化につながるビジネスは何か

―今回の自治体情報システム標準化やガバメントクラウドをどのように捉えていますか?
当社は、自治体情報システム標準化の対象となっているほぼすべての分野においてサービスをご提供しています。その中でも自治体様のシェアが高いのは、健康管理、滞納整理などの分野となっています。当社は、業務アプリの開発からサービス提供、運用におけるBPOまで、トータルにサービスを提供しており、今回のシステム標準化やガバメントクラウド導入における影響は大きいと考えています。

また、当社の特徴としてもう一点挙げますと、LGWAN回線(総合行政ネットワーク)を用いた自社のデータセンターからサービスをご提供していることがあります。データセンターに関しては、LGWAN上からお使いいただけるクラウドサービスもご提供しています。

現状は、当社のデータセンターからLGWANを通してサービスをご提供しており、そのインフラ部分の利用料をお客様からいただいています。ガバメントクラウドへの移行により、この収益はなくなるため、今後はガバメントクラウドに付随する、パブリッククラウドを利用したサービスやマイナンバーカードの利活用、自治体DXの重点事項等などの領域へのサービス展開にシフトしていく必要があります。

当社は、国による今回の一連の政策は、行政機関の改革として間違っておらず、支持していきたいと考えております。
一方で、日本全体や地方における経済発展にどのように寄与するのか、更に地域のベンダーがどういうビジネスに取組み、どのように地域を活性化させるのかといった側面も、検討されるべきことが多いと考えております。
地域におけるビジネスの発展や、地域としての特色の出し方が政策に盛り込まれて、より議論されるべきと考えています。

当社のような自治体様に向き合ってサービスを提供してきたベンダーとしては、自治体様向けサービスとしてどういうものが求められていくのか、自治体情報システム標準化やガバメントクラウドへの移行が達成された後についての政策としての構想に注目しています。

―具体的な対応はどのように進められていますか?

現在は、標準仕様書等の分析を行っており、一部実際の開発に着手しています。システム開発におけるリソースは概ね確保できおり、令和5年(2023年)夏以降に、標準化に対応したシステムをリリースする予定です。ただ、令和7年(2025年)が変更期限とされていますので、現行システムからの移行作業については厳しいスケジュールになるのではなかろうかと考えています。

システムの標準化がなされガバメントクラウドが導入されることで、自治体様の業務フローもシステムベンダーが置かれる市場環境も現在とは異なってきます。当社の注力領域もその変化に合わせていく必要があります。より具体的には、OEMによる提供を組み合わせ、自社開発は健康管理や滞納整理といったシェアが高いシステムに集中させていきます。まずは、令和7年(2025年)に向け、標準化に注力していきますが、ガバメントクラウドでは補えない業務について、BPOをどうしていくかや、人事給与等の自治体内部管理におけるシステムのコンサルティングも進める予定です。今後の更なる変化を見据えて注力していき、関連サービスも展開していきます。
 
たとえば、今後更に重要となる分野として、マイナンバーカードの利活用支援があります。当社でも新たな取組みを進めており、xID株式会社様がご提供しているマイナンバーカードに特化したデジタルIDソリューション「xID(クロスアイディー)」と連携しながら、オンラインにおける本人確認のための認証基盤を、当社のお客様にサービス提供していく予定です。複数の自治体様の共同利用や広域的にご利用いただく形の事業展開を検討しており、データ利活用の基盤を当社オリジナルで用意しようと考えています。自治体様が持っているデータと地域の民間企業が持っているデータの利活用を促す、地域としてのDX事業となります。自治体情報システム標準化やガバメントクラウドの導入は、市場環境の大きな変化を伴いますので、当社としては、公共のみならず準公共的な団体、または民間も関わるような分野へも注力分野を移していく必要も感じています。

―自治体情報システム標準化やガバメントクラウドに対する自治体様の反応はいかかでしょうか?

