質の高い授業がどこからでも受けられ自由に進路を切り開ける。大分県の佐藤樹一郎知事が語る「遠隔教育 大分モデル」とは?Zoom主催「Zoom Experience Day Summer 2025」キーノート・レポート
コロナを契機としたリモートワークの普及により、今やハイブリッドワークは日常の風景になりつつある。リモートで会話することが当たり前になった現在、教育分野でも変革をもたらしていることはご存じだろうか。多くの都道府県の中でも、ビデオ会議ツールを活用した新しい教育モデルを推進しているのが大分県だ。同県は国境を越えた授業の配信、他校とディスカッションしながら進める質の高い合同授業などを開催し、新時代を切り開くようなグローバル人材の育成に努めている。
今回は2025年7月17日に東京ポートシティ竹芝 ポートホールで開催されたイベント「Zoom Experience Day Summer 2025」(主催:ZVC JAPAN株式会社)の佐藤樹一郎(さとうきいちろう)大分県知事の基調講演を中心に紹介する。同県が推進する遠隔教育から、自治体が今後進めるべき教育について考えていく。
(取材:デジタル行政編集部 / Sponsored by ZVC JAPAN)
Zoom×AIが切り拓く、“学び”の境界線は消えるのか?
「Zoom Experience Day Summer 2025」は、Zoomを活用した新しい働き方やコミュニケーションを考えるリアルイベント。「AI時代の働き方とコミュニケーショ変革」をテーマに、先進企業・自治体の実践事例や組織変革に関する多くのセミナーが開催された。
その中でも、キーノートとして多くの参加者の注目を集めたのが「Zoom が切り開く、AI 時代の働き方とコミュニケーション変革」と題したセミナーだ。大分県佐藤知事を中心に、ZVC JAPAN代表取締役 下垣典弘(しもがきのりひろ)氏と株式会社TGP 代表取締役・プロゴルファーの東尾理子(ひがしおりこ)氏が登壇した。
セッション冒頭では下垣氏が設立以来リモートコミュニケーション分野を牽引してきたZoomの革新、クラウドPBXの「Zoom Phone」や会議の文字起こしや要約、営業支援ツール「Zoom Revenue Accelerator」について紹介され「AIとZoomの活用融合によって実現できる、新しいカタチでつながる市民、顧客、従業員の世界」を語った。

下垣氏による遠隔授業の紹介からバトンを受けた佐藤知事は開口一番、「進学校へ進む生徒が多く、地方高校の定員割れや遠方通学などが大きな課題としてあった」と話す。佐藤知事の講演に関しての詳細は後述する。

セッションの最後には東尾氏が登壇し、包括的性教育の推進活動における「Zoom Meetings」の活用事例を紹介。月経教育を展開する際、地方の学校や保護者も参加可能な遠隔授業を実施し、家庭内における性に関するコミュニケーションの促進や知識の共有を図っているという。東尾氏は未来の選択肢を広げる鍵として適切なタイミングでの正しい性知識習得の必要性を訴えた。
「遠隔教育 大分モデル」がつなぐ、生徒数が減少しても学びを続けられるしくみ
地域から高校がなくなれば、生徒は自宅から 1〜2 時間かけて通学したり、下宿を余儀なくされたりする可能性がある。そこで大分県では、「遠隔教育 大分モデル」を推進。Zoom Rooms を用いた配信システムでリモート授業を実施し、県内のどこからでも受けられる体制を整えた。これにより、「県内のどこにいても、生徒に多様で質の高い教育サービスを提供できる」と佐藤知事は話す。

スタンフォード大学との遠隔講座の取り組み
「大分の教室にいながらスタンフォード大学の講義を受ける」その光景はすでに現実だ。「遠隔教育 大分モデル」は、令和7年4月から県内にある4つの高校でスタート。遠隔教育配信センターを設置し、どこにいても質の高い授業が受けられる仕組みを構築した。現在受講できる科目は、数学と英語。
「安心・元気・未来創造ビジョンを2024年10月に設定しました。この中に教育に関する施策がいくつかあり、それに則った形で『遠隔教育 大分モデル』をスタートしました。学校で受講するのはもちろん、生徒がどこにいても学びが保障される環境を整えていきたいと考えています」(佐藤知事)
遠隔教育自体は、今回スタートする前から実施している。毎年スタンフォード大学と大分県・別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)をそれぞれ県内の高校とリモートでつなぎ、毎年30名ほどの高校生が遠隔で講義を受けているのだ。

スタンフォード大学だけでなく、APUも6000人の在校生のうち3000人が留学生。授業はすべて英語なため、「グローバルで質の高い授業が受けられる」と生徒からも好評だ。合同授業後には発表会も行われ、そこで評価された生徒は、夏休みを使いスタンフォード大学に短期留学できる。
「私も発表会に参加しましたが、大分県の高校生が堂々と英語で発表している。スタンフォード大学とIPUの先生が講評しますが、生徒同士が切磋琢磨していて素晴らしいと感じました」(佐藤知事)
レベルの高い授業と他校との交流、遠隔だから実現できたこと
会場のスクリーンに映し出されたのは遠隔教育配信センターの様子だ。現在展開している「遠隔教育 大分モデル」では、同時双方向授業を採用している。配信センターから、教員が授業を実施し、それを2校同時に受ける。高校2、3年が対象で各校10人が参加し、生徒同士が意見を交わしながら授業が進行する。
具体的な様子をみると、配信センター側ではデュアルモニターを設置しており、授業中は2つの高校の教室風景がみられる。生徒はそれぞれタブレットをもっており、問題を解いている過程もリアルタイムで教員が分かるようになっている。これにより、教室を回りながら生徒の様子を確認していた通常授業時に比べ、「高度な指導ができるシステムになっている」と佐藤知事は自信をのぞかせる。

