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生成AIは自治体を救うか? 総務省地域DX推進室長とアンドドット代表が語るセミナーから見えてきたもの[開催レポート【前編】]

生成AIは自治体を救うか? 総務省地域DX推進室長とアンドドット代表が語るセミナーから見えてきたもの[開催レポート【前編】]

10月16日、デジタル行政とアンドドット株式会社の共催によるオンラインセミナーを開催。講師に、総務省より自治行政局行政経営支援室長 併任 地域DX推進室長 村上仰志氏、アンドドット株式会社より代表取締役 茨木雄太氏を迎えた。

自治体における生成AI活用の実態を知ることで、何を選択し、どう向き合っていくべきかのヒントを探る。

前編では、村上氏のレクチャーより、自治体におけるDXの背景と意義、フロントヤード改革、AIの利活用についてお届けする。(デジタル行政 編集部 手柴史子)

◾️Profile

総務省 自治行政局行政経営支援室長 併任 地域DX推進室長 村上仰志
2002年、総務省入省。各所勤務を経て、2018年4月茨城県総務部長、2021年7月内閣府野田大臣秘書官(地方創生担当)、2023年7月総務省大臣官房広報室長を歴任し、2025年7月同自治行政局行政経営支援室長へ就任。地域DX推進室長も併任している。(画像右)

DX基盤は有効に使われているのか?

村上氏が所属する自治行政局行政経営支援室は、地方行革に携わる部署。その改革プランは近年、大きく変化している。地方自治体の常勤職員数の大幅減を見込み、その中で効率的な行政を叶えるために、民間委託の推進、ICTの活用に力を入れてきた。

「昔は定数削減で人を減らしてきましたが、担い手不足が深刻化しています。そのため、デジタル技術を活用したBPRへと急速にシフトしています。世の中の流れもまさにその通りだと、現職に就いて痛切に感じています」

自治体常勤職員数の推移(平成6年~令和5年) ※村上氏資料より

予測よりも出生数はさらに減少傾向。「危機的状況」にある。2025年現在は、団塊ジュニア世代(40代後半から50代前半)がボリュームゾーンで、中核となって組織を支えているが、2040年頃、その世代が退職する頃の新規入庁者は3分の1ほどしか見込めない。他方、地方自治体の仕事量は増加、かつ行政需要は多様化。職員の負担をDXや外部委託で緩和することができないか、各自治体が試行錯誤している。

自治体における経営資源の制約 ※村上氏資料より

しかし、DXがたやすくないことは、例えばマイナンバーカードの実情から見えてくる。

人口の約8割がマイナンバーカードを保有、オンライン申請もシステム上では受け付けられる状態にありながら、実際の使用率にはかなり濃淡があるという。

「例えば図書館やスポーツ施設の予約などにはよく使われていますが、住民のライフイベントに関わる子育て関係、介護関係ではまだまだ浸透していません。基盤は整っているのにオンライン化が進んでいないのが課題です」

それでも、増えていく事務量をいかに自動化し、職員がそこに業務量を割かないでいられるかどうかは、DXにかかっている。

大阪府泉大津市では、所轄の事務部類ごとに業務量を確認し、申請の受付、確認、審査決定、帳票作成、入力など、外部委託の可能性を洗い出した。

「人じゃないとできない仕事ってたくさんあるんですよ、とよく言われるのですが、定型的な業務(青い点線箇所)は、オンライン化で人の手を減らせるはずです」

大阪府泉大津市(人口約7万人、職員390名)における事務分類ごとの業務量 ※村上氏資料より

フロントヤード改革の意味

村上氏が目指して欲しいと推奨するのが、自宅からでも窓口でもオンライン申請にする形だ。紙とオンラインの併用型で住民利便性は向上しているが、オンラインが主流になれば、受け手側である自治体側の事務量が劇的に削減されると考えている。また、今年度末に迫っているガバメントクラウド移行は、バックヤードのデータ処理集約化、自動化を目的とするもの。フロントヤードとバックヤードとのデータ連携、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、AI導入などによって、さらなる内部事務の効率化が図れると見込む。

「こうして浮いた人的資源を、人にしかできない業務、きめ細やかな相談対応やアウトリーチ、あるいは創意工夫が求められる政策の企画、立案、意思決定などに向けることを念頭に置いています」

