佐賀市議会議員が語る
佐賀市のDX推進の現状と展望

佐賀市では、佐賀市公式スーパーアプリをはじめとする市民向けデジタルサービスの拡充や、行政事務のデジタル化を積極的に推進しています。マイナンバーカードの普及率は全国平均を上回り、議会のペーパーレス化も着実に進展しています。 2040年の人口減少時代を見据え、行政サービスのデジタル化によって市民一人ひとりのWell-being向上を目指す佐賀市の取り組みについて、佐賀市議会議員の御厨洋行市議にお話を伺いました。
(聞き手:デジタル行政 編集部 町田貢輝)
――佐賀市の行政におけるデジタル化の現状について、取り組み状況を教えてください。また、デジタル化に関する課題を教えてください。
本市のデジタル化は、
・対市民、事業者向けのデジタル化(支援を含む)
・市役所内事務のデジタル化
の大きく2つに分けられます。
対市民向けのデジタル化で申せば、佐賀市公式スーパーアプリが代表的な取り組みですが、その他にも、「電子申請」や「証明書のコンビニ交付」、福祉の相談事を横断的に対応する「福祉総合窓口」、「市有施設の予約システム」等はすでに導入済みです。
LINEを活用した各種相談窓口予約は、2024年6月末から稼働を開始しています。1階窓口の「来させない」「迷わせない」「書かせない」改革も今年度から取り組みを開始しました。
また、粗大ごみの回収予約やごみの直接搬入予約、図書館での蔵書の貸し出し予約、各種税・手数料・料金等の口座振替申請もインターネット経由で行えます。
教育分野では、学校欠席連絡アプリを佐賀市公式スーパーアプリのミニアプリとして2024年4月から運用を開始しています。
市施設利用者向けフリーWi-Fiについては、本庁を始め71カ所で整備しています。
事業者向けの施策として、来庁の必要がない「電子入札」や、契約書作成時に印紙の要らない「電子契約」はもとより、スマート農業を行うためのドローン等の購入補助や、デジタル化に取り組みたい中小企業とデジタル化支援を行う企業とのマッチング事業なども実施中です。
昨年度構築した「データ連携基盤」は今後、産学民の皆さまとの利活用を図っている段階です。
市役所内事務のデジタル化ですと、スケジュール管理やメール授受・電子掲示板機能などを持つグループウェアの導入、決裁を電子的に行う電子文書システム、各部門で持つ地図情報を重ねて利用可能とする地理情報システム、人の代わりにロボットプログラムがシステムを操作するRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)や、AIを活用した各種システム(問い合わせ対応チャットボットや、録音音声から議事録を作成するシステム、スキャン画像から文字データを取り出すAI-OCR、保育施設入所選考マッチング)、BIツールによるEBPMへの取り組みなどがあります。
その他、休暇や時間外勤務を申請する人事システム、職員間の意思疎通用のビジネスチャット、テレワークやWeb会議を行うリモート端末の導入と業務用Wi-Fi環境の整備(本庁、大財別館)、iPadによるペーパーレス会議等、一定の整備は行われています。
課題としては、北部山間地エリアでの光インターネット提供用基盤の未整備や、市施設利用者向けフリーWi-Fiが未整備の施設があることなどが挙げられます。
――市民サービスのデジタル化はどの程度進んでいますか? オンラインでの手続きや申請など、具体的な取り組みを教えてください。
前述の説明と重複しますが、電子申請は69手続き(児童手当、保育施設、年金、妊娠届、パスポート、介護等)、証明書のコンビニ交付は住民票、税証明、印鑑証明をコンビニで取得可能(マイナンバーカードと4ケタの暗証番号が必要。窓口交付より50円お得)です。市有施設の予約システムは市立のスポーツ・文化施設・公民館の予約が可能(※一部は確認のみ可能な施設もあり)です。
――佐賀市議会が進めているDX化のお取り組みを教えてください。
各市議、議会事務局がiPadを積極的に活用しています。今までは、定例会ごとに分厚い議案書等を印刷していましたが、iPadで書類を確認できるようにしたことで、ペーパーレス化が進みました。どうしても紙で残さなければならないものもありますが、それ以外はほぼペーパーレスを達成しています。
次の目標は、議会の場のデジタル化です。現在、各市議が質問する際は、アナログ的にボードを制作し質問を行っていますが、議会にモニターを設置することで、アナログのボードではなく、デジタルデータにできればと思っています。各市議が持つiPadにデータを配布することも可能ですので、議会のDX化を進めるためにも、知恵を出し合っていきます。
――総務省が令和6年に作成したレポートによると、佐賀市のマイナンバーカード普及率は75.5%で、全国平均よりも高い数値でした。今後、普及率を高めるために、市、市議会としてどのような取り組みを考えていますか?
