埼玉県坂戸市のデジタル化「現在と未来」―坂戸市の基幹系システムが「ノンカスタマイズ開発」だった理由は? [インタビュー]

埼玉県坂戸市のデジタル化「現在と未来」―坂戸市の基幹系システムが「ノンカスタマイズ開発」だった理由は? [インタビュー]

令和3年5月12日、「デジタル改革関連法」が参議院本会議で可決・成立した。これをもって同年9月にデジタル庁が創設されることが正式に決まり、今後は本庁が自治体のデジタル化を一層推進することが見込まれる。とりわけ「Withコロナ」と称される時代に突入して以降、世論は行政のデジタル化について、国が自治体をリードすることを求めている。こうした動きを情報システム部門で活躍する自治体職員はどのように感じているか。

埼玉県坂戸市は令和2年3月に発表した「坂戸市デジタル行政推進計画」に基づき、直近2、3年で基幹系システムの入れ替えや、RPAやOCRの導入を行った。コロナ以前からデジタル化に明確な課題意識を持った、デジタル化に積極的に取り組んでいる自治体と言えよう。坂戸市情報政策課の砂川氏に現在の取組みや国のデジタル化推進計画について話を聞いた。

(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)

標準化・共通化を見据えたノンカスタマイズでの基幹系システムの更新

総務省「自治体DX推進計画」では重要取組事項として「自治体の情報システムの標準化・共通化」「自治体手続きのオンライン化」などが掲げられている。そんななかでどのような心掛けで基幹系システムの更新を推進したのか。

―「坂戸市デジタル行政推進計画」について、立案の背景と概要を教えてください。

砂川氏 坂戸市では平成28年に策定した「坂戸市ICT推進アクションプラン2016」の改定作業を、令和元年から開始しました。令和2年3月に、官民データ活用推進基本法に基づく「坂戸市官民データ活用推進計画」を包含して新たに「坂戸市デジタル行政推進計画」を公表しています。

内容は、ICTを有効活用することで、少ない職員でも質の高い行政サービスを提供し、市民の満足度を向上させるという基本理念と、具体的な施策、そしてその方向性などをまとめたものです。

本計画では「最先端の ICTの活⽤」「⾏政⼿続等のデジタル化への対応」「⾏政データの有効活⽤」「情報処理システムの適切な運⽤と低コスト化の推進」「デジタルディバイド対策の推進」「情報セキュリティ対策の推進」の6つを基本方針として掲げており、計画期間は令和2年度から令和6年度までの5年間ですが、3年ごとに見直しを進めていくこととしています。

―計画の最初期である令和2年度に基幹系システムの更新に着手されています

砂川氏 令和2年4月1日から基幹42業務について、株式会社TKCの「TASKクラウドシステム」と令和3年1月12日から「TASKクラウドかんたん窓口システム」の稼働を開始しました。

導入にあたっては、住民記録や税など約40業務における必要機能のほか、手続のオンライン化を含めたコンビニ交付システムなど新たな機能を各職員から業務要件として取りまとめたうえでRFPを作成し、複数企業からプロポーザルを受けました。最終的には、価格と機能を総合評価し、TKCのシステムに決定しました。

―仕様検討のために注意した点を教えてください。

砂川氏 今回はノンカスタマイズでパッケージシステムを活用するという点で、これまでと大きく方針を変えました。従来のシステム運用の課題として、個別のカスタマイズや改修が頻繁に発生してしまっていた点が挙げられます。これにより運用ための作業量が増え、コストも上がってしまいました。また、とりわけコロナ以降は自治体システムの標準化や共通化が課題となりましたので、当時、個別のカスタマイズに頼った開発は立ち行かなくなると判断したことは、正しい選択であったと考えています。

導入にあたっては、役所内で業務別に42のワーキンググループを立ち上げ、TKCのSEの方々と導入に向けた要件定義を行いました。原則的にパッケージの仕様に合わせて役所内の業務運用をどのように変更し、さらに効率化していくかを検討することがメインとなりました。

―基幹系システム更新の成果をどのように感じていますか?

