中小自治体は、DXにどう向き合っていくべきか? 埼玉県による市町村DX人材共同利用支援事業から見えてくるもの[インタビュー]

中小自治体は、DXにどう向き合っていくべきか? 埼玉県による市町村DX人材共同利用支援事業から見えてくるもの[インタビュー]

総務省は、DXを進める上で深刻な人材不足に悩む小規模自治体をサポートするため、都道府県が最適な人材を確保することで、各市町村が恩恵を受けられる仕組みづくりを推し進めている。
いち早くその政策に賛同し、取り組みをスタートした都道府県の一つが埼玉県である。トランス・コスモス株式会社を委託事業者に迎え、2024年度より「埼玉県市町村デジタル化支援業務」を実施している。
各市町村によって、DXの進捗状況も抱える課題もさまざま。「DXよろず相談窓口」を開設し随時相談を受け付けるとともに、市町村業務およびデジタルに精通した専門人材のデータベースを作成、各市町村に人材を派遣してそれぞれのニーズに応じた支援を行う。

協力団体である一般社団法人デジタル広域推進機構の代表理事として、この事業をサポートする大山水帆さんに話を聞いた。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)

自治体業務に理解が深い人材を招集

一般社団法人デジタル広域推進機構で代表理事を務める大山水帆さんは、埼玉県・川口市役所に約30年間勤務した後、戸田市役所に異動したという公務員としてはユニークな経歴の持ち主。2025年3月に退職し、MIZUHOデジタルサポート合同会社を設立して以降も、戸田市標準化アドバイザーとして関わり続けている。

川口市時代から情報部門に長く携わり、知見を積み重ねてきた。2014年からは総務省地域情報化アドバイザーとなり、全国の自治体の悩みに向き合ってきた自治体デジタル化のエキスパートでもある。
「特に中小の自治体において、DXにまで手が回らないという状況を目の当たりにしてきました。どうにか支援したいという使命感に駆られ、活動を始めました」と大山さん。まだ戸田市に在籍中だった2023年に、一般社団法人デジタル広域推進機構を立ち上げた。「埼玉県市町村デジタル化支援業務」と事業内容がリンクしていると感じ応募したところ、採択されたという。

デジタル専門人材は全員、大山さんが集めた。「技術に長けていても、実際の自治体業務に詳しくないと支援は難しいのです。地域情報化アドバイザーのつながりから、埼玉県出身の方を中心に優秀な方々にお声がけしたところ、皆さんに快くお引き受けいただきました」
現在、データベースに登録されているのは23名。差し迫る課題、トレンドなどによって移り変わる支援ニーズに対応すべく、地域情報化アドバイザー経験者から現役職員、民間のITコンサルタントなどまで、多種多様な得意分野を持つ人材が揃っている。大山さん自身もメンバーの一人だ。

“気軽さ”“ハードルの低さ”がメリット

埼玉県内の自治体にはLoGoチャットのアカウントが割り当てられているので、チャットでやり取りできる環境が整っている。DX推進部門が担当になっていることがほとんどで、「DXよろず相談窓口」には個別具体的な相談が寄せられるという。「包括的な枠組みに関する依頼を受ける地域情報アドバイザーの場合とは、内容が若干異なっているように感じます。“気軽に相談できる”点を掲げているためか、例えば、最近の大きな課題である標準化に関して、特定移行支援システムになりそうなのだがどう申請したらいいのか、機運醸成には何から始めたらいいのか、AIや公式LINEを導入したいなど、本当に具体的なものが多い印象です」

また、人材派遣までのスピーディな対応も特徴的だ。地域情報アドバイザーに派遣申請すると、総務省の承認を受けてから実施まで1カ月以上かかる場合もある。この事業では、申込書が事務局に届いてから1週間ほどで派遣支援を決定する。

現在、よろず相談も含め月5件から6件ほどの依頼が寄せられており、年間派遣支援で約100件を見込んでいる。

本来支援が必要な自治体を掘り起こす

事業を進める中で、いくつかの課題が浮き彫りになってきた。
派遣支援を要望する自治体は、積極的にDX推進を行なっている。一方、取り組みが遅れている、本来支援すべき自治体が手を挙げていないという現状がある。そのため、「デジタルカフェ」というイベントを開催し、対面で集まって情報交換ができる場を設けている。全市町村へのヒアリングも行う予定だ。

支援が単発になりがちな点も懸念材料と捉えている。1回限りに留まらず、伴走的に寄り添う体制を整えていきたいと、大山さんは話す。「気軽に申請ができて派遣を受けられますし、人材にも著名な方がいらっしゃいます。報告書も簡易なものです。もっと周知して申込数を増やし、逆にご意見やご要望をどんどん頂けるような打ち出しをしていきたいと考えています」

デジタル人材・業務のシェアリング

大山さんの野望は、この事業を他の都道府県にも横展開していくこと。一般社団法人デジタル広域推進機構をスタートさせた頃の危機感は、今も変わっていない。全国各地に「1人情シス」の自治体が多く存在する。「市町村のDXが遅れると、ひいては住民の方々がその恩恵を享受できないことになります。これは日本全体の問題です。人口5万人、10万人以下の市町村では、デジタル部門担当者は3名から5名、1万人以下であれば1人がほとんどなんですね。そうした状況でも、標準化は必ず行わなければならないのです」

一方、標準化に代表される義務的なDXに対し、オンライン申請や書かない窓口といった任意のDXもある。やらざるを得ないことが優先され、それ以外には予算もなかなかつかない。対応できる人材もいない。だからこそ、社団の名前にもある通り、広域での連携が不可欠だと大山さんは強調する。「近隣町村での共同利用だけでなく、全国でつながる仕組みを作っていきたいと考えています。人と仕事のシェアリングが、私たちの最終的な目標です。自治体には異動もあります。継続的なDXが難しいのであれば、ぜひアウトソースしてもらいたいですね」

デジタル広域連合で情報システムの仕事を請け負う。そうすれば、中小であっても、大規模自治体と同様のDX施策が進められると信じている。「後期高齢医療には都道府県ごとに広域連合があります。その情シス版のイメージです。ただし、都道府県に縛られる必要もないと思っています」

自治体の代弁者として

自治体に関わるデジタル人材に求められるのは、知識だけではない。大山さんは、自治体の実情、ルールを知らないと支援は難しいと強く感じている。自治体には予算があり、議会への説明が求められる。決定のプロセスも、全ての長をクリアしていかなければならない。スピード感を持って事業を立ち上げるハードルは高く、職員が新しいことを諦めてしまうことも少なくない。個人評価も厳しい。「たとえば、市民サービスに関するものについては、市民が便利になったとしても、職員の負担は増えたじゃないか、あいつは仕事を増やしたとんでもないやつだと言われることもあるんです」
こうしたことを含め、自治体の立場に立って考え、寄り添っていく必要がある。

そうした観点から見ると、元自治体職員や現役職員が人材データベースの一角を担っているのは、心強いに違いない。自治体の代弁者として、大山さんの挑戦は続く。