三重県四日市市が実施する全職員を対象としたデジタル人材育成計画とは[インタビュー]

三重県四日市市が実施する全職員を対象としたデジタル人材育成計画とは[インタビュー]

四日市市 総務部 デジタル戦略課の市川貴大さん(中央)、南出健士郎さん(左)、後藤有美さん(右)


国の自治体DX推進計画に則り、四日市市は2021年度に四日市市情報化実行計画を策定し、その中で柱の一つに位置づけられたのが、「デジタル人材の育成」である。具体的な施策として、まず2022年度にデジタル人材育成計画を策定した。この計画に基づき、全職員を対象に2023年から研修をスタートし、最終年度を迎えている。スマート自治体を目指すなら、職員のスキルアップは不可欠。計画の特徴、進捗状況、そして、これからデジタル人材に何を期待するのか。四日市市 総務部 デジタル戦略課の市川貴大さん、南出健士郎さん、後藤有美さんに伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)

人材を4分類、スキルを3分類


四日市市デジタル人材育成計画の特徴は、大きく2つ。
1つは、デジタル人材としての役割を以下の4つに分類した点にある。

1,DX推進マネージャー(管理職)

  組織のDX活動推進に向けて、内外の人材や組織と連携しながら、職場を指導、監督する。

2,DX推進リーダー(各課の20%程度)

  各所属でメインに動く。DX推進施策を企画し、実現のための予算化を行う。

3,DX推進員(その他職員)

  リーダーが企画する施策の目的を理解し、協力して所属内のDXを進める。

4,DX推進アドバイザー(デジタル戦略課)

  リーダーから提案される施策に関して全庁的な視点で実現性の判断、助言を行うとともに、環境面を支援する。

2つめは、身につけるべき3つのスキル領域をIT、データ、デザインごとに学ぶ点。

1,IT

  ITを正しく理解し、効率的に活用できるようになる。具体的にはITツール、生成AIの使い方や情報セキュリティ面の知識を得る。

2,データ

  業務にまつわるデータの取得だけでなく、それらを適切に取り扱って活用していく。エクセルを用いたデータの分析など。

3,デザイン

  問題解決思考、ロジカルシンキングを学ぶ。問題を構造化し、どうすれば解決に導けるか、階層的に考える力を習得する。


研修動画の一画面

全員が受講する動画研修は、「知の形成(インプット)」とされ、3領域が満遍なく詰め込まれている。「各テーマごとに全6本、管理職向けプラス1本で構成。1本45分から1時間ほどの長さで、10分から15分に分割し、業務の合間にこまめに見てもらえるよう工夫しました」と南出さんは話す。

DX推進リーダーが集う研修の様子

リーダーに関しては、座学にとどまらずワークショップを含む集合研修も実施。年間7回の半日研修で、年度を通して班を決め、毎回のテーマに沿って研修を行うとともに、最終的に班ごとの政策立案発表会を行った。

「生成AIを使ったり、エクセル分析をしたりと実務的なこともあれば、2年目からは、各職場でそれらのツールを実証実験した結果を発表してもらうという機会も設けました」(南出さん)

申請手続きのデジタルフォームを作る、議事録の文字起こしに生成AIを利用するなどの例が見られたという。

班は、異なる部署から集まったメンバーで構成されるため、新たな視点、意見を得られて勉強になったとの声も聞かれている。

全職員を対象にした理由

DX推進リーダーが集う研修の様子


デジタル人材の育成においては、各課から数名ずつ人員を募る、手を挙げた職員のみを教育するなど、各自治体によって取り組み方はそれぞれだ。そんな中、なぜ四日市市は全職員を対象にしたのか。

「計画を作る段階で、デジタル人材育成には何が必要か、全管理職を集めて意見出しをしてもらいました。その際、個人の成長だけではなく、組織の成長が大事だという意見が多く寄せられたのです。そのため、人を絞らず、全庁的に広く進めていこうという結論に至りました」と、南出さんは説明する。

限定しなかったことで、苦労した点もある。エクセル一つとっても、触ったこともないという人もいれば、普段から使い慣れている人まで、ツール面のスキルの幅が大きい。それでも均一に同じ研修内容を構築しなければならなかった。さらに、デジタル活用が想像しやすい部署、パソコンをあまり利用しない相談業務を担当する部署など、さまざま存在するため、所属によっては、「何のために研修をやっているのか分からない」「学んだことをどう活かせるか疑問」といった意見も少なくなかったという。「特定の職場の方だけに効果がある内容でもダメなので、バランスを取るのが結構難しかったですね」と市川さんは振り返る。

しかし、毎年のアンケートでは、少しずつだがDXへの関心度や意識の向上が見られているという。「業務にどう効果が出てきているかというところまでは、まだ追いきれていないのが現状です。ただ、研修を機に初めてデジタルツールに触れて、その後の業務に使われるケースは出てきています。これから各部署で何らかの改革がなされていくことを期待しています」(市川さん)

消防士の方が意欲的に取り組む様子も印象的だった、と市川さんは続ける。「消防法に関する手続きなど、DXが入り込む余地はあると思っています」

業務負担軽減のために


これまではデジタル部門が、DXやシステム開発を一手に引き受けてきた。デジタル人材育成計画を通して、これからは各課でDX推進がなされていくだろう。その先導役となるのがDX推進リーダーだ。

「所属長であるDX推進マネージャーには、その動きを止めないように、むしろ後押しをする組織を作ってもらいたいですね。そしてDX推進員の方々には、リーダーの動きを人ごととして捉えるのではなく、自分事として一緒に動いていって欲しい。より難しい話になれば、DX推進アドバイザーであるわれわれデジタル戦略課の職員に相談をしてもらい、一緒に課題解決していく形が理想です」(市川さん)

日々の業務に追われる職員にとって、研修は大変な負担であることも認識している。永遠の課題としながらも、「業務効率を上げていくためには、デジタルスキルを身につける期間が絶対に必要だと思っています。業務負担を軽減するために、一定の研修の負担は必要だと伝えています」(市川さん)

デジタルの恩恵がないと感じてしまえば、研修への意欲は削がれる。デジタル戦略課はそうした意識改革も担いつつ、さまざまな部局を巻き込みながら、DXが進みやすい環境づくりを続けていく。