一方、教室側からみると、大画面が設置してあり、そこに映し出されるのは等身大の教員が授業を行っている様子だ。また、分割した画面ではもう一方の高校の教室風景も分かるようになっている。佐藤知事は「生徒からすると、画面に自分が映り、他校の生徒からも見られている。リモート授業だが、決して気が抜けず通常の授業と変わらない」と説明する。

また、通常の授業以外に今夏は短期特別授業も実施。県内全ての普通科高校でライブ配信・アーカイブ配信がなされる。学校だけでなく自宅でも視聴可能だ。オンデマンドによる動画教材も配信し、大学入試の過去問の解き方などを指導する。さらに、個別で学生の面談などにもオンラインを取り入れていく方針だ。
AIも積極的に活用。遠隔授業後は録画コンテンツが自動生成され、生徒は家で復習する際に利用できる。
ここで、実際に遠隔教育を受けた生徒からの声を紹介する。総じて「相手の意見を聞くことで自分の考えがより深めるようになった」など、遠隔授業を好意的に受けとめた生徒が多かった。
また、2校の合同授業に関しては、「他校の人と同じ授業を受けるのは新鮮だと思った。レベルの高い授業を受けられてよかった」、「相手校の生徒と地元のおすすめの場所など、普段接点がない人とコミュニケーションがとれてよかった」、「相手校の英語スキルの高さに驚かされた。自分たちも頑張らなければと感じる」などの感想があった。通常授業では、物理的な距離の関係で合同授業の実現は難しい。まさに、リモートならではのメリットを享受した形だといえる。
令和9年、17校へ拡張──夜間中学までカバーする“学びのセーフティネット”
今後は、令和9年までに遠隔配信の対象校を17校に拡大する考えだ。大分市内以外の普通科高校全てに普及させるという。科目も英語・数学に加え、物理や化学まで広げる。佐藤知事は「各高校の校長から文系の授業もしてほしいという希望があります。いずれ他教科にも広げていきたい」と話す。さらに、大分市内にある5校も展開し、大分県内の高校全てでの展開を目指す。
来年4月からは夜間中学校でも導入予定。外国の方や幼い子供がいるため、夜間中学校であっても通学できない人がいるだろう。そうした「学びたくても学べない人にもオンラインによる遠隔教育は有効だ」と佐藤知事は力を込める。
「オンラインによるニーズに合った教育と、リアルで集まってしかできない教育があります。それらの両輪を大事にしながら、どこにいても受けたい教育を受けられて進路が開拓できる。そんな大分県にしていきたいと考えています」(佐藤知事)
ただ、課題もある。公立・県立の通常の高校教諭であれば「地方公務員給与に係る地方交付税算定」という支援措置が文部科学省からあるが、遠隔教育配信センターに勤務する教員には適用されない。
「現在、配信センターの教員は9人。今後大分県内全域に遠隔教育のモデルを広げるとなると40人程度の教員が必要です。現在、県の予算だけでやっており、仮に1人頭1000万円の費用とすると、4億円ほどかかってしまう。国や文部科学省は教育DXの推進にも注力しています。是非とも、配信センター教員配置に係る算定基準の見直しも行っていただきたい」(佐藤知事)
講演後、下垣氏から「人口減少に伴う中での大分県の取り組み」について質問された佐藤知事は「自然増減と社会増減の両面から施策を行っている」と回答。
大分県最盛期の人口は約128万人だったが、現在では110万人を下回るほど。また、出生数はかつて4万2000人であったが、今は6000人を下回る状況だ。そのため、同県では、高齢者はなるべく健康で長生きしてもらうための政策を行う一方で、子どもを増やすためにも定期的に婚活イベントも行っている。「知事公舎で婚活イベントを開き、男性30人、女性30人に集まってもらいました。結果的にイベントは成功し、9組のカップルが誕生しました」と佐藤知事。
一方、社会増減の課題については、大分への移住者増加に注力。実際に、大分に住んで平日はリモートワークをこなし、月に1-2度、東京や大阪に出社するという生活スタイルの人も増えているという。
「Zoomをはじめ多くのITツールの普及によって、働き方も変わってきました。今後も企業の誘致をはじめ、プログラマーやクリエイターなどリモートワークが主体の方に向けて、温泉、自然、美味しい食べ物、災害にも強い大分県をアピールしていきたいです」(佐藤知事)
生徒同士の新たな出会いや学び合いを創出する「遠隔教育 大分モデル」は、単なる教育のデジタル化ではなく、地域の垣根を越えた交流と成長の場となっている。どこにいても質の高い教育が受けられる環境づくりを通じて、大分県が目指す新しい教育モデルに今後も注目していきたい。
Zoom Experience Day Summer のセッションをオンデマンドで公開中!お見逃しなく。https://zm.me/4omgVMA
さらに、9月18日には、Zoomの最新イノベーションを知る機会として、オンラインイベント Zoomtopipa Japanが開催。
Zoomtopia For the People – すべての人々のために AIとともに、新しい働き方・つながり・文化を築く
https://zm.me/3J9AozX
◆イベントに関するお問い合わせ先
ZVC JAPAN 株式会社(Zoom)
お問い合わせ:https://www.Zoom.com/ja/contact/