一般社団法人まるごとデジタルとは。3者の想いと化学反応が、自治体と企業のハブとなる新たなプラットフォームを形成[インタビュー]

一般社団法人まるごとデジタルとは。3者の想いと化学反応が、自治体と企業のハブとなる新たなプラットフォームを形成[インタビュー]

2024年8月に鹿児島県大崎町で実施された勉強会時の集合写真


2023年8月、高知県日高村、KDDI株式会社、株式会社チェンジにより設立された「一般社団法人まるごとデジタル」。日高村の事業でタッグを組んだ3者が、なぜ社団を作るに至ったのか。またその行く末とは。

創設メンバーの安岡周総さん(元日高村役場企画課)、坂本裕希さん(現日高村役場企画課)、木村恵子さん(KDDI株式会社経営戦略本部地域共創推進部)、尾形正則さん(株式会社チェンジ)、東知央さん(株式会社チェンジ)、齋藤光輝さん(株式会社チェンジ)に伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)

社団立ち上げの背景

日高村がKDDIおよびチェンジと包括連携協定を締結し、スマートフォン普及率100%を目指して「村まるごとデジタル事業」を開始したのは2021年5月のこと。DX推進の動きと呼応するように社会課題化していくデジタルデバイドに危機感を抱き、行政としてサービスを提供していくのであれば、まず最初にやるべきは村民が受益できる状態を作ることだと、スマートフォンの普及向上を事業に掲げた。

事業開始から1年ほどで、普及率は約65%から約80%まで増加(2024年10月には92.7%にまで達している)。「一定の成果が上がった時点で、この取り組みを社会に還元していくかどうか3者で議論したところ、全員一致で、一般社団法人を立ち上げてソーシャルアクション化する動きが必要だとの結論に至り、まるごとデジタルを設立しました」と、日高村役場企画課を経て、現在は自身の会社を経営する安岡さんは説明する。

週次ミーティングが効果を発揮

現在、全国19の自治体が会員となっているが、設立時より週次の定例ミーティングは欠かさない。

「相互の関係性が何より重要。どうすれば参加しやすいか、都度ご意見をいただきながら社団のあり方を調整しています。また、事例集やHow toでは分からない部分のリアルな相談ができるのも大きいと思います。例えば、アンケート調査の雛形だけを共有しても、進める上で何に苦労したのか、どう内部を説得したのか、住民への説明会はどのような形だったのか、回収率を上げるためにはどうすればいいのか。そうしたところはあまり表には出ませんから」(安岡さん)

ミーティングは1時間で、前半は事務連絡や進捗の共有、後半は自治体の取り組みや民間企業のサービスなどの勉強会に充てる。興味を示した自治体があれば、内容を深掘りしたり、コミュニケーションを取ったりできるよう、チャットでそのコンテンツ専用のトークルームを作成する。勉強会の講師はほぼ毎週変わり、実施回数は30回を超えた。

高知県日高村スマートフォン普及の取り組みを紹介する安岡さん


人材育成とデジタルの分野におけるコンサルティングのほか、地方創生事業で自治体の伴奏支援も手掛けるチェンジでディレクターを務める尾形さんは、まるごとデジタルの理事でもある。「週1回のミーティングを通して、血の通った関係性が構築されていると感じています。勉強会をきっかけに、地域通貨やDX人材育成などに実際に挑戦されている自治体もあります。来年度は一緒になって事業を具体化するところまで進めたいと考えています」(尾形さん)

このように自治体同士の取り組みがスムーズに交換される仕組みはなかなかないのでは、と安岡さんは推測する。

KDDIの木村さんは、経営戦略本部の地域共創推進部に所属し、デジタルデバイドを含めた課題解決のためのソリューションを提供している。「地域によって、デジタルに関する課題はさまざま。そこに対して知見を共有するだけでなく、逆にご意見をいただくことで、事業部門にフィードバックすることもできると考えています」(木村さん)

日高村役場の職員である坂本さんは、「同じとは言わずとも似たような課題感、同じ熱量を持った仲間がいて、役場の外にコミュニティとして存在しているのは心強い」と話す。自治体のDX関連の動きから最新のソリューションまで、必要な情報を得られるほか、民間企業とどう信頼関係を築いていくべきなのか、そもそもどんな企業なのかも分からない中で、付き合いのハードルが下がるのもありがたいという。

「アンケートでも、他の自治体の取り組みが参考になっている、1人でDXを担当しているので同じ目線で頑張っている人がいる感覚がモチベーションの維持になる、といった声をいただいています」とチェンジの齋藤さんは続ける。

全員で船を漕ぐ

賛助会員自治体の取り組み紹介の様子

安岡さんは、行政の枠の中だと、無理に作ったものを無理に稼働させるという形になりがちだと感じてきた。だからこそまるごとデジタルは、活動の範囲を狭めずに、インスピレーションを得たり、イノベーションを起こしたりできる場を目指す。「今のところ情報共有はできていますが、その次の実装まで進むという機運をさらに高めていきたいですね。また一般社団法人としてのルールは整えつつも、“一緒に船を漕ぐ漕ぎ手”になってもらいたいと思っています」(安岡さん)

数だけを追い求めるのではなく、参加会員が増えたとしてもコミュニティ全体の温度を下げずに、円滑で密度の濃いコミュニケーションを維持することができるか。事務局側の腕の見せどころだという。また、企業とのマッチングも、単にサービスを売りたいだけではないのか、しっかりと見極めて自治体とつなげていきたいと考えている。安岡さんは「多業種連携が生まれるハブ的なプラットフォームに育てていきたい」と力を込める。

通信事業とは異なる側面で、社会課題解決を会社のミッションの一つに掲げるKDDI。木村さんは「『もっと早く知っていれば良かった』という状況をなくし、できればより多くの自治体の方々と関わりながら、オンラインに留まらずリアルの場での意見交換も充実させていきたい」と話す。そこから、複数の自治体が組んでプロジェクトを展開し、より便利に、豊かになれる未来の形を模索していく。

チェンジでは最近特に、人材不足解消を重要なテーマに据えている。「IT技術をはじめ、世の中のトレンドとなるサービスを使って、人口減少社会へどう対応していくか、有効なアプローチを一緒に考えていきたい」と東さん。自身も自治体出身とのことで、その課題感は身近だった。「それぞれの自治体で全てを完結させるのは難しい時代ではないでしょうか。自治体の方々の声を吸い上げ、まるごとデジタルが伴走者として、それを体現するサポートをできればいいと思っています」

現場の坂本さんの声も切実だ。「各自治体が人口減に直面しています。役場のリソースも、地域のリソースも足りない中、自治体単位で動いてもなかなか解決しないことが、これからさらに増えてくるのではと危惧しています。だからこそプラットフォームの一つとして、まるごとデジタルで支援できればと思っています」

真摯なコミュニケーションの延長線上に、“シナジー”が生まれていく。

2025年2月には、自治体との広域的な連携のもとデジタル技術を活用した地域課題解決と持続可能な地域づくりを目指し、賛助会員として参画する19自治体のうち8自治体と「円環的連携に基づく包括協定」を締結。2月14日に締結式を開催した。まるごとデジタルらしさが、これからどう発揮されていくのか。今後の展開が楽しみだ。