窓口業務の効率化に資するシステムを模索した山形県天童市が「書かない窓口」にたどり着いた理由[インタビュー]

窓口業務の効率化に資するシステムを模索した山形県天童市が「書かない窓口」にたどり着いた理由[インタビュー]

総務部総務課 課長補佐(兼)情報システム係長の赤塚忠広さん(右)、市民部市民課 市民係 主任の佐々木若菜さん(左)


山形県内13市で初めて、書かない窓口を導入した天童市。2023年の基幹系システム(自治体では住民情報や税務情報などを管理するもの)更新に伴い、連動して立ち上げたという。市民課からスタートし、現在では保険給付課、子育て支援課の3課で展開している。窓口業務の効率化を目指した結果が、書かない窓口だった。導入の背景や経緯、今後の展開について、天童市 総務部総務課 課長補佐(兼)情報システム係長の赤塚忠広さん、市民部市民課 市民係 主任の佐々木若菜さんに伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴 史子)

市民と職員の負担軽減を目指して

モニターが置かれた書かない窓口の様子

2022年1月より、約1年をかけて書かない窓口の設置に取り組んだ天童市。ちょうど基幹系システムの更新が必要な時期に来ていたため、新しいシステムと合わせてベンダーである(株)TKC(栃木県/会計事務所や企業、地方公共団体向けのシステムを開発している)から提案を受け、採用に至った。「まずは市民課からスモールスタートしようということで、ベンダーさんと打ち合わせを重ね、システムのデモンストレーションを実施してもらいました。以後の展開も見据えて、市民課だけではなく、関係する各課との連絡会や説明会も行いました」と佐々木さんは話す。

それまでは、来庁者が一から手書きした申請書を窓口で職員が受け取り、必要箇所を聞き取りながら進めていたが、窓口カウンターに直接来てもらい、来庁者の基本情報は身分証明書を読み込み、必要な事項を職員が尋ねながらシステムに入力する形になった。来庁者はモニターで内容を確認して最後にデジタル署名をすればいいだけ。「身分証明書は免許証、マイナンバーカードのいずれかで、外国人の場合は、在留カードをご利用いただけます」(佐々木さん)

市民課の窓口でもっとも多いのが住所異動手続きだが、これまでは5人家族であれば5人分の名前や生年月日をすべて手書きする必要があった。そのため市民からは、本当に楽だというコメントが多く聞かれているという。文字の認識違いもなくなった。「手書きの書類をチェックする場合、例えば0と6が分かりづらかったりすることがあります。そうした間違いはあってはならないことなのですが、市民の方と職員との細かなズレが減った点もメリットです」(佐々木さん)
また、窓口で入力したデータはシステムで共有されるため、紙ベースの書類を記録担当職員が入力する作業も必要なくなった。

転入する場合、子どもがいれば子育て支援課へも行かなくてはならないが、市民課の書かない窓口で受付をするとQRコード付きの手続き一覧がもらえる。それを持って各課を回れば、新たに住所や名前を書かなくて済むようにもなった。「市民の中には初めての住所の異動手続きで迷う方や手書きが苦手な方もいらっしゃいます。そうした時にはおそらく随分楽になっているのではと思います」(佐々木さん)

随時アップデートを重ねて現在の形に

職員の入力画面

導入にあたっては、栃木県真岡市を視察した。「TKCさんの窓口支援システムを先行導入されていたので、どういった形で受付がなされているのか、どういった機器をセットにして使用されているかなどを参考にさせていただきました」と赤塚さんは言う。

導入当初は入力作業に戸惑った部分もあったが、1年以上が経ち、職員も慣れてきて、スムーズに受付ができるようになってきている。「こう聞いたら市民の方に分かりやすいよね、と質問項目を更新したり、最終的には印字する書類の様式をより見やすいようにリニューアルしたりと、試行錯誤しながら進めていきました」(佐々木さん)

TKCの存在も大きかった。「デモンストレーションはもちろん、必要情報の洗い出しから使い方のレクチャーまで、横についてもらってサポートしていただきました」(佐々木さん)
各課同士で相談し合うなど、連携も見られた。

システム更新によって実現されたこと

基幹系システムの更新によって、システム間の連携ができるようになり利便性も向上した。「前のシステムが10年以上使っていたものだったので、前の方が良かったという声も出ました。画面構成も使い方も変わるわけですから。しかし、慣れるまでは大変ですが、慣れてしまえばよりスマートな作業ができるようになっていると感じます。例えば、税関係では昨年度からスマホアプリやクレジット払いの共通納税(自宅や職場から地方税を電子納税すること)が始まりましたが、全て新システムの中で処理できるようになっています」(赤塚さん)

更新に向けては、業務のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)も実施。「ゴールデンウィーク中に出勤して、税金の通知書を打ち出していたのですが、業務の見直しによって時期を早めて作業できるようになり、職員負担が軽減したという部分もあると思います」(赤塚さん)

理想は「行かない窓口」

書かない窓口は現在、市民の利用頻度を鑑みて3課および税務課の一部手続きで利用されている。「手続きの数を考慮した結果です。異動の手続きを市民課で行い、回っていただくことが多いのが保険給付課、子育て支援課ですから。現状を維持しつつ、必要があれば広げていきたいとは考えています」(赤塚さん)

佐々木さんは、「市民課では、住所異動に加えて国民健康保険の加入脱退手続きなども行っているので、将来的にはそれらがオンラインで完結できる形が理想だと思います。そこに向けてはまだまだなので、今後の課題です」と締めくくった。