デジタル行政について

業務のムダを削り価値創造にシフト―市川市DX憲章にみる、デジタル化の本質とは[インタビュー]

業務のムダを削り価値創造にシフト―市川市DX憲章にみる、デジタル化の本質とは[インタビュー]

千葉県市川市役所は、令和2年4月に「DX憲章」を公表した。DX憲章とは、DX推進のための理念をまとめたもの。昨今市町村がデジタル化の推進計画を策定し、これを公表するケースは多いが、同市のように、その理念に遡って考えをまとめたものを作成するのは非常に稀だ。同市はなぜDX憲章を策定したのか、またDXを通してどのような地方自治を目指すのか。市川市情報政策部にインタビューを行った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)

「DX憲章」策定のきっかけは若手職員中心の市長直轄プロジェクト


―市川市では、窓口予約システムやAIチャットボットなど、先進的なデジタル化の取り組みを進めておられます。新型コロナウイルスを起因または根拠として国が打ち出した、自治体のデジタル化に直結する施策をどうとらえていますか?

総務省は令和2年12月25日に「自治体DX推進計画」を公開しました。「自治体の情報システムの標準化・共通化」「マイナンバーカードの普及促進」など、少数の自治体をモデルとする手法ではなく、日本全体で共通する課題に向き合うという前提で作成されています。本気度が伝わる内容となっており、我々も非常に注目しています。

令和3年7月7日には「自治体DX推進手順書」も公開されました。詳細な取り組みについてはまだわかりづらい部分がありますが、【第1.0版】と、改訂が前提とされていますので、更新版では手順がより具体化されていくことに期待したいです。また、計画を推進するにあたっては、スケジュールや技術的な無理が生じて、市民の方々にご迷惑をかけることがないように、現場の声をよく反映した内容にしていただけたらと期待しています。

―「自治体DX推進手順書参考事例集」では市川市の「DX憲章」がDXの認識共有、機運醸成の事例として掲載されています。

DX憲章は、市川市によるDX推進に必要な指針および判断基準を内外のステークホルダー間で共有するためのものです。市民の方々にはDXに取り組む意義をお伝えし、市役所内部にはDXの指針を示す役割を持ちます。このなかでDXを単純なデジタル化ではなく「業務の無駄を削って価値創造にシフトする改革」と定義し、基本方針やセグメントごとの施策、達成までのマイルストーンを定めています。

―なぜ「DX憲章」が必要とお感じになられたのでしょうか?

市川市では令和元年4月に全国に先駆けてSNSを通じた住民票申請サービスを開始しました。若手職員を中心とした市長直轄のプロジェクトチームが組織され、従来のウォーターフォール型ではなくアジャイル型のシステム導入を行い、スピーディにローンチすることができました。一方で庁内の仕様決定の調整においては課題も見つかり、部署を横断して様々な立場の職員が同じ方向を向き、新しいことにチャレンジをするためには、共通の理念が必要だということを学びました。これがDX憲章を策定したきっかけです。

DX憲章の策定にあたって、我々が最初に行ったのは組織アセスメントです。窓口サービス部門、福祉部門、経済部門など、主要な部門へのヒアリングを通じて組織内に埋もれている課題抽出を試みました。その結果、職員のマインドに課題があることがわかりました。デジタル技術への関心はあるものの、積極的に活用し変革に挑戦しようという意欲まで持っている職員は少なかったのです。こうした課題を解消するため、一般職から幹部職までスキル向上とマインド変革を目的とした研修を幾度となく行いました。DX憲章においても単に新しい技術を取り入れるというだけではなく、「マインド」という基本方針カテゴリーを組み込んでいます。

DX=デジタル化にあらず

―令和3年1月より新しい市庁舎(第1庁舎)での窓口業務を開始されています。

DX憲章では、新しい市庁舎での窓口業務の開始も新しい価値創造の契機として位置付けられています。第1庁舎のオフィスレイアウトの考え方には3つの基本方針がありました。一つ目は「社会情勢の変化に対応できること」、二つ目は「行政サービスと事務効率向上につなげること」、三つ目は「利用者にとって利便性が高く、安全かつ快適な空間であること」です。

1、2階は、第1庁舎での窓口業務の開始に合わせスタートした「ワンストップサービス」を前提としてレイアウトが設計されていますが、今後、行政手続きのオンライン化や効率化が進むと、市民が手続きのために来庁することが少なくなり、庁舎のあり方も変化していくことが予想されます。そうした際に、柔軟にレイアウト変更ができるよう可動式の什器を使用し、全階をフリーアクセスフロアとするなどの工夫がされています。

市川市の新市庁舎。オープンなレイアウトが特徴。

―ワンストップサービスとはどのようなサービスでしょうか?

従来の窓口は市民の方が用件に応じて市民課に行ったり、福祉関係の課に行ったりと、庁舎の中を渡り歩かなければならないものでした。
ワンストップサービスでは、市民の方は1か所に座っていただいたままで関連する手続きを行うことができます。

また、Webや電話で事前に予定している手続きを予約することができ、予約いただければ市民の方々の待ち時間は減り、職員も効率的に人員の配置を決めることができます。

元々は市民が職員に合わせて動いていたところを、逆に職員が市民に合わせて動く。180度発想を転換することで、新たな価値を創造する。これが、市川市がDXで実現した象徴的なサービスだと考えています。

「自分らしく暮らせる豊かなまち」の実現に向けて


―今後、どのようなまちづくりを目指していくのでしょうか?

これまで市川市は都心に近い文教都市として発展を続けてきました。近年では「自分らしく暮らせる豊かなまち」に向け施策に取り組んでおります。「自分らしく暮らせる豊かなまち」とは、あらゆる人が社会に受け入れられるとともに個性が尊重され、多様な交流の中で健康的かつ文化的な生涯を送ることができるまちです。

テレワークなどの新しい生活様式が定着し、地域で過ごす時間が増えることから、市民の皆さんにはもっと地域に目を向けてもらい、ご自分の住んでいる地域に関心や愛着をもっていただきたいと考えています。これを実現するためには、情報発信に加えて、コミュニティの活性化にも取り組む必要があります。家庭でも職場でもない、様々な人が出合い交流する場所を地域に作り、そこを拠点として新たな価値が生み出されるようつなげていきます。そして、こうした取り組みにより、市政への参加意識を醸成し、市民であることに誇りを持って暮らせるまちを目指します。

本市はコロナ禍においても、感染対策に役立つ窓口予約システムやAIチャットボットの導入など、デジタル技術を活用したさまざまな取り組みを進めてきました。しかし、デジタルというのはあくまで理想を実現するための手段のひとつと認識しています。これからも市民のために最適な手法を活用して最終目的である「自分らしく暮らせる豊かなまち」の実現に向けて取り組んでまいります。