ただし、大規模な都市と小規模な町村では取り組みへの温度差があることも否めない。そのため、人口規模ごとのモデルプロジェクトを実施。

「窓口業務に携わったことのない職員の方に、あるライフイベントの申請を試して頂きました。どの課に立ち寄って何回名前を書いたのか、実際に体験してみると課題が浮き彫りになり、業務フローの見直し、システム導入への流れがスムーズです」

人口規模等に応じたフロントヤード改革の取組例に係る概算運用経費と効果の例 ※村上氏資料より

こうしたモデルプロジェクトの成果から、マニュアル手順書を作成。情報システム課だけでは難しい取り組みを各所の協力を得ながら改革していくため、全庁を挙げた推進体制のあり方、業務の見直しや標準化の方法などを盛り込んでいる。利用者目線に立ち、人口規模ごとに3種を作ったことで「分かりやすい」と好評を得ているという。

「20万規模の自治体でワンストップ窓口を取り入れようとすると、最初の地点で申請者の滞留が起きてしまいがちです。こうしたケースではリレー方式がより効果的です。一方、5万人規模になると、一つの窓口で全て完結できる可能性が高まります。ただそれなりの初期投資が必要になるので、マイナポータルの『ぴったりサービス』など、既存のサービスを活用することで金額を抑える提案も盛り込んでいます。財源措置も用意していますので、ぜひ積極的に利用していただきたいです」

2026度以降は、共同BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)も視野に入れていく意向だ。

従来AI、生成AIの利活用状況

自治体におけるAI(生成AI含む)・RPAの導入状況を見てみると、2024年12月時点で1,214団体が何かしらを導入しており、全体の約3分の2を占めている。

従来型のAIでは
・チャットボット(住民問い合わせ対応、庁内ヘルプデスク対応、観光情報提)
・音声認識(会議録作成、多言語翻訳)
・文字認識(申請書・調査票・アンケート読込)
・画像認識(道路損傷検出、固定資産調査、歩行者・自転車通行量の自動計測)
・マッチング(保育所入所)

RPAでは
・月間スケジュール通知作業
・財務会計における各部署の収支予定まとめ
・税務署からの申告データ申告受理
・メール自動保存
・各種システム入力作業

など、定型的な作業において、大幅な時間短縮や業務改善が明らかになってきている。

生成AIはどうだろうか。2023年の段階で、総務省の諮問会議資料にはまだ盛り込まれていなかった。

「当時はそれほど意識していませんでしたが、世の中の動きが先行し、ものすごい勢いで導入が進みました。2024年12月末までに、政令指定都市でほぼ100%、その他の市町村でも過半数が導入に至っています」

自治体における生成AIの具体的な活用事例(実証実験も含む)※村上氏資料より

利用事例としては、あいさつ文案・企画書案の作成や議事録の要約など、今の生成AIの強みである文章関係が主であるものの、2023年から2024年の1年間で利用数は倍以上に伸びている。

「SaaS(Software as a Service =サース) などのように簡単にサービスを購入することができるので、導入障壁が低い。最終的な人のチェックは必要ですが、生成AIは、我々人間がやってきたことを代替してくれているという感覚に近いところがあります」

各自治体の好例を紹介

一方で、情報管理に不安を感じるという声も少なくないため、香川県の事例が紹介された。香川県では職員が開発した生成AI「CatBot」用の「ナレッジDB(データベース)」に参照すべきデータを用意しているが、「参照はするが学習はしない」よう設定。また、質問の際「ナレッジに書かれていないことについては一切答えてはいけない」と命令文を追記することも徹底している。

生成AI利用における自治体のガイドライン策定状況 ※村上氏資料より

また、スペシャリスト以外の対応を可能にした静岡県湖西市を紹介。

専門性を持った職員にしか対応が難しかったIT調達仕様書の作成を、自動生成可能なアプリに任せることに成功している。

そのほか、山口県山陽小野田市では、LGWAN(総合行政ネットワーク)上で、市の条例や議会の議事録など自治体独自の情報を生成AIに参照させ、実情を踏まえた精度の高い回答を作成。

愛知県日進市では、マクロコード作成などExcelを用いた事務処理の効率化を推進。

山形県山形市では、24時間対応可能な傾聴型生成AIを開発。専門資格と実務経験のある専門スタッフとのハイブリッド型で、市民からの相談を受け付けている。個人情報は入力しないでもらう、回答データ範囲は市のホームページの公開情報から選ぶようにするなど、細かく配慮し、トライアルを重ねながら実現に漕ぎ着けた。