法制化されていることですので、各自治体様も概要はご存じです。しかし、当社が自治体様に実施したアンケートによる内容も踏まえると、システム刷新に向けて、どういった体制でどのようなスケジュールを組めばいいのか決めかねている状況かと思います。国からの財政支援との兼ね合いもあるので、具体的な予算についても懸念されています。

自治体様ごとの違いですが、規模が大きくなれば担当者がついていますが、規模が小さいと兼務となっており、多くの事務をこなす余力はないと考えています。これはシステム標準化に限った話ではなく、中小規模の自治体様では消化しきれない点もあるかと思いますので、そこを当社も取り組む所存です。

自治体様からのお問い合わせは順次回答しており、自治体情報システム標準化やガバメントクラウドに対して、当社として一定のスケジュールは組んでいます。しかし、各分野の仕様書やガバメントクラウドの具体的な運用方法など、未公表のことも多いため、今後定期的な情報提供や提案を繰り返していくことになるかと考えています。不透明な諸点から具体的な作業を進め難いところはありますが、今できることを自治体様とともに進めています。

「アフター標準化」を見据えたサービス展開

―自治体情報システム標準化やガバメントクラウドにおける課題を教えてください。
全体的な動向としては、令和7年(2025年)に向けた作業は、現状で各自治体様へ導入しているシステムベンダーが対応することになるでしょう。それ以降は、当社としてもシェアの高い分野に絞れば、比較的大きな自治体様にも新たにサービス提供する機会が得られるかもしれません。しかし、そもそも大規模な自治体様は複数の分野で異なるベンダーのシステムを採用しており、同一自治体内でのデータ連携も複雑になっています。そのため、同一自治体内での連携にも支障が出かねませんので、容易にはシステム変更できない可能性があります。対応としては、ガバメントクラウド上において各システムのデータ連携基盤が整備される必要があると考えています。

―システムベンダーとして、自治体情報システム標準化やガバメントクラウドを踏まえた今後の展望をどのようにお考えでしょうか?

自治体様と各ベンダーの関係は、当面は大きく変わらないと考えています。今回の一連の流れに合わせてのベンダー変更はあまり無いと予想しており、令和7年(2025年)までの標準化対応は現状のベンダー維持が趨勢と考えています。しかし、その後は、標準化された複数のシステムの統合や淘汰といったことが起こり、5年ほど経った令和12年(2030年)ごろにもう一度大きな変革の波が起きるのはないかと想定しています。そのため、アフター標準化を見据えた多様な展開を行い、シェアが高いものはより伸ばし、その周辺でのビジネスも拡大していきます。

当社は、アフター標準化のビジネスの一例として、セキュリティ関係に着目しています。グローバルセキュリティエキスパート株式会社と連携し、プロフェッショナルセキュリティ人材育成を目的とした「セキュリティエンジニア育成プロジェクト」を進めています。
システムのクラウド利用が進むことで、自治体DXにおいてもセキュリティを強化したいというニーズが増えていくと考えています。組織内外のネットワークを区別しない「ゼロトラスト」の考え方も広がってきています。
安心で安全なデジタル社会構築に貢献すべく、新たな領域の確立を目指して取り組んでいます。

また、電子契約や電子押印への取組みも不可欠です。自治体内部の事務作業のDX化の進展に対応したサービスのご提供にも進出していく所存です。標準化に伴い、自治体職員様の事務フローが煩雑になる可能性もあります。その改善のご支援に取り組むべきと考えています。

当社ではまた岡山県内を中心とした市町村を対象に、自治体DXを目指した研究会を立ち上げました。各市町村のDX推進担当者様に参画をしていただいております。お客様と一緒に新しいプロダクトや世界観を作っていこうという意気込みのもとで、様々な取り組みを行っております。

これらの取り組みにより、地域活性化、地域イノベーションを促すために、自治体DXやデータ活用といったサービスを展開していき、自治体情報システム標準化と自治体DXを2本柱として取り組んでまいります。