窓口対応の他に、公民館サークルやご高齢者用の施設にて、マイナンバーカードの出張窓口を設置し、そこでお手続きしていただく取り組みを続けていきます。出張窓口でも、市役所の窓口と同様に、職員がマイナンバーカードの使い方等をお教えしています。今後も、市民の皆様がマイナンバーカードを安心してご利用いただけるよう、出張窓口の設置等、利便性の向上に努めていきます。
――2024年10月より郵便料金の値上げが実施されました。市民皆様への情報発信の方法として、郵便が多く利用されていると思いますが、市、市議会としてなにかコスト削減に向けた対策は考えていますか?
実は、各部署の郵便料金支出状況を把握できておらず、私も市の郵便料金支出額を正確に把握していませんでした。そこで、デジタル行政の推進によるコスト削減の可能性を探るため、他自治体の取り組み(市民に向けたSMS配信の仕組みを、株式会社ネクスウェイのSMSLINKシステムを利用し全庁導入した広島県三原市)などの事例を参考に調査を行いました。
調査の結果、佐賀市では年間約1億5000万円もの郵便料金を支出しており、今回の料金値上げによってさらに4500万円程度の増加が見込まれることが判明しました。このため、SMSなどを活用した情報発信によるコスト削減の可能性を検討するため私は、一般質問も行いました。
私の考えるDX推進の理想は、特別な操作を必要とせず、自然とデジタル化が進む環境です。SMSは、スマートフォンはもちろん、フィーチャーフォンにも対応しており、アプリのダウンロードも不要なため、携帯電話をお持ちの方であれば誰でも簡単に利用できるシステムです。また、住民の皆様は現在私用の連絡ではメールアドレスを利用しておらず収集管理も難しいと容易に想像できます。先行事例も参考に、郵便料金コスト削減に向け、SMSシステムをはじめとする市民に支持される情報発信方法について、市と市議会で検討を進めていきます。
――御厨市議は、まちづくりに関する公約を多く掲げられていますが、住みやすい、活気あるまちづくりにおけるDX推進について、どのようにお考えでしょうか?
私のまちづくりにおける最重要課題は「子ども中心の社会」の実現です。5年後、10年後、20年後の子どもたちが幸せに暮らせるまちづくりを目指しており、そのためにはDXが不可欠だと考えています。
例えば、悪天候時の子どもの見守り活動において、従来の電話やFAXでは迅速な連絡が困難です。しかし、郵便料金の質問で挙げたSMSであれば、多くの保護者に同時に情報を伝えられるため、迅速な対応が可能になります。このように、子どもたちの安全・安心を守るためにも、人にも優しく使いやすいDXの推進が必要だと考えています。
私の政治方針は「子ども・若者応援宣言」を掲げている通り、子ども・若者世代を優先的に支援しています。高齢者の方々からは「高齢者は後回しなのか」とご指摘を受けることもありますが、まずは子ども・若者世代がDXをスムーズに利用できる環境を整えることが重要だと考えています。
高齢者世代はデジタルに不慣れな方が多く、どんなに便利なデジタルツールを作っても複雑な操作が必要なものでは利用が困難です。そのため、誰でも簡単に利用できるSMSのような使いやすいDXツールを推進する必要があると考えています。子ども・若者世代と高齢者世代をつなぎ、誰もが使いやすいDX環境を実現することが、私の役割だと考えています。
――佐賀市のDX戦略の中で、特に重点を置いている取り組みは何ですか?
