生成AIは自治体を救うか? 総務省地域DX推進室長とアンドドット代表が語るセミナーから見えてきたもの[開催レポート【後編】]
10月16日、デジタル行政とアンドドット株式会社の共催によるオンラインセミナーを開催。講師に、総務省より自治行政局行政経営支援室長 併任 地域DX推進室長 村上仰志氏、アンドドット株式会社より代表取締役 茨木雄太氏を迎えた。
自治体における生成AI活用の実態を知ることで、何を選択し、どう向き合っていくべきかのヒントを探る。
後編では、茨木氏のレクチャーより、行政における生成AIの活用法と業務変革の可能性をお伝えする。体系的にまとめられた活用の種類は必読。丁寧な解説から、それぞれの最適解が見つかるかもしれない。(デジタル行政 編集部 手柴史子)
※前編はこちら(URL)
Profile
アンドドット株式会社 代表取締役 茨木雄太
アンドドット株式会社では、生成AI活用によるDX化を支援する事業を展開。自社ソフトウェアに加え、生成AI研修事業開発、コンサル、新規事業の企画開発までを一気通貫で行っている。福岡県DXプロデューサー、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)協議員。(画像左)
なぜ生成AIはこれほど注目されているのか
茨木氏は、「生成AI はDX を実施するための施策の一つに過ぎない」と前置きしつつ、生成AIが業界を問わず、今もっとも注目されている理由について説明した。
・あらゆる業務で活用しやすいという汎用性
IT企業に止まらず、製造、小売り、不動産、自治体も含め、どのような業界、職種であっても 生成AI を使った生産性向上の可能性がある。
・効果の即効性
特に難しい設定の必要なく、チャット型生成AI であれば即日導入可能な点が大きな魅力。
・コストが圧倒的に低い
従来、例えば行政に生成AI 技術を組み込もうとすると数千万円、場合によっては数億円規模のがかかるが、LLM(大規模言語モデル)を始めとした技術は、汎用型モデルでカスタマイズも簡単でありながら、コストがかからない。一般消費者向けのサービスでは無料で提供されているものもある。
・IT能力をあまり必要としない
マクロを使ってRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を自動化するなど、専門性がないと難しいものと異なり、ITスキルがなくても活用できるものが多い。自然言語による指示で業務効率化できる点もポイント。
こうした背景から、「これまでDXに出遅れていた業界にも、生成AIはすんなりと入っていっている」と茨木氏は話す。

生成AI 活用4種の効果と課題
茨木氏は、生成AI活用を大きく4つのカテゴリーに分けて説明。それぞれの効果と課題を示した。
① チャット型生成AIツールの活用
ChatGPT、Google Gemini、Microsoft Copilot など。
汎用性は高いが、インパクトのある効果をもたらすものではなく、日々の業務の中に小さく細く入ってくるようなイメージ。
課題は、一人ひとりに学習コストが発生する点。また、組織全体の風土を変えるには時間を要する。
② 業務特化生成AIツールの活用
資料や議事録作成など、特定の業務をアシストしてくれるもの。
導入後すぐに効果が得られるものの、ツールごとに機能やポリシー、価格が全く異なるため、選定にコストがかかる。あるリサーチ会社の報告によると、毎月1,000個以上のツールが登場しているため、選び難い状況でもある。
③ 業務プロセスを生成AIに置き換え
ツールの利用ではなく、既存の業務プロセスを洗い出して生成AIに移行。初期コストはかかるが、抜本的開発から業務改善を目指すもの。
特定の業務を全て自動化するというアプローチのため、非常にインパクトが大きい。しかし、開発コストがかかる点がデメリット。ただ、複数の自治体が類似の業務に対する開発費を共同調達できれば、抑えることができると考えられる。
④ 新規価値創出
業務の効率化というより、サービスの価値を高めて競争優位性や満足度を高めていくもの。法人の新規事業のイメージで、市民サービス向上などが期待できる。
課題は、③と同様開発コストがかかること。
「生成AIを活用しようと一言で言っても、①から④のどれを指しているのか定義されずに話が進んでいくケースが非常に多い」と茨木氏。どの部分を取り入れ、どこに工数を割いていくのか、しっかりと決めた上で推進していくことが必要だと強調する。

生成AI活用法の具体例
企業でも自治体でも、①②から始めるところが多いというが、それぞれの活用方法にはどのようなものがあるのだろうか。
① チャット型生成AIツールの活用
茨木氏は、次の7つの活用方法があると定義する
- 文章生成……………………エクセル関数も含まれる
- 考案・立案…………………新しいアイデアの創出(新規事業タイトル、メール件名、オンボーディング資料など)
