行政サービスのデジタル化で、使われるために大切なこと[インタビュー]

行政サービスのデジタル化で、使われるために大切なこと[インタビュー]

コロナ禍において、自治体で導入が急速に進むサービスがある。株式会社ロコガイドが提供する、混雑ランプもその一つである。

自治体行政のデジタル化がいわれているが、デジタル化しても伝わらない、使われないサービスにならないためにはどうするべきか。このサービスの普及の理由に、その重要なポイントがあるようにも見受けられる。

実際にどのようなサービスなのか、同社地域情報部 シニアディレクター 石井 一弘氏にお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)

-自己紹介をお願いします

地域情報部の石井と申します。私どもは、主に自治体向けにデジタルトランスフォーメーションの推進や社会課題の解決に取り組んでおります。最近ではコロナ禍における混雑回避の取り組みや、地方への移住・ワーケーションの推進をしている自治体の支援をしております。

簡単であることこそが、広まる理由

-貴社混雑ランプの概要についてお聞かせください

混雑ランプは、お店や施設の混雑を「空き」「やや混み」「混み」の三段階で発信できるサービスです。2020年5月に提供を開始しました。コロナ禍における非常事態宣言下で、小売店や飲食店などの商業施設における3密を避けることを目的に、混雑状況が分かるサービスとして、2週間ほどの短期間で開発しました。

自治体への混雑ランプ提供のきっかけは、静岡県浜松市のシティープロモーションの担当者からのお問い合わせでした。小売店で活用されているのを見て「行政の窓口や、地域の商店街、公共施設でも使えないか」というご相談をいただいたことです。これを受けて、当社は小売店や飲食店以外にも価値をご提供できると確信し、自治体向けにも提供を開始しました。

現在自治体に導入が広がっているのは、当社の営業活動によるところよりも、プレスリリースや、他の自治体の導入事例をもとにしたお引き合いがほとんどです。

混雑ランプは、ロコガイドの運営するチラシ・買い物情報サービス「トクバイ」やその他ウェブサービス上で確認することができます。各施設のH Pへ連携する際は、iframe(インラインフレーム)という、サイトの文書内に場所(​フレーム)を設け、そこに別のコンテンツを挿入して配置をすることが可能なタグを活用するので、いたって簡単です。導入後は、施設の担当者がスマートフォンやPC、または専用のボタン型端末を使って簡単に混雑状況を更新することができます。混雑状況に合わせて、青、黄、赤、いずれかのボタンを押すと、すぐにH P上に掲載されている混雑ランプの信号の「色」に反映されます。このように運用が簡単であるため、比較的従業員の年齢層が高い施設でも導入し、すぐにご使用いただくことができるのです。

実際にこのサービスを提供開始して以来、操作方法について「わからない」という声はいただいたことがありません。このことが多くの自治体から受け入れられている要因の一つであると考えております。

-役所内で主に使われるのはどこの組織になるのでしょうか?

住民の方が多く利用する窓口が混雑しやすいため、住民課や障害福祉、高齢者向けの窓口などで多く使われています。また、マイナンバーカード交付窓口などでの需要も多かったですね。

-混雑ランプを利用したいという問い合わせは、役所のどこの組織からが最も多いのでしょうか?

実際に利用を希望される組織のご担当の方からが多いのですが、中には市長公室など市長の秘書担当部門の方から「市長が大変興味を持っている」というようなご連絡をいただくようなこともあります。

また、「隣町で導入して「よかった」と聞いた。うちでもぜひ検討したい」といったように近隣自治体での利用状況を見てご連絡をいただくこともあります。また、最初は申し込みがあった部署の窓口のみで使われていても、次第に住民の方から「特定の窓口に限定せず、他の窓口でも導入して欲しい」という声をいただき、それを機に他の窓口や施設に広がっていくケースもあります。

今年度は国政選挙が行われるため、例えば住民課で使われていた様子をご覧になり、選挙会場でも活用したいというようなご相談をいただく機会が増えつつあります。他にも、広島県三原市では、PCR検査会場の混雑情報発信にも混雑ランプをご活用いただいています。