砂川氏 基幹系システムについては、機能面から捉えると、職員の業務負荷は、着実に軽減されていると考えています。近日中に運用効果の検証を進める予定です。

一方で、同時期に導入したRPAとAI-OCRは削減効果が定量的に検証できています。RPAとOCRは新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の特別定額給付金の給付の時期に運用を開始しました。令和2年度においては、10業務に適用して、手作業で行っていた業務を2447時間分削減(速報値)することができました。RPA・AI-OCRについては、手応えを感じましたの、今後も拡大させていく予定です。

―RPAやOCRは導入直後に苦労が多いとも聞きます。

砂川氏 やはり生みの苦しみはあります。特に今回は外部ベンダーに依存せずにメンテナンスすることを前提にシナリオ作成などを自前で行いました。現場の職員の方々には粘り強く協力をお願いし、現在では年次や月次の処理で効果を実感してもらえているのではないかと思います。

自治体システム標準化のメリットと懸念点

―国の方針である「自治体システムの標準化・共通化」にはどのような印象をお持ちですか?

砂川氏 我々としてはプラスに捉えたいと考えています。これまでもそのような課題を感じていたので、本市では、基幹系システムもノンカスタマイズで導入をしました。「システムの標準化」はと、どの自治体でも同じやり方となるので、自治体間の情報共有により、業務オペレーションが洗練されていくなどのメリットが考えられます。また、住民側からみても、これまで市町村ごとにバラバラだった手続きの仕方や申請書の形式が統一されれば利便性は向上すると考えます。一方で、標準化によって最低限の機能しか搭載されなかった場合、これまで開発ベンダーの努力で構築されてきた機能が使用できなくなるので、現状の業務オペレーションを変更しなければならないといったデメリットが生じる可能性があります。本市ではそのような場合に備え、機能低下部分を補うツールとして、RPAやAI-OCRの活用を進めているところもあります。

総務省が公表している「自治体DX推進計画」には「(仮称)Gov-Cloud」という、プラットフォームの共通化を推進する方針が記載されています。これによればGov-Cloudへの移行経費は全額、国の補助金で実施できるとしています。今回の基幹系システムの更新にも億単位の費用がかかっているため、坂戸市としては、今後Gov-Cloudへ移行する方向で考えています。

―国の掲げる方針について懸念点はありますか?

砂川氏 現在の自治体のシステムは住基、福祉、税などのシステム間でデータ連携の仕組みが構築されていますが、共通化されたプラットフォームでそれがどの程度実現できるものか不安はあります。また、本計画には「基幹系17業務システムについて国の策定する標準仕様に準拠したシステムへ移行」とありますが、それ以外の業務システムの扱いはどうなるかは今後特に注視していく必要があるでしょう。

住民の利便性向上を目指して「オープンデータの活用」

自治体のデジタル化においては、単に申請や給付の作業を効率化するのにとどまらず、保有するデータを匿名化したうえで公開する「オープンデータ」が注目される。オープンデータは民間企業や個人による情報の二次利用を通して、課題解決の促進に寄与するものとされる。

―データの利活用についてはどのようにお考えですか?

砂川氏 平成27年からGIS(地理情報システム)を導入し、令和2年から住基データとの連携を開始しました。それにより今ではエリア別に例えば高齢者人口の密度などがメッシュデータとして活用できるようになっています。今後はこうしたデータを政策立案の基礎資料として活用につなげていきたいと考えています。

現状では自治体の条例により個人情報の取り扱いの規則がバラバラになっていますが、デジタル改革関連法の成立により、国において統一されていくとのことなので、さらにデータ活用の機運は高まるはずです。

―今後のお取組みを聞かせてください。

砂川氏 我々は令和2年3月に「坂戸市デジタル行政推進計画」を策定しましたが、その後国も同年12月に「自治体DX推進計画」を発出しました。我々の計画にその要素の多くは取り込まれていますが、Gov-Cloudなど新たな施策は組み込まれておりません。やはりコロナの影響でデジタル化の流れは強く加速していくものと感じます。「坂戸市デジタル行政推進計画」は本来3年で見直す想定で策定していますが、今後はそれに囚われず、早期の見直しも含めて柔軟に対応できる体制を構築していきたいです。