- 書き換え……………………文章Aから文章A′への変換(難解な文章から易しい文章も可能)、言語翻訳、要約、整文や毛羽取り、
- 評価…………………………契約書のレビュー、ソースコードのチェック、SEOのスコアリング
- 定性的な分析・分類………アンケートや口コミなどの分析(緊急度の高いものの抽出も可能)
※データから売上や来場者予測をするといった定量分析には適さない - 情報検索……………………単語、How to、コンテキストなどの検索
※何らかの説明から用語を提示することもできる(Google検索では見つけづらい) - 対話…………………………雑談、壁打ち、英会話、ロールプレイ、コーチングなど
これらをDX推進担当者など現場レベルでしっかり押さえておくと、自分に合った活用方法を発見できるという。「ワークショップでは日頃の業務を振り返って書き出してもらいます。1 から 7 番に当てはまるものは全て生成AI で効率化できる業務です」
特に行政ならではの使い方として、地域イベントの企画を一例に挙げる。進行台本、広報アイデアおよび文章校正、議会の想定問答、発注仕様書の作成、アンケート集計など、さまざまなポイントでの活用が見込まれる。
② 業務特化生成AIツールの活用
茨木氏によると、議事録作成 AI 、資料作成の AI、ラグシステムと言われる庁内規定検索AIなどが、最近非常に増えてきている。
また、チラシやバナーといったクリエイティブなコンテンツの作成、市民からの問い合わせの自動化ツールなどにも徐々に利用され始めている。
③ 業務プロセスを生成AIに置き換え
調達仕様書の作成を例にとってみると、チャット型 AI と何度もラリーを重ねて作らせることはできるが、最終的に自治体のフォーマットに直さなければならない、市場調査をしなければならないといったプロセスが出てくる。こうした業務に特化したツールを使って、包括的に生成AIに任せる仕組みだ。
議会の想定問答も同様で、過去のものを全て覚えさせ、トレンド情報まで盛り込んで作ってくれると茨木氏。
また、口頭での会話が多い窓口対応後の記入業務の自動化、プロポーザルや営業許可などを含む審査業務、SNSなどのパブリックコメントを分析して自治体の問題点を洗い出す、これらも生成AIに置き換えることができるという。
④ 新規価値創出
市民に対する新しいサービス提供といっても、それぞれの自治体に適した制度を見出すことは難しい。そうした検索を生成 AIに任せたり、行政に欠かせない申請書作成を支援するシステムを自治体側から用意したりが考えられる。
また、観光生成AIシステムも視野に入る。「インバウンドが多いところであれば、他言語ので観光案内をしてくれる、施設を検索できるなど、すでにいくつかの自治体で実施されています。横須賀市の『AI相談パートナー』も新たな価値の創出と言えるでしょう」
こうして①から ④ までを洗い出していくと、さまざまな事例が出てくる。前述したように、もし生成AIを使ってDXを進めていきたいならば、どこを選択し、その中で何をしていくのかを考える必要がある。「ロードマップを組み込むことも大切です。それによって、無駄のないDX推進や予算配分ができると思います」
始める前に押さえておくべきは
前編に登場した総務省より自治行政局行政経営支援室長 併任 地域DX推進室長 村上仰志氏は、「自治体の生成AI活用はまだまだ入り口」としつつ、「今年度末に自治体のシステムの標準化が大きな分岐点となり、私たちの想像の枠を超えて加速度的に進んでいくのではないか」と推測する。
大きな懸念は、生成AIの答えでは因果関係を説明できないという点。自治体職員が使う以上、住民に対しても議会に対しても説明責任が生じるからだ。
茨木氏は、「生成AIは、『吾輩は』の後には『猫』が続きそうという確率を計算して文章を作っているだけ。自然な文章は非常に得意でも、それが本当に正しいかは分かりません。研究はされていますが、根本的な説明は難しいのです。この特性を、内外に理解してもらう必要があると思います」と話す。
また、技術の進化に伴い、データクレンジング(生成AI が読み込みやすいようデータのフォーマットを整えたり、最新化したりすること)も、生成AIは可能にすると茨木氏は見ている。「データをきれいにしなくてもよしなに生成AIが読み取ってくれるようになるので、別のところに工数を割いて欲しいと思います」
シンギュラリティ(技術的特異点=AIが自身で改良を繰り返し人の知能を上回る転換点)はいつ来るのか?との問いには、「現状ではまだ人のチューニングを要しているし、ロボティクスなどフィジカル側が追いついていないので、見当がつかない」と答えた。
最前線で情報を得ている茨木氏にも予測できない未来だが、インターネット検索が一般的になったように、生成AIが世の中でスタンダードになる日はそう遠くないと思われる。今大切なのは、定義し、理解し、適切に使えるかどうかだろう。