-導入件数や事例についてお聞かせください

混雑ランプの導入件数は、自治体窓口数ベースで、2021年3月末現在で420件に達しています。市町村区からの申し込みをいただくことが圧倒的に多いのですが、都道府県単位での導入事例もあります。例えば先進的にオープンデータ化を進めている福井県や東京都は、混雑状況に関するデータもオープンデータとして発信していきたいということを理由に、導入をしていただいています。

ちなみに、東京都では「官民連携データプラットフォーム運営に向けた準備会」の下に立ち上げた「施設系混雑ワーキンググループ」において、当社を含む参画事業者とともに具体的な検討を進めております。

また、横浜市では、「I・TOP横浜ラボ」というプロジェクトの中で、混雑ランプが地域の商店街に紹介され、三密回避を進めるための導入促進が進められています。

-導入コストはどのくらいかかるのでしょうか?

現在、オプションとしてご用意しているボタン型端末を除き、自治体向けには無償でご提供しております。混雑ランプはもともと小売店向けに開発したものですが、自治体に導入いただくことにより、その地域において混雑ランプを活用いただける機会が新たに生まれるのではないかと考えております。

私どもとしては、これを社会インフラとしてご活用いただき、自治体の混雑情報をオープンデータ化することが、住民の方にとっても望ましいのではないかと考えております。窓口の混雑状況が事前に分かっていれば、住民は自らの意思で混雑を避けることができるようになります。情報を発信することで行動変容を促し、生活者にとってもこのコロナ禍において新しい行動様式になっていくのではないかと考えております。

住民からの支持で、自治体HPで視聴数が一躍トップに

-混雑ランプを導入した自治体からの声として一番印象的なものをお聞かせください

沢山あるので一つに絞るのが難しいのですが、まずは群馬県前橋市の事例を挙げさせていただきます。前橋市には、混雑ランプの本格導入に際し、まずは実証実験としてテスト導入していただきました。市のご担当者は、導入当初、その効果について半信半疑のご様子でしたが、テスト導入後、多くの住民の方が混雑ランプを見てから来庁されるようになったのを目の当たりにされ、その効果を実感してくださって、本格導入に至りました。

ちなみに、従来前橋市のHPで一番閲覧されているのがごみ収集カレンダーのトップページのようですが、混雑ランプを導入いただいて以降は、該当のページが一番見られるページになったとのことで、市役所の方も驚かれたという話もお聞きしました。

また、静岡市では混雑ランプを導入後、市役所内で実施している業務改善に関する表彰で、令和2年度の市民サービス部門『BESTカイゼン賞』を受賞しました。

-開発で苦労した点はありますか?

一つはスピードです。コロナ禍において、企画からサービスローンチまで2週間で対応するのは、やはり苦労がありました。

また、サービスのわかりやすさを徹底的に追求しました。やはり分かりやすくなければ見てもらうことはできません。一目で混雑状況を把握できるデザインとは何かを突き詰めた結果、最終的に信号機アイコンに辿り着きました。

デジタル化は目的ではなく手段

-自治体行政のデジタル化における課題はどのようなところにあるとお考えでしょうか?

デジタル化が盛んに叫ばれる中、デジタル化はあくまで手段であるにもかかわらず、目的と手段が入れ替わり、プロダクトアウト自体が目的になってしまっている印象を持つことがあります。

デジタル化による情報発信が目的なのではなく、情報を地域住民の方にわかりやすくお届けし、より豊かな生活につながるよう行動変容を起こすことが目的です。デジタル化によってユーザーが便利に、快適になり、生活が豊かになる、そうしたユーザーファーストな設計をすることが重要であると考えております。

-混雑ランプを今後どのように広めていかれるのでしょうか?

オンラインセミナーの実施のほか、地域の方々にご協力いただきながら広げてまいります。例えば、名古屋市への導入においては、市内に拠点がある事業者と一緒にアプローチをして導入をしていただきました。このように地域の企業との連携を通して、地域に根ざした情報発信に取り組んで参りたいと考えております。