全庁DX機運醸成を成功に導く―SUMIDA × DX展 2024 開催-

(文:デジタル行政 編集部 野下智之)
第二回目は、前年度開催を大きく上回る実績に
令和6年12月24日に、墨田区役所に隣接する「すみだリバーサイドホールイベントホール」にて、墨田区主催で、自治体DXをテーマにしたイベント「SUMIDA × DX展 2024」が開催された。
同イベントは、職員のDX推進に関する機運醸成のために、前年度(令和6年2月)初めて開催された。今回2回目の開催となるが、開催規模、内容とも前回を大きく上回るものとなった。
総来場者数は、751名人に及び、前回の580名を大きく上回った。内訳は、墨田区職員が548名、そして庁外からは東京都内の自治体を中心とする43体の関係者が203名(前回は18団体、90名)。
前回よりも会場を広げてベンダー24社が展示できる場を用意、自治体間の交流スペースを設けるなど、随所に工夫を凝らした。その結果、来場者に実施した満足度調査結果においても、庁内職員、庁外関係者からいずれも前回を上回る高い評価を得ることが出来たという。

また、来場者向けのセミナーコンテンツも豊富に用意し、ソフトバンクや日本マイクロソフトなどの大手企業をはじめ、自治体DXをテーマにした企業・自治体職員によるセミナーが、2か所の会場で各々開催され、それぞれ立ち見客が出るほどの盛況を呈した。

全庁規模のDX機運醸成を実現、その工夫とは?!
このイベントは庁内職員向けのイベントとして、職員自らの手で予算を一切かけることなく準備・運営がなされている。そして、企業からの金銭的協賛も一切求めていない。
だがその規模や内容は、イベント専門事業者が開催する商業イベントと比較しても全く遜色がない。基礎自治体が20社を超える民間企業を巻き込んでDXをテーマにしたイベントを主催することそのこと自体が、きわめて稀有な取り組みといえよう。

イベントの発起人で、中心メンバーとなったのは、墨田区 企画経営室 ICT推進担当 主査石村 匡氏と、同 主事 池田 美那氏の二人。
「自分たちのような情報システム部門の職員は、外部のイベントに参加して、新しいソリューションを知る機会が多いのですが、それ以外の職員が同じことをして、自部門の事業で導入を検討するということについてはハードルが高いと感じました。まずは身近に体験していただくことで、DXに対するハードルを下げていただけるのではないかと考えたことがきっかけです。」と池田氏はイベントを企画したきっかけについて語る。
イベントを成功させるうえで重要となる他の職員の協力を得るため、二人は庁内広報に力を入れたという。
「DXという、一見よく分からないものに抵抗感を持つ職員に対しても、ハードルを下げたいというイメージが、関係者全員の共通認識としてありました。パンフレットも、和気あいあいとした雰囲気が伝わるような面白い見た目にしたり、DXというよりは、イベントそのものに興味を持っていただけるように、工夫しました。
「当日の運営は、同じ課の職員や、必要に応じて他部門の職員にも協力をしてもらいながら実施しました。アワードに関しては、行革部門、広報部門にも企画立案のところから協力をしてもらいました。」(池田氏)


今回のイベントでは新たに、DXを推進する上での情報共有や、意識啓発を目的に、DXの取り組みに関するコンテスト「SUMIDA DX AWARD」を開催した。
区民サービス向上部門と、業務改善部門の二つの部門を対象に応募を募ったところ、合わせて21件の応募があった。これらに対して、一定の評価基準をもとに職員投票を実施し、ファイナリストとして7事業を選出。これを区長、副区長、教育長をはじめとする幹部職員の前で発表してもらい、最終の審査と投票のもとで大賞等を決めるというものであった。
石村氏は「出来るだけ多くの職員に興味を持っていただき、来場をいただきたいと思った。また、頑張っている職員が褒められるという文化を作っていきたいという想いから企画をした」と述べた。
事前に聞いた職員の意見を反映させて、他自治体との情報共有をする場として、情報交換ブースを設置し、各自治体で発行している広報誌を展示したり、AIの活用に課題を持っている自治体職員同士が交流できる場を提供したりするなど、自治体担当者同士の交流を促進する工夫を凝らした。
自治体職員だけが700名超も集まるこのイベントは、出展するベンダーにとってもメリットは大きい。「ベンダー様からは、自治体職員しかいないので、実情を聞いてしっかりと密な話をすることが出来ると評価していただいております。」と石村氏は語る。
DX機運の醸成は庁外にも―SUMIDA × DX展がもたらした、成果の本質とは
「我々の当初の目的は、庁内のDXを推進する上で、意識啓発をしたいということでした。結果的に、庁内職員からポジティブなフィードバックをいただきました。イベントを実施すると、私たちの部署への問い合わせや相談が増える傾向があります。各所管課で色々な課題を持っていて、自分たちで解決するにも限界がある。そういった時に、我々の部署に相談をしてほしいと思っております。相談をしてもらうことで、原課の方が気づかないことに気づいて、サポートできることもあります。まずは相談をしてもらうための信頼関係を構築することが大切であると思っています。
今までの自治体におけるデジタル施策は、セキュリティーの問題もあり、新しいことをしない方がよいという風潮がありました。今後は、セキュリティーを担保しつつ、デジタルを活用し、新しいことを取り入れて業務改善をして効率化をしていくことが大事になってきます。職員の意識啓発と併せて、デジタル部門と各所管課との信頼関係を構築するという意味でもこの展示会には大きな効果があったと思っております。」(石村氏)
視察に来た自治体関係者からは、「すごく参考になった」、あるいは、「自治体間のつながりにより情報交換が出来た」、「今まで気になっていたが、じっくりと見ることが出来なかったソリューションを、しっかりと見ることが出来た」といったポジティブなフィードバックを得られたという。そしてまた、「自分たちの自治体でも同じようなことを実施したい」という声もあったということだ。実際のところ前回実施後も同様の問い合わせがあり、視察に来た複数の自治体で、同様のイベントが実施されるなど、墨田区によるこの取り組みの影響は、庁内にとどまらず、他自治体へと大きく広がりつつある。
次年度については、現在のところ前年度と今年度実施した会場が、改修のため使用できなくなるため、実施は未定とのこと。代替案については現在検討中とのことで、「毎年ではなく隔年でもよいのではないかと思っている。」(石村氏)とのこと。
今年の開催は会場の確保が出来るかどうか次第、といったところのようである。このようなイベントはぜひ毎年実施していただきたいところだ。
熱量高き二人のDX担当者の想いをきっかけに始まった「SUMIDA×DX展」から、新たな自治体DXの渦が広がりつつある。