現在、最も注力しているのは、佐賀市公式スーパーアプリです。
また、デジタルを理解し使いこなすデジタル人材の育成にも今後力を入れていく予定です。
佐賀市公式スーパーアプリもDXも、目的ではなくツールであるとの認識です。人口減少時代に向け、人がしなくても良いものはデジタルで効率化し、生み出した人手や時間を投入して各分野の課題を解決し、市民一人ひとりのWell-beingの向上を目指す。このことを理解した「仲間」を増やしていくことが重要です。
――DX推進にあたって、市民や企業からの反応や要望はどのようなものがありますか?
佐賀市公式スーパーアプリに対しては、アプリから直接様々なご意見をいただきます。2024年6月のバージョンアップも、図書館カードを5枚まで登録できるようにしたのは、ご家族連れでの図書館利用が多い実態から出てきた声をかたちにしました。
企業からの意見は余り寄せられませんが、佐賀市公式スーパーアプリに、県内6大学で構築されたリスキリングサイトへのリンクを希望され、市民への受益性が高いと判断しリンクを設定した例はございます。
――佐賀市のDXに関する障壁はどのようなものがありますか?
人材育成・人材リソース、予算の観点からお話させていただきます。
人材育成・人材リソースについては、今後取り組むと前述しましたが、2040年問題を前提として、社会全体が縮小する一方で自治体への要望は増える中、人が行う業務を極力デジタルシフトする必要があります。こうした考え方を職員の皆さまにご理解いただく必要がありますが、これが難しく、「仲間」はなかなか増えず「DXに関する取り組みはDX推進課でやって」とよく言われましたが、最近少しずつ良い方向へ向かいつつあります。
予算については、内閣府の「デジタル田園都市国家構想交付金」を、大いに活用しています。昨今のコロナ対策や物価高騰対策の各種臨時交付金も追い風となっています。市議会としても、交付金を用いたDX化推進の取り組みに関しては、市の取り組みをバックアップしたいと考えています。ただ、どうしても補助金だけでは賄いきれない部分もございますので、無理のない範囲で市民の皆様の利便性が向上するDXの取り組みは推進していきたいです。
――地方自治体のDX推進において、国への要望や提案はありますか?
先に申し上げた「デジタル田園都市国家構想交付金」は大変ありがたい制度で、本市としてもここ3カ年活用させていただいております。
2つ要望を申せば「マネタイズ:システム導入後の運用経費の自走化」については、かなりハードルの高い要求ですので若干緩和していただけるとありがたいです。
また、KPI(Key Performance Indicator:取り組みによるアウトプットの目標値)に関しても高い数値を求められるので、これも緩和していただけると、補助金申請のハードルが下がり、より多くの自治体が「デジタル田園都市国家構想交付金」を使用して、DXを進められるのではないでしょうか?
――令和6年度、佐賀市の予算は過去最大の約1121億円でした。DX関連にはどの程度の予算があてられているのでしょうか?
トータルで約6億4千万円をDX関連で予算化しています。
詳細については、下記の資料で確認ください。

上記の資料のうち、「佐賀市公式スーパーアプリ関連」、「データ利活用関連」、「DX推進支援・人材育成研修」についてはデジタル田園都市国家構想交付金のTYPE3に採択され、事業費の2/3が交付金で賄われています。また、「フロントヤード改革」、「スマート農業支援」、「子育て・教育DX(の一部)」は同交付金のTYPE1に採択され、1/2が交付金で賄われています。
これとは別に、住民情報システム(SHIPS及び住基関連システム)や職員事務支援システム(グループウェア等)などの既存システムの運用経費や、住民情報システムの標準化対応で、約9億円予算が計上されています。加えて、各課がそれぞれに導入した業務支援システムもございます。
――佐賀市のDX化を加速させるために、今後どのような取り組みを計画していますか?
現在、DXに真正面から取り組む部署は、一部の部署を除きまだまだ少ない状況です。
幹部職員から一般職員まで、来る2040年問題と人口減少と前提に危機感をもっていただき、業務改善、引いては仕事のあり方の変革にデジタルの力を使って実行する職員仲間を増やしていくことを検討しています。