富山県とunerryが、能登半島地震の避難行動を人流ビッグデータで検証 EBPMで挑む富山県の防災強化<インタビュー編>

富山県とunerryが、能登半島地震の避難行動を人流ビッグデータで検証 EBPMで挑む富山県の防災強化<インタビュー編>

月間840億件超の人流ビッグデータを蓄積するunerryのリアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank」は、自治体における課題解決にも活用されている。

令和6年元日に発生した能登半島地震においては富山県内でも観測史上最大となる最大震度5強が6市1村で観測された。本記事では、31年ぶりとなる津波警報発表時の住民避難行動の検証に人流データを活用した取り組みについて、富山県 危機管理局防災・危機管理課 危機管理係 主任 重田 大輔氏にお話を伺った。 

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記事提供:株式会社unerry

能登半島地震の学びを活かし、「車避難」の検討も含み防災計画の見直しへ



――ご担当者さまのお仕事について教えてください。

平常時の主な業務は、危機管理や防災に関する予算管理や県議会対応などです。大雨や洪水といった非常災害時には災害対応業務も行います。

令和6年の能登半島地震においては、災害対応の検証に携わっています。検証プロジェクトでは県民アンケートの実施や有識者との意見交換など様々な手段を講じていますが、私は特に人流データを活用した避難行動の検証を担当しました。


――人流データでの実態把握に取り組むことになった背景について教えてください。

令和6年の能登半島地震では、富山県で31年ぶりに津波警報が発表されました。車避難の割合が多く各地で渋滞が発生するなど、避難行動のさまざまな課題が浮き彫りとなりました。

どの程度、防災計画に基づいた避難ができていたのか、津波の指定緊急避難場所は機能していたのかなど、避難の実態を検証する必要性を感じました。有識者からのアドバイスで人流データの活用を提案され、検証を進めることになりました。


<春の四重奏>

 

――災害対応検証事業における人流データの活用について、率直な感想をお聞かせください。

避難行動を客観的データで可視化できたことは、大きな成果です。検証会議では「これらのデータやアンケート結果を基に今後の避難行動計画について議論してほしい」という意見をいただきました。

他自治体でも避難行動の実態を正確に把握している例は少ないと感じます。避難計画と実際の行動にどのような差異があるのかを明らかにしなければ、今後の議論につなげられません。説得力のあるデータを基にした防災施策の立案は、EBPM(証拠に基づく政策立案)の観点からも重要だと思います。


――検証結果を踏まえ、具体的な改善策の方向性は見えましたか?

富山県の地域防災計画では「原則徒歩避難」としてきました。しかし、現実には避難に車が必要な方もいて、データからも車避難の状況が分かりました。津波避難はどうあるべきかを見直し、「徒歩避難」「車両避難」のすみ分けを検討することとなりました。

また、今回の検証結果で可視化できてよかったのは、震災発生時点の滞在地(市町村)とは異なる場所(市町村)に避難していた方の割合です。市外県外から流入してきた方が想定以上にいました。事前の案内だけでなく、土地勘のない方でもスムーズに避難できるよう、今いる場所は海抜何メートルの地点なのか、津波が来たらどの方向に逃げれば良いかをその場ですぐに分かるようにすることは重要です。また、関係機関の連携や協力体制、避難先の開設運営方法など、広域避難におけるマニュアル整備が検討されています。


――今後の展望について教えてください。

人流データの活用は観光分野での事例が多いですが、防災分野においても、さまざま役立てられるのではないかと感じています。

災害対応検証会議を経て、避難行動の課題を分析し、適切な避難のあり方を検討するプロジェクトチームの設置が予定されています。今後もデータを有効活用し、災害対応力の強化を図りたいと考えています。

[取材日] 2024年11月28日 ※記載内容は取材当時のものです。