これまで自治体職員の手や外注に頼っていた部分を、生成AIが行っている。

「事業者の方と意見交換をしていると、少し前まで引く手数多だったSE(システムエンジニア)の作業を生成AIが担い始めているそうです。人によるさまざまな業務に生成AIが取って代わる時代が、目の前に迫っているのではと想像しています」

リスクを理解して柔軟に使う

先行自治体があるなか、導入に課題を感じている自治体もある。
・そもそも取り組む人材がいない、または不足している。
・生成AIへの正確性への疑念がある、あるいは導入効果が不明。

村上氏は、こうした声を払拭するためにガイドライン策定が重要だと力を込める。

「生成AIを使うのは一定の部署だけではなく全ての部署。色々な職員が使うことを前提とした手引書は絶対に必要です」

ガイドラインを策定している自治体は徐々に増えてきており、総務省でも2025年夏にワーキンググループの報告書を取りまとめた。

生成AI利用における自治体のガイドライン策定状況 ※村上氏資料より

人口減少下において過半数の自治体が生成AIを導入している。国も生成AIの利活用促進とリスク管理を表裏一体で進めている。こうした中、総務省としても基本的な考え方を示していく。

「生成AIには知識やスキルを必要とする作業が可能であり、飛躍的な業務の効率が期待されますが、その出力結果には当然誤りも含まれます。リスクも十分にあると理解した上で柔軟に利用していって欲しいと思っています。生成物は人が必ず確認をする、分野によって、例えば外国語に翻訳した場合、生成AIを利用した旨を明示するなど、押さえておくべきポイントもあります」

村上氏は、専門人材の不在やベテラン職員の退職によるノウハウ不足の補完にも生成AIが一役買うことを期待している。

CAIOおよびCAIO補佐官の役割

従来型AIについても引き続き導入を促進していく意向だ。

「行政職員は説明責任を求められます。例えば衛星の画像診断から漏水の可能性を予測するなど、ルールベースで成り立っている従来型AIであれば、入力結果に対する出力結果の因果関係を説明しやすいからです」

加えて、CAIO(最高AI責任者)の設置も推進していく。CIO(最高情報統括責任者)を設置している自治体はすでに大多数に上るため、兼務も視野にお願いしていきたいと話す。

他方、CAIO補佐官には外部人材を採用し、専門的な見地からサポートをしてもらう形がベターだと続ける。

ただし、全市町村での確保は現実的ではないので、共同設置や都道府県が確保して市町村に派遣する、常勤ではなく必要に応じて勤務をするなど、さまざまな形を模索していく必要がある。

肝となるのは橋渡しができる内部人材

要機密情報の取り扱いも、忘れてはならない。セキュリティーポリシーを踏まえた上で使うのは当然だが、生成A I特有の配慮事項として学習させない仕組みが重要になる(先の香川県の事例)。こうしたルールを遵守するために、人材育成は欠かせない要素だ。

「AIに限らずDX全般に言えることですが、やはり行政事務を一番分かっているのは内部の職員なので、コミュニケーション能力やITに対する意欲の高い職員をDX推進リーダーとして育てていく必要があると思っています。プログラミング能力など相当な専門性を有した職員を内製すべきと誤解されがちですが、そうした技術よりもむしろ、最低限のITリテラシーを有した上で、IT ベンダーの方と意見交換ができる、フロントヤード改革において関連する課と適切に気持ち良いコミュニケーションが取れるといったコミュニケーション能力を持っていることの方が大切です」

その上で、自治体が作成するガイドラインのひな型を、国の方でも示していかなければならないと考えている。

「今までの AI 活用導入ガイドブックは生成 AI を念頭に置いていないため、生成 AI の利用方法や留意点を追記しつつ、優良事例をしっかりと周知拡充していく必要があります。2025年内までにはまとめてリリースをしたいと思っています」

過半数の自治体が導入したとはいえ、各所が今後について試行錯誤し、考え方を整理している最中だ。そのそばで、生成AIは日々進化を遂げていく。キャッチアップするにも労力を要するが、人口減・業務増を救う一助になるはずという望みが、ひしひしと伝わってきた。